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「夕張メロンって、本当につくりづらい作物なんです。だからこそ、すごく面白いんですよね」取材中にたびたび登場したこの言葉が、何より印象的な取材でした。
今回の舞台は北の大地。夕張メロンで知られる、北海道・夕張市です。
夕張では、昨年から「夕張メロンサポーター」の募集がはじまっています。春先の苗づくりから、夏の収穫、秋の片付けまで。夕張メロン農家さんの“サポーター”として、メロンづくりをお手伝いする仕事です。
今回は、2期目のサポーターを募集します。期間は、来年の4月から10月にかけて。半年間じっくりメロンに向き合うのもいいし、2ヶ月未満のお試し体験も歓迎です。
興味さえあれば、年齢や性別は問いません。夕張のみなさんは、きっとどんな人でも受け入れてくれると思います。
夕張へ電車で行く場合は、札幌から特急でおよそ1時間。新千歳空港からも、車を1時間走らせれば到着する。
取材に訪れた7月中旬は、夕張メロンの最盛期。駅の目の前にある道の駅にはたくさんのメロンが並んでいて、お客さんが一つひとつ手にとって眺めている。
私も一つ買っていこうかな、と売り場を歩いていると「お久しぶりです」と声をかけられた。JA夕張市の藤本さんだ。
サポーター制度の担当者として、昨年の立ち上げから関わっている方。
「今年のメロンもおいしいですよ。天気がすごく良くて豊作だったんです。初セリでは、歴代最高の2玉500万円がつきました」
夕張市の特産品、夕張メロン。
きれいな網目で覆われた玉に、みずみずしい赤い果肉。スプーンですくえばジュワッと果汁があふれて、甘い香りが広がる。
高級メロンとして、その名前を聞いたことがある人もきっと多いはず。
「夕張って、農業でいえばメロンしかないような土地なんです。夕張メロンが生まれてから58年間、農家さんもメロンのもとに強く団結してきました」
特殊な土壌と山あいの地形のため、農業に向かないといわれてきた夕張。
農家さんたちは試行錯誤のすえに新品種の夕張メロンを生み出し、その質を高め続けてきた。
ただ、そんな夕張で課題となっているのが人手不足。
そこで夕張市役所とJA、そして農家さんが一丸となって昨年立ち上げたのが、「夕張メロンサポーター」という仕組みだった。
「人手不足という課題からはじまったというのはあるんですけど。夕張メロン農家さんの仕事を手伝ってもらうなかで、夕張メロンの魅力や私たちの想いを、もっとたくさんの人に知ってもらいたいと思っているんです」
農業は未経験という人やメロンのことをまったく知らない人でも、「やる気と着替えさえあればいつでも来てもらえるように」と、準備を重ねてきた。
昨年から募集をはじめて、今年は実際に受け入れをスタートして1年目。
はじめての取り組みは、いかがでしたか?
「おかげさまで全国からご応募いただいて。夕張に興味を持ってくれた人には全員に会いに行こうって、農家さん2人と市役所の方と僕で、一人ひとりに会いに行ってきました」
おお、全員に!
「でもみんな面談なんてしたことがないから、ガチガチに緊張して。農家さんも席につくなり『なんで夕張になんか来ようと思ったんですか?』って直球で聞くし。『ええっ、いきなりですか!?』って応募者さんを驚かせちゃって」
「でも応募者のみなさんは『夕張メロン、すごいじゃないですか』と言ってくれて。農家さんもその言葉がすごく嬉しかったみたいです」
20歳の女性から、70代のご夫婦まで。今年は6人のサポーターが夕張にやってきた。
「こんなに夕張に興味を持ってくれる方がいたなんて、正直驚きでした。みなさん今やもう、僕たちJAの職員以上にメロンについて語れるんですよ」
「今日はぜひ、サポーターさんたちにも話を聞いてもらいたくて。今から行ってみましょうか」
まず向かったのは、メロン農家の豊田さんのお宅。
「こんにちは〜」と迎えてくれたのは、サポーターの石川とも子さん。
「今日はちょっと涼しいですね。せっかく来てくれたから、普段のハウスの暑さを体験してもらいたかったなあ」
ほがらかに話すとも子さんは、夕張にやってくるまで横浜でシステムエンジニアとして働いていたそう。
異色の転身ですね!
「北海道の大学で酪農を勉強していたこともあって、いつか農業の世界に入りたいと思っていたんです。そんなタイミングで募集を見て、『あの夕張メロンをつくれるんだ!』って。すごくいいチャンスかなと思って応募しました」
応募したはいいけれど、どんな生活になるんだろう。最初はそんな不安もあったという。
「そしたら面接で、農家さんたちが4人も新横浜まで来てくれて(笑)。私もみなさんもすごくあたふたしていたんですけど、ちゃんと向き合ってくれているように感じて、ここならきっと大丈夫だと思ったんです」
そうして夕張に飛び込んできたのが、今年4月のこと。
実際に来てみて、いかがでしたか?
