求人 NEW

ないものは、ない
その美しさを際立たせる
日々の小さな工夫

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

思い切って部屋の大掃除をしてみると、実は今まで、本当に必要なものと、あまり必要じゃないものが混在する空間で暮らしていたことに気がつきます。

余計なものを手放した清々しい余白にこそ、新しい発想が生まれる。

島根県の沖合に浮かぶ離島、海士町(あまちょう)にある「Entô」は、そんな空っぽの状態に戻って、自然や人との関わりを体験するための場所です。

もともとは「マリンポートホテル海士」という名前で親しまれてきましたが、今年7月、ジオパークの拠点や客室、レストランなどを兼ね備えた複合施設へと生まれ変わります。

今回は、その空間の魅力を磨くクリンネス部門の担当者を募集します。

部屋の清掃など日々のルーティーンワークだけでなく、花を飾ったり、アメニティを考えたり。サービスのあり方を根本から一緒に考えていくような役割。

合わせて、サービス・企画や調理などをメインで担当する人も募集します。ここから第二創業期を一緒に盛り上げていける人を探しています。



東京からおよそ半日かけて辿り着いた隠岐中ノ島。海士町の玄関口、菱浦港のそばに現在のマリンポートホテルはある。

十数年前から、地域づくりにおいてさまざまな先進事例を示してきた海士町。

近年は、高校魅力化プロジェクトや、和食を学ぶ1年間のプログラム「島食の寺子屋」、地域通貨「ハーン」のような先進的な取り組みも生まれている。

島外からの移住者が多く、Entôの代表である青山さんもそのひとり。

「もともと島唯一のホテルということもあって、リニューアルについては、長い時間をかけて話し合いを重ねてきました。これから目指すところは、ホテルらしくないホテル。ホテルというよりも、泊まれるジオパークの拠点施設みたいな感じになる予定です」

リニューアルで増築される建物の一階には、ジオパークのインフォメーションセンターができ、化石や鉱石といった展示物をはじめとして、ジオパークのテーマである“人と地球の営み”を体感できる空間になっていく予定。

地球の歴史を知ることで、目の前の自然がより大きなものに感じられるはず。

さらにこのインフォメーションセンターでは、島を楽しむための観光情報も提供していく。

「普通ホテルのチェックインって、住所や名前を書いて終わりだと思うんですが、ここではホテルというより“島への”チェックインみたいな感じで、希望に応じてオリエンテーションをして、島での過ごし方を一緒に考えていける時間を持ちたいなと思っているんです」

「もともとこの海士町の観光って、絶景よりも、人との交流のなかに価値がある。過剰なおもてなしよりも、島を丸ごと楽しむために必要な情報やつながりを提供することが大切だと思っています」

農業や漁業の生産者さんも含めて、人が営む日常のなかにこそ、見どころがある。だから、観光に来た人を島の人とうまくつないであげることが必要になってくる。

ホテルのスタッフは、コーディネーターのような意識でいろんな提案ができるとよさそう。

新卒からこの島に移住し、長く観光協会で働いてきた青山さん。島の人と日々関わるなかで、気付かされることが多くあったという。

「本当に“ないものは、ない”っていう環境で仕事をしていくので、足りないことを課題と捉えると難しく感じてしまう。むしろ『こうあるべきだ』という概念を外して、『観光業ってこうじゃないはずだ』っていう仮説を実践する場にしてほしくて」

「ホテルに就職するというよりは、島一体となって観光業に取り組むっていう意識のほうが近いかな。僕たちの仕事は、一次産業も含めた共同体のなかにあるので、島の人や一緒に働く人に対する敬意があれば、いろんなことに挑戦していけると思います」



一次産業も含めた共同体。

その言葉の意味がよくわかるのが、このコロナ禍ではじまった「手しごとマルシェ」という取り組み。

新しいホテルで中心的な役割を担って働く笠原さんにも話を聞かせてもらった。

現在はフロントを中心に担当している笠原さん。昨年まではレストランの担当だったこともあって、島の食材の仕入れにも携わってきた。

「シェフだけじゃなくてほかのスタッフも一緒に、旬の食材を一番おいしく食べてもらおうと、島の生産者さんとの連携を進めてきました。でも去年の春に、コロナでしばらくレストランが営業できなくなってしまったんです」

