※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。
遠く、自然豊かなところに旅をすると「もう、ずっとここにいたい」と思うことがある。あるいは、この景色を切り取って持って帰れたらいいのに、と。

古閑舎(こがしゃ)は、熊本・阿蘇の森で育てた雑木を使って、住宅や店舗などに小さなグリーンの空間をつくる造園の会社。
ただ木を組み合わせて植えるだけでなく、木々が健やかな状態を保てるよう、土中の環境から整え、自然の森にいるような庭づくりをしています。
今回は、ここで一緒に働く庭師と、雑木の魅力を伝えるワークショップなどを担当するスタッフを募集します。
庭づくりに使う木は、関連会社で生産していて、今後は事務所も隣合わせになる予定。実際に木が育つ現場も身近に体感しながら、働けるそう。
雑木の森の魅力を知り、伝えることに真摯に向き合うチームだと思います。
「まずは実際に、古閑舎がつくった庭を見てください」
そんなふうに誘われて、最初に向かったのは、熊本城からほど近いアーケード街の一角にある「omoken park」というカフェ。
入り口には、高さの異なる木が2本、アーチのように枝を伸ばして立っている。どこか無造作にも見える自然な佇まいの木だ。

足元にはシダや紫陽花、視線を上げればもみじ、2階のバルコニーにはミントなどのプランターもある。
「ここだけで、だいたい30〜40種類くらいの植物があるんじゃないかな」
そう話すのは、古閑舎の代表・古閑英稔さん。

「木って、街路樹みたいに一本一本単独で植えると、日当たりが良すぎてごつい感じになるし、日に弱い木は枯れてしまうこともあるんです」
「ここはいろんな種類の木を寄せて木立として植えているので、地上では強い陽射しや風などから守り合い、土中では根っこが絡み合って、お互い競合することで強くなりながら、環境改善効果を利用しあって、健全な姿を維持できるんです」
たとえば、もみじのように陽射しに弱い植物は、その西側に葉が茂りやすい木を植えることで、西日を遮ることができる。一本では枯れてしまう環境でも、ほかの木と組み合わせれば共存していける。
「ここは三方を高いビルに囲まれていて、日当たりがよくない。だけど雑木の庭をつくるには、それが逆に好都合なんです。雑木が育つ山も日陰が多いですから。うちが提案する庭は敬遠されがちな都会の隙間みたいな場所のほうが向いている場合もあるんですよ」

土壌改良には化学肥料や薬剤などは使わず、自然素材のバーク堆肥やくん炭・竹炭を活用する。また、植木の重みで土中に圧が掛かり過ぎないように、剪定で出た太枝をクッション材として活用する。

自然の素材を生かすことで、菌糸の発達や微生物の活性化を促し、土壌も改善されていく。
木を持ってきて植えるだけじゃなく、雑木のあるべき自然な環境をそのまま庭に再現するようなやり方なんですね。
「環境を考えず、デザイン性だけで植栽しても、年々木が傷んで弱っていきます。私たちもそんな姿は見たくないし、お客様にとってはもっと悲しいことですからね」
「木は成長して大きくなるし、秋には落ち葉も出る。鳥や蝶が来て、生き物との関わりも生まれます。それが魅力のひとつだと思うんですが、デザイン重視の植栽を好む方や自然が好きじゃない人には負担になることもある。だから、プランニングの段階で、そういう部分もしっかり説明するようにしています」

古閑さんのお父さんは、庭木を栽培・出荷する「グリーンライフ・コガ」という会社を経営していて、古閑舎が手がける庭はもちろん、全国の庭師さんに木を届けている。その苗木の種を植える仕事をしているのが、古閑さんのおじいさん。5代前から、家族で木を育てる仕事に携わってきた。
「子どものころは、親父の配達に付き合わされたり、遊びに行く前の水やりが日課だったり。木の生産って地味だし、いいイメージがなかったんですよ。父から農業高校への進学を勧められたときも、『俺は絶対せん!』って(笑)」
「家の仕事に対して見方が変わったきっかけは、大学でランドスケープの勉強をしたことですね。こういうアーケードのなかにちょっと緑があるだけで印象が変わるみたいに、庭づくりは、まちづくりの仕事でもあるんだなって気がついたんです」

提案した庭を、持ち主が愛着を持って育んでいけるよう、プランを立てるときはライフスタイルの聞き取りからはじめるという。
年配の夫婦であれば、ゆっくり眺めて楽しめるものを。小さい子どもがいる家族なら、ブルーベリーのように摘んで楽しめる植物を。そんなふうに、触れ合って楽しめる庭の形を提案してきた。

