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新しい建物がどんどんできていく街で、会社に勤め、仕事終わりや休日に話題のお店へ遊びにいく。
そんな都会ならではの楽しさがあるように、田舎にもその場所だからできる暮らしや魅力がたくさんあります。
暮らしや仕事を、自分がやりたいと思ったことで成り立たせる。
秋田県湯沢市で、そんなプロジェクトに挑戦している人がいます。
黒漆喰の蔵をリノベーションしたカフェ「momotose」や、古民家を改修した別荘「草木ももとせ」を手掛ける、沓澤(くつざわ)さんです。
人が入らなくなってしまった里山を開拓し、牛を飼い、森を育て、薪を得る。一連の作業に携わりながら、自然とともに暮らしていきます。

今回は、沓澤さんとともにプロジェクトを動かしていくパートナーを募集します。主な仕事は、林業や酪農、畑の作業です。
汗をかきながら、実現したい暮らしを一緒につくっていく人を求めています。
(取材はオンラインで行いました。現地の写真は提供いただいたものを使用しています)
秋田県の最南端に位置する湯沢市。
日本屈指の豪雪地帯で、取材の数週間前には記録的な大雪に見舞われたというニュースを見かけた。
「今年の雪はすごかったです。お年寄りの方でも、こんなのは初めてだって言っていましたよ」
話してくれたのは、沓澤さん。

湯沢市の隣の横手市出身で、進学を機に県外へ。今から17年前に帰郷した。
地元に戻ってからは、地元の工務店を紹介する住宅雑誌やフリーペーパーをつくっていたそう。
ある日、古い蔵の売却先を探しているという話を耳にした沓澤さん。
「120年以上の歴史がある、黒漆喰の蔵なんですね。昔の人が、いい素材を使って丁寧につくったから、今に残っている。ここで壊して瓦礫にしてしまうのはもったいないなと。後世の人にこの価値を伝えるためにも、残さなきゃって思ったんです」
そこで沓澤さんは、蔵を活かして地元産の食事を楽しめるカフェをはじめようと考えた。
「私がまずやってみてちゃんと利益が出せたら、ほかの人も『じゃあ自分も、古いものや地元の食材を活かしてみようかな』って思うかもしれない。もともと料理をするのは好きだったので、経験はなかったけどやってみようと決めました」
こうしてできたカフェ「momotose」では、ランチを中心に、地元の旬の食材を使ったメニューを月替わりで提供している。
カフェスペースの椅子やテーブル、ソファは家具商品の見本にもなっていて、気に入ったら注文することもできるんだとか。

カフェでは、給湯と暖房の燃料をすべて薪でまかなっている。
2年前からは、近所の畑を借りて農業も始めた。
「お店で出すものも、より自分たちでつくれたらいいなと思いまして。耕さず、無農薬で、多品種を育てているので、ある程度じゃまにならない雑草であればそのままにしておくし、畑の中に木もあるんです」
「今はまだ水はけが悪いので、瓜や豆などを育てています。今年は畑を改良して、夏野菜みたいに彩りのいいものや、紫キャベツや糸うりみたいなちょっと変わったものも育てていきたいですね」
2018年には、古民家を改修した別荘「草木ももとせ」の運営もスタートするなど、まずはやってみるという姿勢で、未経験から多くの挑戦をしてきた沓澤さん。
「たくさんの本を読んで調べて、知見のある人を頼りながら進めている」とのこと。口で言うのは簡単だけど、実行するには相当の勇気がいるはず。
新しいことを始めるとき、不安になることはありませんか?
「もちろんありますよ。夜中に目が覚めることもあります。けど、不安だからやらないのかって言われたら『いや、やろう』って(笑)。やりたい気持ちのほうが勝つんです。だって、失敗しても命までとられるわけではないですし、何かを台無しにするわけでもない。後々、やればよかったってぐずぐずする自分は嫌なので」
「あと、自然のなかに身を置いているので、頭が煮詰まらないんだと思います。植物の葉の裏側や葉脈って、すごい緻密ですよね。散歩や農作業をしながらそういうのを見ていると、『まあ、どうでもいいじゃない』と思えてくるんですよ」
見渡せば豊かな森林が広がる湯沢市。そんな環境で生活していたら、悩みや不安も小さく感じるのかもしれない。

地元の食材、古民家、廃材利用。すべて「ここにある資源をどうしたらもっと今の暮らしに活かせるんだろう」という考えから始めたこと。
新しく始める里山開拓のプロジェクトも、ある山への想いがきっかけなんだとか。
「植えられた木が放置されている山があるんです。見た目はうっそうとしているんですが、昔は、山菜やキノコを採りに地元の人が訪れる、豊かな森だったそうで」
「昔は生活に密接して人を支えてきた山なのに、今は活用されず、雑木林となってしまっていることがすごくもったいないなって」
色々と調べていくうちに、自分たちで木を伐り、山地で酪農を始めようと思い至った。
「チェーンソーなどを使って密に生えている木を伐採し、牛に葉を食べてもらう。じわじわエリアを広げていくと、切ったところに別の草が生えてきて、また牛が食べる。それを繰り返していくと、最終的には野芝しか生えてこなくなって、放牧酪農が可能な牧草地になるんです」
下草を牛に食べてもらうことで、重機を入れるぶんの環境負荷がなくなる。牛も本来の食料である野草を食べながら広々と暮らせるので、健康でストレスフリーに育つんだそう。