「どの農家さんも『夕張メロンはすごく大変だ』って念を押すように話していたので、覚悟はしていました。けれど想像以上に、やっぱりすごく大変ですね」
春から夏の収穫期にかけては、“芯つみ”と呼ばれる作業が主な仕事。育った苗の余分なツルを、ひたすら手で摘んでいく。
ときに40度近くにもなるハウスでの作業は、暑さとの戦いだという。
「ハウスで屈みながら横に移動するんですけど、黙っていても、顔から体から汗がブワっと吹き出して…。泣いているの?ってくらいです」
メロンは数十棟のハウスで少しずつ時期をずらしてつくっていて、最終的な収穫数は多いところで4万個を超える。
地面に敷いてあるビニールも熱を吸収するため、膝をついて作業するうちに作業服が溶けてしまうこともあるのだそう。
しかも夕張メロンは高級品。「1個失敗したら、数千円を失うんだ…」という緊張感もある。
「でも皆さん、すごくよく見てくださっていて。一緒に休憩しようってこまめに声をかけてくれたり、『いつもの汗のかきかたと違うから、木陰でもうちょっと休んでおいで』って言ってくれたり。そういうことがあるから、楽しく働けているのかなと思います」
そうして時間も手間もかけて育てた苗に、メロンの実がなりはじめ、網目のネットが張りはじめる。
ハウス一面にメロンがなったときの感動は、忘れられないという。
「わあ、これ全部メロンなんだ!って。なんていうんだろう…もう、すごく嬉しいんですよね。自分でつくったメロンは、やっぱりすっごく美味しいんです」
愛情を込めて、自分の手で育てたメロン。きっと格別だろうなあ。
「今はもう畑を片付ける季節に入っていて。どんどんさみしい気持ちになるので、終わらなきゃいいのにって。豊田さんの家に来られて、本当に良かったです」
「来てくれての感想ですか? すごく助かっていますよ」
そばで話を聞いていた豊田さんは、そう言葉を続ける。
「1年目なので、2年目3年目の人より早くできないのは当たり前なんです。一所懸命やったうえで『なんで私は遅いんだろう』って考えてやってくれている。その気持ちが嬉しいし、今やもう大切な一員になってくれています」
「正直、3Kと言われる仕事です。北海道らしいのんびりとした風景を想像していちゃ幻滅しちゃうんじゃないかなと思っていて。でも石川さんはなんでも一所懸命だし、彼女の雰囲気にみんなふわっとなっちゃうんだよね(笑)」
面接で、「品種改良などにも興味がある」と伝えたとも子さん。
豊田さんもその想いに応えたいと、任期を終えたあとのサポートなどをJAに相談しているそうだ。
「単純に働きに来ただけじゃないって知っているので、少しでも夢を実現するお手伝いをしたくて。労働力として見るんじゃなくて、ちゃんとそれぞれの想いに応える。格好つけるつもりはないけど、それが夕張っていう産地のあり方だと思います」
「あと1ヶ月半で任期は終わるんだけど、そこではいさようなら、じゃなくて。末長く、いい関係が続いていけばいいなと」
お互いのことを、少し照れながら話す豊田さんと石川さん。石川さんが夕張を離れても、きっといい関係は続いていくだろうな。
続いて訪ねたのは、田中さんのお宅。
作業スペースをのぞくと、田中さんご夫婦とサポーターの荒木七海さんが待っていてくれた。
「ほら、七海ちゃんが主役なんだから真ん中に座りなさい!」「えっ、いいんですか?」と、とてもにぎやかだ。
七海さんは、愛媛県松山市からやってきた。世界一周を終えて次の仕事を考えていたとき、募集記事を見つけたのだそう。
「もともと農業をやりたいなと思っていました。『夕張メロンづくり』って言葉にビビッと来て。家も用意してくれて、家賃も安い。めっちゃ条件いい!と思って、応募を決めちゃいました」
七海さんが夕張に越してきたのは3月末のこと。
来て早々に雪が降り積もったため、ハウス周りの雪かきが最初の仕事だったそう。
「雪が降ってる、銀世界だ!って。雪かきも、こんなに寒いのも、人生で初めて。すごく新鮮でした」
ハウス立てにはじまり、苗の植え替え、芯つみ、収穫したメロンの拭き上げまで。
毎朝メロンのカバーをあけて日光を浴びせて、夜になったら寒さで枯れないように再びカバーをかぶせて。
季節とともに少しずつ成長するメロンを、ずっとそばで見守ってきた。
「朝から夕方まで体を動かせるのは楽しいです。小さな芽が苗になって、小さな実がだんだん大きくなって。網目のネットってこんなに細かいんだとか、中身がどんどん赤くなるぞとか。メロンにすごく詳しくなりました」
「初めてメロンを食べさせてもらったときには、こんなに美味しいんだって感動して。地元の友達にもメロンを買って、『農家さんってすごいんだよ!』って、手紙と一緒に送ったんです」
七海さんを隣で見守っていた田中さんご夫婦。「うちのメロンはおいしいもんね!」と美絵さんが笑う。
「一所懸命働いてくれるし、面白いし。もう、帰っちゃうのが今から寂しくて…」
義輝さんも言葉を続ける。
「どんな子が来るんだろうって最初は心配だったんですけど、何事にも意欲的に取り組んでくれて。今年はいつになく豊作だったから、きっと地獄のような日々だったと思うけど…(笑)。本当によく頑張ってくれました」
「もう、ありがとうの気持ちでいっぱいです。まだラーメンに2、3回連れていってあげただけなので、落ち着いたら地区のお祭りとかにも色々一緒に行きたいなと。ちょっとでも夕張を満喫してほしいなと思っています」
雪の降る春に、炎天下の夏。仕事そのものは、大変なことのほうがずっと多いはず。
けれどサポーターさんたちは、それ以上に農家さんとの出会いやメロンづくりを楽しんでいるようでした。
“大変だけど、来てよかったなあ。”
夕張ではきっと来年も、そんな出会いが待っていると思います。
(2019/07/13 取材 遠藤真利奈)