求人 NEW

空っぽになれる島で
人生の番狂わせを
楽しみながら働く

「誤解を恐れず言うなら、人生に対してあんまり綿密なキャリアプランがない人のほうが、マッチしやすいのかもしれない。ここは良くも悪くも既存の常識が通用しなくて、人生設計に変化が生まれる場所なので。むしろ、その余白自体に好奇心が持てるといいんじゃないかと思います」

そう話すのは、島根県の沖合に浮かぶ離島、海士町で働く青山敦士さん。

青山さんが代表を務める株式会社海士は、昨年、島で唯一のホテルを大規模にリニューアルし、「Entô」という新しいコンセプトの宿泊施設をオープンしました。

Entôというのは「遠島」、つまり「島流し」の意味。かつてこの島に配流された後鳥羽上皇をはじめ、もともとは社会的な役割や地位を剥奪するための処罰だったのですが、そうやって社会生活の一切を置いて離島に漂ってみるという経験は、現代に暮らす私たちに新しい視点を与えてくれます。

海士町はもともと「ないものは、ない」をスローガンとして掲げているほど、暮らしにも、旅にも、不便なことは多くあります。

一人では生きていけない環境だからこそ、自分の周りにいる人とのつながりの大切さに気づくこともできる。Entôは、その価値を体験する旅の拠点施設です。

今回はここで、ダイニングとクリンネス、ふたつの部門でスタッフを募集します。どちらの職種も、その名前から想像される働き方とは大きく違うと思います。

「業界での経験があって、その常識に違和感を感じていた人にこそ、挑戦してほしい」と青山さんは言います。もちろん、未経験者でも応募できるので、興味が湧いたらぜひ読んでみてください。



朝、東京を出て、飛行機と電車とフェリー、最後は小さな連絡船に乗り継いで、海士町に着くころにはもう夕方。

乗ってきた船が遠くへ離れていくと、ウグイスの澄んだ声が聞こえた。港からは新しくできたEntôの建物が見える。

2年前に取材したときは、まだ「マリンポートホテル海士」という名前だった宿。すっきりと現代的な雰囲気に一新されたエントランスでぼんやりしていると、たまたま通りがかった代表の青山さんが「あ、お帰りなさい」と声をかけてくれた。

2回目からは「いらっしゃい」じゃないところが、この島らしさ。なんだか懐かしい気持ちを思い出しながら、部屋で休む。



一夜明けて、午前8時。ダイニングで働く中山さんが運転する軽トラに乗り込み、食材の仕入れについていく。

「今から行くのは島の最南端で定置網があがる、崎という漁港です。食材の仕入れは週に2〜3回。港だけじゃなくて畑や直売所に行くこともあります。この島では、日によって手に入るものが違うので、あらかじめ決めた食材を買いに行くというよりも、行ってみてあったものでメニューを考えるんです」

1年前、Iターンでこの島にやってきた中山さん。最初は、地元の生産者さんたちの輪のなかに入っていくのに緊張したという。

「まあそれは僕が勝手に身構えていただけで、海士町の人は初対面でも温かく迎えてくれます。でも、『おお、来たか』みたいに自然に接してもらえるようになったのは、最近やっと、かもしれないですね」

漁港に着いて雑談をしていると、多くの鳥たちを連れて、船が戻ってきた。そばにいたおじさんの一人が「今日は、アジだな」と言った。

その言葉通り、船がつくや否や、大量のアジが網からコンテナに開け放たれた。

水飛沫も、頭を掠めていくトンビやカラスも、ものともせず、手際よく仕分けをする漁師さん。目当ての食材を選り分けるお寿司屋さん、近所のお母さん、その輪に交じり、中山さんも数匹のアジをピックアップする。

精算を済ませ、帰りの車のなかで、中山さんがこの島に来ることになった経緯を聞かせてもらう。

「僕は今27歳で、以前は都市部のフレンチのお店で修行していました。そろそろ海外で活動してみたいなと思っていた矢先にコロナになって。知り合いから紹介された海士町に、本当に軽い気持ちで来てみたら、いろんな出会いや発見があって。気づいたら、一年があっという間に過ぎていました」

最近は畑を借りて野菜を育てたり、ご近所さんに誘われて筍掘りに行ったり。

時間の使い方も、人付き合いも本土にいたときとはまるで違う。いい意味で、仕事と休みの境界がなくなってきているという。

「畑で間引きしたカブを、捨てずに食べてみたらすごくおいしくて。普段市場に出ない食材でも、こんなにおいしいものがあるんだっていうのは、驚きました」

ここで暮らしながら肌で感じる新鮮さが、メニューづくりのヒントになっていく。

生産者さんから聞いた話や、自分が見つけた食材の魅力をゲストに伝えるためにはどうしたらいいか。料理の技術を磨くだけでなく、「食べる楽しさ」を探り続けていくことも、中山さんたちの大事な役割。

現在ダイニングチームで働いているメンバーは調理未経験者も多いため、仕入れとメニューづくりは中山さんが行う。それ以外の仕込みから調理、お客さんのテーブルに運ぶところまで、ほとんどすべての仕事を全員がフラットに担っている。

