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「書くことは昔から好きだったんですか?」
言葉を扱う仕事をしていて、たびたびそんなことを聞かれます。
振り返れば、ぼくにとっての原体験は「手で書くこと」でした。まっさらなノートに好きな絵や文章を書いて。先生に提出すると、ページの余白に返ってくるひとことコメントが楽しみで、また次のページをめくる。
たくさんの人には届かなくても、一冊のノートのうえで生まれるやりとりがうれしかったことを思い出します。
いつしか、パソコンやスマートフォンを使って「機械で書くこと」が増えて、手書きの機会はグッと減ってしまったけれど。
あのときのように、「たのしく書く人」を増やせたら。
書くことにまつわる商品やサービスを通じて、そんな価値観を広げてきたのが、東京・蔵前にお店を構えるカキモリのみなさんです。
今回はビジュアルコミュニケーションデザイン、コーポレート、商品企画という3つのポジションで新しく仲間を募集します。
カキモリのお店までは蔵前駅から歩いて7分。
天気がよかったので、自宅から自転車で向かうことに。
小さな工場や古い家屋が並ぶ通りを抜け、少し早めに到着。住宅街のなかに見つけたお店はまだ閉まっていた。
やがて大きなシャッターが音を立てて開きはじめ、広々としたカキモリのお店が姿をあらわす。
代表の広瀬さんが、中から手を振って招き入れてくれた。
たのしく書く人を増やしたい。
そんな想いで店づくりをしてきたカキモリ。
表紙や中紙、留め具を自由に選んでつくれるオーダーノートや、色も形も違う万年筆など。店内には書くための道具がずらりと並び、自分好みに組み合わせたり、実際に書き心地を試せたりと、さまざまな工夫がちりばめられている。
商品に添えられた手書きのメモやポップにも、書くことへの愛情がにじみ出ている。
9年前のオープン時から比べると、お店の規模も広がり、知名度も上がってきた。スタッフの数は25名ほどに。
途中、新しくお店をつくっては閉店するようなこともあったけれど、その経験も糧にしながら順調に成長しているように思える。
ただ広瀬さんは、このところ危機感を感じていたようで。
「今ってそもそも、モノを買わない時代ですよね。最近何か買いました?」
うーん、なんでしょう…。器とか。そんなに多くは思いつかないです。
「そうですよね。実はうちも、モノを買わない人ばかりで。この流れはさらに強まると思っています」
消耗品としてのモノは、ますます売れなくなってくる。
となると、求められるのは長く使い続けられるサステナブルなもの。
「うちなりに言い換えると、愛着のもてるもの。気軽に買いやすくてかわいいだけのものじゃなく、自分たちが本当にほしいと思うものを、あらためて深く追求していこうと」
最近では、1917年創業の老舗着物専門店「きもののやまと」とコラボレーション。オーダーノートの表紙に反物を取り入れた。
着物を身につける人は減っているけれど、別の形で反物の文化を残していくことができるかもしれない。
こんなふうに、つくり手の技や文化が息づく蔵前ならではの、サステナブルなものづくりの可能性はまだまだあると思う。
もうひとつ、カキモリに起こりつつある変化がある。
それは社内のこと。
「今年の1月ぐらいに、スタッフ全員と面談したんです。そうしたら、なんだかみんな、楽しそうに働いていないなってことに気づいて」
あら、そんな時期が。
カキモリにはお客さんとして何度か足を運んでいますが、みなさん楽しそうに働いているのが印象的だったので、意外です。
「これまではトップダウンなところがあったんですね。わたしがこうだ!とか、移転しようって決めるとか。でも、これまで通りのやり方で会社を大きくしていくモチベーションは、みんなのなかにないなってことを面談で感じて」
「スタッフ一人ひとりに権限を委ねて、フラットな組織を目指そうと。そのための取り組みをこの半年間続けてきました」
一時期は「効率が悪い!」と廃止していた朝礼を復活。スタッフ全員で顔を合わせて、自分の言葉で話す時間を大切にしたり。
店内のイベントスペースでの企画をスタッフに任せてみたり。
まだ道半ばではあるけれど、一人ひとりが主体的に考えて動きやすい環境ができつつあるという。
「今は大きな転換点で。社内の文化を切り替えるところにきたのかな、というところです」
今回募集する3つのポジションは、いずれもこれからのカキモリをつくっていく大事な役割を担うことになる。
どんな人と一緒に働くことになるのだろう。
まずはビジュアルコミュニケーションデザインを担当している安川さんに話を聞いた。
前職ではグラフィックデザインの仕事をしていた安川さん。
受け手の顔が直接見えない環境のなかで、指示されたものをつくるという仕事に違和感を抱いていた。
「中紙がなくなったら交換できるとか、インクを入れて繰り返し使えるボールペンがあるとか。街の職人さんとも、一緒にものづくりをしながら持続的な関係をつくれているところがすごくいいなと思って、カキモリに入りました」
「今はお店の全体が見渡せる場所で働いていて。お客さんの反応を見ながらものづくりできるのは、やっぱり一番いい環境だなと思います」
これまで、安川さんにとって「書くこと」は、デザインの過程で情報を整理していくためのものだったという。
最近になって、また新しい気づきがあったそう。
