求人 NEW

みんなで目指す
あさりと言えば、このまち!

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

自分とは縁遠いと思っていた仕事も、一歩踏み込んでみると見え方が変わる。

今回紹介する仕事も、踏み込んでみるほど面白さを発見できる環境だと思います。

舞台は、福岡県築上(ちくじょう)町。

県の東部に位置し、北九州市から車で1時間ほど。海沿いの椎田町と山側の築城(ついき)町が2006年に合併して生まれた、自然豊かなまちです。

目の前にある豊前(ぶぜん)海は、瀬戸内海最西部の内湾で、北九州地域でもトップクラスのあさりの産地。近年は漁獲量の減少にともない、まちと民間企業、漁師さんたちであさりの養殖事業に取り組んでいるところです。

今回は、地域おこし協力隊として「アサリ資源回復プロジェクト」をメインに、広くまちの水産業に関わる人を募集します。

水産に関する専門的な知識はなくても大丈夫。まずは、地域での暮らしを楽しめるといいと思います。

 

北九州空港からバスと電車を乗り継いで約1時間30分、JR椎田駅で降りる。

江戸時代、中津街道の宿場町として発展してきた歴史がある築上町。いまでも当時の雰囲気を感じさせる街並みが残っている。

駅から歩いて5分ほどで、取材場所の築上町役場に着いた。

はじめに話を聞いたのは、株式会社はまげん創業者の石谷さん。

築上町と一緒にアサリ資源回復プロジェクトに取り組んでいるので、新しく入る人も関わる機会は多い。

「あさりに関しては、このあたりで一番の産地です。はじめて潮干狩りにきた日を覚えてないぐらい、ちっちゃいときから家族でよくきていて。春はこの近くの海で潮干狩りをするのが、本当に楽しみだったんですよ」

前職では、福岡県庁の水産振興課や水産海洋技術センターに勤めてきた石谷さん。

漁師さんたちと一緒に水産資源の管理のための調査、資源を増やすための事業に取り組んでいくうちに、漁師さんの経営など、よりさまざまな問題を解決したいと思うように。

そこで、「海の資源を未来につなぐこと」に加え、「漁師の営みを守ること」を両立させ、本当の意味で“浜”を元気にすることを目指して、はまげんを創業した。

「ここの海は瀬戸内海の端っこなんですけど、遠浅の海岸で潮の干満差が大きくて干潟が発達しやすい。それに、あさりの餌になるプランクトンがすごく多いんです」

築上町で採れるあさりは、身質が柔らかく濃厚な味で、「椎田アサリ」として地元の人に好まれている。

あさりのほかにも、クルマエビ、ガザミ、カキなどの好漁場となっており、「豊前海一粒かき」が有名だ。

「築上町であさりが採れ続ける理由は、ここの環境にあるなと思っていて。あさりって、実は砂の生き物じゃないっていうのが自分の感覚なんです」

砂の生き物じゃない?

「砂に潜る力が弱くてすぐに波でさらわれやすい。だからもともとは石場とか、少し流されにくいところに住む生き物なんじゃないかと思っていて」

「ここの海岸はさらっとした砂浜ではなく、ちょっとゴロゴロした石場が多いんです。あさりがよく採れていた時代っていうのは、石の合間で育ちきれないぐらいひしめきあって砂浜に流されたものを、みんなが採ってたんじゃないかと思います」

潮干狩りの時期には、毎年2万人以上の人が椎田アサリを求めて訪れるほど、にぎわいを見せていた築上町。

だんだんとその漁獲量は減り、今では全盛期の100分の1まで落ち込んでいるという。

この現状をどうにかしようと、築上町とはまげんでタッグを組んで7年前にはじめたのが、「アサリ資源回復プロジェクト」。

養殖の方法はとてもシンプルで、砂利の入った網袋を干潟に設置するというもの。すると網の中にあさりの赤ちゃんが入ってきて、勝手に育って増えるそう。

砂浜だと自然に流されたり、ほかの生き物に食べられたりしやすいけれど、保護された袋の中では、安全に育ちやすい。

はまげんは、漁師さんたちのグループが取り組むアサリ資源回復プロジェクトにスタートから関わっている。漁師さんの高齢化が進むなか、あさりの養殖であれば身体への負担を減らして商売を続けやすいと考えているからだという。

「袋の数はかなり増やしてきたんですけど、メンテナンスも結構大変なので、漁師さんだけではなかなか手が回らないし、このままでは資源を守れない状況になっているんです」

これまでに設置した数は、なんと数万袋。

基本は網を設置するだけでいいけれど、あさりは2、3年ほどで寿命を全うするため、袋を開けてあさりを収穫する必要がある。数万袋を10名ほどの漁師さんで管理しているため、結果として、管理しきれない袋も出てきてしまう。

また、資源回復プロジェクトに対する地域住民の方の理解もまだ十分に浸透しておらず、なかには養殖している袋を勝手にあけて持って帰ってしまう人もいるのだそう。

「誰が聞いても『築上町=あさり』って結びつくぐらい、でっかいプロジェクトにしていきたいと思っていて。そのためには情報発信とか、地元の人からの理解を深めるとか、やることはたくさんあるんですよ」

今回新しく入る人には、地域の人たちを巻き込んであさりを保護するためのチームを立ち上げるなど、アサリ資源回復プロジェクトに軸を置きつつ、水産業にかかわるさまざまなことに挑戦してほしい。

 

