求人 NEW

朝から晩まで
3年間
魚のことだけ考えたなら

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

魚を獲る、運ぶ、伝える、食べる。

水産業と一口に言っても、さまざまなシーンがあります。どの部分を突き詰めるかによって、漁師になるのか、流通や卸の業者になるのか、料理人になるのか、道が決まってくる。

一方で課題だと言われていることを見てみると、ライフスタイルの変化にともなう“魚離れ”や海洋環境の変容、畜肉の輸入増による消費の減少など、いろんな要素が複雑に絡み合っている。

もしかすると、今の水産業に必要なのは、横断的な知識や経験をもったゼネラリストなのかもしれません。

今回紹介する山口県阿武町(あぶちょう)の地域おこし協力隊は、まさにその入り口に立つような仕事です。

ある日は朝から船に乗り込み、漁師とともに海へ。ある日は市場や飲食店を回って、売り方や伝え方を考える。県内外の高級店を訪ねることも。さらには、道の駅の隣にできるキャンプフィールドのお客さんや地域の人たち向けに、料理教室を開くことになるかもしれない。

まず3年間のミッションは、このまちの海と人と魚にどっぷりと浸かり、誰よりも詳しくなること。その経験をもって、漁業者に利益をきちんと還元し、環境的にも経済的にも持続可能な状態をつくっていくことが目標です。

水産に関する知識や経験は、あれば活かせると思いますが、なくても大丈夫。魚や海に魅せられた人たちとともに、『魚漬けの毎日』がここからはじまります。

 

山口宇部空港から、レンタカーを借りて1時間半ほど。

県を縦断するように北へ車を走らせ、日本海に行きあたる。そこから海岸沿いにもう少し東に行くと、「阿武町」の表示が見えてきた。

窓の外に見える海の、春を超えて夏を感じさせるような青さが気持ちいい。

協力隊の支援をしている一般社団法人STAGEの事務所を訪ねると、代表の田口壽洋さんが迎えてくれた。

大学時代から海に潜って魚突きをしていた田口さん。

このあたりには20年ほど前からよく来ていたそう。

「200箇所以上潜ってきたなかで、この辺がいいなと思って住み着いているんです。向こうに見える島まで1kmちょっと。そこにマグロが入ってきます。泳げる範囲にマグロが回ってくるところって、なかなかないんですよ」

大陸と日本列島に挟まれた日本海には、水深200m以下に「日本海固有水」という栄養をたっぷりと含んだ海水が存在する。

さらに阿武町のあたりは、火山活動による起伏に富んだ地形が海底まで続いており、山からはきれいな川が何本も海へと流れ込んでいる。海の生きものたちにとって、まさにゆりかごのような、恵まれた土地なのだそう。

そんな環境を活かした阿武町の漁業は定置網漁が主流。「追いかける」漁業に対して「待つ」漁業である定置網漁は、燃料代を抑えられるうえ、過剰に魚を獲りすぎることもない、環境負荷の少ない持続的な漁法のひとつだという。

漁港からほど近い道の駅は、「安くておいしい魚が買える」と評判になり、開店前から行列ができるほどの人気を誇ってきた。

ここまでの話だと、あまり問題は感じないのですが…今回、協力隊を募集するのはなぜでしょう?

「魚の価値をちゃんと理解して、適切なところへ、適正な価格でつなげられる人が足りていないんです。たとえば道の駅で400円とかで売られているホウボウも、ちゃんと神経じめして都市部のデパ地下に出せば数千円になると思っていて」

あ、そんなに変わってしまうんですか。

「でも、その豊かさに地元の漁師は気づきにくい。安いのが当たり前になっているので。だからこそ、魚をよく知る第三者が適切にマッチングして、漁師さんたちの収入をいかに増やしていけるかっていうことが大事になってくると思っています」

今回募集する協力隊は、その役割を担うことになる。

たとえば、どんなことからはじめられるでしょうか。

「まずは船に乗ることだと思います。はじめの1ヶ月は仕事を覚えるためにもしっかり入らせてもらって、その後は動きやすいようにスポットで入るとか。自分で触らないことには、魚のこともわからないし、漁師たちとも関係を築けないですから」

同じ魚種でも、季節や海の状態によって質が変わる。まずは目利きの力を鍛えて、自分自身が魚の価値を見極められるようになること。

それに、漁師との信頼関係が深まれば、質の高い魚を回してもらいやすくなる。

「そのうえで、水揚げされた魚はどう処理されて、どこでどんなふうに売られているのか。流通・販売のほうまで見ることも必要になってきます。世の中でどんな食べ方が流行っているのか、調べたり、店に行ってみたり。自分で捌いて調理して食べてみるとか」

SNSを通じて発信したり、道の駅で対面販売をしたり、ポップや阿武町の“お魚カタログ”をつくったり。思い切って高級店に飛び込むのもありかもしれない。

また、道の駅のそばに海を見渡すキャンプフィールドが秋にオープン予定で、併設するビジターセンター内にはテストキッチンもつくられる。ここでキャンプに来たお客さんや地元の人向けの魚の捌き方講座や料理教室を企画してもいい。

「一次産業は手に職の世界なので。3年間没頭して取り組めば、その先なんでもできると思うんです。あとは覚悟次第ですよね。ライフワークが魚、みたいな感じじゃないと厳しいと思う。ぼくも休みの日はずっと、魚突きのことしか考えていないです(笑)」

役割の幅は広いし、ハードルも高い感じがするものの、経験は不問とのこと。四六時中魚のことを考える気概さえあれば、知識はいくらでも吸収できる。

 

