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足りないものを補うのではなく、今あるものを積極的に肯定する。ちいおりアライアンスは、そんな発想をベースとしてまちづくりに携わってきた会社だと思います。
これまで、徳島・祖谷(いや)の茅葺の古民家をはじめ、さまざまなまちのリソースを生かして滞在施設をつくり、地域の活性化に取り組んできました。
地元の人たちにとっては、あたりまえのもの、こと。
旅人として新鮮な眼差しを向ける人との出会いを通じて、まちへの誇りや愛着を育てていく。
今回は、ちいおりアライアンスが2年前から手がけている、京都・亀岡にある宿“「離れ」にのうみ”で働くスタッフを募集します。
正社員での採用は亀岡のみですが、希望があればほかの拠点での仕事も相談できるそうです。興味がわいたら、ぜひ読んでみてください。
話を聞くために訪ねたのは香川県。電車で瀬戸大橋を渡って、最初の駅がある宇多津というまち。
ここには、ちいおりアライアンスが運営する滞在施設と、本社機能を兼ねた事務所がある。
亀岡の拠点からは離れているけれど、会社の取り組みの全体像を知ってほしいからと、この宇多津に招いてもらった。
宇多津駅から20分ほど歩くと、古街という町家のような家々が並ぶ通りへ。その一角に、ちいおりアライアンスの運営する2棟の滞在施設と事務所がある。
事務所のある町家は、1階をカフェ、2階をゲストハウスとして使っている。
町家ならではの落ち着く空間で、まず話を聞いたのは代表の井澤さん。
ちいおりアライアンスの拠点は、徳島、香川、京都と、それぞれ少し離れた場所にある。同じ西日本のなかでも、どうしてその3箇所なんだろう。
「もともとは、顧問をしているアレックス・カーのご縁でつながった場所なんです。最初のきっかけは、東洋文化研究家である彼が、40年ほど前に祖谷にちいおりっていう茅葺の古民家を購入したことで」
祖谷は、日本三大秘境に数えられるほど、徳島のなかでも山深い地域。にもかかわらず、日本特有の体験するため、ちいおりには国内外からアレックス・カー氏の友人たちが訪れるようになっていた。
2011年には、自治体から依頼を受け、集落にあるほかの建物も宿として活用していくことに。
「うちは旅館業が本業ではなくて、地域活性のためにいろいろ支援していく立場なんです。ただ、最初に手がけた祖谷では事業の担い手がいなくて。それで、法人として施設の運営をするようになっていきました」
手探りしつつ、地域の住民と一緒に人を迎える体制を整えてきた。
そこでの実績と、アレックス氏の縁がつながって、この宇多津、亀岡と、それぞれの地域の古民家を利活用した3つの拠点が出来上がった。
「これらの地域は有名な観光地ではないので、滞在できる施設をつくりましょうっていうと、住民の方にはびっくりされますね。だからこそ、そこに泊まりたいと思ってもらえるような施設をつくって人を呼んで、地元の人の意識を変えていかないといけない」
施設ができて、宿泊客が訪れるようになってからも、地元の人たちはしばらく不思議な気持ちでいることが多いそう。
ここ宇多津でも、見知らぬ旅行者が歩いていると「どこから来たの? ここで何をするの?」「遠くからわざわざ、よく来たね」と声をかける人が多い。
宿泊客にとっては、それが温かい歓迎に感じられ、自然な関わりが生まれているのだそう。
「一昔前は、旅行っていうと時間のある限りいろんなものを見て回るような感じだったけど、私たちの施設のお客さんには、『退屈しに来てください』って思っているんです(笑)」
話を聞いていると、外から「よーい、どん!」という子どもの声が聞こえてきた。
玄関の前をパタパタと走り抜ける足音がしたかと思うと、またすぐに静かになる。そばの路地でかけっこをしている子がいるらしい。
何気ない情景にも思えるけど、普段暮らしている東京の住宅街では車の音にかき消されてしまったり、そもそも安全に遊べる路地が少なかったり。
この町の日常は、初めて訪れた私にとってはちょっとした非日常。退屈を楽しむ旅、いいかもしれない。
「私たちがこのような施設をやるっていうことに半信半疑だった方たちも、最近は『うちの空き家もなんとかできないか』って相談をくれるようになりました。それだけ、現場にいるスタッフが頑張って、信頼関係を築いてくれているんだなと思います」
普段は京都で暮らしながら仕事をしている井澤さん。施設運営に直接関われないことも多く、拠点ごとの担当者の主体性に委ねている部分も大きいという。
「亀岡は特に、スタッフ以外に立ち上げのときから市の担当者が親身になってくれて。今でも時々様子を見に来てくれるんです」
今回の募集で入る人の職場になる、亀岡の宿“「離れ」にのうみ”については、パンフレットを見ながら説明してもらうことに。
「亀岡は京都から電車で20分。嵐山を抜けたらすぐ保津峡っていう渓谷が見えてきます。この『にのうみ』というのは、漢字で書くと『丹の海』といって、霧深い朝の空に、日が差して雲海が赤く見えるっていう、この地域の情景を表した言葉なんです」
大きな母屋と離れからなる、古い日本家屋。
