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やっぱり料理が好きな人へ

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「どっかで料理してて、なんかやめちゃって、でももう一回料理したいなって人。そういう人は絶対、料理が好きじゃないですか。やっぱり自分には料理しかないなって思う人に来てほしいです」

多田屋の料理長、酒井さんの言葉です。

開湯1200年を誇る石川県屈指の温泉街、和倉温泉。その中心部から少し離れた湾のほとりに、多田屋は静かに佇んでいます。

ここで料理をする人を募集します。

穏やかな自然に抱かれながら、料理と向き合いたい。農家や漁師、器などのつくり手と関わりたい。言われたものをただつくるのではなく、自分のアイデアを活かした料理をつくりたい。

そうした想いを酒井料理長は汲み取ってくれる人だと思います。

和食以外のフレンチやイタリアンの経験者でもいいし、未経験からでも大丈夫。大事なのは料理が好きだという気持ちです。

あわせて、パティシエの経験者も募集します。

 

金沢駅から特急でおよそ1時間。

東京では散ってしまった桜がきれいに咲いているのを眺めながら、和倉温泉駅へ向かう。

駅から多田屋までは、送迎バスで7分ほど。取材で訪れるのは4回目だけれど、季節ごとに表情が変わるので、毎回新鮮な気持ちになる。

ロビーで迎えてくれたのは、6代目社長の多田健太郎さん。

大学を卒業後、アメリカに留学して20代は東京のITベンチャー企業で勤務。20年前に家業の多田屋へ入社して、7年前からは経営を担っている。

健太郎さんの代になってから、多田屋はさまざまな変化を遂げてきた。

たとえば、売店で扱う商品は能登ゆかりのものだけを揃えるようにリニューアルしたり、フリードリンクのラウンジを設けることで、客室係のお茶出しの時間を別の形でおもてなしに充てられるよう工夫したり。

健太郎さん自ら各地を取材し、発信するメディア「のとつづり」からは、能登の文化や産業、それらが織りなす風景や人の営みが心地よく伝わってくる。

旅館の当たり前を問い直す姿勢が、その根底にはあると思う。

「旅館っていう枠を外したいんです。多田屋という名前は、すごく旅館っぽいんですけどね。地域と一緒にお客さんをお迎えして、喜んでいただくのがぼくらの商売の本質だと思うので、それをどう実現できるかを常に考えていたい。料理部門も同じです」

昨年の4月には“料理改革”を実施。品数を10品から6品に絞り込み、7種類ほどに分かれていた献立も一本化した。

これによって、それまで間違えずに提供することで精いっぱいだった配膳担当の人たちは、一つひとつの料理をじっくりと、自信を持って紹介できるように。

また、以前から地元の食材を活かしてはいたものの、市場に並んでいれば遠い産地のものを組み合わせて使うことも少なくなかった。今回の改革で必要な食材が絞り込めたことで、県内を中心に北陸3県の食材にとことんこだわった料理がつくれるようになってきた。

「もちろん今までの形を変える不安もありましたけど、お客さんからは好評をいただいています。リピーターさんも、今のほうがいいと言ってくださる方がほとんどですし、次の予約をしてくださる方も増えました」

 

そんな改革を健太郎さんと二人三脚で進めてきたのが、料理長の酒井さん。

酒井さんが多田屋へやってきたのは、およそ11年前のこと。

先代の料理長がやめることになり、当時専務だった健太郎さんが次の料理長を探すことに。もともと金沢の料亭「つば甚」で副料理長を務め、地元の長野県で自分の店をひらこうと準備を進めていた酒井さんに白羽の矢が立った。

「長野で犬の散歩をしてたら、電話がきて。さっそく次の日、当時専務だった社長に長野の喫茶店まで来てもらって、料理に対する想いとかを2時間ぐらいお話ししました。ぼくは料亭仕事しかしたことがなかったので、夏に一回こちらへ来て、館内をいろいろ見させてもらって。その年の9月には調理場に入っていましたね」

奥さんがもともと能登の人で、花火大会などに合わせて和倉温泉には何度か来たことがあったという酒井さん。

まさかその土地で働くことになるとは思っていなかったそうだけど、気づけばもうすぐ11年が経とうとしている。

料理人として、酒井さんが大事にしてきたことって何ですか?

「プライドがないと言ったら変かもしれないけど、ぼくはイタリアンでもフレンチでも、いいなと思ったら取り入れたくなる人間で。つば甚で修行してたときも、トマトを裏漉しして透明なジュースをつくったりとか、昔から変わったことが好きだったんです」

たとえば、十数種類の野菜を蒸したり焼いたり、味を染み込ませたり、異なる調理法であしらった一皿。そのアイデアは、地元のイタリアンレストランの料理からヒントを得たものだという。

業態や規模を考えると、まったく同じことはできないから、どう多田屋風にアレンジできるかなと考え、取り入れていく。

「和食ではあるんですが、料亭の仕事とも違うし、旅館の料理でもない。多田屋の料理という感覚でつくっています」

多田屋の料理、ですか。

それはどういうものなのか、もう少し詳しく知りたいです。

「能登は食材が豊富で、そのまま食べてもだいたいおいしいんです。たとえば菜の花にちょっと塩気がほしいなと思ったら、能登牛の生ハムを巻いたり。ホタルイカだったら、ボイルして酢味噌をつけてもおいしいんですけど、しゃぶしゃぶで食べてもらったり。素材のよさを活かしつつ、こうしたらもっとおいしいですよっていう+αをして提供する感じですね」

