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害獣という言葉のない未来へ
山をまわす
循環のはじまり

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「今は捕獲されたシカの9割が廃棄されています。私たちは農作物の被害を抑えるだけでなく、奪った命をちゃんと価値に変えていきたい。『害獣』という言葉のない未来に向けて活動しているんです」

そう話すのは、ソーシャル・ネイチャー・ワークス代表の藤原さん。

ソーシャル・ネイチャー・ワークスは、岩手県大槌町を拠点に、害獣をまちの財産とするための「大槌ジビエソーシャルプロジェクト」を推進する会社です。

捕獲したシカの食肉加工や、角・革の製品化、ジビエツーリズム、ハンター育成プログラムなど。地元企業や自治体とともに、ジビエにまつわるさまざまな取り組みを展開しています。

今回募集するのは、大槌町地域おこし協力隊としてソーシャル・ネイチャー・ワークスに所属して、ジビエ事業を担当するスタッフ。

イベントやプログラムの企画・運営やPR、視察の受け入れなど、プロジェクト全体の多岐にわたる業務に関わってほしいとのこと。

ジビエに関する知識を持っていなくても大丈夫。主要スタッフのみなさんも、もとは業界未経験の人ばかりです。

新たな挑戦に突き進む素直さと向上心を持った人を求めています。

 

自宅のある岩手県遠野市から大槌町までは、車で1時間。

都心からは、新花巻駅までおよそ3時間新幹線に乗り、さらにレンタカーで1時間半となかなかの道のりになる。

三陸沿岸道路の大槌ICを降りて、海に向かって東へ。震災後に整備された新しい道を走っていくと、ほどなくしてソーシャル・ネイチャー・ワークスの事務所が見えてきた。

会議室でまず迎えてくれたのは、代表の藤原さん。

プロジェクトの始まりは、2017年。当時大槌町の復興推進隊を務めていた藤原さんと地域の人との会話がきっかけだった。

「テエ子さんという、郷土料理をつくるのが上手な地元のおばあちゃんがいて。ある日、『旦那がシカを捕獲しているんだけど、そのシカは捨ててばかりいて、すごく申し訳ない気持ちになる。なんとかできないか』と相談を受けたんです。『ぜひなんとかしましょう』と話したら、テエ子さんも一緒にやると言ってくれて。そこから活動を始めました」

さっそく町役場の担当課へ相談に行き、捕獲したシカの活用方法を検討する「大槌ジビエ勉強会」がスタート。

猟師や地域住民など、まずは身近なところから声をかけていった。

「収支計画がしっかりしていないと、どれだけ社会的に意義のあることをやっても継続していかないなと思って。事業化を念頭に、話し合いを重ねていきました」

「やっぱり最初は楽じゃなかったですよ。少ないときは参加者が3人だけの回もありました。それでも続けていくことが大事だと思って、毎月欠かさず開催したんです。そうすると徐々に盛り上がってきて」

勉強会をはじめて2年、当初からの参加者だったハンターの兼澤さんが、鹿肉を加工・販売するMOMIJI株式会社を設立。続いて藤原さんも、ソーシャル・ネイチャー・ワークスを立ち上げることに。

ここからプロジェクトは加速していく。

「兼澤くんは、大槌ジビエソーシャルプロジェクトの最重要人物です。一流のハンターでありながら、一流の食肉加工事業者でもある。私たち移住者ではなく、地元出身の彼が先頭に立ってくれているからこそ、地域の人に受け入れられているなと思っています」

まずは、MOMIJIが加工した食肉の販売をはじめ、同時に革や角を使った製品づくりがスタート。

続いて、狩猟の現場を体感するジビエツーリズムやジビエ事業の立ち上げをサポートする「ジビエ塾」、捕獲の担い手を増やす「ハンター育成プロジェクト」などが次々に立ち上がっていった。

いずれの取り組みにおいても、兼澤さんの存在は大きい。と同時に、藤原さんは「行政職員や地域の人たちの協力なしには、ここまで辿り着けなかった」と話す。

「もうひとり町役場の職員にもキーマンがいて。鳥獣被害対策を担当している人なんですが、勉強会のときは少し憂鬱そうだったのが、プロジェクトが進むごとにどんどん表情が変わって。今ではすごく楽しみながら、積極的に関わってくれています」

「やっぱりまちの課題はここに住む人みんなが困っていることだから、誰かひとりに押し付けるんじゃなくて、みんなで解決しましょうと。小さいことでも、そう呼びかけて実践し続けてきた積み重ねが今につながっているなと感じています」

 

