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「ここはいつまでもお客さまの記憶に残るような、酒蔵ならではの特別な体験ができるオーベルジュにしていけたらと思うんです」
そう話すのは、富久千代酒造の共同代表で、オーベルジュ事業を担当する飯盛理絵さん。
「オーベルジュ」は、一言でいえば宿泊できるレストランのこと。小規模なところが多く、お客さんに寄り添ったサービスも魅力のひとつです。
今回紹介するのは、佐賀を代表する銘酒「鍋島」の蔵元・富久千代酒造がこの春オープンする「酒蔵オーベルジュ」での仕事。
伝統的なまち並みが残る酒蔵通り沿いのオーベルジュで、フロントとレストランの運営に関わるサービススタッフを募集します。
お酒はもちろん、地産の食や作家の器、築200年を超える旧商家の空間など、細部までこだわりの詰まった場所になっているようです。
経験は必ずしも問いません。酒づくりという文化を活かしてお客さんをもてなしたい。そんな想いをともにできる人を求めています。
博多駅から、特急と各駅の電車を乗り継いで1時間と少し。
肥前浜駅の改札を出てまっすぐ歩いていくと、5分ほどで「酒蔵通り」に行き当たる。
古くからの建物がずらりと立ち並び、なんだかタイムスリップしたみたい。
道に沿って流れる水路からは、心地よいせせらぎが聞こえてくる。
酒蔵オーベルジュの「御宿 富久千代」とそのレストラン「草庵 鍋島」があるのも、この酒蔵通り。
行きがけに代表の飯盛理絵さんと落ち合い、さっそく中を案内していただくことに。
玄関をくぐってまず目に入るのが、年月を重ねた形跡が残るカウンター。ちょっと変わった形をしている。
「これはもともと、酒づくりの道具だったんですよ。上から圧縮して、下からお酒を搾り出すようなつくりになっていて」
へえ、こんなに大きな道具があるんですね。
「あそこに並べてあるのは、酒樽の敷石です。あまり見慣れないかもしれませんが、酒づくりにはいろんな道具が関わっているんです」
玄関を入って左手の小上がりをあがると、その奥が宿泊スペースになっている。
一組最大4名の一棟貸し。「遠くから訪れるお客さまに、ゆっくり過ごしていただきたくて」と理絵さん。
足を踏み入れて、まず天井の開放感に驚いた。
1780年代に建てられたこの建物は、「くど造り」という佐賀の平野部でよく見られる伝統的な形式の民家。200年以上前の味わいを生かしつつ、現代的なデザインや工夫を重ねて生まれ変わった。
たとえば茅葺屋根は、宿泊業の許可を得るにはそのまま天井にすることができない。ただ、壁で覆い尽くしてはつまらない。ガラスをはめ込むことで、防災基準を満たしつつ茅葺きの雰囲気を味わえるようにしてある。
そもそも、どうして酒蔵が旧商家をオーベルジュに…?
「ここは江戸時代から続く宿場町です。ただ、最近は建物の老朽化が進んでいて。このまま管理が行き届かないと、いずれ取り壊しになってしまう物件がたくさんあります」
歴史あるまち並みを守っていきたいと、この旧商家を所有したのが6年前。以後、オーベルジュのオープンに向けて少しずつ準備してきた。
「私は、子どもたちが生まれ育ったこの土地を誇れるようなまちにしていきたくて。そのためにも、このオーベルジュを成功させなければと思っているんです」
テーマは『食・酒・器・空間』。
九州を中心に厳選された食材を活かした料理と、それを引き立てる作家の器、この空間。傍らにはもちろん、日本酒を。
「鍋島」のラインナップは20以上あり、季節ごとの料理に合わせて提案することができるとか。
「宿泊のお客さまには、普段は非公開の酒蔵もご案内します。ここでしかできない特別な体験を通して、お客さまの心に長く残るような場にしていきたいですね」
今回募集するのは、フロントとレストランの運営に携わるサービススタッフ。
フロントでは、お客さんの対応や日々の予約・会計の管理、施設のメンテナンスなどが主な仕事。またレストランでは、調理の補助、料理やお酒のサーブはもちろん、器や空間にいたるまで、食事の時間を楽しんでもらうためのおもてなしが仕事になる。
はじめは両方の仕事を経験しつつ、適性や希望に応じてどちらの担当になるか決めていきたいとのこと。
スタッフとして、どんな人に来てほしいですか?
