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自由なアイデアで
海を一望する棚田と
街をつなぐ

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

九州のお酒といえば焼酎のイメージが強いかもしれませんが、佐賀県では日本酒が親しまれているそうです。

江戸時代に米づくりが奨励されたので、おいしい日本酒をつくる老舗の酒蔵が多いからとのこと。

佐賀県小城(おぎ)市。

佐賀市のお隣のこの街にも、およそ600枚の棚田が広がる米どころ、江里山(えりやま)という地域があります。

『日本の棚田百選』にも選ばれた景観と、市街地から15分というアクセスのよさ。住みやすそうなエリアですが、過疎化が進んでいます。また高齢化に伴って、棚田を手放す人も増えてきているそう。

そこで市は、新しいかたちで農業に関わる人を増やそうという取り組みをはじめました。

今回は、地域おこし協力隊としてその仕組みづくりを担う“棚田げんきスタッフ”を募集します。

朝一番の飛行機にのって佐賀空港に向かう。空港から車を走らせることおよそ30分で、小城市内に到着した。

佐賀市のベッドタウンであるこの街は、スーパーや病院、公園などがそろっていて暮らしやすそうな雰囲気。少し走ると田んぼが広がっていて、のんびりした空気が流れている。

田んぼを通りすぎ、細い山道を15分ほど登っていくと、パッと視界がひらけた。

ここが江里山の棚田だ。

あたりはとても静かで、鳥の鳴き声が響いている。耳をすませば、遠くからお米を刈る機械の音も聞こえてきた。

「気持ちのいい場所でしょう」と声をかけてくれたのは、阿南(あなん)さん。

阿南さんは、佐賀県から江里山に派遣されている棚田コーディネーター。

以前は福岡県東峰村の棚田地区で、古民家を生かした宿づくりやキャンプ場のリニューアルなど、地域のプロデュースに携わっていた。

その知識と経験を買われて江里山にやってきたのが、今年4月のこと。

「夏前はコロナの影響で集落の集まりもほとんど中止になっちゃったんですけど、ようやく草刈りやお祭りの準備をしたりできるようになりました」

「今は実りの秋だから、収穫したばかりの無農薬野菜や果物など、食べきれないくらい頂いていますよ(笑)」

見どころがたくさんあるという江里山。まずは阿南さんの軽ワゴンで、江里山を案内してもらうことに。

安産祈願の江里山観音にお参りしたり、湧き水を飲んだり。棚田のそばで、真っ赤な彼岸花も咲いていた。

「あぜがきちんと手入れされているから、秋にはきれいな彼岸花が咲くんですよ」

家の蛇口が山の水源地に直接つながっていること。地元のみかん畑で50キロ級の大きなイノシシが捕獲されたこと。

都会暮らしの身には想像もつかないようなエピソードを聞かせてもらいながら、車は集落をめぐっていく。

「江里山には、ほかの棚田地域では見られないような景色もあって」と、山道を登りきったところで外に出る。

「見てください。街と海が一望できるんですよ」

「遠く有明海越しに見えるのは、長崎の普賢岳です。里山だけど街も海も見えて、ゆるやかにつながっていて開放感があるんですよね。全国いろんな棚田がありますけど、この景色は江里山ならではだと思います」

ひと通り案内してもらったところで、あらためて今回の募集について聞いてみる。

「背景にあるのは、稲作の深刻な人手不足です。佐賀県には6つ、日本棚田百選に選ばれた棚田があるんですが、なかでも江里山はいちばん先行きが見えない場所だと言われていて」

江里山に暮らす65人のうち、約40人が50歳以上。これまで地域を引っ張ってきた人たちがみな高齢になっていて、ほとんどの棚田では継ぎ手がいないそう。

今では600枚ある棚田のうち、約120枚が遊休農地になっている。

「なぜ棚田を守る必要があるのか。歴史があるから、きれいな景観だからという理由以上に、私たちの生活に深く関わっているんですよ」

山の棚田に降り注いだ雨は、栄養分を含みながら地下に浸透していき、ふもとの農地や有明海に広がって、食べ物や生き物を育んでくれる。

それに棚田が水を貯めこむことで、土砂崩れやふもとへの洪水も防いでいる。

「もし棚田が荒れてしまったら、不作や自然災害につながりかねない。平野も海もある小城市にとって、山の中腹にある江里山の果たす役割はとても大きいんです」

「江里山の棚田を未来に繋いでいくために、これからもっと多くの人が江里山の農業に関われる仕組みをつくっていきたくて。そのために、都市部と江里山を結ぶいろんな関わりしろを用意したいと思っています」

いわば、農業の関係人口を増やそうというのが今回の取り組みの目的。

そうすると、気になるのが今回の“棚田げんきスタッフ”の役割。

一体、どんな仕事をすることになるのでしょうか?

