※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。
「組織で働いていると、どうしても大きな後ろ盾やお金がないと何もできないって考えてしまうけど、実はそんなことはなくて」
「個人でもちょっとした志と工夫があれば、地域で何かはじめることはできますよってことを、まちライブラリーを通して知ってもらいたいんですね」
一般社団法人まちライブラリー代表理事の礒井さんの言葉です。
「まちライブラリー」は、誰でもどこでも気軽にはじめられる本を通した活動のこと。
自宅に本棚を設置して地域に開放する人もいれば、カフェやお寺で居心地のいい空間をつくる人もいます。室内に限らず、ワゴンに本をのせて、マルシェや公園などに出向き、まちを盛り上げようと活動している人もいます。
本の配架から、場の立ち上げ支援や広報、ライブラリー同士の情報交換や交流のサポートなど。事務局のような立ち位置でこの活動を支えているのが、一般社団法人まちライブラリー。
大阪のビルの一室からはじまったまちライブラリーの活動も、今では全国で累計1000件に迫る勢い。
最近では、法人としてコワーキング施設の指定管理業務を請け負ったり、本を通じて人と人をつなぐイベントを開いたり、活動の輪は広がってきています。
今年の6月末には、西東京市にある三菱UFJファイナンシャル・グループが保有する施設に、約1万冊の蔵書を持つまちライブラリー「まちライブラリー@MUFG PARK」が新しくオープンする予定です。
今回募集するのは、東京を拠点に新規事業の企画・立ち上げを担う人。
まずは西東京市のプロジェクト立ち上げに注力しつつ、そのほかの新規事業にも関わっていきます。
誰かの挑戦してみたいという気持ちに伴走して、形にしていく仕事です。
向かったのは、東京・南町田グランベリーパーク。
4年前にリニューアルしたばかりの駅直結の複合型施設で、訪れるのは今回がはじめて。
敷地内を進んでいくと、まちライブラリーと書かれた建物を見つけた。さっそく中に入ってみる。
この日は受付カウンターを新しくしているようで、入り口付近は関係者の方でにぎわっている。
白い壁と天井に、明るめの木材を組み合わせた床。テーブル、椅子をはじめ、本棚や壁づけのブックスタンドもすべて木できている。
大きな窓からは太陽の光がたっぷりと差し込み、外には林が見える。室内ではあるけれど、自然を感じられる気持ちいいの場所だ。
近くにあった本をパラパラとめくってみると、本のなかに一枚のカードを発見。
借りた人のニックネームと簡単な感想が書かれていて、自分のSNSアカウントを記載できる欄も用意されている。
窓沿いの椅子に腰かけて気持ちよさそうに本を読んでいる人、参考書を広げて勉強している学生もいれば、談笑している人たちもいる。
図書館の静かなイメージとは、なんだかちょっと違うみたい。
そんな疑問に答えてくれたのは、南町田のまちライブラリーで働く上田さん。
「『図書館ですか?』って聞かれることも多いんですけど、ここは市営の図書館ではなくて。民間が運営している本が読めるコミュニティースペースなんです」
「読書を楽しむだけじゃなく、いろいろな人とコミュニケーションをとっていただきたいと思っているので、スタッフから利用者の方に積極的にお声がけしますし、会員になってくださった方はイベントに参加できたり、自分でイベントを開いたりすることもできるんですよ」
利用者に心地よく過ごしてもらえるように、コーヒーを淹れて提供もしているそう。印象に残っている利用者の話をしてくれた。
「60代ぐらいの男性がふらっと入ってきて、はじめは話しかけないでオーラをすごく出していたんです。怖い感じもあったんですけど、ちょっとコーヒーいかがですか?って話しかけて会話をするうちに、打ち解けていって」
「実はその方、書道の先生をされている方だったんです。それで、ここでイベントを開催してくれることになって。そうやってコミュニティに関わってくださったことがうれしかったですね」
「まちライブラリーでは、個人からスタートできるっていうことを大切にしていて」
そう話を続けてくれたのは、一般社団法人まちライブラリー代表の礒井さん。
「自分の好きな本を集めて居心地のいい場所にしてもいいし、本好きの人とつながれるような場所にしてもいい。地域の人と何かそこではじめることができるとか、どんな場所をつくってもいいんですよ」
新卒で森ビル株式会社に入社した礒井さん。29歳のときに社会人向けの教育事業を任される。
半年間の夜学コースとして、都市計画、ファッション、テクノロジー、心理学など、さまざまな講師を呼び、その場に関わる人が学び気づきあう場所をつくっていた。
しかし規模が大きくなるにつれて、顔の見える関係性が薄れていってしまったという。
責任者として、売上は上げ続けなければならない。そのためには、講座に多くの参加者を集める必要があったけれど、結果として、心ある人たちがはなれていくように。
もう少し規模を小さくして、顔の見える関係性を大切にした場所をつくることができないだろうか。
そんなことを考えはじめていたとき、勉強会に講師として来ていた26歳の若者、友廣裕一さんと出会う。
講座のテーマは、友廣さんが全国80近い限界集落を歩き回って旅をしていたときの話。
