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子どもも大人も
遊んでいるときは
みんな、いい顔

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

リングで束ねられた3色の棒が倒れないように、サイコロが示す色を一本ずつ抜いていく。

東京おもちゃ美術館で、スタッフの高山さんに誘われるまま「スティッキー」というドイツのゲームに熱中してしまいました。

シンプルなゲームなのだけど、意外と難しい。

「お、いけそう?」「うまいうまい」と、一緒に遊んでいるうちに自然と声が出る。

倒れないかとドキドキしたり、うまくできたらうれしかったり。短い時間だったけど、お互いのいろんな表情を見られた気がします。

誰でも簡単に遊べて、誰とでも仲良くなれる。

いいおもちゃって、そういうものなのかもしれません。

今回紹介するのは、芸術や遊びを通じて人をつなぐ仕事。東京おもちゃ美術館を運営する認定NPO法人「芸術と遊び創造協会」で働くスタッフを募集します。

職種はいくつかあります。ひとつは、芸術や遊びを暮らしに取り入れる専門家を育てていく仕事。もうひとつは、全国に「東京おもちゃ美術館」の姉妹館をプロデュースしていく仕事です。

同時に、財務など事務方の役割を通じてNPOの活動を支えるスタッフも募集しています。



話を聞くために向かったのは、地下鉄の四谷三丁目駅からほど近い「東京おもちゃ美術館」。歩いていくと、赤いフラッグが見えてきた。

廃校となった小学校の建物を活用したこの施設。おもちゃを展示する部屋のほかに、市民が利用できる体育館などがあり、館内にはにぎやかな声が響いている。

展示室を覗いてみると、いろんな色やかたちのおもちゃがずらり。

館内にあるおもちゃのほとんどは、触れて遊ぶことができる。小さな子どもだけでなく、視察に訪れているらしいスーツ姿の大人たちの顔にも、自然と笑みがこぼれている。

まずはこの美術館の館長であり、NPO理事長の多田さんに話を聞かせてもらう。

おもちゃ美術館はもともと、美術教育の専門家だった多田さんのお父さんが東京・中野で立ち上げたもの。

「父はよくヨーロッパの幼稚園などへ視察に行って、洗練されたデザインのおもちゃに感銘を受けていました。ガラガラを振って遊んでいる赤ちゃんを見たときに、『人間が初めて出会うアートはおもちゃなんじゃないか』と思ったらしいんです」

目で見て、手で触れ、音や動きを楽しむことで、感性を育てていく。

そんなおもちゃを日本でも紹介しようと、東京おもちゃ美術館が生まれた。おもちゃと出会う環境づくりにも、多田さんたちのこだわりがある。

「博物館のように、ガラスケース越しに珍しいものを眺めるのではなく、実際におもちゃで遊べて親子でゲラゲラ笑えるような場所にしたかったんです」

あまり展示解説のようなものがないというのも、美術館としては珍しい特徴のひとつ。

その代わりに、赤いエプロンをつけた「おもちゃ学芸員」というボランティアスタッフが、お客さんに声をかけ、遊び方を伝えながら一緒に楽しんでくれる。

養成講座を受けたおもちゃ学芸員は、18歳から81歳まで約360人。マニュアル通りの接し方ではなく、わらべうたや人形劇などそれぞれの特技を生かして、お客さんと関わっている。

「みなさんボランティアで、それどころか受講料や年会費を自己負担して、この活動に参加してくれているんですよ」

ボランティアとして何かを「してあげる」という気持ちでは、きっと続かない。

おもちゃや遊びの楽しさを伝えることが、みなさんのやりがいになっているんですね。

「遊びって、子どもだけでなく大人にとっても『心の栄養』になるものだと思うんです。遊びを通じて、学んだり自分自身を成長させたり。それは、高齢者やハンディキャップのある人も同じです。」

多田さんたちは、世代や地域を超えた交流の潤滑油として、おもちゃや遊びを伝えてきた。

木のおもちゃづくりやその材料となる森とのつながり、伝え手の育成、交流の場づくりなど、NPOの活動は近年ますます広がりを見せている。

公的な補助金に頼らない形で運営してきた東京おもちゃ美術館。開館13年目を迎え、昨年は年間入場者数が15万人を超えた。

最近では、全国の自治体に残る廃校や商店街の再生モデルとして、「わが町にもおもちゃ美術館を」というオファーが増えているそうだ。



そんな“姉妹館”となる地方のおもちゃ美術館のプロデュース業務に携わっているのが、同館副館長で企画部の部長である星野さん。

「最初にできた沖縄の『やんばる森のおもちゃ美術館』のほか、秋田の『鳥海山木のおもちゃ美術館』、山口の『長門おもちゃ美術館』、東京も入れると全部で4つのおもちゃ美術館があって。さらに今は、花巻や木曽などで8館を新たに準備中です」

星野さんたちは、地域や自治体の人とコミュニケーションをとりながら、新しい美術館の立ち上げを進めている。

建物や空間設計、展示のコンセプト、運営組織の立ち上げ、ボランティアの育成、カフェやショップの準備など、それぞれの地域に出張しながら、美術館に必要なすべての要素を整えていく。