時間が経てば、庭は家族の思い出と結びつき、愛着も生まれてくる。
剪定などのメンテナンスで庭に入るときは、その思いを汲み取る姿勢が必要だという。

現場では、つねに家の人のそばで作業をする。
たとえばお茶を出してもらった時などお客様と接するような場面では、気持ちよく笑顔で挨拶を交わすような姿勢を大切にしてほしいと古閑さんは言う。
「相手の気持ちを理解しようとする人は、仕事を覚えるのも早いですよ。うちが今、ありがたいことに営業活動をしなくてもお仕事をいただけるのは、そういう信頼を積み重ねてきたから。そこをおろそかにすると、続けていけないです」
夜、一緒に働くスタッフの方が話を聞かせてくれることになった。宿に立ち寄ってくれたのは、入社して4年目になる竹内さん。
一日働いたあとにもかかわらず、挨拶からハキハキと明るいトーンで話をしてくれる。

「今日は新築のお庭づくりの初日で、重機を使って地ならしをメインにやっていました」
古閑舎のメンバーは現在、庭づくりメンバーが6人、設計1人。最初のプランニングは古閑さんが担い、現場は全員で一つひとつ仕上げていく。
施工は市街地の住宅や店舗が多いので、現場で集合・解散するメンバーもいる。
「古閑舎のように土中環境を一からつくる庭づくりって、全国的に見ても珍しいんですよ。僕は大学で造園を学んでいたので、知識としては知っていたことも多いけど、実際に現場で見て体験するとおもしろいですよ」

ちょうど最近、30代後半でお笑い芸人から転職した人がいるらしい。
「僕より一回り以上も上の方なんですけど、すごく物腰が柔らかくて話しやすいんです。僕が何か質問に答えるたびにいつも『へえ〜』って、感心しながら聞いてくれて。その方は仕事に慣れるのも早かったですね」
庭づくりの仕事は、常にチームプレー。
体力に差がある場合は、力仕事などチームのなかでうまく分担しながら進められる部分はあるけれど、まわりと呼吸を合わせていくことは欠かせない。
経験や年齢にかかわらず、なんでも自分から教わろうとする謙虚さがあるといい。

「庭づくりって、覚えることがいっぱいあって飽きません。木の剪定、土中環境づくり、どの作業も好きですね。重たい石を持って据えるのも、筋トレみたいな感覚で。だけど、1年目は正直、辞めたいなって思ったこともありました」
最初は穴を掘ったり整地をしたり、剪定した枝を片付けたりなど、サポート的な部分から仕事を覚えていく。
そこから徐々に責任ある仕事に関われるようになり、最近は剪定の仕上げなども任されているという。
「図面通りに設置するだけじゃなく、自分の目で見て、一歩離れて考えてっていう過程が大事ですね。石とかも、いろいろ置き換えて全部の向きを試してみます」
技術を磨きながら、感覚も養っていく。
いつかは、プランニングから施工まですべてを手がけられる庭師として、海外も視野に活動の幅を広げてみたいと、竹内さんは言う。
「やっぱり続けないとおもしろさはわからない。自分の関わった庭が、何年も経って成長しているのを見るのは感動だし、日々新しい発見がある。ものづくりが好きな人は、はまっていく仕事だと僕は思いますね」
次の日の朝、庭木を育てている阿蘇の森を、古閑さんに案内してもらうことに。

「つい最近、この森のツアーをしたんですよ。山を散策しながら植物の特性を説明したり、剪定を体験してもらったり。やっぱり、実際に見ていただくのが一番早いですからね。今後は、そういうワークショップなどにも力を入れていきたくて。新しく入る人にも積極的に関わってほしい」
「今こうして仕事ができるのも、じいちゃんや先祖が残してくれた畑や土地、育ててくれた木があるからなんです。私たちには、これを次の世代につないでいく役割がある。古閑舎の舎は、学び舎っていう意味があって。この森の魅力を、庭づくり以外の場面でも伝えていけたらなと思っています」

木々の重なりや、通り抜ける風、足元にある草の感触。今、自分が心地よく感じているもののバランス感をたしかめながら、現場に生かす。
阿蘇の自然と、都市のライフスタイルと、そのふたつを融合しながらまちの風景をつくっていく仕事だと思います。
(2021/5/12〜13取材 高橋佑香子)
※撮影時はマスクを外していただきました。