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重ねたしわも味のうち
紙の余白をたのしむ人へ

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日常のなかで日々触れる、紙。

本や手帳、手紙など、機能面ではデジタルに置き換えられるとしても、長く使い続けることで生まれる愛着や、手にしっくりと馴染む質感は紙ならではの魅力だと思います。

山梨県に本社を構える株式会社大直は、和紙に特化した商品を展開してきた会社です。

地場産業である障子紙から、和紙を使ったバッグの製作などの新しい試みまで。紙でどんなものがつくれるか、という可能性を追求し続けています。

今回募集するのは、会社の主力商品である障子紙の営業担当と、バッグや小物のブランド“SIWA|紙和”の生産管理や小売り事業の担当、そのほかにも社内の各事業部でスタッフを募集します。

和紙という素材の活かし方を考えながら、ものづくりに取り組む人たちのもとを訪れました。


山梨県の市川大門駅までは、新宿から特急で2時間ほど。駅のホームから見えるのは、住宅地のすぐ裏に山が広がる風景。静かな雰囲気が心地よい。

大直の本社は、駅から車で5分ほどの場所にある。本社の周りには大直の倉庫や工場が何棟も建っていて、障子紙を箱詰めしている様子も見られる。

まず案内してもらったのは、障子紙に和小物、SIWAの鞄など、大直が手がけた商品が一堂に並ぶショールーム。

ここで話を聞いたのは、障子紙事業部の渡邊真也さん。障子紙の営業スタッフとして入社する人にとって、直属の上司にあたる方。

「Uターンをきっかけに入社して、今年で6年目になります。私が営業本部長で、ほかの2名は20代と30代。結構若いチームなんですよ」

渡邊さんたちが販売している障子紙は、ここ市川大門の伝統産業。

京都から紙すきの技術が伝承されたのは平安時代のこと。和紙の原料となるミツマタやコウゾなどの植物の栽培に適した風土であることや、水質の良い川が流れていたこともその発展を後押しした。

江戸時代には幕府に紙を献上していたほど、高品質な和紙をつくり続けてきたそうだ。

大直は設立45年。障子紙を中心に、和紙を活用した商品を展開してきた。

「今はほとんどの方がホームセンターで障子紙を購入されるので、私たちの主な取引先もホームセンターになります。各店舗の売り場に大直の商品を多く置いてもらえるように、本部のバイヤーと商談を進めます」

日用品と比較して頻繁に売れる商品ではないけれど、多くの人に手に取ってもらえる機会として力を注ぐのが年末商戦。前年の売り上げを分析して主に夏ごろから売り場づくりを考えたり、冬には店舗に出向いて販売の実演をしたり。長期的な視点で仕事を組み立てていく必要がある。

営業範囲は山梨県内よりも都内や関東圏が中心。出張でほかの地域に出向くこともあるという。

大直は業界2位のシェアを誇るものの、障子紙の需要そのものは減りつつある。

「昔はどこの家も年末に障子を張り替えていたけれど、今は共働きで忙しい家が多いし、障子紙自体も破れにくいものが増えているから、毎年張り替えなくなっている。和室のない家も多いですしね。いろんな要因が重なった結果、徐々に需要が減っているんです」

「でも、まだまだ伸ばす余地はあると思っていて。全体の数は減っても、オリジナリティを出すことで大直のシェアは広げられると思っています」

創業以来、和紙に特化してきた大直。それだけ思い入れも強いし、和紙の特性を活かした商品企画には自信がある。

中小企業ならではのスピード感も、強みのひとつ。

「単に値下げ競争をするのではなく、バイヤーや消費者の声を取り入れて、ほかの会社にはない面白い商品をつくりたいと思っています。とはいえ障子紙は慣習的な要素を含んだ商品なので、急に大きく変えるのは難しい」

「なので小さな工夫を行いながら、ここ数年新商品を開発してきました。たとえば木目柄やレンガ柄、花柄などをインクジェットで印刷してみるとか、いろいろな試みをしています」

営業が主体となって商品を企画することも多いそう。

障子紙というフィールドのなかでどんなオリジナリティが出せるのか、楽しみながら考えられる人だといいかもしれない。


新たな商品や素材の開発を行うなかで生まれたのが、破れにくい障子紙。

木材パルプや化学繊維を原料に、和紙の製法でつくった“ナオロン”という独自の素材が使われている。耐水性にも優れているのが特徴だ。

このナオロンを使った商品を展開しているのが、“SIWA|紙和”というブランド。

和紙をもっと日常のなかで使ってほしいという想いから2008年に生まれた。卸を中心に、20ヵ国以上で販売されている。

バッグやポーチ、ブックカバーなど、プロダクトデザイナーの深澤直人さんがデザインした数十種類の商品を展開。商品はすべて手づくりしていて、一つひとつ異なるしわの風合いが魅力だそう。

今回はSIWAと新しく生まれるブランドの生産管理を担うマネージャーと、都内にある店舗の販売スタッフも募集する。

まずは山梨のオフィスで、SIWAの生産管理責任者である佐々木聖子さんに話を聞いた。

「生産管理は、安定して量産できるように工程を組み立てたり、完成した商品を検品したり。部材や資材の在庫管理も仕事のひとつです」

「紙をつくる職人さんや、SIWAの商品を加工・縫製する協力工場の方、デザイナーに店舗スタッフ。さまざまな人と関わるので、コミュニケーションが大切になります」

SIWAの商品は大きな紙を切断し、縫い合わせてつくられる。

その時点では、まだ紙はまっすぐなまま。しわは故意につけるのではなく、縫い目が内側に入るよう裏返す工程で自然とつくものだという。

すべて手づくりだからこそ、クオリティを保ち続けるのは難しい。

「紙のロットごとに厚みや色が変わってくるので、ものによっては針が入りにくかったり、きれいに裏返せなかったりして。『縫えなくて困ってるのよ!』って現場から連絡がきて、一緒に解決策を考えることもあります」

