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自然と人の営みの間
あわいの地、戸隠でつくる
茅葺きの宿

さまざまな面で、効率化が進められる今の世の中。

暮らしにおいても、仕事においても。いかに早く、コストをかけずに物事を進められるかが重視されがちな傾向があると思います。

もちろんその恩恵もあるけれど、あえてそれに逆行することで生まれる価値もあるんじゃないか。

人の価値観に問いかけるようなプロジェクトが始まっています。

長野・戸隠(とがくし)。長野市街から近い、県北部にある山間のまちです。

有名なのが、戸隠神社。山岳信仰の地として1,200年の歴史を持ち、現在でも年間100万人以上が訪れます。

今回は、戸隠にある二つの古民家を活用した宿・カフェレストランのマネージャーとシェフを募集します。

コンセプトは、「あわい」。自然界と人間界、精神世界と物理世間が共存し、「その間(=あわい)」にいるような、戸隠ならではの体験を届ける場所になります。

宿泊業や接客業の経験があれば歓迎ですが、そうでなくとも、戸隠の歴史文化に興味と尊敬の念を持って、この地でチャレンジしてみたい。そんな人を探しています。

 

東京から新幹線に乗り、1時間半ほどで長野駅に到着。

駅の近くには、観光地として有名な善光寺がある。この日は平日にもかかわらず、たくさんの人が参拝していた。

目指す戸隠は、長野駅から車で30分ほど山を登ったところにある。

案内してくれたのは、全国各地で古民家を活用したプロジェクトを手がけている、株式会社つぎとの林さん。

今回宿を運営する、株式会社awaiの代表でもある。

「昔、戸隠神社は顕光寺っていう有名なお寺だったんです。廃仏毀釈で神社になって、今に至っていて。善光寺ともつながりがあったと言われている、とても歴史ある場所なんですよ」

平安時代、戸隠は修験道の道場として有名で、戸隠山顕光寺(とがくしさんけんこうじ)は比叡山、高野山と共に「三千坊三山」と言われるほど栄えていた。

その後、戦国時代の武田・上杉の争いや明治時代の廃仏毀釈を経て、顕光寺から戸隠神社へと名前を変えて今に残っている。

戸隠にあった多くの宿坊も、現在は僧侶ではなく神職が常駐して、宿泊者に対してご祈祷をしているそう。

「善光寺には、毎年600万人くらいの人が訪れます。対して戸隠は、年間120万人くらい」

「また、戸隠観光の滞在拠点が善光寺のビジネスホテルになっているケースも多いと見ています。逆に、善光寺を含めた文化圏の観光拠点として、戸隠に滞在してもらうこともできるはず。戸隠は、すごくポテンシャルのある地域なんですよ」

戸隠神社は、奥社・中社・宝光社・九頭龍社・火之御子社の五社からなる神社。とくに奥社は有名で、参道の樹齢400年の杉並木を見るためにたくさんの観光客が訪れるそう。

今回の古民家宿のプロジェクトは、どういった経緯で始まったのだろう。

「信仰・観光の地として栄えた戸隠でも、空き家や少子化問題が徐々に顕在化しています。それで、地域の活性化を牽引されている方々とお話し、戸隠の営みを継いでいくために、ここで古民家を活用した宿をつくろうという話になったんです」

「地域の人たちと一緒にawaiという会社をつくって、さまざまな問題をともにクリアしながら、なんとか事業をスタートさせることができました」

林さんが所属している株式会社つぎとは、全国各地で古民家などの歴史的建造物を活用した地域活性事業に取り組む会社。地域の人と一緒に会社を立ち上げ、ともに自立した事業をつくることで、補助金などに頼らない建物や文化の継承を目指している。

