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家づくりという船出
大きく漕ぎ出す
櫂になりたい

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

建築やデザインは、形や空間をつくる仕事です。

ただ、本質的に目指すべきなのは、その形に触れ、その空間で過ごす人が心地よく、長く対象を大事にできることだと思う。

ローコストで短期間の引き渡しが可能な家づくりが主流になりつつあるなか、その本質と向き合って住まいや暮らしづくりを続けてきたのが、岡山にある設計工房枻(かい)のみなさんです。

設計工房枻は、工務店と設計事務所の役割を一気通貫して担っている会社。

こだわり抜いた素材を活かし、施主さんのライフスタイルに寄り添いながら、機能性とデザイン性の高い空間を生み出しています。それが実現できるのも、設計と施工の両方を熟知しているからこそ。

今回募集するのは、工程や品質・安全面などの管理を担う現場監督と、プランニングから営業を含む設計担当です。

基礎的な建築知識があって、経験を活かしながら誠実に建築と向き合いたいという人。何より、建築が好きという人に知ってほしい会社です。

 

岡山駅からバスに乗り20分ほど。住宅街を抜けた大通り沿いに枻のオフィスはある。

窓の外には、オフィスに沿って植えられた季節の木々。室内には、遊び心のあるアイテムの数々が並べられている。

心地よく、洗練された空間。

「この建物、もともとは歯医者さんだったんですよ。自分たちで全部つくり変えたんです」

迎えてくれたのは、代表の秋山さん。

「私が建築の世界に入った当初は、女性の設計士なんてほとんどいない時代で。現場に行くと、大工さんが『お前の言うことは聞かん』とか、役所に行けば『図面を書いた人間連れてこい』って怒られるとか。よくわからないけど腹が立つなと思って、負けないようにがんばってきました」

それだけ建築をやりたかったんですね。

「いや、はじまりはなんとなく。でもやっていくうちに、面白さにどんどん気づいていったような感覚です。勤めてきた会社もいろいろですね」

倉庫や事務所を鉄骨でつくるような設計事務所で構造を学んだり、古民家を活かした家づくりをしている工務店に入ったり。

最後に勤めていたのは、当時の岡山では画期的だったキューブの家づくりをしている会社。ガラス張りの事務所で、1階にはカフェがあり、働いている様子がお客さんからよく見えるような、前衛的なオフィスだった。

そこで設計のチーフをしていた秋山さんと、現場のチーフだった湯浅さんが独立し、2007年に立ち上げたのが設計工房枻。

さまざまなスタイルの建築に関わってきて、今はどんなことを大切にしながら家づくりと向き合っているのだろう。事務所の隣にあるモデルルームへ移動し、実際の空間を見ながら紹介していただくことに。

「一年中快適な空間を私たちはつくりたくて。ここにはエアコンがないんですよ」

見渡してみると、たしかにどこにも見当たらない。

「輻射式冷暖房を導入しているんです。冬になると装置のなかを温かい水が、夏になると冷たい水が流れる。そこから輻射熱が、床・壁・天井の全部に伝わるんです」

「壁の断熱材には、断熱効果の高いエコボードという木製チップを使っています。これはドイツ製で、再生可能な素材。身体に悪い化学のものはほとんど使っていないんです」

エアコンや扇風機のように風で届く快適さとは違って、適温の自然環境のなかに身を置いているような感じがする。

それに、とても静かですね。

「この装置ってまったく音がしないの。合わせて、トリプルガラス加工の窓を導入しています。だから車通りが多い時間帯でも室内は静か。私の家も、もう一回建て直したいくらい(笑)」

床には肌触りのいい無垢の木を、壁には調湿機能のある多孔質の石を使用。本物の素材を取り入れることにこだわっているという。

秋山さんが説明してくれるもの、一つひとつに安心感がある。

「でもやっぱり、素材や機能面だけでなく、デザイン的な魅力を併せ持っていないと、魅力的な家はできないと思っています」

枻のデザイン的な魅力はどんなところにあるのだろう。

「お客さんが望む家をつくるというのは大前提です。予算と相談しながら、できるだけ施主さんの希望を叶えられるようにと。そのうえで、ストレスのかからない家というのをずっと意識していて。それから、ラインがきれいな家」

ラインがきれいな家。

「窓枠や扉の高さが揃っていない開口部って多いんですよ。それが私はなんだか落ち着かなくて。だから、必ず揃えるようにしています」

あらためてモデルルームを見渡すと、見事にラインが揃っていることに気付く。

美しいラインを実現するために、天井までの高さのあるクローゼットの引き戸や扉をオリジナルで制作することもあるのだそう。

「キッチンと背面収納の高さも揃えます。なぜそこにこだわるかというと、料理をしていてふっと振り向いたときに、高さが違うと動作が変わるじゃないですか。そうすると、小さな負担が積み重なる。同じ高さだとスムーズですよね」

「なんでもかんでも奇を衒ったデザインではなく、動線や暮らし方をきっちり踏まえたうえで提案する。引き渡したあとに、お客さんから枻にして本当によかったわって。そんな声を聞くためにつくっています」