取締役を務める及川さんも、勉強会の初期から関わってきたメンバーのひとり。

都市計画コンサルタント会社に勤めつつ、大槌町の復興事業に携わってきた及川さん。

2021年から本格的に参画し、今はプロジェクト全体のマネジメントを担当している。

大槌ジビエソーシャルプロジェクトがスタートして、2年。これまで活動を続けてきたなかで、今どんなことを感じていますか。

「大槌で、『シカが害獣ではなく、まちの財産であること』を伝える活動は続けられているなと。さまざまなメディアで取り上げていただいたり、地元の中学生の見学を受け入れたりするなかで、地域の人たちの価値観は少しずつ変わってきている実感がありますね」

産地直送のECサイト「ポケットマルシェ」の畜産部門でも、大槌の鹿肉は人気ランキングの常連になるなど、全国的な認知も広まりつつある。

一方藤原さんは、まだ十分な達成感は得られていないという。

「目指しているのは、『害獣』という言葉がなくなる社会。だからこそ、私たちの活動は大槌町だけで完結してはいけないと思っています。今後、『いわてジビエ』というブランドをつくっていくために、岩手県内の自治体に説明に行く機会もつくっていますが、思うように進んでいないのが現状です」

事業化のためのプレイヤーが揃っていなかったり、地域ごとに農作物への被害状況や地理的条件が異なっていたりと、大槌のケースがそのまま適用できないむずかしさもある。

それでも、この状況を切り拓いていかない限り、「害獣」という言葉のない未来はいつまでも訪れない。

「講演に呼ばれて、成功例としてご紹介いただく機会も増えたんですが、全然そんなことはないんです。もっとたくさんの人に鹿肉を食べてもらいたいし、実質的な被害の軽減につながる事業にしていかないといけない。そのためにもやっぱり人材が必要なんですよ」

今回新しく入る人には、これまで行われてきた取り組みを深めながら、町外にも活動を広げていってほしい。

たとえば、いわてジビエを推進するために藤原さんと一緒に県内の自治体を回ったり、ジビエの活用に向けて動き始めた自治体の事業立ち上げをサポートしたり。SNSやECサイトを運営して、プロジェクトの広報、情報発信も行う。

猟友会や地域の人たち、視察に訪れる団体やツアー参加者など、関わる人の幅はとても広くなるし、行政とのあいだでの調整や事務作業も多い。

正解のない、大きなビジョンに挑戦し続ける向上心を持ちながら、着実に目の前の仕事を進めていける。ハードルは高そうだけど、そんな人を求めているとのこと。

 

実際に今働いているのは、どんな人たちだろう。

続けて話を聞いたのは、着任1年目の菅原さん。

菅原さんは、今回募集する人と同じ地域おこし協力隊。事業を紹介する広報物の制作ディレクション、視察の受け入れ、事務などマルチに担当している。

ソーシャル・ネイチャー・ワークスは、働く人たち同士の関係性がフラットだという。

「いい意味で、上下関係がないんです。少しでも気になることがあれば、立場関係なく思ってることを言い合えますし、働く場所や時間も基本自由で、それぞれに裁量があります。ちゃんと自己管理ができれば好きなように働けるのも、すごく特徴的だなと思いますね」

また、仕事の担当は、各自の得意なことや好きなことに合わせて決めるそう。

たとえば菅原さんは、大学で法学を専攻していた経験を生かして、コンテストや商標権などの申請も担当。昨年の12月には、ジャパンSDGsアワード特別賞の受賞につながった。

「形に残る成果を残せて本当によかったなと思っています。働くなかで、自分自身の成長も感じやすい環境かなと」

一方で、大きなビジョンを掲げるからこそ大変なことも多い、と菅原さん。

「理想と今のギャップを埋めていく作業は、すごくハードです。藤原さんが見据える壮大な未来に向かって、自分で考えて行動していく。人によっては苦労する部分かもしれないですね」

たとえば、今藤原さんが考えているのは、地域商社としての役割を充実させること。

ジビエに限らず、まちのさまざまな資源を活かして地域課題を解決する、大きな循環をつくっていきたいという。

「ジビエも、あくまでコンテンツのうちのひとつ。湧水の活用や養蜂など、これから取り組んでいきたいものはいろいろとあります。事業領域を広げていくことで、今まであまり関わりを持てなかった人たちともつながって、一緒に大槌の未来を考えていくような動きをつくりたい」

地域商社として新たに立ち上げた事業は、新しく入る人に任せることも考えているそう。地域おこし協力隊としての任期を終えたあとも続けていける、事業の種がそこから見つかるかもしれない。

「担っていただきたい役割は本当にたくさんあります。3年後のことも意識しながら、その人のやりたいことに合わせた仕事を一緒につくっていけるといいですね」

地域をあげてスタートしたプロジェクトは、まだ始まったばかり。

前例のない、誰も正解を知らない道を、一緒に切り拓いていきたい。そう思ったら、ソーシャル・ネイチャー・ワークスのみなさんと話をしてみてください。

(2022/1/21 取材 宮本拓海)

撮影時はマスクを外していただきました。

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