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自分の手でものをつくる時間って、なんであんなに楽しいんだろう。色とりどりの素材を選び取り、慎重にハサミを動かし、糊が乾く間にいろんな角度から眺めて、仕上がりを確かめる。そんな想像をしていたら、今もまた何かつくりたくなってきました。
いろんなものが、安く、早く手に入る時代ですが、自分で何かをつくる豊かな時間は、失いたくない。
普段は恥ずかしがり屋の人でも、何かの作業をしながらであれば、自然に話せる。工作や手芸には、そんな効果もある気がする。
そんな手づくりの楽しさを届ける仕事を紹介します。
さくらほりきりは東京・浅草橋で40年以上、手づくりキットの企画販売を続ける会社。今回は、ここで商品カタログの制作を行う営業企画スタッフと、店舗の運営を担当する営業企画スタッフを募集します。
さくらほりきりの製品は、誰でも簡単につくりやすいことにこだわっていて、高齢者でも手軽に楽しめる趣味として福祉の分野でも活用されています。
必ずしも手芸が得意でなくても大丈夫。ものづくりから生まれる喜びを広げていく仕事です。
浅草橋駅、東口。
以前訪ねた西口方面はビーズや皮革などものづくりのパーツを扱うお店が多かった。今回はじめて降り立つ東口は、ひな人形や五月人形など、日本の伝統的な人形のお店がたくさん。
老舗の多いこの街。さくらほりきりの直営店は駅からほど近い路地に面した、5階建てのビルの1階と2階にある。
お店のなかには、手づくりキットや完成見本のほか、手染めの和紙がずらりと並ぶコーナーも。
布地をふっくらと貼り合わせた壁飾りは、2021年の干支の図案。商品を見ていると、手芸好きの母や祖母のことを思い出し、ほっこりした気持ちでエレベーターに乗り込む。
ビルの3階から上がオフィスになっていて、5階の応接室で、代表の堀切さんが迎えてくれた。
「さくらほりきりは、今から44年前に私の父がはじめた会社です。私の実家はここから1kmほど離れた場所にあるんですが、当時はそこで父の兄が経営する“箱屋”をやっていました」
メーカーの下請けとして、鞄や靴などの商品を入れる「箱」をつくっていたものの、オイルショックの紙不足で、過剰包装を廃止する動きが高まり会社は窮地に。
新しい仕事を求めて試行錯誤するなかで生まれたのが、完成した箱を売るのではなく、箱を完成させる楽しみを届けようというアイデア。
お土産物として開発中だった和紙の小箱を、手づくりキットとして販売してみたところ好評で、その後布地を使った壁飾りや実用小物などバリエーションを増やしてきた。
「ちょうどバブルの前くらいに売り上げが大きく伸びました。当時は30〜40代の主婦の方が主な顧客層だったんですが、景気の悪化とともに若い人の生活に余暇がなくなって。次第に年齢層が高くなっていったんです」
「最近は介護福祉の領域からのニーズが増えて、高齢者の方でも手軽に楽しめるような商品を中心に企画を進めています」
オリジナル製品で特に大切にしているのは、つくりやすさ。
初心者や、手先の器用さに苦手意識のある人でも、「できた!」という喜びを体験できるよう、部材の組み合わせや説明書の書き方まで細かく工夫を重ねている。
どの製品も、ハサミやノリなど使い慣れた道具だけでつくれるし、図案や素材のバリエーションも豊富。悩まず手を動かしはじめることができる。
体を動かすのが難しい高齢者でも、机の上で気軽に楽しめると評判なのだそう。
そんなふうに経営難の状態から新事業を立ち上げ、形にしてきた堀切さんのお父さんは、職人気質で厳しい人だった。
「子どものころから『お前に社長は向いてない』と言われていて、継ぐことは考えていなかったんです。学校を出てからは、別の会社で営業職として働いていました」
「その会社での営業成績は良かったんですが、だんだん自分が営業成績のためにものを売っているんじゃないかと疑問を感じるようになって。あらためて家業を見直したときに、ものを売って終わりじゃなくて、その先につくる喜びが広がっていくっていいなと思ったんです」
当時はすでに代替わりしていたさくらほりきりに再就職。一従業員として仕事を覚えていった。
そんな経緯もあってか、取材中も、堀切さんとスタッフはとてもフラットな関係に見えた。
堀切さんと2年後に入社したというのが、企画課長の吉田さん。
現在吉田さんが課長を務めるこの企画課では、商品企画と営業企画の2部門があり、簡単に言うと、つくる仕事と伝える仕事を担っている。
今回募集するDM制作や店舗業務の担当は、どちらも伝える仕事。新しい顧客層をどう増やしていくかが、直近の課題だという。
「今は口コミで高齢の方にご好評をいただいていますが、和紙を使った手芸という意味では、たとえば海外の方にも興味を持ってもらえるんじゃないかと思っていて。いろいろな可能性を伸ばしていきたいです」
一人の趣味として楽しむだけでなく、作業を通じて仲を深めるツールとして、会社や地域のコミュニティづくりにも活用できそう。
