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ここにしかない
産地の未来を一緒につくる

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

こうも暑い日が続くと、ついつい同じ服に手が伸びる。

最近はもっぱら、もんぺです。肌触りがいいし、履き心地も軽やか。それでいて生地はしっかりしているから、ガンガン履き回せます。

素材は、福岡県南部の筑後地方でつくられる久留米絣(かすり)。1800年ごろ、当時12歳の井上伝という少女が発明した技法をもとにして、今なお生産を続ける綿織物です。

今回は、この久留米絣を未来へとつないでいくために、産地のプロジェクトマネージャーを募集します。

最初の3年間は、久留米絣の一大産地である福岡県広川町の地域おこし協力隊として着任し、産地の歴史や文化、魅力や課題を総合的に体感していくことから。

そのうえで、たとえば古くなった機械のメンテナンスや人材育成など、長期的な目線で国の助成制度や補助金をうまく活用したり。地域の大学と連携して、新しい織機の開発や、久留米絣の捉え方が変わるようなイベントを運営したり。

つくり手や問屋など、長年久留米絣に関わってきた人たちはもちろんのこと、行政や大学、金融機関や他産地のプレイヤーといった、さまざまな人たちと関係性を築きながら、産地の未来を一緒につくっていく役割です。

ハードルは高そうだし、実際やることは多岐にわたるのですが、特別な知識や経験は問いません。

もんぺを日本のジーンズ「MONPE」と再解釈し、現代の日常着としての提案を続けている地域文化商社・うなぎの寝床や、その関連会社でツーリズムや出版を手がけるUNAラボラトリーズのみなさんも、このプロジェクトには関わっています。

自信がなくても、関わりたい!と思った方は、続けて読んでみてください。

 

まず向かったのは、福岡・八女の市街地。福岡市内からだと、高速道路を使って1時間弱。

代表の白水さんがこのまちでうなぎの寝床を立ち上げたのは、2012年7月のこと。

「ぼくたちは地域文化商社って言い方をしていて。地域文化はどういうふうに続いていくといいのかと考えながら、商品に落とし込んだり、背景を伝えたりすることを、この10年間やってきました」

なかでも力を入れて取り組んできたのが、久留米絣にまつわること。

伝統的な柄にとらわれず、生活に取り入れやすい無地やストライプ生地の現代風もんぺを展開。他産地とコラボした商品をつくって販売したり、安価につくられていたもんぺの価格を引き上げて、産地全体が適正な対価を得られるようにしたり。

老若男女、幅広い世代に向けて商品を開発し、ライフスタイルショップやECサイトを通じて展開してきた。

一方で、かつては200軒以上あった織元も現在は20数軒と、この半世紀で激減している。白水さんたちは、産地の存続に危機感を抱くようにもなった。

「売り手がどんなにがんばっても、織元さんがいなくなったら、久留米絣はつくれない。関わる人たちみんなで協力して、一業種だけではつくれない産地のブランド力を高めたり、全体の生態系をよくしていかないことには、今後産地として残っていけないと思うんです」

そこで2019年に、売り手とつくり手の組合、行政や外部の専門家を交えたビジョン策定会議を始動。

1年間かけて、「ネイティブテキスタイル」というビジョンを固めた。

ネイティブは、“在来種”や“土着の”“自然の”などを意味する言葉。200年以上にわたって続いてきた久留米絣のルーツを探りながら、現代のライフスタイルや技術とかけ合わせ、その文化的な価値をいかに高めて未来へとつないでいけるか。

その実現のための、6つの具体的なアクションも示している。

「たとえば“交易”。メガネの産地の福井・鯖江や、今治タオルの工業組合、有田焼などの他産地とつないで、産地経営サミットというオンラインのイベントを2回開催しています。外と交流を重ねるなかで、自分たちのことがより見えてくることもあると思っていて」

“技術”に関するアクションとしては、久留米工業大学と連携して次世代の機械を開発中。

久留米絣の工程で使われる織機の多くは、100年もののビンテージ。現役で動いている機械を適切にメンテナンスしながら、最新技術を取り入れて革新を起こしていきたい。

ほかにも、それまで廃棄されていた「括り糸」を再利用して靴下をつくったり、過去につくられた久留米絣の図案やデザインをアーカイブする「テキスタイルミュージアム」の構想が進んでいたり。

この2〜3年の間にも、さまざまな取り組みがはじまっている。

今回募集するプロジェクトマネージャーは、どんな役割になるんでしょうか。

「今は全部の動きが点の状態なんです。イベントとツーリズムは組み合わせたほうがいいんじゃないかとか、産地としての情報発信はこういう媒体でやっていったらどうかとか。中立的な立場で、いろんなところに顔を出しながらつないでくれる人がほしいなと」

久留米絣は、伝統工芸品として助成や補助金を受けやすいアドバンテージがあるものの、現状はそれをほとんど活かせていない。組合の売上状況を見ながら、壊れる前に機械のメンテナンスをしっかりするとか、人材育成に困っているならこの補助金を活用しませんか、というように、事務局的な立ち回りができる人を求めているそう。