今回のプロジェクトに外部の専門家として関わっている、ウエカツ水産代表の上田勝彦さんにもオンラインで話を聞いた。

「昔から田口社長とは懇意にしとって。阿武町でこういうことを一緒にやりませんか?ってお誘いをもらったのが2年前かな。ぼくも山陰の生まれだし、うちのウエカツ水産という会社も、7つある事業のうち重要な部分として、水産を軸とした地域振興を掲げてますので。それで協力することになったんです」

もともと水産庁の官僚だった上田さん。6年前に独立し、現在は魚食文化の魅力を伝えるために全国を飛び回っていて、阿武町には毎月2泊3日訪れているという。

さまざまなまちを見てきたなかで、上田さんは阿武町の水産業のどんなところにポテンシャルを感じていますか。

「おもしろいのは、この小さなまちのなかに3社の定置網があって、それぞれ持っている漁場も、獲った魚を処理するスタイルも違っていて。ちゃんと個性があるんですよ」

沿岸部にある米原水産の定置網は港からの距離も近いため、朝一番に道の駅に出荷する「朝どれ」が売りなのだそう。

野島水産の強みは「神経じめ」。活じめのなかでも鮮度維持とうまみアップの効果が高いとされる処理を、船上ですぐに行っている。

そしてもっとも沖合いに定置網を持つ宇田郷定置は株式会社化されており、規模も比較的大きい。スラリーアイスというシャーベット氷を県内で唯一取り入れていて、大量に獲れた魚を急速に冷やして効率的に鮮度を保っている。

「定置網以外でも、潜ればサザエやアワビ、海藻の類も獲れるし、一本釣りで生計を立てている人もいる。小さなエリアにこれだけ理想的な要素が詰まっているのは、阿武町の魅力だと思いますね」

小さいころから魚が好きで、魚の研究をして一生を終わりたいと思っていた上田さん。

あるとき、漁師に誘われて船に乗ったことから、感覚が大きく変わっていったという。

「それまでは魚だけに興味があったんです。ところが、素晴らしい漁師と出会ったことで、漁業に関わる人や、その延長にある人の暮らしへと興味が広がっていったんですね」

1年間、その漁師の家に居候して一緒に暮らした経験は、今の感性や知識、技術のすべてに大きく貢献しているそうだ。

「どんなふうに獲ってきて食べているのか。それを知るのは、自分が生きるってどういうことかを知ることなんです。そういう意味でも阿武町は、自分が生きる足元を見つめ直す、いい雛形の場にならないだろうかと思っていて」

新たにキャンプフィールドができることで、まちの外から来るお客さんに「体験」してもらえる機会が増えることも、上田さんはとても前向きに捉えている。

「阿武町ってね、来てみて2〜3日いると、帰るのがめんどくさくなるんですよ。毛穴から阿武町が入ってくるわけ」

おお、毛穴から(笑)。

「まちの空気に毒された人は、何もねえなあって言うかもしれない。でも、ここの空気と一体になっちゃうと、もうここに住んじゃおうかなって気になる人もいると思います。何かひとつのイベントで突破口を開こうっていうよりも、じわーっと平均点を上げていきたいね」

コンビニもない、人口3000人ちょっとの小さなまちながら、ここ数年は転出より転入が上回る“社会増”に転じるなど、実際に移住者も増えている阿武町。

水産業の世界だけにとどまらず、その他の一次産業に関わる人、いろんな価値観を持った人たちとつながりながら、一緒に循環をつくっていけるような人に来てもらいたい。

「教えたいことはたくさんあります。毎月3日間は行くので、そのときはぜひ対面で。協力隊の決まった任務をやることに留まらず、ぼくらの相棒として、一緒に取り組んでくれる人を求めています」

「このまちの水産業や人の暮らしに関心があって、素直に学ぶ姿勢があり、フットワークの軽い人。この3点が重要かな」

 

最後に話を聞いたのは、元協力隊の宮川直子さん。今回募集する人にとって、もっとも身近な先輩になると思う。

「20代は海外に行ったり、長野県の白馬のホテルで働いたりしていました。阿武町にはもともと祖父母が住んでいて、祖父が漁師なんです。その縁もあって、祖父と一緒に船に乗れるし、水産業の振興にもなるだろうということで、協力隊に入りました」

最初に田口さんと会ったときの会話が印象に残っているという。

「仕事ってなんだと思う?って聞かれて。わたしは何か行動を起こして収入を得ることだって返したら、そうではなくて、人の問題を解決して対価を得ることだって言われて」

仕事は、問題を解決して対価を得ること。

「ああなるほどなと。その考えに共感したのも、ひとつのきっかけでしたね」

昨年の10月に協力隊を卒業し、現在は漁師の仕事に加えてゲストハウスを運営するほか、道の駅に海鮮丼のお店「うぉっちゃ食堂」をオープンするなど忙しい。

最初、漁師の世界にはすっと入っていけましたか?

「祖父が漁師なので、その孫ってことで入りやすかったのもあるかも。でも、人柄がわかりさえすれば大丈夫だと思います。実直に手を動かして、あとは挨拶ができれば」

楽しさとかおもしろさというと、どんなところでしょう。

「わたしは、自分で獲ってきたものを自分で食べられることですね。生かされているというより、生きている感じがするというか。あとはやっぱり、単純に、魚がおいしいです」

現状の問題を解決するためには、一筋縄にいかないことも多いだろうけど、その苦労に応えてくれるのもこの海であり、そこで獲れる魚であり、ともに取り組む人たちなのだと思いました。

(2021/4/6 取材 中川晃輔)
※撮影時はマスクを外していただきました。

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