「最初は自分探しの旅だったけど、旅先で出会った人たちの笑顔や喜びを見つけるために行動した結果、だんだんと目の前の人を大切にしていこうっていう気持ちに変わり、半年も旅を続けることができた、という話をしてくれて。その話がすごく腑に落ちた」
「というのも、わたしはどちらかというと逆だったんですね」
たくさんの人に会ってはいたけれど、見ていたのは名刺の肩書きばかり。そのポジションをはなれたら、そこで終わってしまう関係性だったという。
「友廣くんは目の前の人を大切にしていたので、彼のやろうとすることに対して支援者がたくさんいたわけです」
「肩書きではなく、ひとりの人間として相手と向き合う。彼の人間に対する愛情とか洞察力を肌で感じて」
当時、礒井さんは52歳、友廣さんは26歳。
歳の差は2倍もはなれていたけれど、そんなことに関係なく、友廣さんの人柄に惹かれた礒井さん。半年ほど弟子入りさせてもらうことに。
「友廣くんに出会う前から、まちライブラリーの前身みたいなことは考えていたんだけど、ビジネスモデルから考えていたよね。コワーキングオフィスみたいな場をつくって収益性を持たせて、そこに本が読める空間をつくってフランチャイズにしたら儲かるんじゃないかなと」
「でもそれって自分が儲かるためとか、自分の夢を実現するためだけの場所であって。そうではなく、なにかやってみたいという人を応援する立ち位置に行ったほうがいい、そのことを友廣くんから学んだ」
本を通して誰かの挑戦に伴走できるような場所をつくっていこう。そんな想いではじまったまちライブラリー。
まちライブラリーをやっている人は、6割が個人の方。そのほか企業や行政が2割ほどで、商店街やNPOなどの小規模な団体も2割程度いるそう。
それらに加えて最近では、長野県茅野市のコワーキングスペースの指定管理業務を受託するなど、活動の幅は広がってきている。
今回、新しく入る人が関わることになるプロジェクトもそのひとつ。
三菱UFJファイナンシャル・グループが西東京市に所有する大きな運動場。今年の6月末からその場所を開放して、市民の公園にしようという計画が進んでいる。
公園の名前は、「MUFG PARK」。
樹齢100年近い原生林のエリアもあれば、テニスコートや芝生広場もある。その芝生広場に建物を新築し、地域の新しい交流の場所となるよう、まちライブラリーをつくって運営することになった。
現在は礒井さんが中心となってコンセプトを決め、企画を考えているところ。
新しく入る人は、実働部隊として礒井さんのアイデアを具体的な形に落とし込んでいってほしい。
「今回の場合は、本を集めて貸し合いをするという、従来のまちライブラリーのやり方+αで考えていることがいくつかあって」
「たとえば、本棚の一部をタイムカプセルコーナーとして、自分たちの思い出が詰まった資料だとか、そういったものを本箱に詰めて年単位で預かってみようとか」
大まかな方向は決まっているものの、それを具体的にどういう手順でつくればいいのかは、これから考えていくところ。
タイムカプセルを預かったあとは、どのように保管するのか。保管するための箱はどのくらい発注する必要があるのか。受付用のWEBサイトが必要になれば、制作してくれる人を探さなければならない。
そんなふうに、やるべきことを見える化して実行できる人がほしい。
「まちライブラリーというものが、自分の血肉になっている人でないとなかなか務まりにくいんですよ。なぜかっていうと、血肉になった人が1000人もいて、先にまちライブラリーをはじめてるんだから、その熱量についていかないといけない」
「利用者の方も、まちライブラリーの考えにある程度共感しているから、来てくれているんですね。そのなかで自分だけが仕事だからって割り切ってやっていたら続けられないと思うんです」
利益を追求するだけの活動でもなければ、単なる社会貢献というわけでもない。
利用者が自分ごととしてまちライブラリーに関わるように、この仕事を自分ごととして取り組める人だといいんだろうな。
本部のある大阪や北海道など、いくつかの拠点を持って活動している一般社団法人まちライブラリー。
東京の拠点は現在なく、各々がリモート勤務で働いている。MUFG PARKができた後は、東京のメンバーはそこで働くことになる予定だ。
最後に話を聞いたのは、事業部長の西山さん。
礒井さんとともに関東圏の新規事業をメインで担当しており、現在は茅野市のコワーキング事業に注力しているところ。
「この仕事って、いろんな人と話をして調整していくことが、一番大変だと思うんです」
「茅野市の事業も、市役所さんと利用者さん、そして働くスタッフ。みんなそれぞれの想いがあるわけじゃないですか。立場が異なるからこそ絶対に埋まらない溝もあるけれど、そこを全体が納得する形にしないと事業は続いていかないので」
「大変だと思うけれど、一番重要なことじゃないですかね。やっぱりみんなで同じ方向を向いてプロジェクトが進んでいくようになったら、よかったなって思いますよ」と西山さん。
誰かの“やってみたい”を形にしていくまちライブラリーの仕事。
自分ひとりではなくて、みんなの想いも込められているぶん、プロジェクトが形になったときの喜びは、2倍にも3倍にもなる。
自分のやりたいことがまだ明確にはわからなくても、誰かを応援したいという気持ちがあるなら。
たくさんの人の想いに触れるなかで、自分自身が輝ける場所を見つけることができると思います。
(2023/1/24 取材 杉本丞)
※撮影時はマスクを外していただきました。