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人間の社会活動は、すべて地球上の資源を利用して成り立っているもの。企業が自然を顧みずに成長を追い続ければ、いずれ資源が枯渇して、崩れてしまいます。
働いていても似たような感覚になるときがあります。
成果を出すために、友だちとの時間や睡眠時間を犠牲にするなど。一方だけを疎かにして得るものは、長い目でみると続いていかない。
経済も社会も、仕事も暮らしも。両立してこそ、豊かな未来につながっていく。
今回紹介する仕事は、そんな姿勢に共感して働きたい人にピッタリです。

長野県小海町。
八ヶ岳の麓にあって、冬は湖が全面結氷するほど冷え込みます。
2025年7月、松原湖の入り口にあるロッジを改修して、「HOTEL MIYAM」がオープンしました。
単に泊まってもらうのではなく、ホテルや自然の中での体験を通して、心身の変化、環境への配慮、働き方などに気づき、持続可能な社会に向けてアクションを促すというコンセプトです。
手がけるのは、事業プロデュース会社さとゆめ。今回は、SXを体現するホテルのサービススタッフと調理スタッフを募集します。
宿泊業界での経験がある人だと望ましいですが、必須ではありません。新しい宿泊業の形を築いていきます。
東京から電車を乗り換えて2時間ほどで、小海駅に到着。
さとゆめの方が迎えに来てくれて、車で10分の松原湖へ。

標高はおよそ1100m。
湖のまわりを木々が囲っていて、その先に八ヶ岳をはじめとした山々。
澄んだ空気が気持ちいい。湖のまわりを案内してもらうことに。
「この葉っぱ、よかったら嗅いでみてください」
勧めてくれたのは、さとゆめ長野支社長の浅原さん。

嗅いでみると、ちょっと甘さもありつつ、スッキリと鼻に気持ちよく入ってくる香り。
「ダンコウバイっていう植物で、いい匂いでしょ? 形も恐竜の足跡みたいで面白いよね」
ほかにも、ヘビがそり立ったときのような形をした植物がいたり、葉っぱの中心に小さな実がついたものがあったり。クロモジの茎を少し削るといい香りがすることも教えてくれる。

植物に触れたり、小川に足をつけたり、生き物の鳴き声に耳を傾けたり。
森の中を歩くうちに、リラックスしていくのがわかる。
小海町では、そういった森の癒し効果を活用して、企業向けのヘルスツーリズム事業に取り組んできた。
立ち上げから関わってきたのが浅原さん。湖畔のワーケーション施設であらためて話を聞く。

「2016年ごろから小海町の創生に関わってきて。はじめはまちづくり会議のファシリテーターを担っていました」
松原湖や白駒の池など豊かな自然に恵まれた小海町。一方で、都心からのアクセスがいいこともあり、日帰りの人が大半という課題があった。
まちを残していくために、小海の強みと方向性について話し合う。
「長野県はすでに観光客の方でいっぱいなんですよ。軽井沢、上高地、善光寺とか、同じマーケットで観光客を取り合っていても、すでに有名な場所と勝負するのは難しいよなって思って」
「あと、僕が信濃町で15年ほど、B to Bの森林セラピー事業を担当していた経験があって。それで、小海町でも展開することにしたんです」
名前は、「憩うまちこうみ Re・Designセラピー」。
自然を活かしたプログラムを通じて、本来持っている心と身体の健康を取り戻すことを目指した。

案内役となるセラピストは、専門的な講義や実技講習を通じて、正式にセラピストとしての認定を受けた小海町の住民たち。
まちのブランディングとともに、地域の雇用も生み出してきた。
現在は25社の協定企業がいて、新人研修や管理職研修向けのプログラムを提供している。
今回は、新たにホテルをオープンさせるとのこと。どんなお話から始まったんですか。
「3年ぐらい前かな。宮本屋っていうロッジが閉業するということで、さとゆめに相談をもらって。場所は、松原湖の玄関口。ここが朽ちて幽霊屋敷になってしまったら、観光自体がダメになってしまう。どうにかホテルを再興させてほしいという内容でした」

「でもいざホテル事業をやるってなったとき、僕自身、全然モチベーションが湧かなかった」
そうなんですか?
「やらなきゃいけないが先行していて、『自分がやりたい』になってないじゃないですか。ホテルを残したいだけなら、さとゆめよりもホテル専門企業に任せたほうが理にかなっている」
「僕らがやる意味について悩んでいたとき、たぶちゃんが『小海SX Field』を提案してくれました。言われたときに、それじゃん!と。やりたいって素直に思えたんです」
となりで聞いていた、たぶちゃんこと田房さんが話を続けてくれる。
さとゆめに入社して5年目。小海町には入社したときから関わってきた。現在はプロジェクトマネージャーとして、東京を拠点に活動している。

