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「害虫」と口にしてみる。音の響きからして毒々しいし、刺されたり、野菜を食いつぶしたり、見た目や動きがどうも生理的に受け付けない、いくつかの虫が思い浮かぶと思う。
でも実は、そんな虫たちが自然の循環のなかで大事な役割を果たしていたり、国や地域をまたげばまったく違う扱いをされていたりする。興味をもって知るほど、害虫ってなんだろう?その他の虫との違いはどこにあるの?と思えてくる。
個々人の経験やイメージを根本から塗り替えることはむずかしい。けれど、さまざまな技術や知識が蓄積されてきたなかで、虫と人との関係をよりよいものに変えていくことができるんじゃないか。
そんな想いから8thCAL(エシカル)株式会社は誕生しました。
母体は、害虫の駆除をはじめ、ビルや商業施設の衛生環境整備に取り組んできたシェル商事という会社です。
2010年に創業者である父から事業承継した代表の岡部さんは、「駆除から予防へ」というスローガンを掲げ、2018年に8thCALを設立。
虫の生態や対策を学べるeラーニングプラットフォームの構築、“害虫”に新たな角度から光を当てる「害蟲展」の企画や、小学校への出前授業など、さまざまな取り組みを展開してきました。
小さく芽生えはじめた事業をさらにスケールさせていくため、今回はプロジェクトマネージャーを募集します。
今後取り組みたいことは多岐にわたるので、プロジェクトごとに業務委託で関わるメンバーも求めています。まずは8thCALの目指す世界を覗いてみてください。
訪ねたのは、東京・東日本橋で開催中(取材時、現在は終了)の「害蟲展」の会場。
ムカデやゴキブリ、ハチなどをモチーフにした絵や立体作品など20点ほどが展示されている。
これも8thCALの事業のひとつ。作品には、その虫の生態や、“害虫”とされる背景、自然環境のなかで果たす役割などを綴った解説文が添えられている。
「人間の貼った害虫っていうレッテルを外せば、みんなふつうの虫です。彼らがいないと土も豊かにならず、農作物も育たない。我々も生きていけないよね、ということを考える最初のステップになればいいなと思っています」
そう話すのは、8thCAL代表の岡部さん。
そもそも害虫駆除という仕事は、1930年ごろのアメリカで生まれたもの。
農業を大規模に展開し、都市を形成していくために、社会・経済活動を阻害する虫を駆除する必要があった。
「シェル商事の創業時の、1960年代の写真集を買い集めたことがあります。そこには、舗装されていない銀座のまちなみや、建設途中の東京駅などが写っていました。当時の衛生環境を思えば、駆除は必要な対処だったんだなと腑に落ちて」
「だけど今は、建築や都市インフラの構築技術も上がってきている。殺虫剤というツールで殺して衛生環境を守るだけでなく、人間の活動範囲に入らないような工夫をして、共生していく道をつくっていきたい。そんな想いから、2018年に8thCALを立ち上げました」
スローガンは、「駆除から予防へ」。
害蟲展の企画運営や、虫の生態や対策を学ぶeラーニングツールやタブロイド紙の制作、研究機関との共同開発など、さまざまな取り組みを展開してきた。
「このあいだは小学校での出前授業を行なったんですが、虫嫌いだった子も、よく観察してみるとかわいいねとか、いい匂いがするんだとか。肌感を得ることで、認識も変わっていくことを感じたんです」
「我々の業界の内でいくら声高に変革を叫んでも、何も変わらない。害蟲展のようなパブリック向けの発信も必要だし、感性のやわらかな子どもたちへの教育的アプローチも含めて、社会実装していくためには啓蒙・教育・予防というステップが欠かせないと思っています」
この日も、今飼っているカブトムシを会場に連れてきていた岡部さん。
昔から虫が好きだったんですか?と尋ねると、そういうわけではないらしい。会社を継ぐ気も、もともとはなかったそう。
「父は、わたしが物心ついたときからシェル商事の仕事をしていました。いわゆるクリーンなイメージの仕事でもないので、友だちに家業のことを聞かれても、うまく答えられなくて。でもそれは、お父さんに対しても失礼だし、自分のなかに封印しながら生きていたんです」
悶々とした感情を何かの形で表現したいと思い、美術大学へ進学。
照明デザインを専攻し、卒業後もまったく別の業界で働いていた。
そんななか、お父さんの体調が悪化。2008年に入社した岡部さんは、わずか2年後の2010年に会社を継ぐことになった。
「経営についてわからないことだらけだったので、お金のことや人のことをいろいろと勉強して。それでも100%事業に向き合えていない感覚がありました。この感覚はなんなんだろうと」
「1960年にシェル商事が創業して、半世紀以上同じ事業の柱でやってきて。新しい事業の柱を立てないといけないと思ったんです」
そこで、事業構想大学院大学に入学。2年間、何度も事業構想を練り直すなかで辿り着いたのは、命をむやみに殺したくない、という想いだった。
「人類が自然の一部として生きている感覚、肌感を失っているように感じていて」
「このままの経済活動を続ければ、いつか種としての限界がやってくる。表層的な行動だけ変えるのではなくて、それぞれの命の役割、地球を構成している一つひとつの要素に配慮しながら、自分たちの行動を考えて、決めていく必要があると思うんです」
