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いつか地元に戻って何かはじめたい。
そんな想いや夢を、どう叶えていくか。その道のりは人によってさまざまです。
やりたいこと、そのために必要なことが明確にわかっていたら、あまり迷わないかもしれません。とはいえきっと、そうでない人のほうが多い。今すでにお店や事業を営んでいる人だって、「最初からそれをやるとは思っていなかった」というケースも多いように感じます。
今回紹介する東京・有楽町の「micro FOOD&IDEA MARKET」は、まさにそういった人のための場だと思います。
近くに勤めるビジネスマン、全国各地でおいしものをつくる生産者、最先端テクノロジーの研究者など。あちこちから人とアイデアが集まり、交わりつながっていく。そんな“好奇心が交差する市場”です。
ここで「女将」として働く人を募集します。性別はもちろん、経験もスキルも問いません。
“いつか”に向けて、東京のど真ん中で経験を積みたい。直感的におもしろそうだと思った人は、続けて読んでみてください。
地下鉄有楽町駅の出口から、歩いて1分。
すぐに大きな「m」のロゴが見えてくる。
ランチタイムとあって、なかではスーツや制服に身を包んだ人たちが食事を楽しんでいる。取材まで少し時間があるので、ぼくもランチをいただくことに。
microはいくつかの機能をもっている空間。そのうちのひとつが食だ。
ここには全国から食材が集まる。輸送に使われているのは、なんと高速バス。東京と各地を結ぶ交通網に着目し、貨物の空きスペースを使って希少で新鮮な食材を仕入れる「産地直送あいのり便」という仕組みを構築している。
ほかにも、月替わりでいろんな地域のクラフトビールが楽しめるサーバーや、各地の食品や生活雑貨などを揃えたコーナーもある。生産者やつくり手を招いてイベントを開催することもあるという。
こうした全国的なつながりは、運営主体の株式会社インターローカルパートナーズ(以下、ILP)が築いてきたネットワークが基礎になっている。
ランチを食べ終わったところで、代表の山本さんに話を聞いた。
広島・尾道で古着屋からはじまり、居酒屋やゲストハウスなど十数店舗を経営している方、全国の遊休地で非日常を体験する“村”をつくっている方、香川・三豊でうどんづくりを通して地域を学ぶ宿を営む方など。多様な地域プロデューサーのもとに人材を送り込み、次世代の地域プロデューサーの卵が育つ環境をつくってきたILP。
microは、そうしたつながりを「ローカル」や「食」の分野だけにとどめず、最先端のテクノロジーやアート、社会課題など、さまざまな領域へと広げていくことを目指している。
ちょうどお店のなかでは、「ソーシャルグッドディスタンス展」と題した展示が開催されていた。
「いま、新しい生活様式が求められてるじゃないですか。でも『料理は黙々と食べてください』って強制されると、おもしろくないわけですよ。この展示は、いかにおもしろくソーシャルディスタンスを取り入れていけるかっていう実証実験をやっているんですね」
NOSIGNER代表の太刀川英輔さんが発起人となった「PANDAID」のプロジェクトで、2m間隔で貼られたマークを踏むと音が鳴るLIFECOINステッカーや、畳の幅を活かして自然と距離がとれる座席など、どれもユニーク。
また、「ソーシャルグッドディスタンス」を都市空間に取り入れるデザインコンペも開催。オンラインの公開審査を経て、入賞した作品はmicroや有楽町のまちなかで実装するのだそう。
「ここはただの飲食店ではなくて。社会実験の場であり、好奇心が交差する市場でありたい。小さくてもおもしろい、“microな”アイデアを実現できる場所にしていきたいんですよね」
とはいえ、理想だけでは場の運営は続けられない。料理やオペレーションなど、基礎を固めていく人たちの働きがあってこそ、人と人、人とアイデアをつなぐことができる。
「シェフはシェフ、店長は店長で、日々やることがある。だけど、そこを突き詰めていくと、どうしても飲食店のなかでの役割に特化していくと思うんですね」
「だからここのコンセプトを体現するような、間に立てる人が必要だなと思って。それがもともとの “女将”構想のはじまりだったんです」
女将というと、まず思い浮かぶのは旅館での仕事だと思う。
お客さんが快適に過ごせるよう、対面での接客や目に見えないところまで心を配る。その場の顔でありながら、黒子でもあるようなイメージがあります。
「“この人に聞けば、場所のことはなんでもわかるし、いろいろ紹介してもらえる”というような安心感がありますよね。旅館でおもてなしをするように、ここでは好奇心を刺激したり、人と人をつないだりするような役割が女将なんじゃないかなって」
3月からその役割を担ってきたのが、こちらの石原さん。
結婚を機に、8月末をめどにここを離れることになっているそう。
「本当は2〜3年いる予定だったんですけど、思いがけず短くなってしまって…(笑)」
いやあ、おめでたい理由ですもんね。
9月以降はどちらへ?