と同時に、プロデューサー的な気質も求められるかもしれない。

「『藍・愛・で逢いフェスティバル』って、20年ぐらい変わっていないイベントがあるんですけど、それを去年、ガラッとリニューアルして」

「つくり手や売り手、行政や専門家、いろんな人の声を聞きつつも、これやってみませんか?って、自分の意志をもって提案していく。議論しながら、一緒に産地の未来をつくっていくプロデューサーみたいな感じですかね。…まあまあ難易度高いなと思うけど(笑)」

まずは「自信よりやる気!」とのこと。いきなりすべてのスキルが備わっていなくてもいいので、3年間を産地のことに注ぎ込むつもりで来てほしい。

 

そもそも久留米絣はどのようにつくられているんだろう。続いて、広川町にある織元・野村織物を訪ねた。

工場のなかを案内してくれたのは、代表の野村周太郎さん。

「久留米絣は先染めといって、糸を先に染めるので、裏表がありません。それから、括り糸というもので縛って部分的に染めないことで、図案に沿って柄を織り上げていきます。野村織物では、この括り以外は一貫して自社工場でやっています」

括りの工程は、今から20年ほど前に機械化が進み、図案のデータを読み込ませれば自動で進めてくれるそう。そのため、組合で人を雇用して、各織元からの括り依頼を受けている。

括りと染色が終わったら、糊付け・乾燥をし、経糸を図案通りに並べ、経糸・緯糸をそれぞれの道具に巻き付けていく。それを織機にセットして織り上げ、湯通し。水洗いや乾燥を経て、144mの織物がようやく完成する。

「久留米絣は小幅の綿織物で、着物をつくるのにちょうどよかったんですね。実は今も、着物の生地としての問い合わせは増えています。ただ、今の洋服は表裏一枚ずつの広幅の布を使うので、久留米絣でつくろうとすると、どうしても値段が高くなってしまう。若い人に手にとってもらうには、そのあたりがネックになってくるんです」

久留米絣の織元は、手織りの工房や個人作家も含め、現在22軒ほど。そのうち法人化しているところは4、5軒しかない。

産地全体で後継者不足が進むなか、野村織物では、家族4名のほかに9名の職人が働いている。身内を除けば、平均年齢は40歳を切るという。

野村織物さんに若い人が集まっているのは、なぜだと思いますか?

「うちはですね、本当にたまたまで。ほかの企業さんとどこが違うかというと、そんなに変わりはないと思うんです…。常にSNSとかで情報は出していますので、そういったところから実際に訪問して、選んでいただいているっていうのが現状なのかなと」

きっと情報発信の面でも、今回募集するプロジェクトマネージャーがつくり手にアドバイスしたり、織元ごとの特色を捉えて発信したり、中間的な立場からサポートできることはあると思う。

「我々は、生地をつくる力がある。うなぎさんは、生地はつくれないけど、企画力や発信力がある。そういうなかで、それぞれが100%の仕事をして、次の世代にバトンタッチしていく。まだ稼働せずに眠っている機械もありますし、小さな産地なので、これから大きく変わっていける可能性は秘めていると思います」

 

産地の担い手として移住してくる人を増やすことは、まちにとっても大事なこと。

行政の立場からこのプロジェクトを支えているのが、地方創生担当係長の氷室さん。

まちの集会所をリノベーションしたシェアアトリエ「Kibiru」に移動して話を聞いた。

「広川町の協力隊は過去に二期募集していて、一期生は4名のうち3名が定住しています。そのうちのひとりにこのKibiruの指定管理を任せていて、あとのふたりは共同で空き家を借りて、自分たちの作品展示やカフェ営業をしていますね」

二期生も任期の3年が終わろうとしているところで、1名は町内に拠点を構えることが決まっているそう。もともとフランスでテキスタイルデザイナーとして活動していた方で、織機を4台ほど購入し、手織りの教室や自らデザインした生地の販売などをしていくという。

先がけて地域で活動している先輩として、また一緒に久留米絣の未来を考える仲間として、協力隊のOBOGの存在は大きい。

「広川町の協力隊は委託契約なので、管理しないんですよ。月一回は定例会を開いて、協力隊同士の課題共有や協力できる体制はつくっていますけど、基本的には『何日の何時から何時までこういうことしてました』って月報を書いてもらって、その分の委託料を支払います」

加えて、家賃や視察研修、消耗品や備品の購入、講師を呼ぶ際の謝金などに充てられる活動補助金も出るため、自由度はかなり高い。

「自分がやりたいことに迷子になっている人は合わないです、この制度は。やりたいことがある人は、突き進んでいくじゃないですか。あ、ちょっと…って、こちらがブレーキをかけるくらいでちょうどいいんです。『行政を通すときはこうしてくださいね…』とか、ちょっとした作法を教えるだけでいいので」

事務局的な細やかな立ち回りをしながら、ときには熱量を伝えつつ、ぐいっと牽引していく。その意味でも、状況を変えていく突破力は常に求められるように思う。

「自分ならできる、っていうふうに思えなくてもいいので。やってみたいと思えるんだったら、ぜひ来てください。このプロジェクトに関わる人たちは、がんばる人は徹底的に応援するので」

選考過程では、産地体験キャンプというものも企画しているようです。

まだまだ道のりは長いけれど、進んだ先におもしろい未来が待っていそうな気がする。そんな直感が働いたら、その熱量をぜひ産地のみなさんにぶつけてみてください。

(2022/7/22 取材 中川晃輔)

※撮影時はマスクを外していただきました。

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