「自分の心を整理するとか、感じてることを書き出してみるとか。いそがしくみんながスマホを見ているなかで、そういう書く時間を持っている人って、心が豊かなんじゃないかと思ったんです」
インターネットやSNSをひらけば、たくさんの情報が流れ込んでくる。
自分は何がいやで、何をやりたいのか。書き出していくと、流されそうになっていた自分の価値観を取り戻せるように感じた。
「最近は電車の広告をなるべく見ないようになって、インスタグラムもやめました。エスカレーターとか、人が運ばれていくのが気になって階段を使うようになったりして(笑)。受動的なものをなるべく避けて、自分から生み出すことを大切にしようと思って」
書くことは万能の解決策ではないけれど、単なる伝達の手段でもないと思う。ときに自分の価値観を取り戻すことにつながったり、言葉の意味以上に想いを伝えてくれたりもする。
現在はオンラインストアに載せる写真の撮影や、店頭のディスプレイ、イベントの企画などに携わっている安川さん。
ビジュアルコミュニケーションデザインの仕事は、これらのWebや店舗を通じたお客さんとの接点を豊かにしていくというもの。
「店頭のスタッフと意見をすり合わせながら、ここは右から回るから縦書きにしようとか、プラスチック素材は印象も環境にもよくないから減らそうとか。相談しながらディスプレイをつくっています」
「それから、『たのしく書く人からの手紙』っていうメディアを去年からはじめて」
インクのメーカーや職人さん、書くことを楽しんでいる人たちに焦点を当てて紹介。店舗スタッフとともに、安川さん自ら取材に行くこともある。
ゆくゆくは外部の人だけでなく、スタッフのノートの書き方を紹介したり、手書きのコンテンツを増やしたりしていきたいという。
「人とものづくりするのが好きな人に来てほしいですね。デザイン業務の経験に加えて、簡単なコーディングもできる方だとうれしいです」
そんなビジュアルコミュニケーションデザインと協働する機会が多いのが、商品企画の担当者。
デザイナーや職人、店舗スタッフとも密にコミュニケーションをとりながら、商品やサービスをつくっていく仕事だ。
「バランス感覚が必要」と話すのは、代表の広瀬さん。
「自分たちがほしいものをつくるけれど、独りよがりでもいけない。それは社会に必要か、価格は適正か。あらゆることを考慮したうえで、ものだけじゃない体験サービスの形に落とし込んでいく。そういう役割だと思います。…理想を追い求めすぎですかね(笑)」
商品やサービスの企画開発の経験や素材知識はあったほうがいいけれど、文房具に関しては詳しくなくても大丈夫とのこと。それよりも、こういうものがあったらいいな、と想像を膨らませられることのほうが大切。
時には、新商品やサービスの企画のため、作家さんと一緒にシルクスクリーンのワークショップを開いたり、手紙の書き方教室を開催したりすることも。
Tokyobikeとコラボレーションしたレンタサイクルも今年からはじまった。
このように、外部の人たちと協力しながら“カキモリらしい”企画を考えていく。
「あとは、手紙のブランドもつくりたい。ずっとやるやると言って動かせていないので、このブランドの商品企画にもぜひ関わってほしいです」
商品やサービスを生み出す商品企画。お客さんとの接点をつくるビジュアルコミュニケーションデザイン。
そして、カキモリのスタッフが気持ちよく働けるような環境をつくるのがコーポレートの仕事。
担当の中村さんが話を聞かせてくれた。
「簡単にいうと、ルールやシステム、ITツールを活用して働きやすい環境をつくるような仕事ですね」
たとえば、全スタッフで共通のタスク管理ツールを導入したり、福利厚生を考えたり、会計や勤怠のシステムを見直したり。
バックオフィス業務の効率化から、社内コミュニケーションが円滑になるような工夫まで、仕事の内容は幅広い。
「基本的に正解はないし、終わりもない。新しいツールや仕組みを導入して絶えず変えていく役割なので。勉強し続けられる人がいいと思います。社内のすべての人と関わるので、対人コミュニケーションに積極的な人もいいですかね」
以前はシャツメーカーで営業担当をしていた中村さん。
ひとつのものに情熱を注いでつくっていく過程が好きだった。
そこからなぜカキモリへ?
「前の会社は大きなメーカーで、どうしてもきれいごとばかりではなくて。シャツを売りながら、これは誰が喜ぶんだろう?って疑問に思うことがあったんですよね」
「ぼくは文具が好きかと言われると、そこまで大好きではなかったんですけど。働いてる人も受けとる人も、楽しいとかうれしいっていう、その関係性がいいなと思って」
お店で買うことのよさは、ものを実際に手にとって試せることに加えて、その商品が本当に好きなお店のスタッフから直接買えることだと思う。
楽しさや、心からいいと思う気持ちは伝わる。
コーポレートは一見、社内向けの地味な役割にも見えるけれど、「たのしく働く人」を増やすことで、「たのしく書く」というカキモリの雰囲気や文化をつくり出しているのかもしれない。
立ち上げから9年。
カキモリはなぜ「書くこと」を広めたいのか、あらためて言葉にしてみたそうです。
それは「分かち合うこと」。
うれしい、さびしい、感動した。その想いを分かち合う。
言葉にして伝えることで、自分が大事にしたいことも見えてくる。
シンプルだけれど、とても大事なことのように思います。
今まさに第二創業期を迎えているカキモリを、一緒につくっていく人を求めています。
(2019/9/10 取材 中川晃輔)