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ダイニングの椅子やテーブル、リビングの棚、寝室の箪笥。実家に帰ると、自分が子どものころから使われている家具が、今も変わらず同じ場所にあります。
20年、30年と、長い年月をともにする家具。
より長く持ち主のそばにあるために。リペアを通じて、一つひとつの家具に寄り添う職人を募集します。
デンマークで100年以上続く家具のブランド「カール・ハンセン&サン」。
代表作の「Yチェア」は、なめらかな曲線のフォルムと、ペーパーコードと呼ばれる紙素材のロープで編まれた座面が特徴です。
今回、日本法人のカール・ハンセン&サン ジャパン株式会社で、ペーパーコードの張り替えや木工家具の修理全般を担うリペア職人を募集します。
木工家具の製作や修理に携わったことがある人なら、経験を活かして働くことができる環境です。
あわせて、お客さまからの問い合わせ対応や受注担当となるカスタマーサービスと、国内のインテリアショップやデパート向けのセールススタッフも募集します。
浜松町から東京モノレールに乗り、羽田空港方面へ。スーツケースを持った人たちが並ぶ急行の列を避けて、各駅停車に乗る。こちらにはビジネスマンが多いみたい。
4駅目の流通センターで降りて、徒歩5分ほど。大きなビルや倉庫が並ぶエリアの一角、「東京流通センター」に、カール・ハンセン&サン ジャパンの平和島倉庫がある。
エレベーターに乗り4階へ。長い廊下を歩いた先にある、倉庫併設のオフィスにおじゃまする。
最初に話を聞いたのは、大島さん。リペア職人が所属する、プロダクションチームを統括している。
今日は千駄ヶ谷にある本社オフィスに出勤しているので、リモートで話を聞くことに。まずは会社全体のことを教えてもらう。
「『カール・ハンセンと息子たち』という名前の通り、初代のカール・ハンセンから代々家族経営の会社です。元々は1908年、小さな家具工房としてはじまりました。3世代目になってからグローバル展開に力を入れるようになって、日本法人も1990年に設立されました」
30人ほどが働く日本法人の代表を務めるのは、イギリス人のネイサン・ベックウィスさん。東京と大阪の直営店に加え、全国のインテリアショップやデパートの家具売り場などに商品を卸している。
「実は日本の売上って、本国デンマークの次に大きくて、国内でリペアができるのもデンマーク以外では日本だけなんです。それだけニーズが多いのもありますし、北欧との気候の違いから、木材の補修が必要になる機会が多いことも理由です」
カール・ハンセン&サンの代表作が、CH24、通称「Yチェア」と呼ばれる椅子。デンマーク出身で椅子の巨匠として知られる、ハンス J. ウェグナーがデザインした。
曲線を描くアームと一体になったY字の背もたれ、座面に張られたペーパーコードが特徴で、ほとんどの工程が職人の手作業でつくられている。
「1950年代の発売以来ずっと愛されている、うちのアイコン的商品です。ペーパーコードは紙素材なんですけど、樹脂を染み込ませているので、すごく丈夫で水分にも強いんです」
オフィスにあるYチェアに実際に座らせてもらうと、想像以上にしっかりした座り心地。それでいて柔らかさや弾力性もあり、なめらかなアームも触っていて気持ちがいい。
使っていくうちに座面にフィット感が生まれて、持ち主の身体に馴染んでいくという。
「うちの商品はどれも、長く使えるいいものを届けたいっていう想いでつくっているんです。新品であれば10年は問題なく使っていただけるし、そこに修理する職人の手が加われば、さらに長く使うことができる」
「一つひとつの椅子に、お客さまのストーリーがあります。娘さんに使ってほしいから座面を張り替えたいとか、次の世代まで受け継いでくれる方もいますね。そんなふうに使っていただけるのはありがたいし、仕事を通じてそこにコミットできるのはうれしいです」
冬が長いことから、インテリアやデザインなど、室内を豊かにする文化が発達してきた北欧。
コロナ禍によって、家で過ごす時間を充実させたいと考える人が増えたこともあり、カール・ハンセン&サンの売上は伸び続けている。
日本での修理依頼も増えているため、今回職人を募集することになった。
現在職人は4人。オフィスの奥にあるドアを開けると、きれいに整理整頓された工房が広がっている。
椅子を中心に、テーブルやキャビネットなど、カールハンセン&サンのあらゆる家具がここに運び込まれる。
職人たちはそれぞれの状態を把握し、立て付けを直したり、湿度で膨張した木材を調整したりと、適切な修理をしていく。
入社後、多くの職人が一から覚えるのがペーパーコードの張り方。
作業の合間を縫って話を聞かせてもらったのは、佐藤さん。勤続29年と、チームで一番のベテランスタッフだ。実際にものを見せながら、親身に説明してくれる。
「ペーパーコードのロープって、見た目は紙袋の取手みたいでしょう。ただ、あれは再生紙の短い繊維だけど、ペーパーコードは天然素材で繊維が長い。そこに樹脂を染み込ませて撚っているので、すごく強度があって。グローブをしないと、編んでいる間に手が擦れて傷だらけになっちゃうくらいなんです」
まずは、10mほどの長さにロープをカット。椅子をしっかりと固定したまま、自分が位置を移動することで編んでいく。作業には広いスペースが必要なので、それぞれの作業台の間はかなり空いている。
椅子一脚あたりに必要なペーパーコードは120mで、一脚編むのにかかる時間は1時間ほど。
ものによっては、アームなどのパーツを補修・交換したり、塗装を乾燥させたりといった作業も発生する。じっくり丁寧に、一脚一脚を仕上げていく。
過去には、洋服屋さんやバーテンダーなどさまざまな仕事をしてきた佐藤さん。縁あって入社したとき、家具職人はまったくの未経験だった。
29年間、ほかの仕事をやってみたいと思ったことはなかったんですか?
