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何気ない関わりが
視界をひらくのかもしれない
まちに出会いをつくる塾

「地元の大人から聞く体験談って、テレビで見るドキュメンタリー番組の何倍もリアルだと思うんですよ。高校生の時期にたくさんの大人と出会って、仕事や生き方について話を聞く。その経験が、のちのちの視野を広げるきっかけになると感じているんです」

そう話すのは、鳥取県日野郡にできる公設塾の立ち上げメンバー、川田さん。

鳥取県の西側に位置する日野郡は、江府町(こうふちょう)、日野町(ひのちょう)、日南町(にちなんちょう)という3つの町からなる郡です。

2020年4月。この日野郡に新しく塾ができます。民間企業によるものではなく、町が運営する公設塾です。

その目的は、必ずしも学力向上だけではありません。地元の人との出会いによって、生徒たちの将来の選択肢を広げていくことを重視しています。

今回は、この塾で働くスタッフを募集します。地域おこし協力隊の制度を使って、3年間で塾をつくっていきます。

学習指導の経験はなくても大丈夫。学習塾の先生というより、高校生と地元の人をつなぐ役割を担う仕事です。


羽田空港から90分ほど飛行機に乗り、米子空港に到着。そこから約1時間かけて、日野郡へ向かう。

車を走らせていくと、富士山のような大きな山が見えてきた。

今年は暖冬ではあるものの、山の頂上には雪が降り積もり、きれいに雪化粧している。

「あの山は、大山(だいせん)と言います。大山の水は、大手メーカーが販売するミネラルウォーターのブランドにも選ばれているんですよ」

最初に訪れた町役場でそう教えてくれたのは、江府町長の白石さん。

「日野郡の3つの町にはそれぞれ特色があって。江府町は商業の中心地である米子市に近くて便利、日野町はかつて製鉄で栄えていた町、そして日南町は林業に力を入れています」

豊かな自然に囲まれたこの地域に魅力を感じ、町外から移住してくる人もいる。

「ただ、やはり人口減少が急速に進んでいて。ここ江府町だけでも、20年前には4000人近くいた人口が、約2700人まで減ってしまいました。高校卒業を機に日野郡から出てしまう子どもも増えていて。それは、親御さんの影響も大きいと思っているんです」

“地元の小さな町で就職するよりも、都会に出て大きな会社で働いてほしい”と、子どもに日野郡を出ることを勧める家庭も多いんだとか。

「でもね、知られていないだけで、この地域にも面白い仕事をしている人や、珍しい経歴を持つ人ってたくさんいるんですよ」

林業技術者の育成学校で働く林業のプロや、国家公務員を辞めて日野郡に移住してきた人など。

都会の仕事だけでなく、地元で働く大人たちについて、高校生にもっと興味を持ってもらいたい。

そんな想いから、地域の高校生に向けた公設塾をつくることになった。

郡で唯一の高校がある日野町だけでなく、広く地元の子どもたちを対象にするため、3町合同で開設に向けた準備を進めている。

本格的にプロジェクトが始動したのは、昨年の4月。「ふるさと教育推進協議会」を立ち上げ、3町から合計20名ほどを集めた話し合いが行われている。

「町役場で働く20代の若者から、高校教師を定年退職された方まで。いろいろな立場の人が協力してくれています」

公設塾は、協議会のみなさんと一緒につくっていくもの。塾を運営していく上で困ったことがあれば、きっとサポートしてくれると思う。

「日野郡は広いから、家と学校を往復して一日が終わってしまう子も多いんです。この塾には隣町の高校生も通うので、学校や町の垣根をこえて、いろいろな人と交流してほしい」

「子どもたちが日野郡に残ってくれたらとてもうれしいけれど、ここに縛りつけたいわけではなくて。身近な大人の経験や価値観に触れて、将来の選択肢が少しずつ広がっていく。そんな塾を目指しています」


具体的にはどんな場所になるんだろう。

塾が開設される日野町に向かいつつ、コーディネーターの川田さんにお話を伺った。

川田さんは、もともと新潟県阿賀町にある公設塾で働いていた方。現在はフリーランスとなって、全国各地の公設塾立ち上げに携わっている。

「日野郡には、高校生向けの学習塾はありません。まずは、多様な学びの土台となる基礎学力をつけるための勉強サポートが、公設塾の役割の一つになると思います」

学習サポートといっても、集団授業をするわけではなく、塾を訪れた高校生を一人ひとりサポートしていく。

「黙々と一人で課題を進める子もいれば、勉強がわからなくて塾に来る子もいる。以前いた阿賀町の塾でも、個別で問題の解き方を教え、最適な学習方法から一緒に考えることもありました」

一方、地域との関わりを育んでいくのが公設塾の特徴でもある。

日野郡では、どんなことができそうでしょうか?

「今僕が考えているのは、町の大人と高校生をつなぐ『リアルFacebook』です」

リアルFacebook?