ここには、さまざまな出身地のメンバーが集まっている。ライフステージの変化や家族の事情などで島を離れるなど、人材が出入りも多いという一面もある。

「つまり属人的な体制では成り立たないんです。だからシェフを置かず、みんなが対等に協力するチームを目指しているんです。僕も正直、青山から最初にビジョンを聞いたときは驚きました。そんな現場は見たことないし、本当にできるのかなって」

「一方で僕自身も、料理の世界にある絶対的な上下関係みたいなものに違和感を感じていて。それをぶち壊す新しい道が開けるかもしれないっていう期待もあります。実際どうなっていくかまだわからないけど、料理人だけが集まってつくる現場より、大きな可能性を秘めているんじゃないかと思います」



お昼過ぎ、エントランスから階段を降りて、新館を訪ねてみる。

客室に続く広い空間は、ジオパークの拠点施設になっていて、アンモナイトや恐竜の骨、地球の歴史を感じられるものたちが展示されている。

目の前には大きな海、傍には太古の化石。ここでぼんやりしていると、あらためて自然の大きさを実感できる。

「Entôのコンセプトのひとつに“地球にぽつん”っていうフレーズがあって。訪れたゲストの方は僕たちの期待以上に、ここで能動的に何もしない時間を楽しんでくださっているみたいです」

そう話すのは、代表の青山さん。実は、さっきまでチェックアウト後のクリンネスの手が足りず、一緒になってベッドメイクを手伝っていたのだそう。

すごい一体感ですね。

「ここの客室は、なるべく余計なものを置かず『ないものは、ない』っていう価値を空間で感じてもらえるようにデザインされています。一般的にはホテル清掃って外注されることも多いんですが、ここでは、コンセプトを表現するためにすごく大切な仕事だと僕は思っています」

客室を含め、共用部や外構まで、空間全体のノイズを無くしてしつらえを整えるのが、クリンネススタッフの役割。

もう少し人手を増やして、オペレーションを安定させたいという課題感もある一方、ときには代表みずからサポートに入るような、シームレスな連携はこれからも大切にしたいという。

「クリンネス担当でも、ゲストと話が盛り上がったら、対話や案内をすればいいし、ダイニングやフロントの担当でも、汚れに気づいたら掃除すればいい。ここで働く人に求めたいのは、何よりも素直さですね」

「僕たちの仕事は、地域の人たちの支えなくして成り立たないし、ゲストが来ることで、島の経済循環もうまく回っていく。自分たちの仕事がどこにつながっているか、スタッフ一人ひとりも、僕が望む以上にその意識を持っていてくれて。本当に頼もしいなと思います」



地域のなかで暮らし、働くって、どういうことなのか。それは、時間をかけて少しずつわかっていくことなのかもしれない。

「とにかく構えず、なんか面白そうだなと思ったら来てみたらいい。僕も最初はそんなもんだったから」

そう話すのは、クリンネスチームのリーダーを務める石田さん。

石田さんがはじめて海士町にやってきたのは、20代半ばのころ。

「そこで今の嫁さんと出会って、できちゃった婚で本土に戻ったんですけど、お世話になった人たちに恩返ししたいなっていう思いがどこかにあって。上の子が小学校に上がるタイミングでもう一度島に戻ってきた。それが7〜8年前かな」

もともとは海産物加工の仕事をしていた石田さん。2年前、転職してクリンネスチームに参加。現在は、リネンクリーニングの仕事と掛け持ちで働いている。

クリンネスの仕事がピークを迎えるのは、最終チェックアウトの11時からチェックインが始まる15時までの間。

部屋で使われたタオルやシーツ、コップなどを取り換え、ベッドメイク、清掃を手際よく済ませていく。

「基本的な作業は、誰でもすぐ身につけられると思う。ただ僕は、わざわざこんな離島に『掃除をしに来てください』って言うつもりはなくて。クリンネスって、本当はめちゃくちゃクリエイティブな仕事だよって伝えたいんです」

クリエイティブ。

「旅の思い出って、ご飯を食べたり絶景を見たり、いろいろあるけど、やっぱり自分が泊まる部屋に入った瞬間って、テンション上がりますよね。僕たちが接客をするわけじゃないけど、確実にその瞬間に携わっている。そういう自負を持ってもいいんじゃないかと思います」

飾るのではなく、削ぎ落とすことで見せていく、空間の美。探求していくと、奥が深い世界なのかもしれない。

とはいえ、日々の仕事は、なかなかの重労働。

ベッドメイクなどの力仕事はもちろん、いくつもの部屋を行き来しながらの作業は体力がいる。リネン工場もまだまだ人手不足で、ときには役場の職員さんが手伝いに来てくれることもあるという。

「役場で管理職をしている人が、シーツの洗濯をしながら『この仕事は最高だ』って言うんです。『役場の仕事は、なかなか前に進んでいる実感がないけど、この仕事はやったらやった分だけ達成感がある。山積みのシーツが目に見えて片付いて、今日はビールがうまいわ』って帰っていきました」

やるべきことは、まだ山のようにある。

一つひとつ向き合って、形にしていく手応えを魅力に感じられたら、ぜひ船に乗って海士町を訪ねてみてください。

想像通りにはいかないからこそ、想像もできない選択肢が見つかるはずです。

(2020/5/20 取材 高橋佑香子)
※撮影時はマスクを外していただきました。

問い合わせ・応募する

おすすめの記事