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450年以上の歴史を持つ、美濃白川茶。香り・味わいともに豊かなこのお茶は、古くから茶人の間で高い評価を得てきたそうです。
その名産地とされるのが、岐阜県東白川村。
この村で、地元産のお茶を使った商品の企画・販売や、道の駅『茶の里 東白川』の運営などを手がけている会社があります。
有限会社新世紀工房です。
この会社で、お茶商品の製造、販売、営業、そして企画を担当する地域おこし協力隊を募集します。
新世紀工房で働く茶師の森本さんは、こんなふうに話していました。
「お茶が売れなくなっていると、全国どこのお茶屋さんも言います。でも僕は絶対にそうは言いたくない。お茶にはすごく可能性があるし、この仕事を通じて白川茶の良さをもっと多くの人に伝えていきたいんです」
お茶を普段から飲む人にも、あまり馴染みのない人にも知ってほしい仕事です。
名古屋から、電車とバスで2時間半。
たどり着いた東白川村は、青い空と、どこまでも続く山に囲まれていた。
10月はじめの村は、夏と秋のはざまのような雰囲気。
眩しい日差しと、少しひんやりとした空気。山の緑も落ち着いた色合いになっている。もう1ヶ月もすれば、紅葉が見られるかもしれない。
まず訪れたのは村役場。産業振興課長の今井さんに、新世紀工房について教えてもらう。
「新世紀工房は、2000年に村と農協が出資して立ち上げた第3セクターです。お茶の商品加工を担う会社として生まれたんですね」
「今はお茶を使った商品の製造のほかに、販売も手がけていて。直売店として道の駅『茶の里 東白川』も運営しております。お茶のほかに特産品や野菜の販売もしているし、レストランもありますよ」
新世紀工房の使命は、村のお茶産業を守ること。
「もともとお茶は静岡や鹿児島といった暖かい地域の植物やから、ここはお茶の産地として北限とも言われています」
1日の寒暖差が大きい東白川村。厳しい環境で育ったお茶は、香り豊かで味わい深い。
昨年の県の品評会では最上位の「1等1席」に輝くなど、高級茶としての評価も得ている。
ただ、中山間地域ゆえに茶園が狭く、生産コストがどうしてもかさんでしまう。村も茶農家さんのサポートを進めているものの、赤字がふくらんで離農する方も少なくない。
東白川村の茶業は、転機を迎えている。
「新世紀工房は、地元の農家さんから原料を買って商品を製造しております。つまり、お茶農家さんがあってはじめて成り立つ商売。お茶農家さんがちゃんとビジネスとして続けられるようにしていかないといけません」
「そのためにいい商品をつくって、その価値をちゃんと伝えて、適正な価格で販売していく。それがこの会社に求められていることやろうし、理想であるとも思っています」
この会社で働いている社員さんは、どんな人たちなんだろう。
紹介してもらったのは、お茶部門を担当している森本さん。「お連れしたいところがあって」と、茶畑へ案内してくれた。
「森林が広がって、その間を白川が流れて、100年近く続く茶畑がある。この村らしい景色で、好きなんです。外からゲストが来たときは必ずお連れするんですよ」
とても気持ちのいい眺め。新世紀工房が企画してつくったペットボトルの白川茶を飲みながら話を聞くことに。
「僕は岐阜県の出身で、以前は名古屋で飲食の仕事をしていました。岐阜に帰ろうと思ったタイミングで、ここの道の駅でレストラン担当を募集していることを知って。なので、最初はお茶のことはまったく知りませんでした」
レストランで働きながら、時折、白川茶をPRするイベントを手伝っていた森本さん。
次第に、お茶に興味を持つようになる。
「最初はお客さんからお茶について質問されても、全然わからなくて。その都度お茶の担当者に聞いたり自分なりに調べたりしていたら、だんだんお茶のことを知るのが面白くなっていきました。なんていうのかな…お茶って、すごく奥深いんですよ」
奥深い、ですか。
「実はお茶って、いくつも品種があるんです。たとえばこの辺りは、村に最初にお茶が伝わったエリア。野性味溢れる香りのお茶の生産地です。でも少し離れたエリアの茶畑では、薬草のような整った香りのお茶がとれる。味も特徴も全然違うんですよ」
「それに同じ茶葉でも、毎年出来が変わります。うまみが強くなる年もあれば、あまり味の乗らない年もあって」
へえ、知らなかった。お茶の味の違いを、そこまで意識したことがなかったです。
「きれいにパッケージ詰めされているので忘れがちですけど、お茶も農産物です。背景には、丹精込めてつくっている農家さんたちがいるんですよね」
「こういうふうに、お客さんにお茶の話をすると『えっ、そうなの?』って驚いてくれることが多くて。お茶を販売するのはもちろん、ちょっとした知識やストーリーを伝えることも大事だなって思うようになりました」
お茶の奥深さに魅了され、お茶の製造担当となった森本さん。以来、8年ほど工場でさまざまな商品をつくり続けている。
肩書きは「茶師」。一体、どんな仕事なんだろう。
「僕らがやっていることは、大きく分けて選別、焙煎、ブレンドの3つです。農家さんがつくってくれた原料を使って、工場で商品としてのお茶に仕上げていきます」
「どんなふうにつくっているか、実際に工場に行ってみましょうか」
工場は、道の駅に隣接している。中に入ると、お茶のいい香りがふわっと漂ってきた。
正面には大きな冷凍庫。ここには商品のほか、「荒茶(あらちゃ)」と呼ばれる原料が保管されている。