今回手がけるのは、戸隠にある2つの建物。実際に見に行くことに。

一軒目は学習館(旧中社公会堂)と呼ばれている建物で、もともとは中社区の公民館として地域に長く親しまれていた場所。

老朽化に伴い使われなくなり、惜しまれつつも取り壊しがほぼ決まっていたところを、林さんたちが提案し、改修して活用することになった。

一階がレストランとカフェ、そしてホテルのフロントになり、二階に客室が2つできる予定。

建物は参道の分岐点に位置していて、一目で参道が見通せる好立地だ。

そこから車で参道を5分程下ったところ。宝光社の集落に、もう一軒の建物がひっそりとたたずむ。

元茅葺の古民家で、20年もの間空き家になっていたそう。まわりには木が生い茂っていて、中もボロボロの状態。

ここは来春から着工する予定。内装や外壁をきちんと直すと同時に、トタン屋根を剥がして、茅葺屋根に戻す。一棟貸しの宿になるそうだ。

「今は荒れ放題ですけど、ロケーションは良くて、目の前に広がる戸隠の景色が素晴らしい。また地域内でも『なんとかしてほしい』という声も多く、かなり難易度が高いですが、あえてチャレンジする価値はあると思っています」

「屋根も茅葺きに戻して、元の建築の魅力を最大限に引き出したい。戸隠で茅葺きをしている職人さんたちと一緒に、ワークショップ形式で進めていきます」

想定している単価は、一泊二食つきで2万円代後半。空間やライフスタイルにこだわりを持つ人に選ばれる宿を目指す。

宿づくりに関しては、過去につぎとが手がけてきたのも近しい価格帯の宿が多いので、ノウハウをうまく活かせると思う。

今回募集するのは、宿を運営管理するマネージャーと、学習館のカフェとレストランで働くシェフ。

林さんはどんな人に来てほしいですか?

「地域の人と歩調を合わせられる人かな。『俺が俺が』って前に出るタイプよりも、まわりと歩調を合わせて、人の話をちゃんと聞ける人がいいと思います」

「あとは、自然と近い距離感で暮らしたいとか、人を喜ばせることが好きとか。戸隠自体、歴史のある面白い場所なので、そこにも興味を持ってもらえたらいいんじゃないかな」

マネージャーは宿の日々のオペレーションや運営に携わりながら、戸隠神社の案内ツアーなど、地域の魅力を知ってもらう企画も考えて実行してほしい。

サービス業の経験者だとありがたいとのこと。地域の人、そしてお客さんに喜んでもらうことが、自分の喜びになる。そんな人に来てもらいたい。

カフェやレストランでは、戸隠や近隣の新鮮な食材を中心に据えた料理を提供する予定。

「戸隠には美味しい蕎麦屋が多い一方で、それ以外の選択肢が少ないんです。地元の質の高い蕎麦粉と戸隠の美味しい湧き水を使って、蕎麦以外のメニュー開発にもチャレンジしたい。また、観光客だけではなくて、地元の人たちにも使ってもらえるお店にしたいです」

「このあと紹介する武井さんとか、茅葺き職人の渡辺さんとか。次の戸隠をつくっていく若い人たちが活躍しているので、一緒に地域を盛り上げていってほしいなと思います。とても魅力的な人たちなので、彼らと活動できるのは楽しいと思いますよ」

 

そう言って紹介してくれたのが、同じくawaiで働く武井さん。もともとは映像関係の仕事をしていて、スキー場やキャンプ場の運営に参画するため、数年前に戸隠に戻ってきた。

戸隠にある宿坊「武井旅館」がご実家で、お兄さんが宿坊を継いでいるそう。

すでに宿坊がたくさんあるなかで、新しい宿をつくることに対して、抵抗や違和感はなかったですか?

