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生きるための道具
顔を思い浮かべて
みんなでつくる喜び

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「どんなものをつくりたいか、その人にとってどんな形がいいのか。みんなが一人のことを思って、真剣に話し合う。それが当たり前に行われているのが、楽しかったんですよね」

自分がつくるものは、誰に届き、どんな目的で使われるのか。使う人の顔が見えると、つくり手は同じ方向を向いて歩んでいけるように思います。

そう工房は、主に障害をもつ人のための、座位保持装置や車椅子といった補装具をつくり、販売している会社です。

座位保持装置とは、姿勢を保持することで、移動や食事、学習など、生活に必要な動作をサポートする椅子のこと。

その人の生活の一部となる道具を心地よく使ってもらうために、使う人の家族やセラピストはもちろん、営業や製作など社内の役割の垣根を超えて、ともに考えながら工夫していく。

そうやってものづくりをすることが、この会社の日常風景のよう。

今回は、シーティングエンジニアを募集します。どんな補装具をつくるか打ち合わせをするところから、実際に形づくるところまでを担う仕事です。

いいものをつくりたい。その気持ちを、まっすぐ突き詰めていける環境だと思います。


千葉・市川市に拠点を構えるそう工房。

総武線の市川駅で降りると、代表の角田さんがクリーム色のバンから手を振ってくれた。

前回取材したのは、もう4年ほど前のこと。近況を話しながら、10分ほどで工房に到着。2018年にここへ移転し、自分たちでDIYもしたそう。

中に入ると、スタッフの方が「こんにちは」と声をかけてくれる。奥からは、機械やミシンの音が聞こえてくる。

「僕らのものづくりは、コロナ禍になってからも目に見えて大きく変化したところは特にないかな。世の中が落ち着いたら、みんなでお昼ごはんを食べたり、一緒に仕事する人たちを招いて工房見学会を開いたりしたいなとは思っているんですけどね」

そう工房の仕事は、主に肢体不自由と呼ばれる障害をもつ人のための座位保持装置をつくること。ほとんどがオーダーメイドで、依頼の多くは子ども向けのものなのだそう。

「いちばん多いのは、学校で使う子ども用の車椅子です。車椅子といっても、自分で漕ぐ形じゃなく、後ろから押してもらう形のもの。人工呼吸器や加湿器、吸引機など、いろんな機器をのせられるものもあります」

「それから、ご自宅用の椅子ですね。木製のものもあれば、金属製で、スライドさせて高さ調節できるものもあります。家の中での過ごし方にあわせて上げ下げすれば、家族とも目線を合わせやすくなる」

ほかにも、うつぶせ姿勢や直立姿勢を保持するための補装具。電動車椅子に、バギー、カーシートなど、製作するものはさまざま。

「椅子と一言でいっても、ごはんを食べるときは背中に支えがあったほうがいいし、テレビを見てくつろぐときはソファだとリラックスできる」

「ハンディキャップの有無にかかわらず、使う場面や目的にあった椅子の形があるわけで。自力で姿勢を維持できない人たちには、より一層目的を明確にしてつくることが大事なんです」

一人ひとりに合った補装具づくりは、病院や福祉施設から依頼を受けてはじまる。

最初は営業メンバーが現場へ出向き、使う本人やその家族に加え、理学療法士や作業療法士といったセラピストにも同席してもらい、どんなものが必要なのか、一緒に考えていく。

話した内容をもとに設計図をつくり、製作チームが形にして、仮合わせ。その後、縫製まで仕上げたものを納品する。フルオーダーメイドだと、製作期間は4~6ヶ月ほどかかるそう。

打ち合わせの現場では、お客さんに気兼ねなく話してもらえるような雰囲気をつくりながら、じっくり話を聞いていく。

「身体の採寸をしつつ、痛む部分や、素材によるアレルギーの有無なども聞いていきます。汗をかきやすい人だったら、背中部分にファンも取り付けられるし、足を動かす癖がある人なら、擦れても平気なように柔らかい生地にできる。そういう提案もしていきます」

「使用する場所や目的、何に困っているかといったことも、とにかく具体的に聞く。それによって、持たせるべき機能も変わってくるので。その人の日常生活に関するいろんな情報を引き出して、細かく仕様を決めていきます」

疑問に思ったことはかならず質問する。そして、自分のなかにある先入観や慣れを疑うことも大事だという。

「身体を動かせる子だと、マジックテープ式のベルトを自分で外して、お母さんが目を離したすきにどこかへ行ってしまうこともあって。テープを引っ張る向きを変えるだけでも、利き手で外しにくくなるんだけど、この向きが当たり前って思ってると、その発想は出てこない。引き出しはたくさん持っておかないとね」

使う本人と直接話ができたらいいものの、言葉でのコミュニケーションが難しい人たちのほうが圧倒的に多い。自分でアンテナを張って気づくことはもちろん、まわりの人たちと協力することで、課題を解決する方法を見つけていく。

「親御さんはちょっとした口の動かし方でも、お子さんが何を伝えようとしているかわかって、教えてくれる。セラピストさんも、その人の身体のことをよく理解しているからこそ、的確な意見をくれる」

「使う本人がいて、一緒に使う親御さんや施設の方、セラピストさんがいて、僕らがいて。あーだこーだ言いながら、すり合わせをしていく。そうやって、一つのチームみたいに連携できると、いいものがつくれるんです」

