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何を基準に、ものを選ぶか。
直感的にピンときて買う場合もあれば、値段で選ぶこともある。なかでも最近は、ストーリーに共感して買う機会が増えたように感じます。
生産者の顔が見えるとか、つくり手の想いに触れられるとか。そんなふうに背景やストーリーを明らかにしながらものを売ったり買ったりすることは、もはや当たり前のことになってきているのかもしれません。
2012年に立ち上がった「藤巻百貨店」は、“日本の逸品”ばかりを集めたインターネット上のお店。一つひとつの商品が持つストーリーを独自の視点から伝えることで、コアなファンを獲得してきました。
今回は、そんな藤巻百貨店の中核をなすコンテンツづくりに携わる編集者と、ECサイトの運営担当者を募集します。また、プランナーや企画営業、商品の写真撮影を担当するスタイリストなども幅広く募集中です。
物質的な豊かさが飽和しているこの時代に、ものを売る・買うとはどういうことか。本質に向き合いながら商売をしていく仕事だと思います。
渋谷駅の新南口から歩いて2分ほど。
トランスコスモス社の一角に、caramoのオフィスはある。
入り口には藍染の小さな暖簾がかかっている。富士山を模したロゴの下には「藤巻百貨店」、小さな文字で「Love Nippon」と書かれている。
藤巻百貨店の生みの親は、カリスマバイヤーとして伊勢丹などで活躍してきた故・藤巻幸大さん。生前、全国を飛び回っていた藤巻さんは、各地でつくられる“日本の逸品”を紹介したいと考えていた。
そんなときに出会ったのが、caramo代表の中村亮さん。2012年のことだった。
「藤巻さんとは本当にたまたま出会って。『日本の産地や風土、つくり手のことを紹介しながら、ものを売っていけないかな』という構想を聞いたんです。ちょうどそのころ、ぼくも同じようなことを考えていて」
若手のころからベンチャー企業で経験を積んできた中村さん。
新しい商品やサービスを次々に生み出していくなかで、ECサイトにはまだまだ開拓の余地があると感じていたそう。
「ややもすると、ECって買いものの効率性とか手軽さが追求されがちなんですね。だけど、もっと商品の手触り感を届けることができるんじゃないか。それは、もののストーリーを丁寧に伝えることで実現できるんじゃないか。そんな仮説を持っていました」
ふたりは意気投合し、インターネット上に“日本の逸品”だけを集めたお店「藤巻百貨店」をオープン。
選りすぐりの商品を一つひとつ紹介していった。
「一般的には、ECって商品紹介にそこまでお金をかけられないんですよ。なぜなら、利幅が大きくないから」
「でもぼくらは、ライターさんやカメラマンさんも入れ、商品ページをつくり込んで。どんな表現がお客さんに届くのか、テストを重ねながら今のモデルをつくっていきました」
数字の管理やSEO対策など、一般的なノウハウやテクニックも織り交ぜながら、独自の方法論を構築してきた。
「ひとつは、お客さんに疑似体験をしてもらうということが大切です」
たとえば、と紹介してくれたのは、江戸切子のグラス。
色のグラデーションと繊細な装飾がうつくしい。
ガラスの曲面をカットして平らな面をつくる“平切子”という技法と、細かな粒子を吹き付けて模様を描く“サンドブラスト”をかけ合わせてつくられているという。もっとも細い線は、0.09mmで描かれているそうだ。
「ただ、たとえ高い技術の詰まった商品でも、よさが伝わらなければ意味がありません」
その商品が手元にあったら、自分の生活やライフスタイルはどう変わるのか。実際に使うときのことを想像しながら、ページをつくっていく。
「グラスを使うとき、上から覗き込みますよね。飲みものが入っているか入っていないか、色のついた飲みものか否かでは、見え方もかなり変わるんです。そのことがちゃんと伝わるような文章と写真を使う、というのがひとつ」
「もうひとつは、ものの魅力にフォーカスすること。それも“極端に”やる」
極端に、魅力にフォーカスする。どういうことでしょう?