「だけど、ホテルの都合だけで仕入れを止めたり再開させたりはできません。なんとか食材を活かす方法を考えようと、社内から上がったアイデアが、手しごとマルシェです」

手しごとマルシェというのは、隠岐牛や岩牡蠣、野菜やお米など、ホテルのレストランで提供するような島の食材を箱いっぱいに詰めて、全国に発送する通信販売。

生ものの取り扱いは時間との勝負でもあるので、梱包や発送はスタッフみんなで協力して行なっているという。

もともと海士町は、2300人ほどの小さな島。

観光への打撃は、島の一次産業にも大きく影響する。

もし一次産業が衰退すれば、島の田園風景が失われ、観光業も危うくなってしまう。観光と一次産業が、お互いを支え合う形で成り立っているというわけだ。

自分自身も住民の一人として暮らす環境だからこそ、敬意や興味を持って人と関わっていくことは、難しくないはず。

もともと首都圏で金融の仕事をしていた笠原さん。生活環境の変化はどうでしたか。

「ここにはコンビニや大型スーパーがないし、本土から入ってくる野菜は値段が高いです。その代わり近所の人との物々交換が当たり前にあって。畑を手伝ったりして、おすそ分けをもらうんです」

「以前、会社勤めをしていたときは、休みの日に一日中寝ていることもよくあったんですが、今はそういう地域の人との関わりが楽しくて。仕事と、暮らしと、友人と、そういうコミュニティが全部ひとつになっている感じです」

普段から暮らしのなかで体感しながら、食材のことを知っていく。

旬の食べもの、とっておきの食べ方、あるいは釣りの上手なご近所さんのこと。

自分が好きな「いつもの島の時間」を、お客さんに体験してもらうにはどんなコンテンツやサービスが必要か。

いろんな視点からアイデアを集めて実行していけるように、リニューアル後のEntôでは、スタッフの役割の垣根をなくしていこうとしている。特に調理スタッフが所属するレストランは、一般的には縦割りも珍しくないなかで、みんなが提案をしやすい関係で仕事を進めていけるはず。



できることから少しずつ、小さな工夫を重ねていく。

今までは客室の清掃を主に担当していた平尾さんが最近取り組み始めたのは、ホテル内に花を飾ること。

離島である海士町では、生花を仕入れるのに大きなコストがかかる。そのため、これまではホテルのなかに花を飾るのが難しかった。

そのかわりに畑や庭先に咲いている野の花を使って何かできないかという、青山さんの提案を受けて、少しずつ工夫をはじめたところ。

「ここで花の準備をしているときに、お客さまが通りかかって『頑張ってるねー』って声をかけてくれて。うれしくて、それに応えたいなと思っています。私一人ではできないから、新しく入った人もみんなで一緒にできたらいいなと思いますね」

最近は清掃だけでなく、朝食時間帯にレストランでの接客などのシフトに入ることもあるという平尾さん。自分がきれいにした部屋で滞在を楽しむ人たちの声が聞こえるようになって、さらにやりがいを感じているという。

この島で生まれ育った平尾さんは子どものころ、海に潜ってサザエやアワビを採って食べていたらしい。

採って、石で叩いて殻を破り、口に運ぶ。身振り手振りを交えて話してくれた。

地元の人にとっては当たり前のこと。なにげなく野花を飾るように、ホテルの空間で表現できる方法はないだろうか。

もしかしたら、客室を整える仕事のなかにもその可能性はあるのかもしれない。



取材からおよそ1年。

新棟の建物も完成し、リニューアルオープンを控えた海士町から、代表の青山さんに、あらためて話を聞かせてもらう。

「今までパースでは何十回も見てきたけど、やっぱりいいものができたなと思います。特にデラックスとジュニアスイートの3部屋は、テラスが寝室の横についているから、海に面して広く景色をながめられるんですよ」

かなり開放的な雰囲気ですね。

「この新棟は特に、“何もない”ことの価値を提供するための空間なので、極力ノイズを落としたい。備品も最低限で、テレビも常置はしていません。アメニティの一つひとつも環境に配慮したものを選びたくて、今ペットボトルを使わない方法を模索しているところです」

「引き算で美しさを演出する空間なので、クリンネスはその土台をつくる役割。ルーティーンワークというよりは、しつらえを維持するための工夫を続けていってほしいなと思っているんです」

平尾さんが生花で部屋を彩ってきたように、空間の演出やアメニティの改善など、提案していく余白はまだまだありそう。

さらに、この仕事で特徴的なのは、通常業者に依頼する窓清掃を自分たちで行うということ。

「やっぱりこの建物の魅力のひとつは、大きな窓。いつもきれいな状態を維持しておきたいんですが、頻繁に本土から業者を呼ぶわけにいかなくて。近々、僕とクリンネス部門の担当者が資格を取って、自分たちで掃除できるようにする予定です」

「そこまでやるのかって驚かれるかもしれないですけど、そういう部分を自分たちでやってでも、この魅力を伝えたいっていう、意気込みに共感してくれる人が必要なんです」

離島という土地柄、普通はアウトソーシングしてしまうところも、すべて自分たちの手でつくり上げていく必要がある。

だからこそ、自分の仕事の手触りをたしかめながら働いていけるはず。

「ない」という体験が旅人にとって印象的なものになるように、しつらえでもてなす仕事だと思います。

(2020/7/21 取材、11/13 追加取材、2021/5/29 再編集 高橋佑香子)
※撮影時はマスクを外していただきました。

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