整えられた庭や格子窓から入る光などの味わいは残しつつ、家の中はベッドや洋間を中心とした、現代的な空間に。
京都市内よりさらに寒い亀岡でも、町屋で快適に過ごせるように工夫されている。
「古い建物を文化財のようにそのまま保存するのではなくて、いかに活用できる価値あるものにできるか。生きた施設であり続けるっていうことが大事だと思うんです」
オープンから1年。今回入る人と一緒に働くことになるのは、移住した男性スタッフと、アルバイトの女性2名。
「亀岡には農泊のアグリツーリズム協議会っていうのがあるんですけど、私たちもそのメンバーに入って地域と一緒にやっていこうとしているところです。現在働いているスタッフも、自分でまち歩きガイドツアーをやったり、里山体験をやったり、いろいろ企画しています」
「受け身でいると本当に施設の管理だけで終わってしまうけど、自分のやりたいことに挑戦できるチャンスも多い仕事だと思います。将来自分でゲストハウスをやりたいとか、カフェをやりたいっていう人は大歓迎です」
亀岡の宿に先駆けてスタートした、宇多津の拠点。ここで働く役員の村松さんの姿は、これから入る人の将来のイメージにも重なるかもしれない。
村松さんと会社との出会いは約10年前、テレビ番組で古民家再生に取り組むアレックス・カー氏の特集を観たことだった。
「アメリカの大学でインテリアデザインを学んでいたころから、日本のアイデンティティとか伝統を残して伝えていくっていうことに興味を持ち始めたんです。ここに入る前は地元の静岡で、指物(さしもの)っていう伝統的な工法の家具づくりを学んでいました」
伝統産業の世界に飛び込んで感じたのは、古くていいものは高級品として扱われすぎていて、暮らしのなかで身近に感じにくいというジレンマ。
「昔ながらのやり方を守るだけじゃなくて、必要とされる形にアレンジしてアウトプットする。古民家の活用には、そういう可能性がある。ゆくゆくは自分でもそういう仕事ができたらいいなと思って、ここへ来たんです」
はじめは祖谷で仕事をして、6年前からこの宇多津のまちへやってきた。
宇多津の仕事は、亀岡の施設とも共通するところがあるというので、少し紹介してもらう。
「出勤したらまずはメールや予約のチェックのような事務処理。そのあと11時になるとチェックアウトなので、清掃。基本的な清掃は近所の主婦の方とかにお願いしていますけど、僕たちもヘルプに入ったり、仕上げをしてお花を入れ替えたり」
「3時過ぎからはチェックインの対応です。古民家でちょっと特殊なところもあるので、少し丁寧に案内してまわります」
また、地域のための施設なので、季節ごとの地域行事などにも参加する。日々、住民とのかかわりの中、スタッフも住民の一人として自ら考えて動くことも大事。
自分の得意なことや興味を仕事につなげる余白もある。
カフェの壁には、村松さんが描いたペン画が飾ってある。絵やデザインが好きな村松さんは、施設のパンフレットやウェブサイトを制作することもある。
「あとは半年前から、木金土の午前中だけ、このスペースを地域の人のコミュニティカフェみたいな感じで開いているんです。今は常連のお客さんが多いですけど、いつもいろんな人が集まって話をしていく場になっています」
村松さんたちは、宇多津の人たちとの接点を増やしていくために、2階のスペースを利用してまちづくりについてのトークイベントを開催するなど、取り組みを進めてきた。
まずは知り合いから声をかけて、次第にそのまた知り合いや友達がやってくるようになって。
今までは「アレックス・カーに見出された地域」として見られることが多かったけれど、これからは現場を担うスタッフが場の「顔」として縁をつなぎ、次の展開をつくりだしていく。
「最近はここのイベントによく来てくれる方、自分もここで一緒にイベントをやりたいって声をかけてくれることもあります。何かを発信しながら、同じような趣味や思いを持った人たちと、ゆっくりと触れ合える場を求めているんだなっていう感触はあります」
つい先日は、東京のコーヒーショップのオーナーを招いて、ワークショップを開いたところ。
その人はもともとちいおりのスタッフで、アメリカのポートランドに暮らした経験から、日本でもコーヒースタンドやショップ、ギャラリーなどの場を通じてコミュニティをつくりたいと考えているのだそう。
「話を聞いてみて、それって僕らが目指すところに近いのかもしれないなと思いました。こういう地方は、都会ほど刺激に溢れているわけではないけど、趣味や文化的なことに触れられる拠点があれば、人とのつながりのなかで十分に豊かな暮らしを実現していける」
「ごく普通の暮らしぶりにこそ、日本の文化って宿っているんじゃないかと思うんです。そういうものが時間をかけて少しずつ見直されるようになっていったら、いろんな地域で、自分たちのまちを大切に思えるようになるのかなって思います」
特別じゃない、ありふれた日本の一日を味わう旅。
当たり前にあるものに目を向けて、外から来た人と一緒に共有して。そうすると、地域は柔らかく変化していくのかもしれません。
(2020/3/6 取材 高橋佑香子)