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ないならつくろう
知りたい!を詰め込んだ本

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

書店で本を選んでいるとき、会計を済ませたカップルが「本屋に来てみてよかったね。さっきまでの悩みは一体何だったんだろう」と、笑い合っていました。

ふたりに何があったのかは知らないけど、本を開くだけで気持ちが変わる感じは、ちょっとわかる気がします。

食卓の雰囲気まで感じる料理の本、自分の生まれる前の時代に流行ったもののこと、アーティストの世界観を凝縮した画集、毒ヘビ図鑑に、ジビエの教科書…。

自分には、知らないことがまだまだたくさんあるんだなと思うと、妙にワクワクしてしまう。そんなふうに、「こんな世界もあるよ」という広がりを示してくれるのが本の魅力なのかもしれません。

今回紹介するのは、本をつくる仕事。デザインやホビーなどの実用書を多く手掛ける、グラフィック社で働く編集者を募集します。



九段下の駅から歩いて5分ほど。少し急な坂を上っていく途中のビルに、グラフィック社はある。

エレベーターで4階に上がると、ワンフロアが丸ごとオフィスになっている。

受付で声をかけると、代表の長瀬さんが迎えてくれた。

グラフィック社は1963年に創業した、老舗出版社。創業者でもある前社長は、5年前に89歳で急逝するまで現役を貫いていたという。

「創業者はもともと写植屋(しゃしょくや)だったんです。昔は本をつくるのに、印字された文字を切り貼りする必要があって。写植屋は、その文字屋さんみたいな感じですね」

そんなバックグラウンドもあって、グラフィック社が創業期に手がけていたのはレタリング事典。

印刷やデザインに携わる人のための専門書として重宝され、売り上げを伸ばしてきた。

「そのうち、美術に詳しい編集者が入って美術書を出したり、建築を専門とする編集者が入って、建築の本ができたり。個性を持った編集者が加わるごとに、出版できる本のジャンルも広がってきたんです」

当初は単価の高い専門書が中心だったものの、20年ほど前からは2,000円前後の実用書を手がける機会も増えてきた。

「料理や人形、自転車にホビー。一般向けの本であっても、専門性の高さはずっと変わっていません。それぞれのジャンルに詳しい編集者が入ることで、幅が広がる。その連続です」

グラフィック社の本はどれも、編集者自身の強い興味や探究心から生まれる。

ただ、熱意があればどんな本でもつくれるかというと、そうではない。

「編集者のアイデアを、実際に本にするかどうかを決める会社の基準のひとつとして、『まだ世の中に“類書”がないこと』っていう条件があるんです」

類書がない、つまり、今まで誰もつくってこなかった本。

それって逆に、「売れないから誰もつくらなかった」という可能性も考えられますよね…?

「そういう場合もありますね。出版は本当に博打みたいなもので、やってみないとわからないんですよ。創業者は会議でよく『そんな本は売れないと思うけど、出していいよ』って言っていました(笑)」

「一冊やってみて結果がダメでも、今後の参考になる。会社に体力があるうちは、挑戦を続けていきたいですね」



グラフィック社で本をつくっている編集者は現在12人。編集者のワークスペースは高いパーテーションで仕切られていて、個室のように集中できる空間になっている。

その一番奥に座っているのが、部長の津田さん。

「私たちは自分のアイデアで一冊の本をつくるとき、企画、編集、広報まで全部一人でやっていて。誰かに指示された本をつくるとか、チームで一冊の本をつくるっていうことはないんです」

「だから私も部長と名乗っていますけど、主な仕事はほかの編集者と同じで、自分で企画した本をつくることです」

編集者たちは、それぞれ「料理」や「美術」のような得意分野がある。津田さんの場合は、印刷やグラフィックデザイン。

特殊印刷や紙加工の技術を紹介する『デザインのひきだし』も、津田さんの企画から生まれた本。

最新号には大きな紙見本の冊子が付録として挟まれている。付録にしては、かなり大きい。

「中身がはみ出しているから、なんだか“角煮まん”みたいって言われるんです(笑)。やっぱり紙や加工って、写真では質感が伝わらないから、できるだけ実際のサンプルをつけたいんですよね」

表紙のふわふわした素材は、なんとティッシュ。

10枚重ねにしたティッシュを留め合わせるために、ところどころパンチングした部分が水玉模様みたいに見えて、ちょっとかわいい。

「もともと緩衝材として流通していた素材なんですけど、今でも日本で3社だけ、生産を続けている会社があって。『デザインのひきだし』では新しい技術だけじゃなくて、成熟した昔からの産業をあらためて紹介することも多いんですよ」

津田さんが出版に関わり始めたのは、学生時代。編集プロダクションでのアルバイトをきっかけに、DTPに関する雑誌編集など、編集者としての経験を積んできた。

次第に、会社の意向で企画された本ではなく「自分が出したい本をつくりたい」という思いが強くなり、勤めていた会社を退職。

「フリーランスになるつもりだったけど、グラフィック社なら『自分の企画で本が出せる』って知人に誘われて。それはいい!と思ったんです」

グラフィック社の編集者の多くは、別のプロダクションなどからの転職組。

編集のノウハウがあって、自分の興味関心に対する熱量があれば、比較的自由に本がつくれる。そこはやはり、編集の経験者にとって何よりの魅力のようだ。

とはいえ書籍の編集経験がないけれど、やってみたいという人はいるはず。

「書籍編集の経験者が一番スムーズに仕事ができるとは思いますが、そうでなくても雑誌とか、図録とか、広報誌とか……。ただやっぱりWebとは仕組みが違うので、何か印刷物、紙モノでの冊子・雑誌・書籍編集経験はあったほうがいいと思います」