地方のプロジェクトで特徴的なのは、廃校利用や商店街の活性化など、その地域ごとの課題がテーマに関わってくること。

「東京のおもちゃ美術館のフランチャイズではなくて、その地域にあるものをちゃんと活かしながら、掛け算で場をつくっていくようにしたいですね」

たとえば2018年にオープンした秋田の「鳥海山木のおもちゃ美術館」では、地元のローカル線とコラボレーションした「おもちゃ列車」の運行をプロデュース。美術館の中だけにとどまらず、地域観光も一緒に盛り上げてきた。

「この美術館の建物は有形文化財にも登録されている木造の旧小学校。廃校になったあとも地域の人たちが掃除や手入れをしていたので、すごくいい状態で保存されていました。そんなふうに地域の人が大切にしてきたという経緯は美術館づくりでも大切にしたかったんです」

公設民営型なので、自治体だけでなく運営主体となる地元の人たちも巻き込みながら一緒につくる。

連帯感を持てるよう、説明会などコミュニケーションの場を設けていく。

それに、地元の食材を使った料理は、それ自体がひとつの観光コンテンツになる。鳥海山のミュージアムカフェでは、地元産のお米を使ったおにぎりとうどんをメインにすることに。

「ところが、キッチンスタッフとして働く地元のお母さんたちから『子どもはカレーとか焼きそばのほうが好きなのに、おにぎりだけなんて寂しい』っていう意見が出て(笑)」

たしかに、外から来た人には珍しいものも、地元の人にとっては当たり前すぎると感じる場合もある。星野さんたちは、コンセプトを理解してもらえるように、その魅力を丁寧に伝えていく。

最初は消極的だった人たちも、美術館が開館して年間9万人ものお客さんが来るようになると、表情が変わってきたという。

「僕たちの仕事は、ほとんどがコミュニケーションの産物なんですよ。自治体や地域の人、ボランティアスタッフ。立場の異なるいろんな人と話をしながら、仕事を進めていく。特別な資格や経験は必要ないけど、人との会話を楽しめる人のほうがいいと思います」

全国に美術館という「場づくり」を進めている星野さん。

一方で、芸術や遊びを暮らしに取り入れる「人」を育てる仕事をしているのが、続いて紹介する高山さん。

高山さんは普段、中野にある「人材育成部」という部署で働いている。

「私たちの部署では、絵画指導や遊び、自然などの力を活かして“心の栄養補給”ができる人材を育てるために10の資格講座を運営しています。そのなかで私が担当しているのは『アクティビティ・ケア』という、高齢者支援の専門家になりたい人をサポートする仕事です」

アクティビティ・ケアというのは、手工芸や音楽といった芸術文化活動や遊び文化活動で、対象者の心と身体を動かし、日常生活を活性化しようという考え方。

食事や排泄など最低限の身体のケアだけでなく、「心の栄養士」として個性や興味に寄り添うインストラクターやディレクターを育てていく。

「これから資格の取得を目指す人のためにセミナーを企画したり、講師を派遣したり。裏方の仕事も多いので、知識も気配りも必要な仕事なんです」

そう話す高山さんも、もともとは「アクティビティディレクター」資格認定セミナーの受講生だった。

当時は特別養護老人ホームに勤務していて、はじめは“高齢者に遊びで笑顔を”というアクティビティ・ケアの考え方に半信半疑だったという。

「講座を受けて一番の気づきになったのは、遊びという関わりを通して、自分自身がすごく楽しんでいることでした」

「ケアの現場って、スタッフが頑張ろうとするほど、利用者さんはそれを察して介助を受けることに申し訳なさを感じてしまう。お互いに楽しむ時間をもつことが、本当はすごく大切だったんですよね」

とはいえ、大人になってから「遊ぶ」機会は少ないもの。

なかには「おもちゃは子どものもの」という抵抗を感じる人もいる気がする。一緒に楽しむケアでは、どんなふうにコミュニケーションをとっていくんだろう。

「たとえば一緒にお茶を飲んでいるときに、ポケットからコマを取り出して回してみるんです。『ああ、きれいだね』っていう何気ない会話が生まれたら、こんなのもあるよって別のコマも出してみせて」

くるくるといろんな表情を見せるコマ。どれが好き?という会話も楽しそう。

遊ぶという目的だけでなく、その過程で生まれるコミュニケーションこそ、アクティビティ・ケアにおいては大切なこと。

「アクティビティ・ケアの資格を持っている人は、すでに全国で1万人を超えています。ただ、一人ひとり離れた場所で活動していると、『本当に利用者さんのためになっているのかな』って、一人で思いつめてしまうことがみなさんあるみたいで」

“高齢者に芸術や遊びで笑顔を”という目標を共有するために、高山さんたちは資格を取得した人たちのフォローを続けている。

離れた地方の人同士がお互いの活動を知るためのフォーラムを開いたり、ときには電話やメールで相談に応じたり。

一緒に取り組んでいる仲間がいることを知るだけで、前向きになれるという人も多い。

「私たちの仕事は、現場で頑張っている人同士がともに学び、出会う場をつくり、一人ひとりの背中をそっと押すことなんです。セミナーに参加した人から『学んだことを、職場で実践するのが楽しみです』っていう感想をもらえるとうれしいですね」



おもちゃは、人がはじめて出会うアートであり、遊びは豊かに歳を重ねていくうえでも大切なもの。

上手にコマを回せたときの無邪気な表情、ゲームに勝って思わずあげる歓声。誰もが日々を楽しむ気持ちを育てていくための、種まきをする仕事だと思います。

(2020/1/28 取材 高橋佑香子)

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