「伐った木は薪にして使えるし、雌牛からは搾乳もできる。3年くらい育てた雄牛は、食肉として食べさせていただく予定です。まずは数年かけて、お店で使っている燃料や乳製品を自家生産していきたいと思っています」
生産量が増えてきたら、販売もしていきたい。
「最初は大変ですが、草地ができてしまえば管理の時間も短くできます。牛は山で自由に育ってくれるし、空いた時間で、ちょっとずついろんな仕事をすることもできると思うんです」
「エリアを広げていくうちに、自分もやりたいっていう人が集まって、牧場団地みたいになったらいいなって、放牧酪農について教えてもらっている方とも話していて。林業や酪農だけじゃなく、何か別のことを始めてもいい。それぞれがつくりたいものをつくって、地域に供給できるようなまちになればいいなと考えています」
まずは、沓澤さんや今回募集する人がロールモデルになることが大切。それを見て、同じような暮らしを望む人が地域に増えていくかもしれない。
「私が今目指しているような暮らしって、田舎だからこそできると思うんです。生業も生活も、自分がやりたいと思ったことで成り立っている。こういう暮らしが私は豊かだと思うし、それを望む人が選択できる仕組みづくりをしたいなと思っています」
今回募集する人は、まさにその仕組みづくりから一緒に関わっていくことになる。まずどんなことから始めるんでしょう?
「土地の確保や資金調達などを私が進めているので、それ以外の酪農と林業の実働部分を、まずは一緒にやっていけたらと思っています。酪農については、岩手県で山地酪農をおこなっている、なかほら牧場さんのもとに半年間ほど研修に行く予定です」
「研修で山をどう開拓しているのか学びつつ、森林組合のOBさんにも指導をお願いしたいと思っています。あとは、カフェで出す野菜の畑仕事も一緒にやってもらうかな」
大前提として、とても体力の必要な仕事だと思う。そのうえで、暮らしの仕組みづくりをしたい、という沓澤さんの想いに共感できる人だといい。
「スキルや経験は求めていません。いろいろな人の協力のもと、私も学ばせてもらいながら一緒にやっていきたいと思っています。地味な作業もたくさんあるから、信じているものがないとやり通すのは大変。考え方に根がある人が合う気がします」
今回の募集は、地域おこし協力隊の制度を利用している。
3年の任期があるものの、その後沓澤さんのもとで継続的にプロジェクトに関わっていくこともできるし、自分で独立することも可能とのこと。
現在協力隊として活動している豊留(とよどめ)さんにも話を聞いた。今回のプロジェクトにもサポート役として携わっているため、これから加わる人にとって仕事とプライベートの両方で頼れる存在だと思う。

「大学時代は獣医学を専攻していて、畜産の現場に入ることがあったんです。せまい牛舎で牛を育てて、規定の乳量に満たない牛にはホルモン剤を打つ。その様子を間近で見るうちに、効率性ばかりが求められている世界だなって感じるようになって」
「牛だけじゃなくて人間も同じだと思うんですよ。人口4万人ほどの湯沢市だったら、都会とは違う暮らしの仕組みがつくれるんじゃないかなと思ったんです」
2年前から、協力隊として実践型インターンシップや創業支援に携わっている豊留さん。
沓澤さんと関わると、その行動力や自分を信じる力に驚かされることが多いそう。
東京出身だという豊留さんに、ここでの暮らしについても聞いてみる。
「とにかく雪は大変なので、そこは覚悟したほうがいいかなと思います。1日で120cmくらい積もるときもあるので、そういう日は雪かきを何度もしなきゃいけなくて。かなり力がいるので、最近はずっと筋肉痛ですね。肩が痛い、腰が痛いって毎日言ってます」

良い面も悪い面も、両方ひっくるめて自然と共存する地域。支え合わなければ生きていけない環境だからこそ、地域の人との結びつきも強いという。
「この前、屋根にのぼって雪をおろしていたら『そんなシャベルの持ち方じゃ駄目だよ』って近所の人がわらわら集まってきてくれて。終わったあとは『またな!』って颯爽と帰っていくっていう(笑)。いい意味でお節介な人たちが多いので、暮らしの心配はしすぎなくても大丈夫だと思います」
森の中で木を伐り、牛や食べ物を自分で育て、自然からエネルギーを得る。
昔話に出てきそうな生活だけど、今の世の中でも実現できることを沓澤さんが教えてくれました。
このまちならではの暮らしを選ぶには、社会の仕組みから離れるぶん勇気がいるかもしれません。それでも一歩踏み出してみたら、すっと視界がひらける人もきっと多いはずです。
(2021/1/22 オンライン取材 鈴木花菜)


