求人 NEW

健やかな鶏が産む
つながりの卵

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

最近、持続可能性という言葉をよく耳にするようになって、自分の行動が地球にどう影響するかを考えるようになってきました。

どんな仕事をするか、なにを買うか、なにを食べるか。

牛肉ひとつとっても、国産がいいとか、放牧されて牧草を食べて育った海外産のものがいいとか、そもそもゲップが温室効果ガスの原因になるので食べないとか。いろいろな考え方があって悩ましい。

大袈裟かもしれないけれど、個人の一つひとつの選択が、未来を左右するんじゃないかと思います。

熊本県合志(こうし)市にある、緒方エッグファーム。

「鶏の健康、人の健康、地球の健康」をコンセプトにした、ヘルシーファーミングという考えをもとに、地域に根差した養鶏を営んでいます。

持続可能な農業を目指すフランスの団体「ブルーブランクール」の認証を得た卵を生産し、卵を活用したカステラやプリン、鶏肉の販売も行っています。

今回は、ここで鶏の飼育をする人を募集します。ほかにも卵の自動販売機への配達や、店舗での接客なども日々の業務になります。

生きものと向き合うので楽しいことばかりではないけれど、地域や地球とのつながりを感じられる、やりがいのある仕事だと思います。

 

緒方エッグファームがあるのは、阿蘇くまもと空港から車で30分ほどのところ。

竹林に囲まれた平飼い鶏舎のすぐ隣にあるカフェで話を聞くことに。ここでは卵の販売やカステラの加工も行っている。

「こんなに近くに鶏舎があるのに、くさくないんですよ」

そう話してくれたのは、緒方エッグファーム代表の緒方克也さん。

たしかに。言われるまで気にも掛けなかったくらいに、鶏のにおいがしない。

「エサに麹菌を混ぜているおかげで、フンの発酵が早くて匂わないんです。完熟した鶏糞は畑の肥料になるので、飼料米をつくってくれる農家さんたちに還元しています」

一般的な養鶏場では産業廃棄物として処理される鶏糞も、ここでは一度も産廃として出していないのだとか。

代々この地に暮らす緒方家は、克也さんで13代目。養鶏はおじいさんの代からはじめた。

「小さいころから手伝わされていたんですけど、それがいやで。農家とか養鶏はやりたくないと思って家を出て、5年間航空自衛隊にいました」

その後、航空整備の仕事を経て九州に戻り、農機具を販売する仕事に就いた。

その会社で九州各地のさまざまな農家を訪ねるうちに、実家の経営も客観的にみられるように。自分にも何かできることがあるんじゃないかと思い、30歳のときに実家を継いで養鶏をはじめた克也さん。

価格競争の時代が終わり、変化に合わせて生き残るために、高品質で高価格な卵をめざして模索の日々が続いたそう。

「すべての鶏に目が行き届くように、3万羽いた鶏を1万羽にまで減らしたり、父のやり方をみて鶏のことを勉強したり。いろいろしたんですけど、なにか煮え切らなくて。いい卵ってどういうものなんだろうって、よく考えていました」

そんなときに福岡の知り合いから声がかかった。

「フランスにちょっと変わった畜産のやり方をしている人たちがいるから、緒方くん視察に行ってみないかって誘われたんです。それがブルーブランクールっていう団体で。その出会いが大きかったですね」

ブルーブランクールとは、家畜のエサから商品の品質管理まで、基準を満たした商品に独自の認証を与える、フランスの食品協会のこと。

モットーは、「家畜の健康、人の健康、地球の健康」。健康な家畜を育てることが、それを食べる人の健康や、畜産による環境への負荷の低減にもつながるという、ヘルシーファーミングの考え方を提唱している団体だ。健康志向やアニマルウェルフェアへの意識の高いヨーロッパを中心に、5,000以上の農家が認証を得ている。

「日本人って霜降りのお肉好きでしょう。たとえば牛って、サシの入り具合によって等級が決まるんです。だけど、サシって牛の健康のためじゃなくて、人間のためのものなんですよ。しかも霜降りを食べると人間の健康につながるかというと、そうでもない」

健康な家畜を育てるには、エサや環境がとても大事な要素になる。

「ブルーブランクールでは、家畜が健康に育つためには油脂が重要と考えていて。亜麻の種子には良質なオメガ3脂肪酸が含まれているので、亜麻種子を飼料に混ぜることで、家畜の健康を保っていくんです」

「つまり私たち畜産農家の仕事は、家畜が健康になるために手助けすることなんですね。それを突き詰めることはすごい大事だと思って、自分もやりたいと思いました」

牛には亜麻種子を与えることで健康を促進し、乳の出がよくなったり、メタンガスの排出量が低減することが実証されている。

牛ほどの影響力はないけれど、鶏も健康に育てることで環境への負荷を減らすことができるという。

ヘルシーファーミングの考えに共感した克也さんは、帰国後すぐに実践してみることに。

「最初はオメガ3脂肪酸がいいって聞いて、単純にそれまでの飼料に亜麻の種子を足したんです。そうしたら、鶏が太って、毛も抜けて、卵も産まなくなったんですよ。脂肪過多になったんですね。ただ増やせばいいもんじゃないんだなと」

研究者や獣医さんに理想的な飼料のバランスを相談しても、納得のいく答えはもらえなかった。それならばと、克也さん自ら20回ほど飼料の配合を試して、やっと今の形に落ち着いたそう。