「長野県の諏訪に。ここへ来る前に住んでいた町なんです。戻って何をするかは、まだ決められていないのが正直なところです」
もともと建築一筋だった石原さん。そこから派生して、まちづくりやコミュニティへも興味が広がり、以前は下諏訪町にある「マスヤゲストハウス」で働いていた。
「毎日知らない職業の方がやってきて、いろんな生き方を知れるのはゲストハウスのおもしろさですよね。町のおいしいごはん屋さんとか、銭湯の話とかすると、ゲストさんの間で自然と広がっていくのも楽しい。自分の好きなものが派生していく喜びというか」
「町でこれやりたい!っていう話を小耳に挟んだら、できそうな人を紹介したり、移住したい!って人にシェアハウスのことを教えて実際に移住が決まったり。そこにフィーは生まれないけど、単純にその人が来てくれたらうれしいし、わたしも飲みに行けて仲よくなれるし。自分の周りを楽しくしたいっていうモチベーションが強くありましたね」
人と人をつないだり、場所やものとつないだり。ゲストハウスの仕事は、microの女将が目指す姿と重なる部分も多い。
ただmicroがあるのは都市のど真ん中だ。空間も広々としているぶん、ゲストハウスと比べてお客さんとの距離感が遠く、交流のきっかけも限られるような気がする。
そのギャップというか、難しさはありそうですね。
「そこはたしかに難しいところで。リピートしてくださる常連さんに『このコーヒーは…』って紹介するとか。ようやくできるようになってきた感じですね」
「あとはやっぱり、関わりのある地域の商品は紹介しやすいんですよ。諏訪の真澄さんという酒造がつくっている、煎り酒っていうものがあるんですけど」
日本酒に梅干しを加えて煮詰め、昆布や鰹節、干し椎茸の出汁を加えた伝統的な調味料で、江戸時代から醤油のような感覚で使われてきたという。
あるとき、リピートして2本目を買ってくれたお客さんと立ち話になった。
「わたしは冷しゃぶにつけるのが好きなんですって話したら、その方は『ゴボウのきんぴらにしたらすっごいおいしかったです』って教えてくださって。レシピ交換から、町の話に広がっていく。そういうつながりもおもしろいですよね」
本当は、イベントやワークショップをもっと企画していきたいという石原さん。
香川の素材を使ったうどんづくりや、京都のお酢を使った手巻き寿司のワークショップなども予定していたものの、新型コロナウィルスの影響で中止に。この数ヶ月は、お店を閉めている期間も長かった。
その間はどんなふうに過ごしていたんですか。
「ずーっとDIYしてました。机を間引くとコンクリートが目立つので、ハーブを植える鉢をつくったり、トマトを育てたり。飛沫防止のパネルも、ホームセンターから大きな塩ビ板を買って加工して。5月に朝だけ営業をはじめたときは、簡易カウンターもつくりました」
ここにきて、建築の経験が活かされてますね。
「そうなんですよ。ポップも書くし、SNSの発信もします。明確にこれが活かせるっていうスキルはあまりなくて、働くなかで必要に応じて身につく力も多いと思います」
きっと石原さん自身、想像とはまったく違った数ヶ月を過ごしてきていると思う。それでもなんだか楽しそう。
なぜそんなふうに前を向けているんだろう。
「たぶんわたし、飽き性なんです。よく言えばいろんなことに興味があるので、ルーティーンのない仕事が性に合っているというか」
「なんでも楽しめることは大事かもしれません。ここに関われば食も学べるし、チームで働く経験も積める。『microの女将です』って言ったら、あのお醤油屋さんにも、あの酒蔵さんにも行けるな…っていう下心もあって。まだまだ消化不良なこともありますけど、どれもいい経験になっていると思います」
働くモチベーションとして、「将来の自分のためです!」と胸を張って言うのは、少し気が引ける。けれどもここは、それを堂々と口にしていい環境みたいだ。「むしろそのほうが気持ちいい」と、代表の山本さんも話す。
雇用形態も、業務委託。就職するというよりは、力をつける修行期間として活用してほしい。
「どれだけソーシャルグッドなことを言っても、利益がないと続かないので」と山本さん。
「地域でこういうことやりたい!って想いだけで突っ走っても、資金繰りに失敗して畳んじゃうっていうのはよくある話で。経営も学びつつ、やりたいことをどう伸ばしていけるかっていうバランス感は、ここで養えるもののひとつかもね」
コロナ禍を通じて、自分のライフスタイルや働き方をあらためて見直している人は多いと思う。
そのなかで、選択肢のひとつに地方移住も出てくるだろうと山本さんは考えているそう。
「ライフスタイルと働き方がある程度決まってる人は、場所を選択するだけ。その一方で、どうしたらいいかさっぱりわからないけど、挑戦したい人もいるんじゃないかと思うんですよ。そういう人ほどおもしろかったりするもので」
「いつか地域で何かをはじめたくて、そのための経験値を積みたいっていう考え方で全然いいです。あとは好き嫌いない人がいいかな。『これ、わたしの仕事ですか?』って言ってたらもったいない。なんでも吸収できるような、ある意味アホになれる人がいいのかも」
隣で聞いていた石原さんにも、どんな人が向いていると思うか聞いてみる。
「その人自身が一番microを楽しめる人だといいなと思っていて。わたしもそうだったんですけど、ここに来てめっちゃワクワクする!みたいな感覚が大事だと思うんです。好奇心があって、興味の幅が広い人。そんな人にバトンを渡したいですね」
世の中の課題も、常識も、変化し続けていく。
いろんな人と出会い、さまざまな価値観やアイデアに触れる経験は、そんな正解のない時代を生きていく支えにきっとなると思います。
ちょっと変わった女将の修行に飛び込んでみてください。
(2020/6/23 取材 中川晃輔)