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宿そのものが三方よし
近江商人の名家を継ぐ

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売り手と買い手が満足するのはもちろん、社会に貢献できてこそ良い商売といえる。

この「売り手によし、買い手によし、世間によし」という「三方よし」は、江戸時代から明治にかけて行商で財を成した近江商人の考え方です。

滋賀県東近江市。ここで、近江商人の邸宅だった屋敷を宿にするプロジェクトが進んでいます。

オープンは今年の7月。近江商人の歴史や文化に触れられる、一棟貸しの宿になる予定です。

今回はこの宿の支配人を募集します。

宿泊業の経験はなくても大丈夫です。近江商人の歴史文化や、地域の人が守り継いできた建物を今に伝える語り部となれるような人を探しています。

 

取材に向かったのは、滋賀・東近江。

米原駅から近江鉄道に乗って40分ほど。五箇荘(ごかしょう)駅で降り、車で5分ほどの場所にある五個荘金堂町というエリアへ。

五個荘金堂町は、国の伝統的建造物群保存地区にも選定されている地域で、かつて近江商人が暮らした屋敷が今も残っている。NHKの朝ドラの舞台になったこともあり、平日でも観光客の姿がちらほら見える。

その一角にあるのが、外村宇兵衛邸(とのむらうへえてい)。近江商人として活躍した外村家の邸宅で、今回のプロジェクトの舞台となる建物だ。

「外村宇兵衛という人は、明治時代の全国長者番付に名を連ねるほどの豪商だったんです。建物も豪華で、近江商人の文化が盛り込まれたつくりになっているんですよ」

そう話すのは、元市役所職員の栗田さん。

「近江商人は、全国へ行商に出て物を売り、その土地でまた商品を調達して別のところで売る。今でいう商社と同じ仕組みの商売をしていました」

「外村さんはそのなかでも有力な商人だったので、地域の人たちは今でもこの建物を誇りに思ってはるんです」

市の史跡である外村宇兵衛邸。1860年の建築で、しつらえにはさまざまな工夫が施されている。

たとえば、天井と鴨居のあいだにある欄間。

「普通やったら彫り物があることが多いけど、これはシンプルな見た目でしょう。でも、実は高級な木材を使っているんです。贅を凝らすけど、華美な装飾はしない。こういうところにも質素倹約、質実剛健な近江商人の気質が表れています」

続けざまに、ちょっとここに座ってみてください、と庭に面した部屋へ。

「この建物と庭は、正座の視点で眺めるよう一体的に設計してあります。だから立って見ると見栄えが良くないが、正座をして眺めると一枚の絵のように見える。すべてが計算してつくられています。これだけの庭を、一棟まるごと貸しきって眺められるホテルは、ほかにないと思いますよ」

畳の上に座って、ぼんやりと庭を眺める。しんとした静けさだけが残る時間は、なんだかほっとする。

「夜になると月明かりが照って、建物の白壁がきれいに浮かんでくるんですよ。そして山の稜線がくっきりと夜空に出てくる。それを見ているだけで、心が洗われるんですよね」

「京都とか大阪にもいいところはあるけど、これだけ静かな時間を過ごせる場所はそうないと思っていて。この静けさも、宿の魅力だと思います」

キッチン以外、内装はほとんど手を入れておらず、あとはベッドなどの家具を入れるのみ。オープンは7月を予定している。

文化財を活用する事例はあるけれど、一棟貸しの宿にするのはめずらしい。そもそも、栗田さんはどうしてこの建物に関わるようになったんでしょう。

「6年前くらいかな。僕は市役所に勤めていて、観光物産課に異動になったんです。そこで市が管理運営していた外村宇兵衛邸を含む4館の近江商人屋敷に関わることになって」

「見てもらってわかるように、これだけの庭や建物を維持するのって、すごく費用がかかるんです。入館料の収入はありましたが、このまま今後も維持し続けるのはむずかしい。それで、民間企業に入ってもらって、建物を活用できないかと考えました」

栗田さんはまず、五個荘金堂地域の住民がまち並みを維持するために組織している景観委員会に参加した。

「困りごとはありませんか? 地域課題を把握したいんですって言ったら、めちゃくちゃ怒られたんですよ。地域に足も運ばんと、たまに来て地域課題を聞くってどういうことやって。僕もそれはごもっともやなと思って、それから月に2回ある景観委員会に2年通いました」

参加して、どうでしたか?

「話を聞いてると、地域の課題が見えてくるんです。たとえば、まち並みを維持するために必要な費用が負担になっているとか、建物を改築するにもルールが厳しく若者が地元を離れてしまったとか。そんなことになってるんやと知って」

建物を活用することで維持費用をまかないつつ、まちづくりにもつなげていけないか。

そんなふうに考えていくなかで知ったのが、全国各地で古民家を活用した事業を手がけている株式会社NOTE。栗田さんはさっそく連絡をとり、宿として活用する事業が動き出した。

「すごく覚えてるエピソードがあって。ここは伝統的建造物群保存地区なので、大きな改修をするときには、地域の方々や大学教授などの専門家で組織する伝建審議会っていうところに報告したんです」

今でこそ文化財を活用する事例が出てきたけれど、従来の文化財保護の考え方は、建築当時の状態や機能を残したまま維持・管理することが基本だった。

今回の外村宇兵衛邸のホテル活用についてもさまざまな意見が出て、会議が紛糾することもあったという。

「でも、そのときに委員である地域の方が言ってくれたんです。『僕たちは市の話を聞いて、金堂にはこうした取り組みが必要だと感じたし、やってほしいと思ってる。どうすればできるか、という方向性で、なんとか議論できないか』って」