「村には複数の農家さんで構成されている製茶組合が2つあって。組合が、摘んできた生のお茶っぱを蒸して、揉んで、じっくり乾燥させて、荒茶にします。その荒茶を僕たちが購入して、商品にするんです」
「荒茶の段階で、いいお茶かどうか、はっきりとわかります。いいお茶であるほど艶もあるし、香り高いんですよ」
荒茶は、葉っぱや茎や粉状になったものがすべて混ざっている。この荒茶を、機械を使って葉、茎、粉に分けるのが最初の工程「選別」だ。
選別を経た原料は、続いて「焙煎」へ。
たとえるなら、フライパンで炒るようなイメージだそう。同じ原料を使っていても、工場の設備や焙煎の仕方によって味はがらりと変わる。
焙煎をしながら、実際に飲んで品質を確かめる。甘みやうまみ、渋みといった滋味(じみ)、そして水色や香り。茶師の好みや感覚によるところも大きいという。
「お茶にもコーヒーのように浅煎り、中煎り、深煎りがあって。たとえば新茶は浅煎りで、みずみずしさを際立たせます。日常的に飲むお茶は中煎り、味の薄いお茶は深煎りで香ばしさを出す。商品や茶葉によって分けています」
実は、焙煎が終わったお茶がそのまま商品になるわけではないそう。商品は、何種類かの特徴の異なるお茶を調合した「ブレンド」を経てできあがる。
新世紀工房では、多くの商品をつくっている。それぞれの商品イメージに合わせて、森本さんたち茶師がブレンドしているのだそう。
「たとえば『清流』という商品は、うちの看板商品。香りとうまみと甘みがもっとも調和するイメージでブレンドしています。一方で『香貴』は、どちらかというと若々しい香りです」
なるほど。茶師によってお茶の味が決まるんですね。
「いえ、必ずしもそうではなくて。お茶って、お茶農家さんの栽培・加工技術で7、8割が決まるんです。そして東白川の農家さんはそのレベルが本当に高い」
「本当にいいお茶は、焙煎もほんのちょっと背中を押すくらいで、あまり手を加える必要がありません。農家さんがすばらしいのであって、お客さんにお茶を褒められたときも『僕の腕がいいんです』とは言わないんです」
このおいしいお茶を、少しでも多くの人に届けたい。農家さんの経営が成り立つように、利益もきちんと還元したい。
そんな想いから、オリジナルブランド『茶蔵園(さくらえん)』も立ち上げ、商品企画を進めている。
その一つが、オリジナルの特上ほうじ茶『茜薫る』。
一般的なほうじ茶は硬くなった茶葉を焙じるところ、この商品は一番茶の柔らかく若々しい葉を直火焙煎しているそう。
一体どんな味なんだろう、と想像していると、森本さんが急須で淹れてくれることに。
白い茶器に、澄んだ水色がよく映えている。口に含むと香ばしさが広がって、しっかりとした味も感じる。
思わずほっと一息。とてもおいしいお茶ですね。
「たとえば、安くて量が多いお徳用の商品って、販促をしなくてもすぐに売れるんです。でも安く売れたところで、農家さんの収入にはなりません」
「だから僕たちは、量より質。農家さんからいいお茶を適正な価格で買って、高くてもちゃんと売れる商品をつくって。利益を農家さんに還元したいんですよね」
すでに販売していたほうじ茶と、特別栽培のほうじ茶に加わる形で登場した『茜薫る』。今ではすっかり人気商品となっているのだそう。
「急須で飲むのが面倒だから消費量も下がる、なんて話はよく聞きますけど、コーヒーなんてはるかに手間がかかる。それでもみんな飲んでいますよね。高くても質がいいものであれば、ちゃんと届くはずなんです」
「お茶の消費量は全国的に下がっているけど、僕はそこを言い訳には絶対にしたくなくて。お茶もやり方一つで、もっと可能性が広がると思うんです」
今回は、そんな白川茶の製造から販売、営業、そして企画まで一手に担う人を募集したい。
販売は、道の駅での接客やイベント出展などが中心。
道の駅で取り扱うのは、もちろんお茶だけではない。村の特産品やレストランもあるので、まずは一通りの業務を覚えることが第一ステップとなりそう。
そして営業は、全国の小売店や飲食店からの問い合わせに応えて白川茶を卸していく。飛び込み営業をしなくても引き合いがあるという。
製造から営業まで一貫して取り組むからこその面白さがある、と森本さん。
「道の駅やイベントを通して、リアルなお客さんの反応が返ってきます。どんなパッケージ、声かけだったら手に取ってもらえるだろうと考えて、試して、また企画して。試行錯誤した商品への想いは、営業でも伝えることができます」
なかには体力仕事もある。日中、茶工場が40度を超える真夏は、早朝に出勤したり、夕方から夜中まで作業したりすることもあるそう。
それでも、「面白い」から続けられる。
「お茶には将来性がない、って声もよく聞きますけど、悩んでいる暇があったら、一つでも多く売れるように頑張りたいと思っています。やっぱり、すごく面白い仕事ですよ」
森本さんの名刺には「往復通勤100kmの茶師」とある。なんと、毎日片道50kmもの道のりを通勤しているのだそう。
どうしてそこまでできるんでしょう、と尋ねると、こう答えてくれた。
「やっぱりこの仕事が好きだから、ですよね。日本のお茶を世界に!っていう意識はなくて。狭い世界かもしれないけど、僕はただひたすら、この白川茶を極めていきたいと思っています」
白川茶に、熱く、真剣に向き合う。
そんな森本さんたちと、一緒に働く仲間を探しています。
(2019/10/1 取材 遠藤 真利奈)