「iPhoneケースの例がわかりやすいかな。ジュラルミンという硬い金属でできたケースなんですけど。F1マシンのエンジンをつくっていた所沢の工場が、その技術を活かしてピシーッと削り出してつくっていて」
「加工の精度の高さを伝えるために、カメラマンさんに『これ以上寄れないくらい接写して』ってお願いして。最初はすごく嫌がられましたね。なんでこんなことするのって」
たしかに、あまり見たことがないほどのどアップだ。でもそのおかげで、手に取ったときの質感が伝わってくる感じもする。
「この角度とか断面のうつくしさに、メカ好きはきゅんとくるわけですよね。物撮りのセオリーではありえないかもしれないけど、ものの魅力に焦点を絞って、極端に伝える。そのことをとても大切にしています」
結果、このiPhoneケースは1つおよそ14000円という値段ながら、2000個以上売れたという。
「目に見えて反応があるのは面白いですよね。裏を返せば、結果が明白なので酷な仕事でもあります。でもやっぱり、うまくいったときは抜群に楽しい。それをプレッシャーに感じるか、楽しいと感じるかだと思います」
お客さんは、可処分所得が高く、ものへの興味関心も高い40〜50代が中心。人と被らないギフトを贈りたいというニーズもあり、若年層であってもコアなファンがついているという。
「ものの背景に対する理解が深まると、お客さんも自然と愛着をもって大切に使ってくれるんですよ。クレームも月に数件あったら多いほうですし、レビューもいいコメントばかりで。あとで見てみてください。やらせですか?なんて聞かれたこともありますけど、1ミリもそんなことはないんです(笑)」
誰が、どんな想いでつくったものなのか。知っているだけで大切にしたくなるというか、ぞんざいに扱えなくなる感覚は、たしかにわかる気がする。
今回とくに募集したいのは、コンテンツをつくる編集者とECサイトの運営担当。
それぞれ具体的にはどんな仕事なのでしょう。
「編集者は、主に商品紹介ページをつくる仕事ですね。取引先さんの取材をして、商品の魅力にフォーカスした文章を書く」
取材は工場や工房まで足を運ぶこともあれば、職人さんの手を極力止めないように電話で行うこともあるそう。
写真の撮影は、以前は編集者が兼任することもあったものの、ひとまず分業していく予定。文章は最終的に中村さんの目を通したうえで掲載している。
「即戦力になってほしいので、編集やライティングの経験はある方がいいですね。端的にものの魅力を伝えられるセンスも必要です」
一方のECサイト運営担当は、全体の進行管理が肝心だという。
「うちは直販なので、流通に関わることを1から10まで全部やらなきゃならないんですよ。だから、一連の流れがバランスよく整っていることが重要で」
たとえば、商品のプロモーションを打ったところで、在庫が足りなくなっては困るし、広報やPRの計画なしに商品ページを公開しても効果的ではない。
どのようなタイミングで何を仕掛けるか、全体を見ながら計画を進めていく指揮者のような役割になる。
「Webだけでなくアプリもありますし、最近はAIを使った販売分析の技術も出てきている。今後テクノロジーが進歩していくにつれて、EC担当の仕事の幅も広がっていくと思うので、そこにちゃんとついていける人がいいですね」
ほかにも、特集コンテンツやイベントなどの企画運営を担うプランナーや、取引先とのやりとりや販促の提案を行う企画営業、商品撮影やコーディネートを担当するスタイリストなど、さまざまな職種を募集している。
「どの職種にも共通して求められるのは、仕事を通じて自ら成長していく意識ですよね。ぼくらの取引先さんは、みなさん超一流のプロなので。そういう方々と仕事がしたいっていう、意欲を持った方と一緒にやっていきたいです」
現在、従業員は24名。そのうち半数は、2016年にオープンした「東急プラザ銀座店」等の実店舗の販売スタッフだそう。
その店長を務めてきたのが前田つぼみさん。
「もともとは布の卸の会社で事務や経理の仕事をしていたんですけど、そのうち販売の仕事をしたいと思うようになって。自分が自信を持っていいと言えるような商品を売りたいなと思って探していたら、こちらの会社を見つけたんです」
1年半、店舗で経験を積み、最近本社に異動したばかりだという前田さん。
店舗でお客さんと接してきた経験を活かして、販促やPR、ECサイトの運営にも今後携わっていく予定とのこと。
「小さな組織なので、ほかの担当の人とも距離が近くて話しやすいのはいいところだと思います。社長との距離も近いですし、いろんな承認をとらなくても直接相談ができるので、話が早いというか。わたしは働きやすいですね」
ひとつのコンテンツをつくるにしても、文章を書く編集者と写真を撮影するスタイリストで連携したり、ECサイトの運営担当と相談したり。ひとりで悶々と抱えることなく、壁打ちしやすい環境だと思う。
逆に、この会社ならではの大変なことってありますか?
「自分で考えて動かなきゃいけないことが多いですね。マニュアルも一応ありますが、もっとよい方法はないか?と、その都度自分の頭で考えて、臨機応変に動かないといけない。わからないことは自分から聞きにいくことも大切です」
自分から動いて情報を取りにいく。実際に使ってみて、もののよさを体で感じる。
そんなフットワークの軽さや能動性は、代表の中村さんが誰よりも体現していることでもある。
「ぼく、昔から気に入って着ていたTシャツがあって。そのブランドがあるときなくなったんです。それでネットで探し回ったら、一個だけブログ記事を見つけて」
記事によると、デザイナーの方が亡くなり、Tシャツはそのお弟子さんがブランド名を変えて販売しているとのことだった。
「ただ、新しいブランド名で検索しても連絡先がなかなか出てこない。ひたすらそのTシャツを探して、買って、タグを見たらそこに電話番号が書いてあったんですよ。急いで電話して、アポとって口説きにいく。そういう、ベタで地道なこともある仕事ですよね」
「これは藤巻さんもよく言っていたことで、ぼくらは“もの余り時代”のもの選びに一石を投じているんじゃないか、と思います。使う人の感性に触れるような想いの込もったものを、必要としている人に届けていきたいんです」
ものが好きという純粋な気持ちと、その魅力をちゃんと伝えていきたいという情熱と。それらの想いが強いからこそ、中村さんは安易に妥協しない方だと思います。
実際、完成間近のコンテンツでも魅力が伝えきれていなければやり直し、ということもあるそう。
プロ意識をもって一緒につくり手の想いやストーリーを伝えていきたい、と思う方は、藤巻百貨店の暖簾をくぐって、一度話をしてみてください。
(2019/10/7 取材 中川晃輔)