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キテンはキャンプ場

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シュー…。パチッ、パチパチ。シュー…。

蒸発していく水の音、燃えてはじける薪の音。温度計の針は90度に差し掛かり、じわっと汗がにじむ。

取材のつもりが、なぜかテントサウナに入っています。

ここは岐阜県郡上市。清流・長良川が真横を流れる、およそ6000平米の緑地です。

写真にうつっているのは、岐阜県関市で刃物の小売業を展開する株式会社フルータスの古田さんと、生地の卸売やアパレルの縫製を手がけるhonest(オネスト)の川嶋さん。

異業種のおふたりがタッグを組み、8月にキャンプ場をオープンします。今回は、このキャンプ場のマネージャーとサブマネージャーの募集です。

特徴的なのは、オリジナルのアウトドアブランドを展開していること。「㐂.(キテン)」というブランド名で、まな板と包丁のセットや帆布のエプロン、牛革の耐火グローブやクーラーボックスなど、さまざまなものをつくっています。

また、地元の自治会のみなさんによる「支援隊」が組織されていて、草刈りやグランピングのベッドメイクなど、日々の維持管理をサポートしてくれるそうです。

マネージャーは、地域の人たちとコミュニケーションを交わしながら、イベントの企画やプロモーション戦略の立案、日々の予約管理やパート・アルバイトスタッフの採用など、俯瞰的にこの場所を運営していく役割。経験や資格は問いません。

キャンプが好きで、いつかキャンプ場を経営したいと思っていた人なら、まさにその夢を叶えていけるような仕事だと思います。

 

キャンプ場の予定地へは、岐阜駅から車で1時間弱。美並ICで降りて長良川沿いに走っていくと見えてくる。

川の向こうにも道路が通っていて、斜面の少し下には長良川鉄道の線路がある。電車好きな人には絶好のスポットだと思う。

現地につくと、川嶋さんがタープを張っているところだった。

「バーベキューでもしながら話しましょう」ということで、朝5時起きで設営してくれていたみたい。熱意がすごいし、ありがたい…。

椅子出しやテントサウナの設営を手伝って、一通り完了したところで、腰を落ち着けて話を聞くことに。

まずは川嶋さんから。

生地の卸売やアパレルの縫製を手がける川嶋さんと、刃物の小売業を展開する古田さん。

年齢は一回り違うものの、商工会の青年部に同期で入会して以来、仲良くなったそう。

でも、異業種のおふたりがなぜキャンプ場をはじめることに?

「ぼくが、キャンプの道具がかっこいいなと思って買い集めてたんですね。それで『この道具はああでこうで…』とかめちゃくちゃ語っとったら、フルータスくんに聞かれたんです。『キャンプ行ったことあるんですか?』。…ない、と。そしたら『エセキャンパーだ!』って言われて(笑)」

「それが悔しくて、本格的にキャンプをやり出したんですけど。そのうち、あれ、これ自分でもつくれる商品あるなと。今ブームもきてるし、アウトドアの商品つくったら売れるんじゃないの?っていうふうに、話が弾んでいったんです」

ちょうど古田さんも「㐂.(キテン)」というブランドを立ち上げ、県内産のヒノキを使った折りたたみ式のまな板と包丁のセットをつくっていた。

一方川嶋さんは、倉庫に眠っていたデッドストックの布に注目。帆布を使ったエプロンや、耐火性のある牛革のグローブ、職人が縫製した布製のクーラーボックスなどさまざまな製品を開発して、ラインナップを広げていった。

「商品もできたし、ホームページをつくって、いくらで販売していこうって話してたなかで、突然ですよ? 『川嶋さん、キャンプ場やりませんか』って彼が言い出して。ぼくは、え?それいくらかかるの?不安でしかねえじゃんって話だったんですけど、フルータスくんの勢いがすごくて。よしやろう、ってなったのが1年半ぐらい前ですね」

まずはフィールド探し。一緒に車に乗って、このあたりの土地を見て回った。

地元のデベロッパーの会社にも協力をあおぐと、案内されたのは電波も通じない山奥。山蛭に血を吸われて、さんざんな思いをしたそう。

「担当の片桐くんって子が、『今度こそ間違いないから』って教えてくれたのがこの場所で。さんざん山奥に連れてかれた後だったので、またまた…とか言いながら来てみたら、むちゃくちゃいいじゃんって。そこからはトントン拍子に進んでいきました」

真横を長良川が流れる、およそ6千平米の土地。ここにオートサイトを28サイト、グランピングを3サイトつくる。

まだ草刈りしていないエリアも多いので、少しイメージが湧きづらいけど、川が近いこともあって広々した感じがする。

31サイトのうち18サイトには電源と水道を引く予定で、テントやシュラフなどのレンタル品も完備。管理棟ではキテンのオリジナル商品を購入することもできる。

キャンプファイヤーができるエリアと、テントサウナも3台設置する。汗をかいたら、ととのいチェアに腰掛けてじっくり外気浴をしてもいいし、敷地のすぐそばには流れのおだやかな沢もあるので、ザボンと入れる水風呂のように整備していきたい。

車で10分ほどの距離に温泉も2つあって、郡上八幡のまちなかからもそれほど離れていない。キャンプ初心者でも、手ぶらで来て楽しめる環境が整っている。

 