「まず、この地域を活性化するという大きな目標があって。それを実現するために、小城市や僕と一緒に新しい集落の形をつくっていくのが、今回募集する人の仕事です」

阿南さんはもともとスタートアップ企業の支援や、音楽や映画を扱う仕事など、さまざまな仕事をしていた方。

東峰村では持ち前の発想力を生かして、地元とともに山の中の古いキャンプ場をコテージに整備してイメージを刷新。

ワーケーションができる仕組みを整えたり、自然に親しむきっかけとなるような本を500冊選書して『森の中の図書館』をつくったり、棚田や村の人を伝えるパンフレットをつくったり。いろんな仕掛けを用意して、村への来訪者を増やしてきた。

そんな阿南さんの知識と経験は、きっと新しく入る人にとっても大きな助けになるはず。

「江里山を元気にしていくには、棚田と都市部を繋げて、人の輪をどんどん広げていくことが大切だと思うんです。そんな仕組みづくりを担う仕事だから“棚田げんきスタッフ”という名前をつけました」

SNSでの情報発信や、稲刈り体験、二拠点生活の提案。ちょっと考えただけでも、できることはいろいろとありそうですね。

「そうですね。どんな手段を使ってもいいんだけど、すぐに成果を出さなきゃって焦ってほしくはないんですよ」

「一年目は、ちゃんと集落の人たちに溶け込んでいくことが仕事。それくらいの気持ちでいてほしくて。地域の人と仲良くならないことには、何もできないから」

そう話していると、「阿南さーん」と呼ぶ声が聞こえてきた。稲刈りの休憩にやってきたご夫婦と出会い、自然と立ち話が始まる。

阿南さんが私を紹介してくれると「頑張ってね」と声をかけてもらった。

どんなアイデアも、地域の人の協力が不可欠。だからこそ、新しく入る人の仕事も、まずはこんなふうに挨拶から始まるのかもしれないな。

「江里山を巡って、人と話して、浮かんだアイデアを形にしていく。マニュアルが何もない仕事だから、楽しめる人にとっては自前の力を存分に発揮できると思います」

「正解があるわけではないので、こうしたら面白いんじゃないかってどんどんアイデアをブラッシュアップしていきたいです。わからないことがあれば僕に聞いてくれたらいい。前向きに、自分なりにトライしてみてほしいですね」

お昼を食べて、今度は市街地へ。

実は最近、江里山に関わる人が少しずつ増えている。その一人が赤松さん。

こども園のスタッフで、老舗料理店の女将、市議会議員でもある。3つの肩書きを持つとてもアクティブな方だ。

赤松さんは、昨年から江里山に関わっているそう。

「去年、九州大学が主催する地域政策デザインスクールに参加したんです。それから、棚田の関係人口を増やすにはどうしたらいいだろうって考えるようになって」

今は江里山の耕作放棄地を借りて、周りの大人や子どもたちと一緒にサツマイモや落花生を育てている。

「春から何度か畑に行って、種まきや収穫をしているんです。忙しくてなかなか畑に行けずにいたら、阿南さんたちが整備してくれていたので、申し訳なく思っているんですけど…(笑)」

「最近、中学生の男の子が、自分もやってみたいと連絡をくれて。なぜ?って聞いたら、環境問題に興味があるんだって教えてくれたんです。棚田には多面的機能があるから面白そうだって」

畑仕事は、生きた知識を吸収する機会にもなりますよね。

「そうなんです。学校の先生や親御さんも、生き生き活動してる彼の姿を喜んでくれて。彼みたいに環境に興味を持った子はもちろん、学校では学べないことを提供する場所として、もっと棚田を使っていけないかなと思っています」

子どものうちから棚田と繋がるきっかけをつくれれば、大人になっても江里山に関心を寄せてくれるかもしれない。

時間はかかるけれど、小さな取り組みを一つずつ重ねて、関係人口をつくっていく。赤松さんの話は、プロジェクトのヒントになりそうだ。

そんな赤松さんと一緒にさまざまな地域活動をしているのが、横尾さん。小城市にもキャンパスがある西九州大学に勤めている。

「もともと赤松さんとは友人だったんです。それで棚田に誘ってもらって、学生たちと一緒に何度か江里山に行っています。大学生も、種まきや収穫は新鮮みたいですね」

「今回募集するスタッフは、江里山にがっつり関わることになると思うんですけど、やっぱり街にもう一つ居場所があるといいんじゃないかなと思っていて。だから私たちのところにも、いつでも遊びにきてほしいんですよね」

江里山にはすぐに住める空き物件がないため、スタッフは市街地で家を借りることになる。

横尾さんは今、街中のゲストハウス兼カフェを間借りしていて、よくお店のお手伝いもしているとのこと。

気軽に会いにいけそうだし、きっと心強い相談相手になってくれると思う。

「地域を面白くしようって頑張っている方々もよく遊びに来てくれるんです。夜遅くまで話がつきない人たちなので、ぜひ紹介したいですね」

すっかり日が暮れてから江里山に戻る。お会いしたのは区長の江里口さん。

「さっきまで仕事やったんです。夜遅くになってしまって、すみません」

今日は畑仕事ですか?

「いやいや、街に働きに出ていたんです。農業だけじゃ食べていけないので、65歳まではみんな勤めに出ながら、土日に百姓をやっているんですよね。ときどき観光客が来るのを見て、自分も旅行に行きたいなー!って思います」

外からやってくるスタッフの募集は、集落にとってもはじめてのこと。

阿南さんが活動の土壌をつくってくれているけど、「一体何が始まるんだろう?」と気になっている人も多いそう。

「年寄りが多いけん、気が合う人がおるといいんですけど…。そこはちょっと心配です。でも若い世代もいるので、まずはそこから仲良くなっていって、一緒に何かやろうって信頼関係ができたら、いちばんの成功やと思います」

「百姓するには大変やけど、のんびり過ごすぶんにはいいところですから。そうそう、帰りにうちの前に寄っていって。きれいな夜景が見られるけん」

便利なベッドタウンにぽつんとある、のどかな里山。

課題も少なくないけれど、そのぶん自分の手で地域を活性化していける余白があるように感じます。

この地域で何をどう描いていこう。前向きにチャレンジする人を待っています。

(2020/10/08 取材 遠藤真利奈)
※撮影時にはマスクを外していただいております。

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