※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。
「人と人のつながりが大切ということは、今の世の中では当たり前になりました。その上でどうエンブレムらしい世界観を創るかだと思うんです」
そう話すのはエンブレムホテル株式会社の代表、入江洋介さん。
つながりとかコミュニティとか、ずいぶんありふれた言葉になってしまいました。
コンセプトでつながりを謳っていても、実際は中身がないと感じることも少なくないです。
そういう中、実直に人と人とのつながりに向き合ってきた会社があります。
箱根にあるホテル、エンブレムフロー箱根。
2018年11月の開業以来、お客さんや地域、そしてそこで働く人がつながる場として、宿づくりをすすめてきました。
今回募集するのは、クルーと呼ばれる、ホテルを支えるスタッフ。フロント、レストラン、マーケティングといった仕事から、エンブレムのブランドをつくっていきます。
つながる、という言葉に真摯に向き合いたい。そう思う人に読んでほしいです。
東京から電車に揺られ2時間半。箱根登山鉄道を強羅駅で降りる。
平日だけど、スーツケースを持った人もちらほら。
エンブレムフロー箱根は駅の目の前。ケーブルカーの下にある通路をくぐり抜けると、3階建ての建物が目に入る。
中に入ると、コンクリートの壁が広がっていて、照明は暗めでムーディーな感じ。
Tシャツ姿で現れたのは、代表の入江さん。
落ち着いた話し方をされる方だ。
「親が転勤族で、アメリカやイギリスで子供時代を長く過ごしてきました。そういう背景もあって、国や人種を超えて楽しめる場をつくりたいと思うようになって。辿り着いたのがホテルの仕事でした」
入江さんはエンブレムホテルの創業者。エンブレムフロー箱根のほかに、東京・西新井でも宿を運営している。最近は、新規事業として国際学生寮の立ち上げにも奮闘しているそう。
目指しているのは、人と人がつながり、地域と深く関わるなかで、世界に輝く人を増やしていくホテル。
創業の地、西新井では、国内外のお客さんと東京の下町の人たちがつながるイベントを多く企画してきた。
特に好評だったのが、近所のお寿司屋さんによるワークショップ。参加者とともに寿司を握る。
「お寿司屋さんの大将は70歳近い方で、エンブレムと出会う前はお店を畳むつもりだったそうです。それがたまたま、僕らと関わるようになって『楽しくなっちゃったから、お店続けるよ』と言ってもらえて。こういう関係をつくっていきたいと思いました」
「あの時は本当に嬉しかった」と、笑顔がこぼれる。
エンブレムと関わることで人と人、人と地域のつながりが生まれる。そのつながりをもとに、世界に輝く人を増やしていきたい。
そう言うのは簡単だけど、ただ泊まり、イベントをするだけじゃなかなか難しそう。
「大切にしているのは、その人を知ることです。チェックインの時や、施設内のバーなどでクルーがゲストと話すタイミングで『このゲスト、面白いかも』と思ったら、他のクルーにも共有するようにしています」
会話のほかに、宿泊前のアンケートで、お客さんのことを知るきっかけをつくっている。旅行の目的から理想の過ごし方、趣味に至るまで、ユニークな項目がずらりと並ぶ。
「たとえば、最近泊まったゲストがアクセサリー作家を目指しているということがクルーとの会話から分かって、来月ここで展示会をすることになりました」
フロントの前のギャラリースペースやレストランで展示をすることもできるし、客室のあるフロアには、こうして縁を持った作家の絵が並んでいて、気に入ったものがあれば購入できる。
自分の作品を世の中に出すチャンスを探している人にとっては、こんな場所があるとうれしいでしょうね。
「こんなやり方を面白がってくれるゲストがいいですよね。そのためにはクルー自らが尖っているというか、やりたいことがあって、それをやれているという状態が、面白いゲストを引き寄せる一番のポイントだと思うんです」
ここで働く人たちは、それぞれにやりたいことを持っている。
エンブレムフロー箱根の支配人、浅木さんもその一人。
海外に憧れた学生時代、ワーキングホリデーでオーストラリアに暮らすうち、人と人をつなげる場所をつくりたいと考えていた。
にかっと笑う顔は少年のよう。
「国も年齢も違う人たちとシェアハウスで暮らしていて、めちゃくちゃ楽しかったんですよね。いつか自分でこんなハッピーな空間をつくりたいと思っていました」
「働いていたカフェでは、毎朝いろんな人が来ては挨拶したり、バリスタを目指して外国から働きに来る人がいたりして、飲食って人をつなげられるんだと思ったんです」
帰国後、アルバイトを探していたときに西新井のホステルの立ち上げを知り、入社。
「飲食で雇ってもらったんですけど、キッチンは1日でクビになりました(笑)。包丁が使えなくて、仕込みの時に指切って出血して、それを見て倒れてしまって病院行きに…」
休みをもらい、復帰後はフロントで働いていた。1年後、念願叶ってバーに立つことに。
「フロントの仕事も楽しかったですけど、やっぱり飲食で人と人がつながる場をつくりたくて。洋介さんに相談したら『新しい拠点があるけど立ち上げやってみる?』と言われて、バーを立ち上げたんです」
カウンターに立ち続けたなかで、印象に残っているお客さんがいる。
「毎日来る男の子がいたんですよ。いつもカウンターでテキストを広げて、英語の勉強をしているんです。でも、最初からいきなり、なんで勉強してるの?とは聞けなくて」