北陸といえば魚介類のイメージが強かったけれど、農業も盛ん。「能登の里山里海」は、2011年6月に国内ではじめて世界農業遺産に認定されている。

健太郎さんも最近、「野菜のおいしさにあらためて気づいた」という。

「当初は能登野菜=地元の野菜だと思っていたんですね。でもたとえば、スティックセニョールとか、いろんな野菜をおいしく栽培してらっしゃる方と出会うようになって。“能登〇〇”に縛られる必要はないなっていうことは、この一年で気づいたことですね」

昨年4月の料理改革以降、地元のものにあらためて目を向けたことで、つくり手と関わる機会も増えた。

畑や漁港、料理に使う器の工房など、現場に足を運ぶことで刺激を得られるし、それは新しい料理のアイデアにもつながっていく。

北陸3県の食材にこだわると、雪害や日本海の荒れ具合に仕入れが大きく左右されるなど、越えなければならない壁もあるものの、料理をするには理想的な環境が少しずつ整ってきている。

今回募集したいのは、料理人とパティシエ。

朝は早く、6時には朝食の準備をはじめる。8時ごろにはいったん作業は落ち着いて、しばらく自由時間。14時に戻ってきて、食材の発注や在庫管理、夕食の仕込みや盛り付けを進め、20時には仕事が終わる。

今、調理を担当するのは5人のスタッフのみ。今回の募集で人が増えて余裕が出てくれば、つくり手のところを回って農作業を手伝ったり、県内外のレストランを訪ねたりして、料理や食材について学ぶ機会を増やしていきたいという。

酒井さんは、どんな人に来てもらいたいですか。

「料理人というより、料理が好きな人のほうがマッチするんじゃないかな。料理人って、家では料理しないって言うじゃないですか。ぼくはめっちゃするんです(笑)。仕事じゃなくても、おいしいものが食べたいんですよね」

自分で釣った魚を捌いたり、休みの日もつい台所に立ってしまったり。

料理を仕事として捉えるよりも、生活の一部として普段から楽しんでいるような人がいい。

「あとは自分の思う料理をつくっていきたい人。献立も、各パートの人に考えてきてもらうことが多いです。ぼくから『それはダメ』って頭ごなしに言うことはないし、『もうちょっとこうしたら?』とか言いながら、みんなで試食して、いいねとなれば採用するので」

料理をする人は、実務経験がなくても大丈夫。

経験者であっても、旅館業や飲食業に対して思い込みのない人が向いていそう。和食に限らずイタリアンやフレンチなど、異なるジャンルでの経験を持ち込んでくれる人も歓迎とのこと。

パティシエに関しては、経験者を求めている。お祝いごとで多田屋を利用するお客さんも多いなか、パティシエならではの感性や経験を活かして、和食経験者が中心の厨房に新しい風を吹かせてほしい。

 

また、食事会場のリニューアルも今後予定している。宴会場を個室に改装し、もうひとつのダイニング会場とのあいだに共同のパントリーを設けることで、作業効率を高めてコミュニケーションもとりやすくしたい。

そのリニューアルに関わっているのが、調理場とお客さんをつなぐ料飲担当の堀上さん。もともと建築を学んでいたことから、これまでもダイニングスペースや売店の設計に携わってきた。

「調理場をもっとオープンにして、料理をする人とお客さんとの距離を近づけるようなビジョンもありますね。調理場にこもりっきりじゃなくて、お客さんとのコミュニケーションも大切にしていきたい。今からリニューアルが楽しみですね」

堀上さん自身、食への関心が高く、家ではよく料理をするそう。

食事とお酒のペアリングにも取り組んでいて、今後はスタッフの教育にも力を入れていきたいという。

「能登にはすばらしい生産者やシェフがたくさんいらっしゃいます。みなさんおいしいものに向き合っていった結果、体にやさしいものに行き着いていて。高級食材をわーっと集めて華やかにするよりは、もっと自然でナチュラルな価値観になってきているのかなと」

多田屋としても今後、心と体を整えるような旅の企画を考えている。

ワーケーションや、スポーツの大会前のトレーニング期間、SDGsを学ぶ研修など。穏やかな自然に囲まれた環境を活かして、中長期の滞在を受け入れていきたい。

カロリー計算や栄養バランスなど、食事の面からもニーズに応えたいので、管理栄養士やアスリートフードマイスターのような資格を持っていれば、その経験も活かせる場面があると思う。

「自分からどんどんチャレンジしたい人がいいですね」と健太郎さん。

「ここに来たら和食を教えてもらえます、っていうよりは、一緒に何かしたい。そういう想いを持っていてほしい。魚釣りにハマったり、自分でも野菜を育てたりして、暮らしも一緒に楽しみながら、仕事に活かしてもらえるのが一番いい形かなと思います」

 

取材を終えてひと休みしたあと、夕食をいただくことに。

あ、これが酒井さんの話していた、ホタルイカのしゃぶしゃぶだ。ハマグリやアカモクを順番に入れていくと、出汁の味が重なっておいしい。

加賀棒茶で燻した鱈、甘味のじゅわっと広がる能登豚の塩煮、醤油のアイスクリームに、ふきのとうのパンナコッタ…。

書き出すとキリがないので控えますが、幸せなひとときでした。

料理は、お腹を満たすだけのものじゃない。ときに心も満たして、前向きな気持ちにさせてくれるものです。

この土地で、あらためてそんな料理をつくりたいという人を待っています。

(2022/4/11 取材 中川晃輔)

※撮影時はマスクを外していただきました。

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