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江戸切子を“想う”
職人になる

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

職人が一つひとつ丁寧につくる工芸品。

熱意と根気を持ってつくるモノには、金額以上の想いが宿っている。

取材を通して、そんなことを思いました。

今回は、江戸切子の職人として働く人を募集します。

硝子加工などの経験はあったほうが望ましいけれど、なくても大丈夫とのこと。

カルチャースクールなどを活用して、基礎の基礎から学びつつ、ベテランの職人さんから直接江戸切子づくりを学んでいきます。

 

取材に向かったのは、東京の東側、総武線の平井駅から歩いて5分ほどの太武朗(たぶろう)工房。

住宅街の一角にある事務所に入ると、代表の竹田さんが迎えてくれた。

「おひさしぶりです。前回の求人はおかげさまでうまくいって、入社した人は今すごく活躍してくれていますよ」

以前取材に訪れたのは、昨年の6月。

当時は商品管理やECの担当を募集していたのだけど、将来的に江戸切子の職人見習いを募集したいという相談も受けていた。

太武朗工房は、江戸切子などを主に扱う硝子工芸品の販売会社。社員に切子職人はおらず、外部の職人さんとパートナーシップを組み、オリジナルの商品をつくってきた。

今後は、商品づくりから内製化していきたいと考えている。

「ここ10年くらいはECに力を入れていて。企業さんの記念品みたいな大量の依頼のほかにも、楽天やアマゾンを介して個人のお客さんにも買っていただけるようになってきました」

「高級なものもありますが、メインはギフト用の数万円とか数千円のもの。江戸切子だけじゃなく、江戸硝子やサンドブラストという製法を使った彫刻硝子も販売しています」

順調に売上も拡大しているようだし、あえてコストをかけて職人を育てる必要はないように感じる。

どうして内製化しようという考えに至ったのでしょう。

「正直なところ、10年くらい前から考えてはいたんです。ただ費用面やリスクの面で、わたしの勇気がなかったというか… 決断できず、ずるずると時間が過ぎてしまったというのが正直なところで」

勇気と決断、ですか。

「硝子業界のなかでも、とくに江戸切子の業界はどんどん縮小しているんです。職人さんが高齢化する一方で、後継者がいない」

バブル期までは、江戸切子の需要も今より多く、職人はメーカーからの依頼を受けて切子を量産していた。

けれど、バブル崩壊以降は需要が減り、メーカーも廃業・倒産して、それまであった下請け仕事が大幅に減ってしまった。

「それでどうなるかっていうと、職人たちは自分の名前でオリジナルの作品をつくって、少数でも質の高い、高価な江戸切子を自分で販売するようになるわけですよ。簡単にいうと、職人ではなく作家になった、という感じです」

高価な嗜好品としての江戸切子が主流になったことで、若い職人もそちらの波に乗るようになり、下請けの仕事を受けてくれるのは、昔から付き合いのある高齢の職人だけになってしまった。

「このままの流れが続くと、うちみたいに大量の硝子製品を販売する会社がなくなってしまうから、加工前の原料のメーカーさんも苦しくなる。だからこれはうちだけの話じゃなく、切子業界、ひいては硝子の業界全体にも関わることなんです」

竹田さんの話す言葉の節々から、危機感の大きさが伝わってくる。

「危機感はめちゃくちゃありますよ。お金もかかるけど、太武朗工房の新しい一章を始めようっていう感覚で、前向きではいます。そこを一番伝えたいね。結構切実だけど、後ろ向きじゃないよっていうところを」

今回募集したいのは、太武朗工房専属で江戸切子の加工をする職人。できれば即戦力となるような経験ある人を求めている。ただ、未経験でも現役の職人さんのもとで見習いとして学べるので、関心があればぜひチャレンジしてほしいとのこと。

江戸切子づくりのカルチャースクールに通って基礎を、そして現役の職人のもとで実践経験を積んでいくと、早く技術を身につけられるかもしれない。

「機械設備を新しく導入するのに、1年半はかかる見込みです。その間はうちの仕事を受けてくれている職人さんのところで修行してもらう。1年半だけでは求めるレベルには届かないと思うけど、そこは本人のがんばり次第かなと」

「必要なのは、ハングリー精神とセンス。あとはスピードと質ですね。もちろん一度にすべては求めません。今後の人生を切子職人として生きていきたいっていう人にとっては、わるくない内容だと思うんだよね」

加えて、太武朗工房はデパートの催事などに多く出店しているため、ブランドとして名前が知られている。

そのため新しく専属の職人となる人も、独立するというリスクを負わず、良い作品づくりを通して自分の名前を売ることができる。これは太武朗工房に所属する上で大きなメリットのひとつだ。

また給料も、実績や評価に応じて手厚く昇給したいとのこと。切子職人を目指したい人にとっては、またとないチャンスだと思う。

とはいえ、最初の2年くらいは苦労すると思う、と竹田さん。

切子づくりは繊細な作業だし、段取りや道具を覚えないといけない。道具も、長く使うためには手入れが必要。

修行先の職人さんが教えてくれるけれど、一言一句丁寧にというよりは、見て真似て学ぶ場面のほうが多いかもしれない。

「今回ばかりは、江戸切子に対する情熱がある人がいいね。前の募集のときは、硝子に対する情熱はなくてもいいって言ったんだけど(笑)」

「熱意を持って、挫けず取り組んでいく。そういう姿勢じゃないと続けていけないと思うし、いいものはつくれない。ぼくらも本気で迎える用意をしているから、来てくれる人も本気になってほしいなと思います」