補装具は、身体のサイズや生活環境の変化に合わせて、だいたい3〜5年の周期で新しくつくり変える。

そう工房に依頼するお客さんは、初対面の人もいれば、7割ほどはリピーターなのだとか。

「赤ちゃんだった子が、いつのまにか二十歳になってたりして。それだけ長く関われるって、なかなかないですよね。たとえ以前と似た形の依頼が来たとしても、前よりいいものをつくりたい。いつも、そんな思いでいます」

「僕らがつくっているものって、その人が生きるための道具っていうか」

生きるための道具。

「そう。何年か前、当時高校生だった女の子に、カーシートをつくったんです。彼女は自力で姿勢を維持できなくて、車内では横になって天井を見ることしかできなかった。それが、カーシートのおかげで、窓から川がきらきら光っている風景が見えて、ものすごくうれしかったと、伝えてくれて」

「僕らがつくったもので、その人の生活がガラッと変わることがある。だから、いい加減な仕事しちゃダメだなと思うし、その人の気持ちを汲み取ったものづくりをしたいって、常に思っています」


じっくり話を聞いてひと段落したところで、製作現場も見せてもらうことに。

大きな機械に、いろんな形の工具、ウレタンなどの素材。さまざまなものがずらりと並んでいる。

ここで作業していたのが、入社4年目の富野さん。前回の記事をきっかけに入社した方。

もともと、自分でバイクをカスタマイズしたり修理したりと、手を動かすことが好きだったそう。

「製作スタッフは、各自担当するお客さんの補装具一台一台を、責任持って仕上げていきます。困ったことがあれば相談するし、一人では難しい部分は手伝ってもらいながら、協力しあって作業していますね」

取材中も、もう一人の製作スタッフの先輩は、黙々と木材を加工していた。

聞いてみると、車椅子の振動を抑えるためのパーツを考えて、実際につくってみているところなのだとか。

「先輩はベテランで、補装具だけじゃなく、治具という、よりつくりやすくするための道具なんかもつくっていることがあって。こんなやり方・道具もあるよって、教えてくれたりします。引き出しがすごく多いんです」

製作チームが加工し、組み立てた補装具は、仮合わせを経て、縫製チームの手に渡る。

「この、しわのないパシっとした面、きれいな仕上がりでしょ」と角田さん。

手がけた縫製スタッフの方も「お気に入りです」と誇らしそう。

ほとんどがオーダーメイドであるため、型紙はほとんどない。また、身体に当たったときに痛くないよう、生地と生地をつなぐ縫い目を表面に出さない工夫もしているとか。裁断の仕方から縫い方まで、至るところに工夫が散りばめられている。


営業・製作・縫製、それぞれのチームが知恵を出し合い、協力することで、使う人に合った補装具が完成する。

新しく入る人は、まず営業と製作の仕事を学んでいくことになる。縫製の仕事にも、徐々にチャレンジしてほしい。

一人前になるまで、5年ほど時間はかかるという。それぞれの仕事を通じて学ぶことが、よりよいものづくりには欠かせない。

入社4年目の田中さんは、営業、製作、縫製と一通りの仕事を経験している。まもなく産休・育休に入る予定だけど、これから入る人と同じように、いろんなことを吸収してきた。

「まったく同じことがひとつもないので、技術を磨こうと思えば、どこまでも追求できる。3年経った今も、やりがいがあって面白いです」

田中さんはものをつくることが好きで、プライベートでも革の小物づくりなどを続けてきた。仕事としてものづくりをするのは初めての経験だったため、応募するときは不安もあったという。

「入社前のインターン期間に、施設でお客さんに話を伺う現場に同席したんです。そのときのことがけっこう印象に残っていて… その場にいることが、なんだか楽しかったんですよね」

楽しかった?

「その子にとってどんな形のものがいいのか。当たり前のように、たった一人のことを思って、みんなが真剣に話し合っている。その空間が居心地よく感じたんです」

その心地よさは、働きはじめてから今も感じていること。

工房では「こうしたらいいんじゃない?」というアイデアが普段から飛び交い、建設的にものづくりが進んでいく。そのリズムが、田中さんにとっては気持ちよいという。

「難しいなと感じることは、もちろんたくさんあります。最初のころは、人と接する営業と、機械をあつかう製作、仕事内容も気の遣い方もちがうから、切り替えに苦労しました。今でも、常に緊張感を持ちながらやっています」

そう話す田中さんは、補装具をつくるとき、かならず使う人の写真を見てから作業をはじめるんだそう。

「自分はこの人のためにつくるんだって、イメージを持って手を動かすことで、楽しみながらできるんです」


最後に、代表の角田さんに、どんな人と一緒に働きたいか聞いてみた。

「顔の見えるものづくりがしたいっていう人は合うと思います。目の前に困っている人がいて、その人のために手と頭を動かす。使う人やそのまわりの人が喜んでくれるのを見ると、僕たちもうれしくなるんですよね」

わからないことを素直に聞ける正直さ。工夫して考えられる柔軟さ。なにより、ものづくりが好き、という気持ち。

それさえあれば、一歩ずつ成長していくなかで得られる喜びが、ここにはたくさんあると思います。


(2021/09/06 取材 後藤響子)
※撮影時はマスクを外していただきました。

記事で登場した田中さんには、2019年にコラム「大切にしたいことばたち」に寄稿していただきました。よろしければ、そちらもご覧ください。

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