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浜名湖のほとり、みかんの産地としても知られる浜松市三ヶ日町(みっかび)、昭和10年から蜂蜜づくりを続けている人たちがいます。家族経営の小さな養蜂場としてはじまった、長坂養蜂場。今は養蜂から、蜂蜜の加工品づくり、販売まで行う、いわゆる六次産業化に取り組んでいます。
会社の規模が大きくなった10年ほど前、3代目の長坂善人さんは、企業として目指すべき方向性をいくつかの言葉にまとめました。
その核となるのが「ぬくもりある会社をつくりましょう」という経営理念です。

口にするのは容易いけれど、それを実際に形にするためには根気がいるものです。
長坂養蜂場では、この「ぬくもり」というキーワードについて、スタッフみんなが理解し、自発的に行動できるように取り組みを進めてきました。ときには、業務の手を止め、丸一日使ってみんなで話し合うことも。
今回は、この長坂養蜂場の3つの職種でスタッフを募集します。ブランディングや発信を担うWebディレクターとデザイナー、それに蜂蜜スイーツの商品開発製造を担うパティシエです。
自分たちの利益だけでなく、社会のためになること。三方よしの高い理想を求めて、創造性を発揮できる人を求めています。
浜松駅から在来線に乗り、新所原(しんじょはら)駅で天竜浜名湖線に乗り換える。
東京を出発してから約2時間で最寄りの奥浜名湖駅に到着。改札のない無人駅を出ると、そこはすぐみかん畑。収穫期を迎えたみかんが、暖かい日差しを受けていた。
駅から歩いて5分ほどのところに、長坂養蜂場の直営店がある。駐車場には車がたくさん並んでいて、平日の昼間でも遠方から多くの人が訪れているらしい。

入るとすぐに、スタッフの方が「ウェルカムキャンディーをどうぞ」と、笑顔で声をかけてくれた。
売り場から廊下を通ってすぐの部屋へ。まず話を聞かせてもらったのは、代表の長坂さん。

その忙しさのなかでお母さんが体調を崩してしまい、当時は別の企業に勤めていた長坂さんも、急遽家業を手伝うことに。まずは養蜂の現場を知るため、仕入れ先の大きな蜂蜜問屋に修行に出た。
「そこで学んだ営業や商品開発のノウハウをうちで実践しようと意気込んで帰ってきたんですが、今思えば、かなり“頭でっかち”な状態だったと思いますね」
きちんと利益を上げられる体制を整えようと、商品開発や通販の強化にリーダーシップを発揮した長坂さん。
何事も「お客さま第一」の考えで、トップダウン体制。そのうち、どんどん高いハードルを課すようになり、現場はつねにプレッシャーにさらされていたという。
「ちょうどそのころ、『日本でいちばん大切にしたい会社』という本の著者の坂本光司先生の講演会に行く機会があって。そこで『経営でいちばん大切なのは、働くスタッフとその家族です』っていう話を聞いて、頭を殴られたような衝撃を受けました」
自分の会社にも、もともとは両親が温めてきた家族愛のようなものがあったはず。

長坂さんはそんな理想を、「ぬくもりある会社をつくりましょう」という経営理念に込めた。
たしかに素敵な考えだけど、それを現場に落とし込んでいくプロセスは平坦ではなかったという。
「理想と現実のギャップというかね。いくら正しいことを言っていたとしても、それを現場に受け入れてもらえるほどの信用が、当時の自分にはなかったんです」
考えをスタッフに押し付けるのでは、もとのトップダウンと変わらない。一人ひとりが自発的にそれを実践していくためにはどうしたらいいだろう。
長坂さんは、まずお店の休業日である水曜を利用して月2回、「ぬくもりの日」を設けた。

最近は、業務の改善や、地域貢献などに関わるプロジェクトをスタッフが主体的に運営するようになり、その数は今や20にものぼる。
バックヤードに貼り出された掲示物には「Bee happy」や「通心絆売(つうしんはんばい)」「業務皆善(ぎょうむかいぜん)」のような、オリジナルワードがいくつも並び、話し合いに費やされた時間と熱量が垣間見える。
納得いくまで話し合い、自ら考える。その姿勢は商品開発などにも共通している。
本当にいいと思える形になるまで妥協せず、何度もやり直しを続ける。ときには発売日を延期してでも、アイデアを練り直すことも。