普段は冗談も交えながら話してくれる竹田さんの最後の言葉には、少し特別な熱が込められていた。それだけ今回の募集を本気で考えているのだと思う。

 

職人見習いはどんな人のもとで学ぶことになるのか。場所を移動して、切子硝子職人の木村さんのもとへ向かう。

太武朗工房から車で5分ほど。「ここですね」とついた場所は、ぱっと見ふつうのお家のような佇まい。車庫のような場所が作業場になっているようだ。

中に入ると、硝子を削る機械がいくつも並んでいる。さほど広くはないけれど、町工場らしい空気感を感じる。

作業場の中で、木村さんと、一緒に作業している奥さんに話を聞く。

職人になってどれくらいになりますか。

「半世紀だね。父親の叔父がやり始めたんですよ。だから直系じゃないんだけどね。先祖は昔横浜にいて、百姓だったんです。日露戦争で足を痛めて、百姓ができないってことで硝子の道に進んで。手が動けばできるからね」

子どもの頃から硝子職人の仕事に触れ、腕を磨いてきた木村さん。

職人に対して、なんとなく寡黙なイメージを持っていたけれど、木村さんは優しく温和に話してくれて、接しやすい。

職人に必要なことってなんでしょう。

「そうだねぇ… 根気かな。基本は根気」

根気。

「ゆっくりやってもある程度はできるけど、それじゃ数をつくれないから。あとは、ずっと座り仕事になるから、それに耐えながら効率よくつくることも大事だね」

奥さんも付け加える。

「ずっと座ってんの、朝から晩まで。根気のない人にはできないよ。間違えないようにする集中力もいるよね。根気よく、目の前の作業に集中することができる人。それが好きっていう人じゃないとできないと思うね。うちのせがれなんかも、じっとしてる仕事はいやだって言ってたから」

再び木村さん。

「いまの職人を見ても、せがれが継ぐっていうケースはほとんどないね。外部から来ているところは、下請け仕事じゃなくて作品をつくりたいっていう人が多いかな」

じゃあ、木村さんの息子さんが継がないとなると、どうするんですか。

「やめるよ、廃業。後継者がいないところは。だいたい廃業してる。だからうちもそうなる可能性が高いね」

長年ものづくりに向き合ってきた木村さんの口から廃業という言葉を聞くと、とても重みがある。

さっきの根気という話、もう少し聞いてもいいでしょうか。

「根気を持ってできるかどうかというのは、もちろん生活のためっていうのもある。あとは… これくらいでいいやって思う仕事をしないことだね」

「納得できるところまで、何回直してでもとことん仕上げる。これくらいでいいやなんて言ってたらだめ。同じものを何百とつくっていたとしても、途中で妥協しちゃうと、ぜんぶモノに表れてくる。これも根気がいることだよね」

木村さんの工房では、奥さんと作業を手分けしてものづくりをしている。

奥さんの担当は、硝子工場から送られてくる切子の原型に施す割り付けという作業。

専用の台に乗せて、縦軸と横軸をペンで記し、木村さんが削るときの目印をつける。

見ているだけだと簡単そうだけど、実際にやってみると縦軸の線を引くのがむずかしい。最初にしっかりセンターを合わせないと、そのあとの線がすべてずれてしまう。

「『矢来(やらい)』っていう文様があって、これが江戸切子の基本の文様やね。ほかの文様も、矢来からの応用でデザインされてる」

「矢来」は竹を交差してつくられた囲いを表す文様だそう。外敵を防ぐことから、魔除けの意味があるのだとか。

印のついた原型を、今度は木村さんが削っていく。

硝子は、回転式のダイヤモンドホイールと呼ばれる工具で削る。粗く削ったら、砥石のホイールで微調整をしていく。

木村さんの提案で、実際に削らせてもらうことに。

硝子をホイールに押し当てると、ガーッと音を立てて硝子が削れていく。木村さん曰く、度胸を持って思いきり押し付けるくらいのほうがいいとのこと。そうは言っても、最初は力の加減がわからないので怖い。

削りの深さ、正確性、そしてスピード。すべてを兼ね備えなければならない。一人前になるには、それなりの時間がかかりそうだ。

ここで、作業を一緒に見ていた竹田さん。

「今回はアルバイトとかではなく、正社員としてうちがお給料を出して技術を学んでもらう。でかい投資をする覚悟で」

「お給料も最初はそこまで多くはないですが、実績に応じてしっかり上げていきたいし、家賃補助とかの福利厚生もできるだけ充実させたいと思っています。腰掛け気分で来たらうちも困るし、木村さんにも迷惑がかかる。だから、腹を括って修行する感覚で来てくれたら」

たとえば、いま硝子業界にいるけれど、もっと技術と名前をあげていきたいと考えている人など。業界内から来てくれることも歓迎したい、と竹田さん。

 

修行中は楽しいことばかりではないと思います。それでも、ここで経験することのすべてが、自分の目と手に刻み込まれていく。一生モノの財産になる仕事だと思いました。

江戸切子を“想う”。そんな職人になる人との出会いを待っています。

(2022/12/14 取材 稲本琢仙)

※撮影時はマスクを外していただきました。

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