完成した商品は、一つひとつ丁寧に検品、梱包をして送り出す。多いときには1日で1000個ほどの商品を検品することもあるという。

「SIWA独自の品質基準があるので、新しく生産管理に入る方にはまずは検品からはじめてもらっています。商品や素材の特性を覚えるのと、しわの具合や縫い目といった、細かなポイントを覚えることが基本ですね」

まずはSIWAの基礎を学ぶこと。その上で、将来的には新ブランドの生産ラインの指揮官として、生産管理や開発に携わっていってほしいそう。

「これから数年かけて取り組もうとしているのが、生産の内製化です。内製化することでコストを下げつつ、開発のスパンも短縮できます」

「紙を使ってどんなものをつくれるか、常に挑戦していきたいんです。今あるもの以外にも、紙でいろんなものをつくってみたい。全工程を通じて自分たちの手だけで生産できれば、もっとチャレンジしやすくなると思っています」

商品ができるまでの一連の流れをマネジメントするようなこの仕事。

ものづくりやデザインの経験はある人のほうが良いのでしょうか?

「似たような仕事はあまりないので、それよりも良いものにピンとくる感覚の鋭さや最後までやりきる粘り強さ、いろんな人と協力できる協調性が大切かなと思います」


手間暇をかけてつくられた商品は、全国の卸先や直営店で販売されている。

2日後、銀座の東急プラザ6階にあるSIWAの旗艦店を訪れた。

出迎えてくれたのは、SIWAのブランドプロデューサーを務める一瀬愛さん。SIWAブランドの立ち上げから携わっている。

販売スタッフは店舗のレイアウトやSNSでの発信、店外でのポップアップ運営など、販売に関わることを一手に担う。

ブランドの責任者でありながら、愛さん自身が店頭に立つ時間も多いという。

「今日はSIWAのPCケースにご自身のPCがうまく収まらないというお客さまが、わざわざ実物を持ってきてくださって。5ミリ入らない、と。直接お話を伺って、ニュアンスもしっかり聞いたうえでご対応できたので良かったです」

こういった話は社内で共有して今後の開発に生かしていくそう。それぞれの部署の関わりを、垣間見られたような気がした。

実は愛さんは、大直の社長である一瀬美教(よしのり)さんの娘さん。

家業であり、地元の伝統産業でもある和紙の仕事。どんなふうに思っているのだろう。

「伝統を守りたいという使命感のようなものはないですね。良いものをつくり続けていれば必然的に続いていくし、結果として守ることにつながる。私にとってこの環境は、偶然いただけた“宝物”って感じなんです」

宝物?

「風土を生かした産業の歴史がある土地で、和紙の仕事をしている家にたまたま生まれた。つくろうと思ってつくれる環境じゃないので、私にとっては大きな宝物。ものすごく貴重なものだと思っています」

伝えたい背景や、積み重ねてきた歴史はある。あとは、とにかく良いものをつくって伝えていくだけ。

この柔軟な考え方が、SIWAのように新たな和紙の魅力を伝える商品づくりにつながってきたのかもしれない。

「『くらしのなかで使っていただける紙製品』をテーマに、これからもどんどん紙の可能性に挑戦したいです。環境問題に対する取り組みはもちろんですし、紙という素材への要望はこの先も拡大していくと思います」

「和紙は、世界からの注目度も高い素材だと感じていて。そんななかで私たちがどのように応えていけるのかが、今後の課題ですし、挑戦です」

今、SIWAの商品は多くの人に受け入れられるものとなっている。

男女も年齢も関係なく、どんな年代の人も自分らしく使えることが魅力だ。

「すごく特殊なブランドです。銀座店では、大学生とおばあちゃんが一緒にいることもよくあるんですよ」

「デザインとか機能とか、最初に手に取る理由は違っても、やはり一番の魅力は質感、素材の力だと思っています。私たちの提供する紙から感じとれる何かが、きっとある。うまく言い表せないんですけどね」

そんな一瀬さんの話を隣で聞いていた、店長の小田原さんが続ける。

「長年使っていただいている方には、これじゃないとダメって言ってくださるお客さんもいます。破けた部分をテープで留めて持ってきてくれる人とか。こんなになるまで使ってくれたんだって」

「人間味が表れるなあと思いますね。ボロボロになるまで使う人もいれば、しわが増えすぎたら買い換える人もいるし。お客さんが自分で好きな部分を決められる商品。そういう余白があるのが面白いなと思います」

時を重ねるうちにしわになったり、汚れたりもするけれど、それもまた自分だけの愛着になる。

手に取る人が自分らしくその余白を楽しめることが、紙という素材の魅力なのかもしれません。

和紙でどこまでできるのか、和紙だからこそできることは何なのか。日々、可能性を追求し続ける大直の皆さん。

今は想像もできないものが和紙から生まれる日が来るんだろうなと、なんだか待ち遠しくなりました。

(2019/8/26,29取材 増田早紀)
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