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ないものはない、だから
見つかるもの
いざ、島の新しいホテルへ

島根県の沖合に浮かぶ離島、海士町までは、フェリーで3時間以上かかる。

境港をでて、窓の外の陸地が見えなくなってゆくと、「ああ、遠くへ来ているな…」という実感が湧いてくる。

昨日まで追われていた仕事、SNS、あるいは将来の心配ごとなど。さっきまで自分の頭をいっぱいにしていた日常のあれこれを切り離して、別の世界に行くような。

決して便利とは言えないこの島。だからこそ人とのつながりや、自然の豊かさを感じ、自分と向き合うことができる。

かつて隠岐に流された後鳥羽上皇も、ここでさまざまな文化を生み出したと言われています。

島流しは当時、死罪に次ぐ重い刑だったようですが、たしかに、権力や地位に守られた都を離れることは、一人の人間として生まれ変わるような体験だったのかもしれません。

この離島で、今、新しい観光のプロジェクトがはじまろうとしています。

今回募集するのは、海士町に新しくできる「Entô」という施設のスタッフ。もともとは「マリンポートホテル海士」という名前のホテルでしたが、来年の夏に大幅リニューアル。ジオパークの拠点と、客室、レストランなどを兼ね備えた複合施設へと生まれ変わります。

今回は便宜上、ホテルのサービスや調理スタッフの募集と書いておきますが、従来のイメージとはきっと異なる働き方になるはず。2021年7月のグランドオープンに向けて、第二創業期を一緒に盛り上げていける人を探しています。



東京からおよそ半日かけて辿り着いた隠岐中ノ島。海士町の玄関口、菱浦港のそばに現在のマリンポートホテルはある。

十数年前から、地域づくりにおいてさまざまな先進事例を示してきた海士町。

古くは後鳥羽上皇のころから培われてきた歴史や文化がある。近年は、高校魅力化プロジェクトや、和食を学ぶ1年間のプログラム「島食の寺子屋」、地域通貨「ハーン」のような先進的な取り組みも生まれている。

島外からの移住者が多く、Entôの代表である青山さんもそのひとり。

「もともと島唯一のホテルということもあって、リニューアルについては、長い時間をかけて話し合いを重ねてきました。これから目指すところは、ホテルらしくないホテル。ホテルというよりも、泊まれるジオパークの拠点施設みたいな感じになる予定です」

リニューアルで増築される建物の一階には、ジオパークのインフォメーションセンターができ、化石や鉱石といった展示物をはじめとして、人の営み、というジオパークのテーマを体感できる展示がされる予定。

地球の歴史を知ることで、目の前の自然がより大きなものに感じられるはず。

さらにこのインフォメーションセンターでは、島を楽しむための観光情報も提供していく。

「普通ホテルのチェックインって、住所や名前を書いて終わりだと思うんですが、ここではホテルというより“島への”チェックインみたいな感じで、希望に応じてオリエンテーションをして、島での過ごし方を一緒に考えていける時間を持ちたいなと思っているんです」

「もともとこの海士町の観光って、絶景よりも、人との交流のなかに価値がある。過剰なおもてなしよりも、島を丸ごと楽しむために必要な情報やつながりを提供することが大切だと思っています」

農業や漁業の生産者さんも含めて、人が営む日常のなかにこそ、見どころがある。だから、観光に来た人を島の人とうまくつないであげることが必要になってくる。

ホテルのスタッフは、コーディネーターのような意識でいろんな提案ができるとよさそう。

新卒からこの島に移住し、長く観光協会で働いてきた青山さん。島の人と日々関わるなかで、気付かされることが多くあったという。

「本当に“ないものは、ない”っていう環境で仕事をしていくので、足りないことを課題と捉えると難しく感じてしまう。むしろ『こうあるべきだ』という概念を外して、『観光業ってこうじゃないはずだ』っていう仮説を実践する場にしてほしくて」

「ホテルに就職するというよりは、島一体となって観光業に取り組むっていう意識のほうが近いかな。僕たちの仕事は、一次産業も含めた共同体のなかにあるので、島の人や一緒に働く人に対する敬意があれば、いろんなことに挑戦していけると思います」



一次産業も含めた共同体。

その言葉の意味がよくわかるのが、このコロナ禍ではじまった「手しごとマルシェ」という取り組み。

新しいホテルで中心的な役割を担って働く笠原さんにも話を聞かせてもらった。

現在はフロントを中心に担当している笠原さん。昨年まではレストランの担当だったこともあって、島の食材の仕入れにも携わってきた。

「シェフだけじゃなくてほかのスタッフも一緒に、旬の食材を一番おいしく食べてもらおうと、島の生産者さんとの連携を進めてきました。でも今年の春に、コロナでしばらくレストランが営業できなくなってしまったんです」