「塾の壁一面に、町の人の情報を掲示するんです。『こんな仕事やってます』、『こんなことができます』、『東京から移住してきました』とか」

「同じ町にいるのだから、気になる人がいれば直接話を聞けるし、講義やワークショップをしてもらってもいい。それをきっかけに、他校の生徒や地域の大人と一緒になってできる、新しい取り組みが生まれるかもしれない。そんな仕組みができたら面白いなって」

たとえばホテル業界に興味のある子は、温泉宿の女将さんから話を聞けるといい。何はともあれ都会に出たいと思っている子は、移住してきた人の経験談から学ぶことも多そう。

そんなふうに、生徒と町の大人がつながっていくと面白い。

「世の中にどんな職業があって、自分にはどんな選択肢があるのか。わからないまま進路を決めてしまう子もたくさんいる。それはすごくもったいないと感じています」

「それに、将来のビジョンが明確になればなるほど、いまの自分に足りないものが見えてきて、勉強にも意味を見出しやすくなる。地元の大人から話を聞く機会って、いろんな意味で子どもたちの役に立つと思うんです」

これから働くスタッフもまた、身近な大人の一人。たくさんの相談を受けるだろうし、その返答がのちに大きく進路を左右する可能性だってある。

あらためて、教育は責任の大きな仕事だなと思う。

とはいえ、学習指導については研修やサポート体制も用意されているため、未経験でも大丈夫とのこと。

川田さんは、どんな人が向いていると思いますか。

「僕は、0から1にする仕事を楽しめる人がいいなと思っていて。今回は塾を一からつくりあげていくので、生徒と関わる以外の時間にやるべき仕事もたくさんある」

塾に通う生徒を集めるために広報をしたり、教室のレイアウトや地域と関わるプログラムを考えたり。運営していくなかで見えた課題に、一つひとつ対処していくこともあるだろう。

協力隊としての任期の3年間で、公設塾の土台をつくっていくイメージだと思う。

「塾のスタッフ同士はもちろん、協議会のみなさんを交えた話し合いの機会も多いので、意見をまとめる力も必要かもしれません。大変なことも多いだろうけれど、自分で仕事をつくる楽しさがあると感じています」

「それに、町を横断した教育づくりを経験している人はまだ少ないから、ここで身につけたスキルは今後のキャリアにも価値がある。自分自身も大きく成長できる環境だと思いますよ」

そんな話をしながら15分ほど車を走らせ、日野郡の中心にある日野町役場に到着した。

「今から紹介したいのは、JK課と呼ばれるプロジェクトに参加している高校生で」

JK課…?

「『地元改革課』と『女子高校生』の頭文字を掛けていて(笑)。役場が主催している、高校生を主体としたまちづくりボランティアチームなんです」

2017年に発足したJK課には、男女問わずこれまでに約20人の高校生が参加。地元のイベントや行事への参加をはじめ、空き家を利用した鍋パーティーを企画運営するなど、地域でさまざまな活動をしてきた。

「JK課も、地元の大人との関わりを通じて学びを得てもらうことを大切にしている。目指すところは公設塾と同じだと感じています」

公設塾が目指す地域の姿を、すでに形にしつつあるJK課。塾でも連携したプログラムを企画することも考えているそう。

JK課の活動について教えてくれたのは、高校3年生の田中さん。

「JK課には、先輩に声をかけられて入りました。もともと部活以外にも何かやりたいなと思っていて。でもそれが何なのかはわからなくて、もやもやしていたんです」

役場の人から機会をもらってお祭りの売り子をしたり、シンポジウムで発表をしたりと、いろいろなことに挑戦したという。

「活動のなかで印象的だったのは、地元のカレー屋さんと新しいカレーを開発したこと。お店の人と企画から一緒に話し合いました」

「せっかくなら日野にある野菜を使いたい、と提案して。どんな食材があるのか調べてみたら、『あまぴー』という野菜が特産だということがわかって」

あまぴー?

「ピーマンなんですけど、パプリカ以上にすっごく甘くて食べやすいんですよ」

「あまぴーのほかにも、大山の近くで育てられている豚肉や、町内でつくっているしいたけなど、たくさんの食材を使いました」

「地元でこんな食材をつくっている人がいたんだなとびっくりして。ずっとここで暮らしてきたのに、日野のことをまったく知らなかったんだなって気がつきました」

完成したカレーは、レトルト加工をして商品化。地域のイベントに出店したほか、鳥取土産として販売できる店舗を探し、自分たちで営業も経験したそう。

「カレー屋さんや農家の人、お店で働く人など、この町で暮らしているたくさんの大人と関わって。前よりも地元のことが好きになった気がします」

「もともと食品関係の仕事に興味はあったんですが、お店の人から話を聞いたり、自分でも商品を企画したりするなかで、やっぱり食の道に進みたいという気持ちが強くなりました。今はパティシエを目指していて、いつか自分のお店を持てたらいいなと思っているんです」

地域の大人との活動が、自分の将来をあらためて考えるきっかけになった田中さん。

そんな話を隣で聞きながら、コーディネーターの川田さんはこんなふうに話していた。

「これからできる公設塾も、もやもやしていた自分の未来が、地元の人との関わりによってクリアになっていくような場所にしたい。塾を通じて、田中さんのように生き生きと高校生活を過ごす人が増えたらうれしいですね」


日野郡の3町それぞれに伺った今回の取材。記事で紹介した以外にも、たくさんの人にお話を聞きました。

みなさんが共通して口にしていたのは、「地元の大人と出会うなかで学んでほしい」という言葉。

公設塾で生まれるたくさんの出会いを通じて、高校生が少しずつ変わっていく。その変化や成長を、日々間近で感じられる仕事だと思います。

子どもたちから刺激をもらって、自分もさらに頑張ろうと思える。そんな毎日を過ごせるように感じました。

(2020/1/9 取材 鈴木花菜)

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