「一番大切なのは何かがすごく好きで、それを本にしてみたいっていう熱意ですね」

そんな津田さんが、以前から好きだったというバターのことをまとめたのが、その名も『バターの本』。

「私は旅先でも買って帰るくらいバターが好きで。日本で売られているバターを100種類以上紹介する本をつくりました。ちょっとここを見てください」

カバーをめくると、黄色い紙箱のような表紙、さらにめくると銀紙、さらに次のページはクリーム色のしっとりとした紙が現れて…。

なるほど。バターを開封していくような気分が味わえるんですね。

「こういう仕掛けができるのは、紙の本ならではですよね。情報だけならネットで手軽に入手できるけど、やっぱり本は、こういう世界観も含めて味わえるのがいいと思うんです」

掲載する内容だけでなく、装丁や手触りにもこだわった本づくり。その一冊を、どう届けるかを考えるのも、編集者の仕事。

本屋さんにポップを置いてもらったり、ワークショップを企画したり。それぞれの本に合わせて、広報のやり方を変えていく。

「『バターの本』のときは、ほぼ日さんと一緒に『くいしんぼうのバターまつり』っていうイベントをやりました。本に掲載されたバターを全部試食できて、購入もできる。お客さんもみんなバターが好きな人だからこっちも刺激をもらえて、おもしろかったですね」

編集作業をしながら、別の本のイベントを企画したり、さらに別の本の打ち合わせをしたり。多いときは4〜5つのプロジェクトが並行して進んでいくこともあるそう。

熱意があるほど、忙しくなりそうですね。

「それでも、うちの会社はわりと定時に帰っている人が多いです。やっぱり人の集中力って8時間以上は続かない。終電までダラダラするよりも、ちゃんと計画立てて進めて、休みも取るっていうほうがいいですよね」



編集者はそれぞれに、自分で立てた計画に沿って本づくりを進めていく。その出発点となる編集会議について、同じく編集者の山本さんに教えてもらった。

「編集会議は月に一回だけ。そこで企画が通らないと本づくりに取りかかれないから、プレゼン準備には結構時間をかけています」

会議で提案するのは、タイトル、読者ターゲット、予算、編集スケジュールなど、共通の16項目。

著者や関係者との間では事前に交渉を進め、予算など数値の目安は市場からデータを集めておく。

「自分でも迷っていることや根拠のない部分があると、プレゼンがしどろもどろになってしまう。逆に、つくりたい本のイメージがしっかりできていると、ちょっと変わったテーマでも説得力があるんですよね」

「とはいえ、最初はみんなやっぱりプレゼンに苦戦する。それは、みんな同じように経験してきたことだから、大丈夫。最初から結果を求めたりしません。新入社員ではじめての企画のときは特に、私たちが相談に乗ることが多いですね」

山本さんが入社したのは、グラフィック社が専門書だけでなく一般書もつくりだした直後のこと。

いろんな分野に特化した編集者たちのなかで、自分は何をつくろう。そんな試行錯誤の中で山本さんが手がけるようになったのは、昭和レトロなどのサブカルチャーのジャンルだった。

「もともと中国とか台湾とか、東アジアのカルチャーが好きでした。前の職場では、そういう分野で編集の仕事をしていて。そこから何か広げていけないかな、と思っていたときに、アジアって昭和の雰囲気とちょっと共通するところがあるなって気づいたんです」

昨年刊行したのは、昭和のドライブインを集めた本。

「ドライブインってわかります? 昔は国道沿いに、こういうお店がたくさんあったんですよ。個人営業の小さい食堂だったり、面白い自動販売機があったりして」

看板だけ集めたページもある。こうやってみると、おもしろいですね。

「この著者は本業でミュージシャンをされている方なんですけど、ライフワークとしてこういうドライブインを記録していて。10年以上かけて取材したデータを集めた本なので、掲載前に確認してみたらもう閉店していたっていうお店も結構ありました」

「だから掲載点数は予定より減っちゃったんですよ。だからこそやりたかった。昭和遺産みたいなものって、どんどんなくなっていくから。そういうのを記憶にとどめたくて」

グラフィック社では、本当に多種多様なジャンルの本が刊行されている。扱うテーマはそれぞれ違っても、編集者の強い興味や関心が本づくりのモチベーションになっていることは同じ。

もともと得意だと思っていた分野を突き詰めてもいいし、仕事をしていくうちに、新しいジャンルに目覚めていく人もいる。

ネタを絞り出すというよりも、素直に気になることが凝縮して一冊の本になっていく。そんな印象を受けました。

自立した人たちが、好きな本をつくる。気持ちのいい仕事場だなと思いました。

(2020/2/17 取材 高橋佑香子)

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