もともとのターゲット以外にも目を向けていけるといいですね。
「この仕事をしていると、お客さま本人だけじゃなくて、そのご家族から『おばあちゃんに生きがいを届けてくれてありがとう』っていう声をいただくこともあるんです。社会貢献というと大げさですけど、真摯にいいものを提供することで、人の生き甲斐をつくっていける仕事だって胸を張っていきたいですね」
ものづくりを楽しむ人だけでなく、その様子をうれしく見守る人もいる。売ったその先によろこびが繋がっていく。
そんなつながりや広がりまで想像しながら伝えていくことは、経験やスキルよりも大切なことだと思う。
自社の商品を「これ、いいんですよ!」とうれしそうに紹介してくれたのが、DM制作などを担当している末永さん。
「以前ワークショップをひらいたとき、60代くらいのご夫婦がふたりで万華鏡づくりに参加してくださって。『こんなふうに熱中してものをつくったのは子どものころ以来で楽しかった。夫婦でこんな時間を過ごせると思わなかった』って言ってくださって」
「うちの商品は、生活必需品ではないけど、それ以上に人の人生を豊かにするものなんだなって、うれしくなりました。だから私、うちの商品がめちゃくちゃ好きなんですよ」
自分自身が楽しさを実感できるというのは、伝える仕事の出発点になる大切なこと。
完成品の魅力だけでなく、つくる過程の楽しさが伝わるように。
末永さんがDMやカタログをつくるときは、デザイナーと何度も打ち合わせを重ねる。商品の構成や写真の撮り方を考え、コピーや記事を書いていくのも末永さんの仕事。
最近こだわったのは、新しく出た「天然木のさくらあーと」という商品の紹介記事。
女性のお客さんが多いなか、もう少し男性でも興味を持って取り組めるものがないかと、開発された。
薄く加工した天然木のシートを貼り絵のようにして図柄を完成させる商品で、図案にはお城や富士山などのモチーフを取り入れた。
「ご夫婦で楽しむイメージを伝えるために、カタログには男性の手のカットを入れたくて。いつも紙面をつくってくれるデザイナーさんにモデルをお願いして写真を撮ったんです」
商品紹介の見出しには“大切な方へ「趣味」を贈る”という、優しいコメントも添えてある。
「毎月スケジュールが決まっているなか、複数の紙面をつくるのは大変なんですが、うれしい声をいただくこともあって。お客さまから頻繁にお手紙をいただくんです」
完成した作品の写真とともに、「ありがとう」と感謝の言葉を添えた手紙がたくさん届くようになり、なんとか双方向のコミュニケーションができないかと、ニュースレターを創刊。
さくらほりきりのファン通信のような読み物として、カタログに同封している。
「福祉施設からは『みんなで回覧して読んでいます』っていう声をもらうこともあります。通信販売なので、直接顔をあわせることはできないんですが、そういう関わりはこの仕事ならではですね」
お客さんの声がモチベーションになったり、次の企画のヒントになったり。直接ユーザーの声に触れることができる店舗スタッフは、どんな役割を担うことになるだろう。
直営店のマネジメントを担当する清本さんにも話を聞かせてもらった。
「新しく店舗スタッフとして入る方には、現場での気づきを企画に生かすためのコミュニケーションを意識してもらえるといいですね。実は僕も、長く営業などの部署で働いていて、店舗には先月着任したばかりで。まだまだこれからなので、一緒に努力していけたらと思います」
お店と事務所は同じ建物のなかにあるものの、今まではそれぞれで分業することが多く、お互いの意見や気づきを交換する機会が少なかったという。
店舗やカタログ通販、さらにはECも含めて、お客さんからの声や気づきを共有すれば、商品企画や届け方の幅も広がっていく。
納得感を持って長く働くスタッフが多い会社だからこそ、新しい視点で疑問やアイデアを話してみることが、仕事をよりよくするきっかけにもなるはず。
その中で、お店はお客さんと直接話ができる貴重な機会。お店だからできることもありそうですね。
「以前は、お店でワークショップをしていました。商品のサンプルを見たり、つくり方について直接質問したりできるのも、お店があることの強みですね」
「まずはお客さまの目線に立って考えられることが大切だと思います。最近はコロナのこともあって、気持ちが沈んでおられるお客さまも多いように感じます。だからこそ、より丁寧に明るく接していけるといいですよね」
ものづくりが好きな人なら、きっとお客さんに共感しながら話ができるし、サンプルづくりなどでも活躍できそう。
だけど、一番大切なことは、人が楽しそうに手を動かす姿を、自分のことのようにうれしく感じられる感性なんじゃないかと思う。
大切な人に、元気でいてねと願うような気持ちで、伝える仕事に向き合えるはずです。
(2020/12/11 取材 高橋佑香子)
※撮影時はマスクをはずしていただきました。