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そのお店の人たちは、とにかくよく考える。たとえば、より心地よく食材をつまめる箸について。あるいは、遠い国で長く愛されてきたブラシやキャンドルについて。
インナーウェアにとって究極の素材とは? スプーンのあるべき重さとは?
自分たちの暮らしを構成する「もの」について深く考えて、これこそはと思えるものだけを選ぶこと。それは限りある資源を使って営みを続ける、生産者と消費者、両方の責任でもあると思います。
THE SHOPは、そんなテーマにデザインの視点で向き合うお店。
丸の内、京都、渋谷に加えて、今度は新規オープン予定の横浜ニュウマンに新しいお店ができるのに合わせて、スタッフを募集します。
THE SHOPのスタッフの人たちはみんな、真面目に、楽しそうに、デザインのことを話してくれます。
最初からデザインのプロである必要はないと思います。大切なのは、いろんなことを掘り下げて考えたいという気持ち。
「なんでだろう?」という疑問を持ち続けられることが、ここでの仕事を通じて成長できる秘訣なのかもしれません。
JR渋谷駅の中央改札から、東口に向かって歩いていくと、開業したばかりの渋谷スクランブルスクエアの入り口が見えた。
エスカレーターで8階へ上りながら、THE SHOP SHIBUYAオープニングスタッフ募集時の取材で代表の米津雄介さんから聞いた話を思い出す。
THEはデザインや工芸に関わるボードメンバーによって2012年に誕生したブランド。
ものづくりの社会的課題が起点で生まれたブランドだから、デザインや工芸について議論をするのが楽しいチームなんだと、米津さんは話してくれた。
今回、渋谷のお店を案内してくれたのは、岩下さん。THE SHOPのオペレーションや新店準備を担当し、スタッフにとっては日々の運営などを相談できる同僚になると思う。
そんな岩下さんと一緒に店内を見ていく。
食器にカトラリー、洋服に、自転車… いろんなものがありますね。
「渋谷店ではオープニング限定アイテムもつくりました。これは世界最軽量で引き裂きに強いリップストップナイロンを使ってつくったエコバッグなんです」
触ってみると、ものすごく柔らかくて薄い。繊細そうに見えて、実は10kgくらいの重さに耐えられる強度もあるのだそう。
価格は5,000円。
レジ袋の代わりだと思うと高いけれど、丈夫で軽いバッグだと思えば違和感はない。
いかに今まで「レジ袋=捨てるもの」と、無意識にみなしてきたかを問われているような気もする。
ただ商品のよさを伝えるだけでなく、お客さん自身に考えるきっかけを持ち帰ってもらう。それは、このお店のコンセプトの一部でもある。
「このお店、普通の生活雑貨店にはあるものがなかったりするんです。たとえば、ハンドソープや固形石鹸、シアバターはあるのに、シャンプーはまだない」
たしかにちょっと不思議なラインナップ。
歯磨き粉のチューブ搾り器や、サイレンサー付きハーモニカ、生地の仕上がりを確認するためのルーペのような、ややマニアックなアイテムはあるのに、オーソドックスなシャンプーがないのはどうしてでしょう。
「もちろん、シャンプーもすでに社内でオリジナルとセレクトの両面から検討しているんですが、香りとか保湿度とか、人によって好みが分かれるので、まだ自信を持ってこれが“THE”だっていう結論に至っていないんです」
「THEは、ひとつの品目につき1種類の商品しか扱わない。これだと決めたらできるだけ長い間扱いたい。TシャツならTシャツのなかで一番いいと思う“定番”を紹介するお店なんです。だから慎重に選びますし、選択肢がたくさんあるものはすごく時間がかかります」
ベターなものを選ぶのではなく、納得できるひとつのものに絞れるまで議論を続ける。
かなりストイックなこの過程に、スタッフも加わってほしいと考えている。
「とはいえ、今まであまりに商品取り扱いまでの基準が厳しく、スタッフの心が折れてしまうことも多かった。そこで、去年から『MY定番』という取り組みをはじめました。スタッフの考える「THE」をスタッフのMY定番として、期間限定で、お店で扱うんです」
スタッフみんなが、提案からバイイングまで経験できることで、それぞれのモチベーションも上がる。お客さんからのリアクションは、何よりのフィードバックになる。これまでも、パナマハット、スタイリングワックス、コーヒーポットやバッグインバッグなどが「MY定番」として販売に至っている。年明けにはチョコレートの予定もあるそう。
そこには、お店に関わる一人ひとりが積極的にブランディングに関わってほしいという想いを感じる。
THEというブランドが生まれて8年目。会社やお店は、今どんなことを目指しているんでしょうか。
「THE SHOPは、今度できる横浜のお店で4店舗目ですが、どんどん店舗数を増やしていきたいというわけではなくて。横浜店のオープン後1〜2年は、会社のなかで『表に見えにくい部分』を伸ばしていく期間になるんじゃないかなと思います」
たとえばWEB周りのインフラやお客さんとのコミュニケーションのあり方、人事体制や生産管理のオペレーションなど、ブランドのコアを担う体制が確立されていない側面もあるのだそう。
その後の活動を広げていくためにも、しっかりと根を下ろしていく期間になる予定。
今度の横浜店の立ち上げに関わるメンバーも、ブランドのコアを担っていく一員になる。ゆくゆくはバイイングやマネジメント、商品開発に関わる人も出てくるかもしれない。
今回訪ねた渋谷店のオープニングメンバーは、ほとんどがこの半年間で新しく入ったスタッフたち。ショップマネージャーの大田さんの経験は、新しく入る人にとってもヒントになるはず。
入社してからこのお店がオープンするまで、どんな感じでしたか?