8thCALの目指す世界を実現するには、いくつかのハードルがある。そのひとつが、業界の構造だ。
大まかに言うと、川上に設計会社がいて、完成後の建物の維持管理を担当しているのは、ビルメンテナンスの会社。その下請けの立場としてシェル商事のような会社がある。
現場には、建物の設計段階や日々のオペレーションのなかで活かせる気づきやアイデアが転がっているものの、下請け構造が根強いこともあり、大量発生した虫を駆除する対症療法的な取り組みにとどまっているのが現状だという。
そしてもうひとつが、法律の枠。
日本のビルメンテナンスの考え方は、1970年に制定された建築物衛生法をもとにしている。この法律では、単体のビルや商業施設を対象とするのに対して、アメリカではエリア全体で対策をとっていく体制が構築されている。
仮に、街路樹の根元にネズミが営巣したとき。
毒餌を設置したり、ゴミ箱を密閉できるものに変えたりすると、ネズミも学習して、そのエリアに寄り付かなくなる。ただ日本の場合、建物のなかは建築物衛生法が適用されるので厚労省、公道は国交省と管轄が分かれており、エリア全体としての動きがとりにくいのだとか。
「わたしたちの周りにも、高いスキルを持っている清掃会社さんや、昆虫にすごく詳しい人など、いろんなエキスパートがいます。ただ、業界や立場を超えてつないでいく人が不在で」
「俯瞰した立場から、それぞれの意図を翻訳したり、つないだりしていくのが、これからの8thCALの役割だと思っています」
今回主に募集したいのは、プロジェクトマネージャー。
大学の研究者や、予防商品の販売会社、シェル商事の現場作業員など、さまざまな知見をもった人たちと関わりながら、事業を構築していく人を求めている。
たとえば、害蟲展のスポンサー企業には、百貨店の化粧品売り場のシェアの大部分を占める照明メーカーや、カッティングシートのパイオニア的な存在の会社が名を連ねている。
光の波長の違いによって、虫を誘引したり遠ざけたりする照明や、忌避剤を練り込んだ防虫フィルムなど。現在は、大学などの研究機関とコミュニケーションをとりながら、それぞれの企業の強みを活かした製品を開発しているところ。
それらをうまく組み合わせることで、予防効果を今よりも高めることができるかもしれない。
また、ビルや商業施設だけでなく、個人宅の設計段階から関わって、虫を寄せ付けない家づくりを展開したり、一般向けの商品開発につなげたりしていく可能性もある。
目指したい未来はあるものの、どんな形でそこへ向かっていくかはまだまだ決まっていない。どうすれば事業として成り立つのか、一緒に試行錯誤しながら考えていける人がチームに加わってほしい。
「8thCALのドメインって、『.design』で。今回出会いたい人もデザイナーなんです。でもそれは、グラフィックとかそういう話じゃなく、人と自然の関係性を、それぞれの場に合わせて構築していくことに熱量を注げる人。リレーションデザイナー、みたいなイメージです」
事業開発や企画営業、プロジェクトマネジメントなどの経験者は歓迎。
ただそれだけでなく、編集やデザインなど、さまざまな要素や価値観を取り入れたうえで、適切なアウトプットにつなげる業務経験も、きっと活きると思う。
「虫の生態や進入経路、防ぎ方などを種類ごとにまとめた、虫との関わり方のディクショナリーみたいなものもつくりたくて。まずはリサーチャーのような形で、副業的にプロジェクトの一部から関わっていただくのもありだと思っています」
代表の岡部さんを含め、8thCALのメンバーは5名と、まだまだ小さな組織。だからこそ裁量も大きく、一人ひとりの守備範囲も幅広い。
入社時点で完璧なスキルや知識を備えていなくてもいいので、何事にも好奇心を持って臨める人だといい。
もともとはまったく畑違いのアパレル業界にいたという、スタッフの吉池さんにも話を聞いた。
5年前に、営業部のアシスタントとしてシェル商事に入社した吉池さん。現場にも足を運ぶなかで、駆除という選択肢しかないことに疑問を抱くようになったそう。
「これは虫も出るでしょうっていうような、管理の行き届いていない現場も見てきて。それで虫が入ってきたら、『すぐに来て駆除してください』って、ナンセンスだなってずっと思っていたんです」
「現場の人も管理会社の人も、気づいてはいるんですよね。本当は出ないように予防するのが一番だよねって。でも忙しくて、手が回っていない。うちも予防の方向にもっと力を入れていけば、お客さんに喜んでいただけるんじゃないかと」
そんなタイミングで岡部さんから声をかけられ、3年前から出向という形で8thCALに関わってきた。
事業の企画や進行管理、細々した資料づくりやバックオフィスなど、マルチに携わっている吉池さん。
どんな人に来てもらいたいですか。
「8thCALは、想いは強いけれど、マネタイズはまだまだ弱くて。事業の全体像を描いて推進できる方がいたらいいなと思います。失敗してもいいから、どんどんやっていこうっていう、チャレンジ精神と決断力がある人」
「ただ、結果をすぐに求めがちな人は大変かもしれません。人の意識を変えていくっていうことが、一番大切で、大変な部分なので。新しいアクションも常に起こしながら、長い時間をかけて取り組んでいく根気は必要ですね」
未来によりよい環境を残すため、何ができるだろう。
あらゆる命と向き合うことが、8thCALという会社の根っこだと思います。
(2022/9/9 取材 中川晃輔)
※撮影時はマスクを外していただきました。