「建物を点で捉えるよりも、小海町全体で捉えたほうが事業が拡がると思って。ここでは、SXを” Sustainable Experience, for Sustainable Transformation.” と捉えているんです」
通常、Sustainable Transformationの略として呼ばれているSX。その意味は、「企業と社会の持続可能性を両立させること」。
それに対して、田房さんが定義したSXは「持続可能な体験の先にある、持続可能な社会への変革」。
「ここですぐに変化を促すというよりも、泊まって体験したことを持ち帰ってもらって、意識や行動の変化につながるような。そんな場所にしたいと思っています」
さとゆめは、「ふるさとの夢をかたちに」をミッションに掲げ、全国各地で地方創生に取り組む会社。
これまでにも、村をまるごとホテルに見立てた「NIPPONIA 小菅 源流の村」、JR東日本との共同事業「沿線まるごとホテル」など、地域の課題に対して、ユニークなアイディアで事業を生み出し、貢献してきた。
小海町で事業が成功すれば、似た課題を持つ地域でも導入することができる。
さとゆめとしての意義も合致し、本格的に事業が進むことに。
客室は7部屋。そのうちの6部屋から松原湖を望むことができる。
空間のつくりは、明確に役割が分かれていて、レストランは滞在者が交流を楽しめる、にぎやかな空間。そのほかは、草木が揺れる音や生き物の鳴き声に集中できたり、湖をボーッと眺められたり、自然の中に溶け込んでいくような設計を心がけた。

内装には植物由来の素材や廃棄材を使用。壁掛けのアートは、トマトジュースの搾りかすや白菜の外葉など、小海町の素材を塗料にして製作された。
まずは自分たちがSXを体現する。そして訪れる人にも、気づきを持ち帰ってもらい、企業や個人の変化を促していく。
「いろいろな要素を複合的に体験できる場所なので、新しく入る人は湖畔やまち全体をフィールドに活躍してもらえたらと思います」
MIYAMのコンセプトに共感して入社したのが、サービススタッフの河合さん。今年の6月に鹿児島から移住してきて、オープニングから関わっている。

「宿泊スタッフは3名、シェフ2名と少人数で働いていることもあって、伸び伸びとやらせてもらっています。立ち上げて間もないので、定まっていない部分を一つひとつ決めているところですね」
MIYAMでは、チェックイン後の15時から16時ごろまで、「プチセラピー」と呼ばれるプログラムを提供している。
セラピストによる案内のもと、湖畔の森を歩き、心をゆっくりと解きほぐしていく内容になっていて、その後は希望者のみ近くの温泉に送迎する流れ。
「私たちの狙いとしては、この場所での滞在を、自分とつながり直す時間にしてほしいと思っています」
「セラピーを通して開いた五感や内省の時間を持続できることが大切。なので、温泉が混雑しない時間帯に送迎をずらしてみたり、そもそも本当に温泉に行ってもらうのがお客さまのためになるのか立ち返ってみたり。みんなで試行錯誤しながら進めているところなんです」

小さいころから、環境や自然に興味があったという河合さん。大学では環境教育を専門に学んでいた。
環境も人も、みんながサステナブルに幸せに生きるにはどうしたらいいのか。
まずは地域の風土を活かしたリゾートホテルで働き、より裁量を持って働きたいと、MIYAMに転職してきた。

「ここに来て新鮮だったのは、シェフの方も宿泊についてすごく気にかけてくれていること」
「部屋のアメニティひとつとっても、『どうしてこれを選んだの?』とか、提供しているプチセラピーに参加してもらったときも、『ここを変えたほうがいいと思う』とか。料理だけでなく、全体のサービスや空間にまでこだわりを持って働いているのが素敵だなと思いました」
料理提供の演出を、一緒につくりあげている感覚があるという。
どんなふうに料理を紹介しているんですか。
「たとえば、葉物野菜を花束風にした“葉っぱのブーケ”は、カトラリーではなく、手で食べてみることをオススメしていて」
「直前のプチセラピーで葉っぱに触ったり匂いを嗅いだりしているので、森を食べてる感じが強調されるというか。個人的にその感覚が体験として面白いと思ったので、お伝えするようにしているんです」

ほかにも、「土の玉」や「豆の苔」など。パッと聞いて、どんな料理かワクワク想像してみたくなるものばかり。シェフがつくる料理をサービスタッフが言葉にし、料理名に採用されることもあるのだとか。
新しく入る人も、まずはセラピーや料理を体験してみて、心が動いたところをお客さんに伝えていけるといいと思う。
現場での裁量も大きいため、一人ひとりが課題を見つけて改善、解決していく姿勢は欠かせない。
一方で、未経験の人でも挑戦しやすいように、河合さんのフォローや、さとゆめの宿泊事業部のメンバーと定期的に話す機会も設けている。
「経験も大事ですが、それ以上に価値観やコンセプトに共感できるかどうかは、大事ですね。スタッフの共通認識として、優しくなる体験をつくることを意識していて。それは、ふっと力が抜けて、まわりの人や環境に目を向けられるような体験」
「それから働いている人も健全な状態であることを大切にしています。わたしたちが健康でないと、余裕のある空気感もつくれないと思うので、これからも大事にしていきたいですね」
河合さんのなかで、特に印象に残っている出来事があります。
「レストランの目の前が湖になっていて、日が暮れると本当に真っ暗になる。でもあるお客さんが、日没して少しの間だけ、湖にわずかな光が入っていることに気づいて教えてくれたんです。『あそこだけまだ揺らいでますよ』って」
「わたしも言われて初めて気がついて。ここで過ごすなかで、小さな自然の変化や時の流れに、アンテナが張るようになる。その瞬間を共有してもらえるのが、一番うれしいかな」
目には見えにくい変化に気づけたとき、人は少しだけ優しくなれるのかもしれない。自分のことを疎かにせず、幸せの輪を広めていくような仕事だと思いました。
(2024/06/06 取材、2025/07/24更新 杉本丞)