「最初は研修を兼ねて東京店で働きながら、渋谷店の準備をしていました。岩下さんも含めて3名くらいで備品の発注やメーカーとの交渉、オペレーションの構築など、いろいろやりましたね」
THE SHOPでは接客やスタッフ教育についての、細かいオペレーションマニュアルを設けていない。
前職でも小売業で店長を経験していた大田さんは、自分で気づいたことを少しずつスタッフに伝えつつ、お店をまとめていった。
「大きい会社だと、経理は経理、人事は人事って分かれていて、スタッフがタッチできない部分もあるんですけど、THE SHOPは経理の仕事もお店でやる。それが僕にとっては全然負担ではなくて、むしろやりがいなんですよ。全部把握していたいって、以前から考えていたので」
気になったことは、とことん追求したい。
それって、なんだかTHEがデザインに向き合う姿勢にも似ていますね。
「そうですね。商品についても、突き詰めて考えるのは楽しいです。最初はハードル高めなお店なのかなと思ってたんですけど、ものや人が好きっていう思いがあればやっていけると思います」
「代表の米津は、『お店をものづくりやデザインのコミュニティにしたい』と言っていて。お店で商品の説明をしていると、周りに人が集まってくるんです。お客さん同士でも『これ、使ってる?』っていう声が出たりして。働いているうちに、ああ、こういうことかって、わかってきた気がします」
接客されているお客さんの周りにいる人も、つい足を止めて耳を傾けてしまう。
THE SHOPでは普段どんなふうに商品の話をしているんだろう。
「自分で使ってみた実感も伝えるようにしています。そのほうがわかりやすいし、伝わる感じがするんです」と話してくれたのは、スタッフの松原さん。
「最初の研修では、一通り商品の説明をしてもらいました。結構量も多いので、それだけではどうしても覚えきれなくて。洗剤とか食器とか、いくつか自分でも試してみたんです」
THE SHOPには、そんなふうにスタッフが商品を買って試せるように、通常の社割制度のほか入社時や入社後半年に一度スタッフに年間10万円相当のオリジナル商品を提供する制度もある。
使い込んでみてどうだったかという実感の伴った接客は、お店の価値にもなるからだ。
松原さんが実際に試してみて気に入ったというのが、やや大ぶりで底の浅いお茶碗。
「このお茶碗“身度尺”と言って、人の体を基準にサイズを割り出しているんですよ。口径の大きさが12cmなんですが、それがちょうど両手の人差し指と親指で円をつくったときの大きさと近い。だから、すごく手になじむんです」
私もちょっと両手で持ってみる。
なるほど、ちょっと大きそうに見えたけど、手にすっぽり収まりますね。
「ご飯をよそってみると、温度の伝わり方もすごくちょうどいいんですよ」
決まった情報や理屈を伝えるだけでなく、お客さんが想像しやすいようにシーンを伝えていく。スタッフでありつつ、つくり手とユーザーの両方の視点があるみたい。
松原さんは、以前からデザインには興味があって、勉強してみたいと思っていたという。学生時代には写真を学んでいた。
今はその経験を生かして、岩下さんたちとある相談をしているのだそう。
「渋谷にあるお店だし、せっかくならお店にあるファッションアイテムで、スナップブックがつくれたらっていう話をしているんです」
THE SHOPにはスタッフのキャリアとして、一般的には店長にあたるショップマネージャーとMD、VMDなどを担うショップエキスパート、ふたつの職種がある。
ただ、今後はその枠におさまらないでも、それぞれの特技を生かした仕事ができる機会を増やそうと考えているところ。これから入る人も、自分らしいポジションを新たにつくっていけるかもしれない。
最後に紹介するのは、アルバイトの北山さん。来年の春、大学を卒業後に正社員として入社する予定だそう。
北山さんは、以前アパレルショップなどでもアルバイト経験があり、お店の商品のなかでも洋服について話すときは、思わず熱が入るという。
「商品が売れたとき、お客さんに『ありがとうございます』って言いながら、心のなかで『絶対気にいってもらえると思いますよ』って思っていて。そう思える商品を扱うって、すごく健全な仕事だと思うんです」
このTHE SHOPは、頻繁に新商品が入ってくるアパレルショップとはちょっとサイクルの異なるお店だと思う。その点で、ギャップはありませんでしたか。
「お店に常に新商品が入ってくるっていうことは、その分処分されるものがあるわけで。そういう前提の上で成り立つものづくりよりは、こっちのほうが気持ちよく関われていると思います」
「一番うれしいのは、商品やお店のことが口コミで広がっていくこと。ちょうど、昨日お店に来て話をしていたお客さんが、今日はご家族を連れてきて昨日と同じものを買ってくださったんです。そんなふうに共感の輪が広がっていくのが見えるのは、お店で働く楽しさだと思いますね」
THE SHOPの仕事は、機能とデザインを備えた個々の商品を売ることだけでなく、納得できるものを選び、「最適と暮らす」という考え方を提案すること。
その考えが広がっていけば、プロダクトに対する世の中のニーズそのものも少しずつ変わっていくように思います。
生活のなかにいいデザインを増やしていく。そんな目標に向かって、THE SHOPの人たちは考え続けています。
(2019/12/16 取材 高橋佑香子)