「資源って今すぐにつくれない自然のものなので、30年後も続けていくために、行政として環境を整えていきたいと思っています」

話を続けてくれたのは、築上町役場産業課で課長を務める古市さん。

ちょっと強面に見えるけれど、時折ユーモアを交えながら、プロジェクトに対する想いを話してくれるので、話も聞きやすい。

「単にあさりを増やすことが目的だったら、どこかの業者さんにお願いして作業してもらう方法もあると思うんです。ただ、それだけでは何でこのプロジェクトをやっているのか、地元からの理解も得づらいと思うし、長く続いていかない」

「なぜあさりなのか、なぜ養殖をしているのか。何で袋に入れているのか。これまでやってきたことをきちんと継承していくことが大切だと思っていて」

プロジェクトのことをもっとよく知ってもらおうと、最近では地元の小学校の授業の一環として、生徒たちと一緒に袋に砂利を詰めて干潟に置く取り組みもはじめた。

あさりの仕組みや歴史を知り、実際に手を動かしてみる。数年後には、その袋を自分たちで開けてもらい、育てたあさりを実際に食べてもらう予定とのこと。

一度設置したものを再び開けるのは、何だかタイムカプセルのようで面白そう。企業向けにもこのワークショップを提案中とのことで、「海のタイムカプセル」として、パッケージ化したツアーをつくってみてもいいかもしれない。

そんなふうに、まわりと相談しながら自分にできることを想像して形にしていけるといいと思う。

アサリ資源回復プロジェクトに加えて、漁師さんの採った魚の新しい販路を見つけたり、価値を付加したりする仕事にも取り組んでほしい、と古市さん。

「いまって、漁師さんたちは採った魚をそのまま市場に出しているんです。でも漁師の生活って、やっぱり厳しい部分もある。100円でも高く売れて、漁師さんが少しでも儲かる方法を、新しく入る人とも考えられたらうれしいですね」

 

古市さんの話を聞いていると、ひとりの人間として、このまちの漁業に向き合っているような印象を受ける。

それは、同じ産業課で働く小林さんからも感じる。

どうしてそんな想いを持つようになったんだろう。率直に聞いてみる。

「やっぱり、関わり合うなかで割り切れなくなってる。これが本音だと思います」

割り切れなくなっている。

「漁師さんって少し言葉足らずな人も多かったりして、打ち解けるまで時間がかかるんですけど、何回も通っていくうちに仲良くなって」

「水産振興は3年目になるんですけど、本当ここ1年ぐらいの間ですね。仕事じゃなくて、まちでたまたま会ったときに、向こうから笑って話しかけてくれるようになって。それはすごくうれしかったです」

課長の古市さんも、はじめて水産の仕事に関わったときは、漁師さんと関係を築くのが大変だったそう。

定置網の漁や市場に一緒に連れっていってほしいなど、積極的にアプローチしていったところ、雑談だけじゃなく、抱えている課題も打ち明けてくれるようになってうれしかった、と話していた。

水産業に興味があるけれど、なにかを具体的に描けているわけではないという人も、古市さんや小林さんのように漁師さんと関わりあうなかで、やりがいや、やりたいことが明確になっていくのかもしれない。

「潮干狩りシーズンには、漁師さんに利用者の受付もしてもらっています。いただいた入場料は干潟の管理の費用などに回しているんですけど、観光資源での漁師さんの収入っていまのところそこしかないんです」

「このまちは漁獲量が豊富なわけじゃないので、近隣のレストランに卸すとか、直売所に出すとか、オンライン販売とか。個人向けの需要ってまだまだあると思うので、挑戦してみてもいいかもしれないですね」

新しく入る人は、基本的には漁協に籍を置きながら活動することになる。どんなふうに3年間を過ごすことになるんだろう。

「どんな仕事をするにしても、現場を知らないと何ができるかもわからないと思っていて。まずは3つある港にそれぞれ1ヶ月間入ってもらって漁師さんの仕事を知ったり、関係性をつくってもらったりする期間にしようと思っています」

また、隣町にある漁師さんの直売所「うみてらす豊前」での研修も予定している。

うみてらす豊前は、漁協が直営する施設で、1階は獲れたての魚を直売、2階はレストランになっている。加工設備や加工のノウハウもあるそうなので、いろいろと教えてもらうことができる。

1年目で環境に慣れてきたら、2年目、3年目は加工や販路の開拓にも挑戦できるといいと思う。

現在は漁師として活動している協力隊OBは、自分で獲った魚を知り合いの方に直接販売しているそうなので、その人と一緒にオンライン経由での販路開拓に挑戦してみても面白いかもしれない。

 

「築上町の魅力っていうと、やっぱり役場の古市さんと小林さんの2人の存在が大きいです」

そう話してくれたのは、はまげんの野瀬さん。

「役場には部署の異動があるのでこの2人がずっといるわけじゃないし、来年いきなりいなくなる可能性もあるんですね。でも一緒に取り組んでいると、このプロジェクトをうまく成功させて、築上町を面白くしたいよねっていう想いが本当に伝わってきて」

「熱量とか言うとちょっと平凡みたいな感じになってしまうけど、それはすごく魅力だと思うんです」

 

取材の最後に、漁港でみなさんの集合写真を撮らせてもらった。

自治体も、民間企業も、漁師さんも。立場が異なると、視点も大切なものも変わってくると思うけど、このまちでプロジェクトを進めていくみなさんは、しっかりと向き合いながらより良い方向へ向かおうとする姿勢が印象的でした。

まずは地域にどっぷり浸かってみてください。

(2023/02/28 取材 杉本丞)

この企業の再募集通知を受ける

おすすめの記事