「たしかに、宿坊を運営する身でありながら新しい宿をつくるって、一見矛盾しているように見えると思うんです。でも新しい宿は、これまで戸隠に来ることがなかった層を狙っている。新しいお客さんの獲得につながるという意味で、共存できると思っています」

「選択肢が広がるのはいいことだと思うし、新しい宿に来たお客さんが、次に来たときは宿坊に泊まってくれるかもしれない。そんなふうに、いい循環がつくれたらいいなと思っているところです」

古民家を維持するために事業をつくり、新しい人の流れを生む。宿やレストランができることで、地域で新しい事業にチャレンジする人も出てくるかもしれない。

林さんたちが戸隠に関わることになったとき、もとから住んでいる人たちが損をしない提案をしてくれたことがうれしかった、と武井さん。

「戸隠に戻ってきたのも、やっぱりこの土地の歴史とか文化がすごく面白いし、ポテンシャルがあると感じていたからなんですよね」

「林さんが言っているみたいに、楽しいことを形にしていきたいっていう思いはずっと持っていて。映像の仕事も楽しかったんですけど、今は戻ってきて、こうして新しいチャレンジに一緒に取り組むことができるのは、すごくうれしいです」

武井さんは地域のことにも詳しいので、なにか困ったことがあればすぐ相談にのってくれる心強い存在だと思う。映像も趣味で続けているので、広報やPRなどをする際には大きな力になってくれるはず。

 

次の日、林さんと一緒に茅葺き職人の渡辺さんのところへ。戸隠のはずれにある、猿丸という集落に向かう。

渡辺さんは、株式会社縄文屋根という会社の代表。今回手がける宿の茅葺きも渡辺さんにお願いすることになっている。

「茅葺きをしていると、電気もガスもなかった時代に、人はどうやって暮らしていたのかっていうことを想像するんですよね」

「いろんな便利なものがあって、変化も激しい現代。それを生き抜く上で必要な視点を、茅葺きを通して得ている感覚が僕にはあって。昔の暮らしを言葉で読むだけじゃなく、体感する。茅葺きのワークショップも、そんな場を提供したいという想いで開催しています」

この日もワークショップがあり、自分も参加させてもらいつつ、合間に話を聞かせてもらった。

参加者は10人ほど。車で1時間以上離れた場所から来た人や、戸隠のご近所さんまで、さまざまな人が集まっている。

茅葺きにするのは、なんと渡辺さんが飼っているヤギの小屋。

「茅葺きに興味がある人や、昔のような茅葺きに戻したいっていう人が、だんだんと増えている実感があって。今回のawaiさんのお話も、すごくいいご縁だと思っているんです」

「今回の宿が茅葺きになることで、自分の家を茅葺きに戻したいっていう人が戸隠で出てくるかもしれないし、それを見た全国各地の人が、茅葺きに興味を持ってくれたらもっとうれしい。茅葺きはお金がかかるっていう常識を、うまくひっくり返していけたらいいなと思っています」

茅葺きには材料となる茅と、専門性を持った職人さんが必要。そのため費用がかさむイメージがあるけれど、昔は地域の人同士で助け合う結(ゆい)が機能していたので、逆にお金のかからないものだったそう。

「職人だけじゃなく、地域内外の人に関わってもらうことで、茅葺きが自分ごとになる。そうなると、その家は長く残っていくものになると思うんです」

すると、一緒に話を聞いていた林さん。

「なんで渡辺さんにお声がけしたかっていうと、本質的には僕らと同じことをしているなと感じたからで。利便性とか快適性だけで考えたら選ばれないものを、あえて残す。そしてその価値を、世の中に伝えていく。そこに共通するものがあると感じたし、それが僕らの役割だと思うんです」

「なにより、茅葺きがバシッと決まったらかっこいいし、楽しいじゃないですか」

ひとつの価値観や世界観に沿うのではなく、それらが混ざり合うところ。あいだにある空間や時間に光を当てて、それらを味わう。

「あわい」というコンセプトにあらわれているように、戸隠での新しいプロジェクトは、そういった日常では感じられない感覚を感じられるものになっていくんだろうな。

まずは戸隠を訪れて、この空気を感じてみてほしいです。

(2022/10/26 取材 稲本琢仙)

※撮影時はマスクを外していただきました。

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