「だけど、ホテルの都合だけで仕入れを止めたり再開させたりはできません。なんとか食材を活かす方法を考えようと、社内から上がったアイデアが、手しごとマルシェです」

手しごとマルシェというのは、隠岐牛や岩牡蠣、野菜やお米など、ホテルのレストランで提供するような島の食材を箱いっぱいに詰めて、全国に発送する通信販売。

生ものの取り扱いは時間との勝負でもあるので、梱包や発送はスタッフみんなで協力して行なっているという。

もともと海士町は、2,300人ほどの小さな島。

観光への打撃は、島の一次産業にも大きく影響する。

もし一次産業が衰退すれば、島の田園風景が失われ、観光業も危うくなってしまう。観光と一次産業が、お互いを支え合う形で成り立っているというわけだ。

自分自身も住民の一人として暮らす環境だからこそ、敬意や興味を持って人と関わっていくことは、難しくないはず。

もともと首都圏で金融の仕事をしていた笠原さん。生活環境の変化はどうでしたか。

「ここにはコンビニや大型スーパーがないし、本土から入ってくる野菜は値段が高いです。その代わり近所の人との物々交換が当たり前にあって。畑を手伝ったりして、おすそ分けをもらうんです」

「以前、会社勤めをしていたときは、休みの日に一日中寝ていることもよくあったんですが、今はそういう地域の人との関わりが楽しくて。仕事と、暮らしと、友人と、そういうコミュニティが全部ひとつになっている感じです」

普段から暮らしのなかで体感しながら、食材のことを知っていく。

旬の食べもの、とっておきの食べ方、あるいは釣りの上手なご近所さんのこと。

自分が好きな「いつもの島の時間」を、お客さんに体験してもらうにはどんなコンテンツやサービスが必要か。

いろんな視点からアイデアを集めて実行していけるように、リニューアル後の「Entô」では、スタッフの役割の垣根をなくしていこうとしている。特に調理スタッフが所属するレストランは、一般的には縦割りも珍しくないなかで、みんなが提案をしやすい関係で仕事を進めていけるはず。



できることから少しずつ、小さな工夫を重ねていく。

今までは客室の清掃を主に担当していた平尾さんが最近取り組み始めたのは、ホテル内に花を飾ること。

離島である海士町では、生花を仕入れるのに大きなコストがかかる。そのため、これまではホテルのなかに花を飾るのが難しかった。

そのかわりに畑や庭先に咲いている野の花を使って何かできないかという、青山さんの提案を受けて、少しずつ工夫をはじめたところ。

「ここで花の準備をしているときに、お客さまが通りかかって『頑張ってるねー』って声をかけてくれて。うれしくて、それに応えたいなと思っています。私一人ではできないから、新しく入った人もみんなで一緒にできたらいいなと思いますね」

この島で生まれ育った平尾さん。子どものころ、海に潜ってサザエやアワビを採って食べていたらしい。

採って、石で叩いて殻を破り、口に運ぶ。身振り手振りを交えて話してくれた。

地元の人にとっては当たり前のこと。なにげなく野花を飾るように、ホテルの空間で表現できる方法はないだろうか。

もしかしたら、客室を整える仕事の中にもその可能性はあるのかもしれない。



最後に紹介するのは、海士町の「元祖マルチワーカー」こと、本田さん。

ホテルのフロントで制服姿を見せてくれた本田さん。実はほかにも、いろんな顔を持っている。

取材で宿泊したB&Bで朝ごはんを出してくれたのも本田さんだったし、別の日は港の売店でレジを打っていた。

いつから、そういう働き方をしているんですか?

「最初は10年くらい前にワーキングホリデーで島に来て、2ヶ月くらいビーチで管理人をしていました。そのうちに、観光協会の事務局長さんが『お前は面白そうだから、もうちょっと働いてみるか?』って、僕の仕事を探し始めて。別に頼んでなかったんですけど…(笑)」

ところが、一次産業を中心とした島の仕事は、通年で人を雇うのが難しい。

そこで提案されたのは、季節によっていろんな現場を順番に手伝いに行くという働き方。

春は岩牡蠣の出荷、夏はホテル、冬は干しナマコ…。

「常に忙しい現場を回るので体はきつかったですけど、楽しかったですよ。おかげで島の端っこまで交友関係が広がりました」

「僕はこれを『マルチワーカー』と称してやっていましたけど、この島の人たちって、たとえば民宿が畳屋さんをやっていたり、レストランが忙しいときは、観光協会の人がエプロン巻いて手伝ってくれたり。もともと縦割りじゃないんですよ」

自分と他人の仕事の垣根が低いだけでなく、草刈りのような地域の「仕事」も同じくらいの重さで扱われることが多いという。

子育てなど家族の「仕事」に対しても理解が深いのだとか。

一人では生きていけない環境だからこそ、当たり前に助け合うしくみができているのかもしれない。

「小さい島だから、困っていると誰かが声をかけてくれる。僕なんか、何にも困ってないときも『大丈夫?』って言われたりして(笑)。この島が衰退せずにいられるのは、お互いを身近に感じあえる関係性があるからなんじゃないかと思います」



自然と隣り合わせの環境だから、一人ではできないこともきっとある。

自然の大きさや、人との関わりのなかで、あらためて自分の弱さや、人の役に立つよろこびも見えてくるはず。

観光で訪れるお客さんも、働く人たちも。いろんな発見ができる新しい拠点。

来年の夏が待ち遠しいです。

(2020/7/21 取材、11/13 追加取材 高橋佑香子)
※撮影時はマスクを外していただきました。

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