「若い人にも来てもらって、地域の活性化につながればと思っています」

そう話すのは、隣で聞いていた古田さん。

キャンプ好きな川嶋さんに対して、じつはあまりキャンプ経験がないという。

キャンプ場をつくろうと思ったのは、ここがいろんな意味での「キテン」になると考えたから。

「たとえば、障害のあるお子さんを持つご家族限定の貸し切りイベントをやりたくて。普段なかなかキャンプ場に来られない方々が、自然に触れて楽しめる機会をつくれたらと思っているんです」

「あとは地元の中学や高校と連携して、中高生にグランピングを一棟任せて実際に運営してもらうとか。遠くから来る方だけじゃなくて、地域の方も関わっていただけるように、うまく巻き込みながら運営していきたいですね」

地域の人たちがつくった野菜を販売したり、大学のアウトドアサークルと連携して、長期休暇中に働いたぶん自由に施設を使えるような仕組みをつくったり。

いろんな形で人の流れを生み、それがこの地域の活気につながって、事業としても持続的なものにしていけるといい。

広報・PRに関しても、ちょっと変わった方法を考えているという。

「インスタガールのみなさんに協力してもらっています」

インスタガール?

「無料で泊まっていただく代わりに、SNSに投稿してもらうんです。ぼくとか川嶋さん世代が一生懸命がんばって投稿するよりも、若い世代の方がキャンプを楽しんでいる自然な様子をアップしてもらったほうが、発信力も明らかに高いだろうなと思っていて」

SNS投稿のほか、インフルエンサーへのアプローチもインスタガールの担当。東海3県のレジャーやグルメを紹介しているインスタグラマーのご夫婦が、さっそくオープン後に来てくれることになっている。

古田さんは、どんな人に来てもらいたいですか。

「思いついたことを自発的にどんどん形にしていける方がいいですね。ぼくは今パーソナルトレーニングを受けてるんですけど、マッチョな方たちを呼んでイベントをやりたくて」

マッチョなイベント…。

「マッチョの薪割り、とか(笑)。なんかおもしろそうじゃないですか。集客につながるかはわからないけど、まずやってみたらいいと思うんです」

鉄道好きな人なら、長良川鉄道の撮影イベントもできそう。周辺の民家からは少し離れた立地だし、野外ライブにも向いていると思う。

川嶋さんも古田さんも、「いいな」と思ったことはどんどん前に進めるタイプだから、その感覚を共有できる人だといい。

「マネージャーとサブマネージャーの募集なので、ご夫婦でもいいと思います。アウトドアが好きで、田舎でキャンプ場を経営してみたいと思っていた方とか」

ふと思ったんですが、ぼくみたいなライターやデザイナーなど、リモートで働ける人が副業として関わる選択肢もあるんでしょうか。

「ああ、いいかもしれないですね。関わり方や報酬については相談をしたいですけど、そのうえで全然ありだと思います」

お話を聞いていると、働き方も運営の方法も、かなり柔軟な印象を受ける。今回来る人のやりたいことや得意なことに応じて、キャンプ場のあり方も大きく変わっていきそうだ。

一方で、自由度が高いぶん、立ち上げ段階では苦労することも多そう。

「ぼくらはふたりとも宿泊業がはじめてで、オペレーションやルールづくりから手探りで進めているような状態です。火を扱ったり、すぐそばを川が流れていたりと、危険もある。しっかりとお客さんにルールを守ってもらって、トラブルが起きないようにしていくための管理能力は必要ですね」

 

最後に、そんなキャンプ場の完成を心待ちにしている自治会長の戸田さんにも話を聞いた。

「毎日ここへ来て、どんなふうに変わっていくかなとか思いながら、楽しみにしています。薪もたくさん使うだろうから、あっちのほうに少しずつ貯めていて。地元もみんな歓迎していますよ」

もともとこの場所は、自治会が管理していた空き地。人が佇める緑地帯にしようということで、桜や紅葉や果樹を川辺に植えたものの、管理が大変で困っていた。

だからこそ、キャンプ場のオープンが楽しみだし、地域一体となって盛り上げていきたいという。

自治会としても、有志のメンバーで「支援隊」をつくり、さまざまな形でサポートしていく。

「このあたりでとれた野菜を直売するとかね。あとは草刈りにしろ、グランピングのベッドメイクにしろ、できることはお手伝いして、とにかくここが起点になって、地域が活性化してくれるとありがたいなというふうに思っています」

オープン前からこれだけ協力体制が築かれていることもめずらしい。

外から来る人に対してオープンなのは、このあたりの地域性なんでしょうか。

「幸いこの西乙原(にしおっぱら)という地域は南向きの斜面地で、開けた雰囲気はありますね。高齢化が進んで空き家もちょこちょこ出てきてはいますけど、幼稚園や中学校もあって。最近は移住してくる人も年に2世帯ほどいるかな」

「もしこの近くに住みたいということであれば、空き家の紹介なんかもできますので。安心して来てもらえたらと思います」

キャンプ場や「㐂.」というブランドは、これから形づくって色をつけていくような段階です。関わるみなさんとわいわい話しながら、その自由さを楽しめることが大事なのだろうなと感じました。

オープンは8月。ここから新しい起点をつくっていってください。

(2022/5/11 取材 中川晃輔)

※撮影時はマスクを外していただきました。

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