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3年でまちはおこせない
天草でじっくり暮らす、
たっぷり話す

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

よく話し、よく暮らす仕事です。

地域のお年寄りと。漁師さんや農家さんと。移住を検討している人や、空き家を貸したい人、観光に訪れた人たちと。

会って話して、まちの魅力を伝えていく。地域おこし協力隊を募集します。

舞台は熊本県苓北(れいほく)町。天草諸島の北西部に位置する、人口およそ6500人の小さなまちです。

今回募集するのは、ふるさと納税の推進、デジタルデバイド対策、移住・定住推進、観光振興という4つのミッションの担当者です。

取材を通じて印象に残っているのは、海の青さと人のあたたかさ。移住してきた人たちを迎え入れる土壌があり、自分で仕事をつくって楽しく暮らしている人も多いように感じました。

「3年の任期でできることは限られている。まずはこの土地に暮らして、好きになってほしい」

そんなスタンスで、新しい人との出会いを楽しみに待っているみなさんに会いに行ってきました。

 

九州の各都市部から、絶妙に距離のある苓北町。

熊本空港や福岡空港から航空便が出ていたり、長崎市の茂木港からは高速船が通っていたり、アクセスの方法はいろいろ。

今回は南島原市の口之津港まで車で行き、カーフェリーに乗って天草の鬼池港へ。

そこからさらに西へと向かう。

太陽の光を受けてきらきら光る海がとてもきれいで、途中何度か車を停めて写真を撮った。

たびたび「イルカウォッチング」の看板も見かけた。この近海には300頭ほどのイルカが生息しており、9割以上の確率で遭遇できるという。

港から15分ほどで到着した苓北町役場は、真っ白な外壁と丸みを帯びた形をしていて、なんだか役場っぽくない。

道中の景色もあいまって、明るい気分で役場のなかへ。

商工観光課で地域おこし協力隊の担当をしている規矩(きく)さんが出迎えてくれた。ハキハキした口調で、思うことを率直に伝えてくれる快活な方。

おもしろいつくりの建物ですよね。

「黒川紀章さんの設計なんです。白を基調としていてかっこいいでしょう? 建築を学ぶ方の見学も多いんですよ」

苓北町出身の規矩さん。協力隊にとっては、地域との橋渡し役、そして頼れるパートナーになってくれると思う。

役場では地域おこし協力隊のほか、物産や情報発信、6年前からはじまった秋の「お城まつり」など、さまざまな担当を兼任している。

「正直なところ、苓北町役場の職員はいろいろな業務を抱えていて、新しい取り組みや柔軟な考え方がなかなかできていないんです。地域おこし協力隊の方に入っていただいて、行政と異なる新しい視点や発想力で一緒に苓北町を盛り上げていただきたいと思っています」

今回募集する協力隊のミッションは4つ。

たとえばふるさと納税の推進担当は、返礼品カタログの内容を充実させたり、SNSやイベントで発信したり。生産者や事業者と連携した返礼品の開発にも取り組んでほしい。

岩牡蠣やウニなどの海産物に加えて、米やレタスや柑橘類などの農産物もとれる苓北町。さらには磁器の原料となる陶石の産地としても有名で、国産原料の8割を天草陶石が占めているそうだ。素材は豊富にある。

移住・定住推進の担当者は、相談窓口での対応、空き家バンクやお試し住宅の運営、情報発信などを担うことになる。

2022年度には、夏と冬に1週間のツアーを実施。平日はまちの一次産業に携わり、休日に周遊するという短期就労・観光型のツアーで、合計15名の参加者からも好評だった。これを今後、よりよいものにしていきたい。

苓北町にはかつて天草の中心として栄えた「富岡城」があり、その一部区画をコワーキングスペースとして新たに整備している。

高台に建っているおかげで見晴らしがいいし、お城のなかで仕事するというのもなかなかない体験。元中学校の建物を活用したサテライトオフィスもあるので、うまく発信していけば、多拠点のうちひとつを苓北町に置きたいという人も今後増えるかもしれない。

ほかにも、地域内・行政内でのデジタル格差を減らしてコミュニケーションを円滑にしていくためのデジタルデバイド担当、観光協会とともに観光商品の企画やSNSなどでの情報発信に取り組む観光振興担当を募集中。

いずれにも共通しているのは、地域の人との会話を通じて進めていく仕事であること。

「通常業務をただこなしてもらってもおもしろくない。会計年度任用職員としてのルールは遵守したうえで、自由にやっていただいていいかなと思っています。ちゃんとコミュニケーションをとれる方なら、経験やスキルは問わず、どんな方もウェルカムです」

 

「ただ、関根くんとの二人三脚は苦労しました(笑)。ピュアで、ほんとに自由な方で」

そんなふうに紹介されたのが、苓北町の協力隊第一号の関根さん。少し苦笑いを浮かべながら、率直な言葉を交わすおふたりの姿に、信頼関係を感じる。

「協力隊には任用形態が2種類ありますよね。個人事業主型と、役場に所属する会計年度任用職員型。ぼくは役場で働くのは合わないだろうなって、ずっと思ってまして。苓北町は後者なので、すっごい迷ったんですけど、規矩さんが何度も熱心にお話ししてくださって。最終的には、規矩さんを信じます!っていう感じで決めました」