開発やデザインで、やり直しのアイデアを求められている時期だったら、焦ってしまいそう。
「そうですね。本当にそこを乗り切る“たくましさ”も必要な仕事だと思います。僕たちは自分たちが考えた“ぬくもり”を、社内に溢れさせるだけでなく、やがて社会にも波紋のように広げていきたいから」
こうして高い理想をみんなで一緒に追いかけていけるようになったのは、以前のワンマン体制を抜け出し、フラットに話し合える土壌ができたからこそ。

カフェやショップ、観光農園施設などでの体験を通して、三ヶ日のテロワールを表現する複合施設。訪れた人が長坂養蜂場の「ぬくもり」を体感できる場所にしていきたいという。
具体的なプランはこれから練り上げていくところ。今回入る人にも、積極的にアイデアを出し、形にしていってほしい。
「僕たちは仕事を通して、関わる人を温かい気持ちにできるような“生き方”を実践していきたいと思っていて。収益だけじゃなく、地域や社会のためになる活動を追求していきたいんです。それって、蜜を集めながら花粉を交配するミツバチの生き方にも似ていますよね」
そんな長坂さんのそばで、日々ぬくもりの伝え方を考えているのが、ECサイトやSNSの管理を担うWebディレクターの清(せい)さん。
長坂養蜂場の理念に惹かれて入社したという。

そういうコミュニケーションが、Webディレクターとしての仕事に生きている部分はありますか。
「めちゃめちゃあります。たとえばWebやSNSで情報を発信するときには、商品の売り込みよりも“共感”を大事にしていて。その前提がみんなで共有できていることは、ブランディングの面でも大きいと思います」
店頭のポップやブログでは、スタッフが本当にいいと感じたことや日常の実感を、素直な言葉で紹介する。それが、お客さんとの関係づくりの第一歩になっている。

清さんは毎日、朝一番にサイト全体をチェックし、在庫の状況に応じて商品の掲載順を入れ替えたり、季節ごとに特集を組んだり、工夫を続けている。
SNSやブログの記事づくりはスタッフみんなで手分けしているものの、全体の取りまとめやお客さまへのコメント返信などは清さんが一人で担っているので、「今はややキャパオーバー気味なんです」と笑う。
「新しく入った人と分担できるようになったら、サイトをもっと見やすくしたい。ゆくゆくは自社の商品だけじゃなくて、地域の特産品も一緒に紹介して、地元の産業にも貢献できたらいいなと思います」

「そう言われてみれば、なんでだろう。もともと自分が持っていた考えではないと思います。地域に支えられていることに感謝し、恩返しをしていこうっていうコミュニケーションが、普段から社内で交わされているから、感化されたのかもしれません」
後日、デザイナーの加藤さんにも話を聞かせてもらった。商品のパッケージを中心に、ブランドのヴィジュアルデザインを幅広く手掛けている。

蜂の羽を模した、かわいらしいギフトボックス。なかにはキャンディーとメッセージカードが入っている。

自分の仕事を通じて、誰かを温かい気持ちにすることができる。その意識を仲間とも共有できていることが、ここで働く原動力になっていると加藤さんは言う。
また最近では、地元の伝統工芸を受け継ぐ注染工場でつくった手ぬぐいをラッピングに使ったり、福祉施設とのコラボレーションでジェラートの開発をしたり、地域と一緒にものづくりをする機会も増えてきた。
自分たちだけの収益ではないからこそ、得られるよろこびが広がりつつある。
「デザインの仕事が、社会貢献につながる可能性があるんだっていうのは、ここで働くようになって得た気づきですね。ぶんぶんビレッジの構想なども含めて、デザインや発信の役割も大きくなっていくと思うので、一緒に高め合える仲間が加わってくれるといいなと思います」
ぬくもり、というと甘く優しい響きにも感じられますが、それを自らつくりだすためには、ある種の強さが必要なのかもしれません。
諦めない粘り強さ、自分で考えて前に進むたくましさ。仕事を通じて、お客さんや社会の役に立ちたいという熱い想い。
長坂養蜂場の人たちの温かさは、そんな芯の強さに支えられているように感じました。
(2021/12/3 取材、2022/1/17 オンラインで追加取材 高橋佑香子)
※撮影時はマスクを外していただきました。