少しずつ話をするうち、「海外で働いてみたい」という夢を持っていることがわかった。
でも、英語の成績もよくないし、外国の知り合いもいなくて、自信がない。
「だから勇気を出して来てみたそうです。来てみたら面白くて、毎日来るようになってしまった。でも毎回、テキスト持ってきて勉強してるだけで(笑)。そろそろ何かしたらどうだい、と声をかけてみたら『寿司なら握れます』と言うんですね」
じゃあワークショップをしてみよう、と始めたところ、周辺の宿から観光客が遊びに来るほどの大盛況に。
「ある日、ミラクルが起こったんです。カナダ人のゲストが『レストランを経営しているから、うちで働かないか』と、彼に話していて。まさに夢が叶った瞬間ですよね。時期が合わなくて、話は流れてしまったみたいですけど」
お客さんと浅木さんの関係は堅苦しくなく、友人のような親しみを感じる。
そんなつながり方を求めている人は多いと思う。ただ、コロナ禍でコミュニケーションのあり方が大きく変わってしまった。
「まさにその難しさを感じているところです。今やっているのは、バーやイベントのように大勢の人数を集める方法ではなくて、作家さんのような個人と深くつながること」
作家の作品展示の他に、レストランで演奏するミュージシャンから相談を受けて、世の中が落ち着いたら音楽フェスを箱根で開こう、という話もすすんでいる。
大切にしているのは、みんなでホテルをつくっていく感覚。
「もちろん、ある程度のコンセプトは決めていますが、オープンしてからがホテルづくりと思っていて。その土地や人、食材との出会いで、どういう場所をつくるのか考えていく部分が大きいです」
新しく入る人も、地域のことを知りながら、どんな仕掛けがあれば魅力的なホテルになるか一緒に考えていくことになる。
正解がないことをやっていくのは大変そうだけど、いまの取り組みを話す浅木さんの表情は明るい。
「見せかけのテーマを掲げた宿にはしたくないんです。有名なアーティストの作品をただ飾って『アートとつながる』と言ってる宿って、僕も泊まったことありますけど、何も感じないんですよ。なんでだろうと思って」
「アーティスト自身が、そこの宿にはいないし、泊まりに来ないんですよね。チェックインの時に説明を受けて、終わり。実際の作家さんとはつながれない宿が多いことを、疑問に思ってて」
目指すのは、クリエイターに「ここに来て展示したい」と言ってもらえるようなホテル。
「これを実現している宿って、まだないんです。自分たちもこれからだと思ってます」
基本の仕事はあるものの、余白の大きな仕事のように感じた。
自由な働き方が合っている人もいる一方で、「どこに向かっているかわからない」と不安に感じる人もいるかもしれない。
5ヶ月前に入社したばかりの杉本さんも、悩んだことがあったみたい。
ふだんはフロント業務を中心に、ホテルの顔としてお客さんと接する役目を担っている。
大学を卒業して、まずは大手ビジネスホテルチェーンで働いていた。
「大きな会社だから、お客さまへの対応はすべてマニュアル化されているんです。体調が悪そうな方でも、チェックイン時間まではお部屋に入れられない。私が会社に提案しても、きっと変わらないのだろうなと感じました」
どんなホテルが理想だろう、と考え思い出したのは、学生時代にドイツで泊まったホテル。
「チェックインのとき、ただお金をやりとりして終わりじゃなくて、『どこに行くの?』とか『何しにきたの?』と話しかけてくれるんですね。カジュアルで嬉しかったし、なにより働く人も楽しそうでした」
そこで見つけたのがエンブレムホテル。
海外で生活をしていた経験を持つクルーも多く、自分の求める宿のかたちを共有できそうだと思い、飛び込んだ。
「ただ、うーん…。自由を求めてエンブレムへ来たんですけど、自由すぎて戸惑うことはありますね」
杉本さんがはじめた、「プラスチック・フリー・ジュライ」という企画がある。
7月中、お客さんは廊下に置かれたカゴに未使用のアメニティを入れられる。回収したアメニティは消毒して、事前に了承を得た別のお客さんへお渡しする仕組み。
一般的に、ホテルでは未使用のアメニティもすべて捨てることになっていて、前職のときからもったいないと思っていた。
「それを話したら『アメニティを使わない宿泊プランを立ててみたら?』と、言われて。私はフロントの仕事しかしたことないし、企画なんてこれまでやったことがない。ルールもないから、何から始めていいかわからないんです」
それでも、まずは小さなことからやってみよう、と考えて始めたのがこの取り組み。
「そこまで大きなことではないんですけど。これを機に次どうするか考えていきたいです。今は結構、仕事についていくのが大変で」
自分でつくっていく難しさもあるけれど、エンブレムは、やりたいと思ったことを応援してくれるし、何度も挑戦させてくれると思う。
楽しむ気持ちがあれば、経験はなくても大丈夫。
取材終わり、チェックインのお客さんが訪れて、杉本さんが受付に向かっていった。
10分くらい、楽しそうにお話ししているのが印象的でした。
箱根は東京からも近いし、にぎわいが戻る日も遠くなさそうです。
つながりを、まずは自分たちからつくる。その覚悟があれば、なんでもできる場所だと思います。興味がわいたら、ぜひ一度箱根に足を運んでみてください。
(2021/7/15取材 阿部夏海)
※撮影時はマスクを外していただきました。