エサには亜麻種子のほかにも、海藻や麴菌、自家製の乳酸菌などをブレンド。

視察後に始めた平飼いでは、亜麻種子の飼料に加えて、より自然に近い環境を目指してオスも一緒に飼育し、有精卵も生産している。

「平飼いはめちゃくちゃ優秀なんですよ。すごく健康的だし、産卵率も、お客さんの反応もいいです。飼育総数をこれ以上増やすつもりはないけど、今後は平飼いの割合を増やしていきたいですね」

取材中も、カフェには卵を買いにくるお客さんがひっきりなしに訪れる。機能性表示食品でもある緒方エッグファームの卵を求めて、わざわざ福岡から来る常連さんもいるのだとか。

直販する場所があることで、お客さんの反応がみられるのも緒方エッグファームの魅力のひとつ。

 

そんなお客さんとのやりとりを大切しているのが、2年目の作本さん。

鶏の飼育を担当しながら、地域の自動販売機への配達や店舗での販売業務も行っている。これから働く人は、作本さんと同じ業務をすることになる。

「小さいときから動物が好きで、アルプスの少女ハイジをみて、自然のなかで動物とふれあう生活をしたいと思っていました」

大阪出身の作本さん。動物のことを学ぶために、熊本にある大学に進学した。

「実習や就活でいろんな農場に行ったんですけど、しっくりこなくて。大学で牛とかを放牧していたのを見ていたので、動物らしく自由に育った畜産物って素敵やなと思っていたんです」

そんなときに、平飼いもしている緒方エッグファームを知り、働くことに。

現在、鶏の飼育は克也さん、作本さんを含めて3人で担当している。

「まず朝7時過ぎに鶏舎でごはんをあげて、掃除をして点検をします。それから物産館に配達に行って、帰ってきたら卵を集めて洗卵、箱詰め、出荷の準備。そのあとは自販機への配達。帰ってきたらまた鶏舎の点検をするという感じです」

朝夕の点検では、鶏の様子はもちろん、給餌システムの確認や温度調整、換気などを適宜行う。

「ケージの換気は自分の体感で判断するんです。空気が悪いなと思ったら、温度が下がりすぎない程度にカーテンを開けて換気する。その調整が難しくて、克也さんに注意されることもあります」

自然や動物を相手にする仕事。明確な基準があるわけではなく、自分でやってみて失敗を繰り返しながら、身体で覚えていくことが大切。

動物が好きだからこそ、直視したくない場面に出くわすこともある。

「ペットと違って産業動物なので、卵を産めなくなっちゃうと淘汰しないといけないんです。この間も獣医さんが原因を知るために解剖してみましょうかって。でも私は耐えられなくて更衣室で泣きました(笑)」

そのときは骨折が原因だったそう。原因を把握することで、今後の飼育に活かしていく。

「これから入る人も、命を扱っている責任感を持ってほしいですね。いっぱい飼ってはいるけど、全部一つの命で私たちのために生きてくれているので、1羽ずつ大切に守る気持ちで来てほしいです」

作本さんが鶏を大切にする気持ちがお客さんに伝わって、なかには鶏の様子を気にかける人もいるそう。

「今日暑いけどニワトリさん大丈夫?とか声かけてくれますね。卵の自販機に置いてあるノートにも結構メッセージをくれて。たまに小学生も書いてくれます」

「私は配達先やお店でお客さんとしゃべるのがめっちゃ楽しくて。うちの経営理念が『健康な鶏を育てて、卵を通して人とつながる』なんですけど、野菜をもらったりとか、お客さん同士が仲良くなったりするのもうれしいです」

 

緒方エッグファームで「人とつながる」部分を担当するのは、緒方幸代さん。克也さんの奥さんで、経理や営業、カフェでのイベントの企画などを行っている。

もともと小学校の教員として働きながら、休日にカステラなどの加工品をつくっていた幸代さん。10年ほど前に教員を辞め、本格的に緒方エッグファームで働くことに。

「加工販売だけじゃなくて、もっとこの地域を魅力的にするために何かできないかなと思っているんです」

地域活性のセミナーにも参加するなかで、結局は合志に来てもらうことが大事だと思ったという幸代さん。

「そのきっかけとして、イベントをはじめました。卵をいろんな角度から楽しんでもらいたくて、お菓子教室や料理教室を開いています」

ほかにもカフェでは毎月、緒方エッグファームの卵を使っているパンの販売や、地域の喫茶店のカレーが食べられる日など、イベントが頻繁に開催されている。

また教員時代のつながりを活かして、小学生をファームに招いて鶏舎の見学をしたり、カフェスペースに子ども向けの文庫をつくったりしているそう。

「イベントもこちらからお声がけするというよりは、ここの卵を好きなお客さんからやりたいって言ってくれることが多くて。卵を中心に人がつながっている感じなんです」

最後に少し遠慮気味に見せてくれたのが、毎月幸代さんが執筆している「たまご日和」。これを楽しみにしているお客さんも多い。

「学級通信みたいなもので、10年くらい前からはじめて、今月で127号なんです。これを書いているのが、ちょっと自慢できることですね」

イベントの情報や鶏の様子、幸代さんたちの近況なんかも書いてあるお手紙のような通信。鶏やお客さんを大切にしている雰囲気が伝わってくる。

環境を考えながら、鶏にも人にも、ひたむきに向き合う。

自信を持って話してくれる克也さんたちからは、一つひとつの命を預かる覚悟のようなものを感じました。

「健康な鶏を育てて、卵を通して人とつながる」

会社の理念に共感した人は、ぜひ応募してみてください。

(2023/1/16 取材 堀上駿)

※撮影時はマスクを外していただきました。

この企業の再募集通知を受ける

おすすめの記事