本物を追求し、環境にも配慮した素材選び。表面的な美しさではなく、そこに住む人々の暮らしに寄り添って生み出すデザイン。

枻らしい家づくりの背景には、きめ細やかなこだわりの積み重ねがある。

「スタッフに対して、私はよく『設計には訳がある』って言うんですよ。お客さんに何か聞かれたときに、もしも言葉に詰まったら、それは考え抜いていない証拠で。すぐに答えられる準備をしておくのが設計士の役割だと思うんです」

家づくりにおいて大事なのは、心地よさや機能性だけではない。

たとえば、輻射式冷暖房や断熱材のエコボードなどは、導入費用がかかる。家を建てるときのことだけを考えると高いけれど、使い続けることで削減できる光熱費やメンテナンス費など、長い目で見れば、じつは経済的にもメリットがあることがわかってくる。

最初から秋山さんのように語ることは難しくても、さまざまな角度から「なぜだろう?」と考えて、自分なりに言葉にしていくことが大事だと思う。

 

続いて現場監督の湯浅さんにもお話を聞いた。秋山さんとは、枻を立ち上げる前から20年以上ともに仕事をしている。

「僕はもともと職人だったんですよ。田舎で手仕事を大切にしている大工さんのもとで働いていたんです。そこを辞めたあと、文化財修復の大工仕事もしていて。事故に遭ってしまったのをきっかけに、勉強して資格を取って、現場監督の世界に入りました」

設計の表現をディテールまで実現するために、あらゆる分野の職人とチーム一丸となって施工を進める。そんな現場をまとめるのが、現場監督の役割。

職人と現場監督、どちらの立場も経験した湯浅さんは頼もしい存在なんだろうな。

「うちの家づくりはお客さん寄りなんですよね。かっこいい家づくりっていうのはもう若い子らに任せて。素材であるとか工法にこだわった、真面目な家づくりをしているつもりです」

「設計の変更にともなう費用も、微細なことであれば基本的にはいただいていなくて。現場に入って、ここをちょっと直してくれって職人さんに伝えないといけない場面も多いです。職人さんが間違えているわけじゃないからね。その辺の言い方も勉強なんです」

クライアントや職人さんと密にやりとりする機会は多い。

慣れるまでは、湯浅さんがどんなふうにコミュニケーションをとっているのか、近くで見ながら学んでほしい。

枻が携わる案件は、リフォームを含めて年間8棟ほど。

一見少ない数にも思えるけれど、スタッフはおふたりを含め4人と少人数なうえ、一軒一軒こだわりを込めてつくりあげるため、決してゆったり進められるわけではない。

「今回募集したいのは、枻を引き継いでくれるような人。僕らは歳なんで、次の方に、ゆくゆくは譲りたいわけです。枻のカラーを受け継ぎつつ、これからの枻を引っ張っていってくれる人に来てほしい」

一緒に働いている方々は、どんなことを思っているだろう。写真は苦手ということで、お話だけ聞かせてもらった。

以前勤めていたのは、それぞれアトリエ系の設計事務所とハウスメーカーだというおふたり。4年ほど前に転職してきた。

ここで働いてみて感じる違いは、何かありますか。

「一般的な設計事務所だと、外部の施工会社さんとタッグを組むんです。そうなると自分たちが書いた図面を施工会社に託すことになる。けど、うちは自分たちで書いたものを自分たちでつくる。現場のこともダイレクトに勉強できるのがいいところだと思います」

おふたりの主な担当は設計で、秋山さんのスケッチや指示のもと、お客さんともやりとりしながら図面を仕上げていく。自分なりに考えて提案したことなら、秋山さんも柔軟に取り入れてくれるそう。

また、湯浅さんが動けないときなどは、現場へ出向いて測量などをサポートすることもある。

自分の専門分野だけにじっくり向き合うというよりも、ほかの人の持ち場も把握しながら、引き渡しに向かってみんなで一緒に取り組んでいくような体制。

大変だけれど、そこがほかにはない魅力で、面白さでもあるのかもしれない。

「携わらせていただいたお家はすべて、図面に穴が開くほど間取りを見ているので、全部覚えています。やっぱり、引渡しが完了してお客さんがすごいなって喜んでくれたときは、それでまた頑張ろうって思えますね」

どんな人と一緒に働きたいですか。

「同じ空間にいつも一緒にいるから、みんなと仲良くできる人が一番いいですよね」と湯浅さん。

秋山さんはどうでしょう。

「場の空気を崩さない人かな。それは全てに遠慮してなにも言わないっていうことではないんです。要するにみんなでやっていこうよっていう。臨機応変にやってくれる方がいらっしゃったらうれしい。それで建築が好きであればいいですね」

 

取材後、モデルルームの1階にある食料品店「spoon」も案内してもらった。

ここは、秋山さんが旅先などで見つけたお気に入りの商品を集めたお店。手づくりのお弁当も販売していて、予約でいっぱいになるほどの人気だとか。

「建築もそうですけど、自分たちが本当にいいと思うものしか扱っていません。でないと、お客さんに対しても自信を持っておすすめできないですよね」

秋山さんのスタンスは一貫していて、気持ちがいい。

一生に何度とない、大きな買い物。家を建てるというのは、大海原に漕ぎ出すようなことだと思います。

だからこそ、丈夫な船としっかりとしたオールを準備して送り出してくれる、枻のみなさんの存在は大きい。体感してわかることも多いと思うので、興味を持った人は一度モデルルームを訪ねてみてください。

(2022/5/19 取材 惣田美和子)

※撮影時はマスクを外していただきました。

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