福島県出身の関根さんは、福島県内できゅうり栽培をメインとしながら、大豆から味噌をつくる「手前味噌プロジェクト」などの食育活動に取り組んでいた。

そんな活動と並行して考えていたのは、“自分に子どもが生まれたらどう暮らしたいか?”ということ。

農閑期の冬のあいだ、北海道から九州、遠くはアメリカの西海岸まで旅して回ったそう。その旅のなかで出会ったのが、苓北町だった。

「音楽仲間のつながりで、遊びにくる機会があって。食がすごく豊かだっていうことを知ってですね。いつか子育てをするならば、このあたりでしたいなと思ったんです」

2020年5月に、苓北町の協力隊に着任。それまでの経験をもとに、農や食にまつわるイベント企画や情報発信、特産品の開発などを期待されていた。

ところが、コロナ禍によって食のイベントなどが一切できなくなってしまった。

そこで手に取ったのが、以前から好きだったカメラ。町内の事業所を30ヶ所以上、現場の仕事を手伝いながら取材して回った。

「ぼくも農業をやってたからわかるんですけど、いきなり『撮らせてくれ』って言われても、忙しいし、そんなのいいよってなるのが普通なんですよ。だから1年目は、ちょっとでもいいんで手伝わせてください!みたいな感じで、飛び込みで行ってですね。カメラなんか持たんでいい! 手ぇ動かせーって、そんなところからはじまって」

信頼関係を深めつつ、独学で動画編集を学び、苓北の景色や人、産品の魅力を発信。

取材させてもらう立場だった事業者からも、徐々にPRの依頼などで頼ってもらえる機会が増えてきた。

まもなく任期を終える関根さん。卒業後は映像制作所を起業して、引き続き苓北町に残るつもりだという。

「映像制作を通じた地域の事業者の支援と、もうひとつはミニシアターみたいなものを興行できないかと考えています。苓北町には志岐集会所っていう映画館みたいな集会所があるんですよ。せっかくあるのに、なんで使わないんだろうっていつも思っていて」

協力隊としての3年間の活動報告会も、その志岐集会所で実施。今後は映画を自主制作することも考えている。

協力隊として活動していくうえで、大変なことはありましたか?

「働いてみてわかったんですけど、公務員ってとにかく報告の機会が多いんですよ。一ヶ月に1回報告書を書いたりとか、出張の度に報告が必要とか。それさえなければもっとできたのにって思うこともありますし、大変なところだと思います」

協力隊が関根さんひとりだけだったのも、むずかしく感じる要因だったそう。担当は違っても、それぞれの活動について相談したり、内容によっては課の垣根を越えて連携したりできるといい。

今回は4つの分野で担当を募集するので、チームとして動きやすくなるはず。それに関根さんもいる。協力隊の先輩として、また映像のクリエイターとしても頼りになると思う。

「田舎で新しいことをやるとやっかまれるとか、YouTubeで調べると『地域おこし協力隊 失敗』みたいな情報も出てくるじゃないですか。苓北ではそういうことは全然なくて、温かかったですよ」

 

そんな温かな空気をつくっているひとりが、関根さんの住む集落の自治会長をしている尾平(おひら)さん。

「3年前の5月だったですかね、彼が現れまして。身寄りのない、けれども爽やかな青年だなと思って、集落を連れて挨拶回りしたのが最初の関わりでした」

以来、仕事と暮らしの両面で、関根さんの活動を見守り続けてきた。

「常勤の職員でも、地域おこし、まちおこしっていうのはむずかしいところですから。3年間という任期で、できることは限られていると思うんです」

「そんなに多くは望みません。よそから来て、生活してもらって、苓北のよさを感じてもらえればなと。それが一番ですね」

人がやってきて、関わりが生まれる。それだけで町は少し活性化するんだと、尾平さんはうれしそうに話す。

続けて、こんな話もしてくれた。

「わたしの友人にフランス人のラファエルっておるんですけど。苓北に移住して、レモン果樹園をしたいと言うんです。南フランスの、ニースやあのあたりの雰囲気にそっくりなんですよって。波止場の突堤にチェアを置いて、ワインを飲みながら思ったそうなんですよ」

ラファエルさんいわく、“自分で育てたレモンで、タルトをつくりたい。それをこの地域の特産品にするのが、ぼくらのミッションです”とのこと。

地域おこしのため、と思うと、力んで空回りしてしまうこともある。

自分の暮らしのなかで大切にしたいこと、追い求めたいことの延長線上に地域の発展も重なる形こそ、実はもっとも持続的な地域おこしと言えるかもしれない。

「地方には産業がない、仕事がないとか言われますけど、苓北町には素材がいっぱいあるんですね。やり方ひとつで豊かなまちなんです」

尾平さんの身近にも、奥さんがペットウェアをつくってWeb上で販売し、旦那さんはワインを卸販売している夫婦や、陶製のボタンに細やかな絵付をした「天草ボタン」の作家さんなど、自分で仕事をつくって豊かに暮らしている人たちがいる。

「その夫婦は、犬が散歩してくれるからここに来たって。そういう方もいらっしゃるんですね。ぼくたちは、過疎で、なんの仕事もない、年寄りばかりだと思っとるけど、そうじゃない。価値観が違うんだなと思ってね」

「外の目線で、地元の魅力を見つけて、発信してもらえたら大変いいなと思っています」

そのためには、まずじっくり暮らすこと。そして、地域の人とたくさん話すこと。

まちづくりのはじまりは、暮らしのなかにあるのかもしれません。

(2023/3/13 取材 中川晃輔)

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