「この事業は、地域の思いも背負って進んでいるんです。だから僕も最後までやりますってお約束しました。異動があると関われなくなってしまうので、市役所も3月末で退職して」

今後は、宿の運営のために東近江市とNOTEが出資してつくった「株式会社いろは」から業務を受託する立場で関わるそう。

今回募集する人は、この宿に常駐して日々の運営の中核を担っていってほしい。

栗田さんは、どんな人にこの宿をつくっていってほしいですか。

「僕としては、建物の価値をしっかり伝えられる人が来てほしいなと。そして何より、地域への想いが大事やと思っているので、地域の人としっかりコミュニケーションを交わして、意見交換しながらホテルを運営してくれる人がいいなと思います」

まずは地域の人との交流も深い栗田さんに付いていって、顔を覚えてもらうのがいいと思う。近江商人の歴史や文化についても、そのなかで学んでいけるはず。

 

宿のオペレーションを考えていくにあたっては、NOTEがサポートしてくれる。

もう少し具体的な話も聞いてみたい。栗田さんとともに今回のプロジェクトを進めている、NOTEの石川さんが教えてくれた。

「建物のつくりを大きく変えたくないのもあって、宿は一棟貸しにする予定です。一組10数名までの利用で、企業の研修等、学びの場としての利用を想定しています」

「近江商人のルーツとも言える、“商い”の聖地で合宿をする、みたいなことが起きると面白いなと思っています。企業向けの売り出し方とか、そういった企画から考えてもらえるような人だといいかもしれません」

近江商人をルーツに持つ企業は意外と多い。有名な企業だと、伊藤忠商事や下着メーカーのワコール、小泉産業など。まずはゆかりのある企業にアプローチして、研修利用の提案をしていく予定だ。

また、シアター付きの蔵をレンタルスペースにしたり、キッチンを貸し出したり。企業の人だけでなく、地域の人にも活用してもらえるような場所にしていきたい。

「ホテルでの経験よりは、近江商人の歴史や文化に興味を持ってくれるのが一番大切なことなのかなと。いわばこの建物を自由に使える仕事なので、いかに面白い場所にしていくか、ワクワクした気持ちで動いてくれる人だったらうれしいですね」

食事は周辺の飲食店を紹介したり、飲食店の人に宿へ出張してもらって提供したりという形を考えている。掃除などの作業は近所の方を中心にパートさんを雇用する予定だ。

宿ができることで、地域に新しい需要や雇用を生み出す。この建物を活用すること自体が近江商人の三方よしの精神をあらわしているようで、それも面白い。

 

最後に話を聞いたのは、5年前に東近江へ移住した吉田さんご夫婦。五個荘から車で10分ほどの、八日市駅近くのアーケード街でカフェを営んでいる。

今回のプロジェクトには、食事の提供で協力する予定なのだそう。

「最初は地域おこし協力隊として来ました。嫁さんと、将来はパン屋とかカフェをしたいねって話をしていて、どこでできるかなと探して見つけたのが東近江で」

「『パンカフェKOKON』っていうお店をしてるんですけど、カフェというより居酒屋みたいな感じになっちゃってますね。ほんまのこと言うと、深夜食堂っていうのがあるでしょ。あれに憧れたんですよ(笑)。メニューに豚汁しか書いてないけど、食べたい物を言われたらそれをつくる、みたいな。そういう心意気でお店をしてます」

栗田さんと出会ったのは、栗田さんがお客さんとしてKOKONに来たことがきっかけだった。その縁から、今回のプロジェクトにもつながった。

東近江は住んでみてどうですか?

「一番思うのは、人が優しいってことかな。ほんまに優しいんですよ。よそ者っていやがられるんかなって思ったら、ぜんぜんそんなことなくて」

「たとえばお店を開くときに、自分たちでDIYして内装をつくったんです。時間がなくて夜中にやったこともあったんですけど、普通怒られるやないですか。でも『がんばりや。わたしら寝とるだけやから気にせんで』って言ってくれて。『それよりはよオープンして、パン食べれるの待ってるから』って。こんな優しい言葉かけてくれるんやって思いました」

吉田さんはキッチンカーを持っていて、出張飲食店もしているそう。宿にもそういった形で関わる予定だ。

支配人として働く人も、吉田さんとは飲食の面で関わることになるし、移住者の先輩としても頼れる存在だと思う。

支配人には、どんな人が来たらいいと思いますか?

「上から目線はだめだよっていうことは伝えたいですね。『都会から来てやったぞ』みたいな雰囲気を出してると、必ず反発されてしまうと思うので。しっかりと会話と対話を重ねられる人やったら、面白い場所をつくっていけるんじゃないかなって思います」

三方よしの理念が生まれた背景のひとつが、近江商人が全国各地で行商をするにあたって、もとからその地域で暮らす人たちの反感を買わないように振る舞ったこと。

それが、取引先と自分、そして地域の人たち。三つを大事にする考え方につながっていると言われています。

その想いは、この宿で働く人にとっても大切なことかもしれません。まずは近江商人の歴史文化に興味を持って、三方よしの精神で飛び込んでみる。そこから、面白い場が生まれていくように感じました。

(2022/4/5 取材 稲本琢仙)
※撮影時はマスクを外していただきました。

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