「それがね、なかったんですよ。修理の仕事だったからかもしれないです」
修理の仕事だったから。
「毎回毎回いろんな新鮮さがあって。同じ10年ものの椅子でも、置かれてきた環境や使い方で、届いたときの状態が全然違うんですよ。これはこうやって使われてたんじゃないかな?って想像して。可愛がられてる椅子だなあって思ったり」
「購入から50年近く経っている古いものとか、物置にしまわれていたような、少し可哀想なものもなかにはあります。でも、綺麗にしてまた使ってもらえたらいいなって。そう思いながらやってると、結構楽しいんですよね」
作業だけを見れば、日々同じことの繰り返しかもしれない。でも一脚一脚が違うと、何度も口にする佐藤さん。
「お客さまがずっと座ってきた大事な椅子だから、常に責任感は必要ですよね」
届いた商品を最初に検品するときから、傷んだロープをカットするとき。張り替えの最中も、最後に固定して仕上げるときも。
お客さまにとってはたったひとつの椅子だから、自分のミスで壊してしまわないよう、常に集中力を切らすことはできない。
「だから、メンタルを保つのも大事です。集中できてないと、それが編みに表れるんですよ。毎回ちゃんと気持ちを整えてから作業に入るようにしています」
「身体のメンテナンスも大事ですね。結構バキバキになるので。いつでも編めるコンディションにしておけるよう、仕事に対する身体の持っていき方は意識する必要があります」
そう話すのは、2年半前に入社した本多さん。職人のなかでは一番社歴が浅いものの、自分の言葉で丁寧に想いを話してくれる。
「以前は個人の家具工房で、座面を張る職人として働いていました。ほとんどの素材に対応していたんですけど、ペーパーコードだけは扱っていなくて。技術を身につけたいと思って調べたら、自社でペーパーコードを張っているメーカーが日本でここだけだったんです」
当時は関西に住んでいた本多さん。大阪の直営店でペーパーコード張りのデモンストレーションがあり、そこで実演する佐藤さんと出会った。
「いろいろ質問させてもらうと、仕事に対する熱意がすごく伝わってきて。私も同じことができるようになりたいと思いました」
面接には、自分で編んだペーパーコードのスツールを持参。
「きっと受からないと思っていたんです。でも悔いのないように、自分で編んだもののどこがわるいか教えてほしくて。そうすれば、働けなくても次に活かせるから。今考えれば恥ずかしい仕上がりなんですけど、みなさん温かく迎えてくれて、実際に指導もしてくださって」
そんな想いを持って、入社した本多さん。佐藤さんいわく、仕事を覚えるのも早かったそう。
それまでの経験値に加え、学びたいという情熱が、きっと技術の習得を早めたんだろうな。
「最初の半年くらいは、編みのトレーニングをしながら、検品と組み立てを主に担当しました」
工房の隣に併設された倉庫には、大きな段ボールが数えきれないほど並んでいる。
デンマークで製造された商品は、すべて一度この倉庫に届き、検品を経て日本国内のお客さんに出荷される。パーツの組み立てや、カラー変更などで組み替えが必要な商品もあり、修理同様、職人の大切な仕事。
「フレームやシートの構造への理解が深まるし、商品の名前や特性も覚えられるので、まずはこういう仕事をメインに、木工修理やペーパーコードの習得に取り組んでいくことになると思います」
15年ほど自宅でカールハンセン&サンの椅子を愛用しているという本多さん。
「それはCH25っていう、また座面の編み方が違う製品で。そこに座って歯磨きをするのが毎日のルーティーンで、至福のときなんです」
使えば使うほど身体に馴染んでくるのが、ペーパーコードの良さ。
それをまた張り替えることで、椅子とのストーリーはそのままに、さらに長く使い続けていくことができる。
「ペーパーコードって、職人によって表情が違うんですよ。優しさとか、力強さとか、手編みのニットみたいに。だから、同じお客さまから複数の椅子の依頼があったときは、雰囲気が変わらないように、同じ職人が担当します」
「もともと長く使えるつくりの製品ですし、ペーパーコードも含めて、パーツを部分的に変えながら何十年も使うことができる。おじいちゃんおばあちゃんの椅子を貰い受けるとか、そんな使い方が日本でももっと増えたらいいなって思っています」
初めは緊張している様子だったけれど、どんなことにも丁寧に、想いを込めて話してくれたみなさん。いわゆる職人肌のイメージとは違う、柔らかな雰囲気を感じられました。
その空気感は、温かみや手触りを感じさせる、カールハンセン&サンの家具と通じるものがあるように思います。
持ち主にとって大切な椅子が、ずっと大切な椅子であり続けるために。自らの手で新たな命を宿す仕事です。
(2022/7/26取材 増田早紀)
※撮影時はマスクを外していただきました。