「お客さまやほかのスタッフと、気持ちのよい関係を築ける方でしょうか。知識や経験はなくてもいいんです。働きながら慣れていけばいいので。人間性が何より大切ですね」
できれば、英会話や調理・接客の経験がある方だとなおうれしい、とのこと。
もともと「鍋島」は世界的にファンが多く、コロナ禍以前は各国から来訪があった。ふたたびインバウンドが増加したときのことを見据えて、受け入れ態勢は整えておきたいという。
さらに富久千代酒造では、「御宿 富久千代」を含め、すでに4軒の旧商家物件を所有しているそう。
「もう1軒も、オーベルジュとして少しずつ準備を進めていて。あと2軒の用途はまだ構想中です。酒造りのまちとして知られるこの地で、酒蔵発のさまざまな取り組みで地域貢献をしていけたらと考えていて」
最初から同じ目線に立つことはできないかもしれないけど、オーベルジュ単体で運営していくというよりは、まちのこともあわせて考えられるような人がいいかもしれない。ここの運営が軌道に乗れば、ゆくゆくは新しい拠点の企画から関わっていけるような余地もあると思う。
続いて、理絵さんから「お料理に関してはとても安心しているんですよ」と笑顔で紹介されたのが、料理長の西村さん。
福岡にある料理の専門学校を卒業した後、東京の三ツ星和食店や福岡の星付きフレンチレストランで修行。27歳の若さで料理長に抜擢された。
鹿島へ引っ越したのは、昨年の夏。地縁もなければ仕入先の当てもない、ゼロからのスタートだった。
「お客さまに、九州のおいしい食材を器やお酒とともに楽しんでいただきたくて。最初の数か月間はひたすら、食材の生産者さんや器の作家さん、それを運んでくださっている方など、いろいろな方に会いに行きました」
週に3、4回は高速道路で山を越え、長崎の魚屋さんに買い付けに行ったり。天草の朝のせりに間に合うように、夜中の2時くらいに出発したこともあった。
理絵さんの夫で共同代表の飯盛直喜さんも、西村さんの熱意に惹かれていろんなところへ連れていってくれたそう。夜中の2時に出発だなんて、なかなかハードに聞こえるけれど。西村さんは、にこにこと楽しそうに話す。
「以前は、食材選びで現場を回れる機会はほぼなかったので。つくり手さんと話すことは、料理人としてとてもいい経験になりました。せっかくカウンターだけのお店なので、食材一つひとつのストーリーを話しながら、料理を召し上がっていただきたいですね」
西村さんは、どんな人と働きたいですか?
「明るい方ですね。大規模な一流ホテルと違って、ここはお客さまとの距離が近い。だから、お客さまに愛される人じゃないと。知識や技術はなくてもいいんです。ここで覚えていけばいいので」
未経験でもいい。人がよければ。理絵さんも同じように話していた。
レストランはカウンター6席のみ、宿泊も4名の貸し切りのみという場所だからこそ、「人」がなにより大事だという。
「なんていうか…。まじめに、ヘラヘラしている人がいいですね(笑)」
相手の様子を敏感に感じとって、ときには笑いを誘ったり、場の空気を和ませたり。そんな西村さんのふるまいを見ていると、「お客さまに愛される」の意味がなんとなく、わかるような気がする。
「もちろん仕事に関しては、大変ですよ。お酒を含めると1食3万円近くいただくなか、そのレベルの料理やサービスを求める方々が、毎日入れかわり立ちかわりお見えになる。その期待に応えられるような目配り、気配りができなければいけないので」
宿泊に先駆け、レストランは3月12日にオープン。ディナーのみの予約も受け付けていて、すでに1ヶ月先までほとんど満席の状態が続いているそう。
「新しい環境で新しいことをやっているのは僕も同じです。大変なことも共有しながら、みんなで話し合って、改善していければと思います」
そんなレストランのサービススタッフに最近加わったのが、松坂さん。
なんと取材の1週間前に引っ越してきたばかりだそう。
青森出身で、これまでは東京や香川で調理や接客の仕事をしてきた松坂さん。新しい環境に身を置きつつ、接客を続けていきたいと考えていた。
「そんなときに日本仕事百貨の求人を見て。ああ、好きなことしかない!と思ったんです。お酒も器も、接客も好き。これは応募するしかないと」
ただ、お酒や器は好きなものの、応募時点では人に説明できるほどの知識はなかった。移住に抵抗はなかったものの、それだけが不安だったという。
「だから面接で『知識はこれから身につけていけばいいから、安心して』と言ってもらえたのが、本当に心強くて」
その言葉に背中を押されるように、鹿島の地にやってきた。
「来てみたら、地元の方がほんっとうに優しいんですよ!」
道で出会う人は小さな子どもから大人まで、みんなが「こんにちは!」と挨拶してくれる。郵便屋さんや宅配業者さんは名前をすぐに覚えてくれて、こちらの不在で再配達をお願いしているのに「すみませんね〜、何度も」と笑顔でやってきてくれる。鹿島は、そんなまち。
これまでのところ、働いてみてどうですか?
「想像していた何十倍も上のサービスをしていかなければいけないな、と思いました。焦りも大きいですが、シェフの対応に学ぶことも多くて。引き上げてもらえるありがたい環境だと思います」
何十倍も上のサービス。どんなことからそう感じたのだろう。
「お客さまは、お料理や器、お酒など多方面に興味をお持ちの方ばかり。かつ、深い質問をされることが多いので、まだまだ勉強しなければと感じます。見方を変えれば、働きつつ知識や技術を身につけていけるのは、楽しみでもありますね」
だから新しく来る人も、「興味の幅が広い人」がいいかもしれないと松坂さんは言う。それから、「チームで動ける人」。
「お水の出し方や料理を出すタイミング、お客さまへの目配りまで、毎日みなで『今日はこれがうまくいかなかったから、次はこうしてみよう』と意見交換していく環境なので。自分なりに気づいて、提案できる方がいいかなと思います」
富久千代酒造は、ほかの酒蔵と協力して米づくりに取り組んだり、酒蔵ツーリズムを手がけたりと、まちづくりにも積極的に挑戦している。
まずは目の前のお客さんに対して、「特別な体験」の基盤を築いていくことが大切。将来的には、米や野菜、器やお茶など、さまざまなつくり手をめぐるツアーを企画してもおもしろそう。
「酒蔵オーベルジュ」には、今はまだ見えていないさまざまな可能性があると思います。
(2021/3/16 取材 渡邉雅子)