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食べるために生きている。
おいしいものを見つけたら、人と分かち合いたくなる。
そんな友人が何人か思い浮かびます。お腹が空くと不機嫌になることもあるけれど、食べているときはものすごくいい顔をする人。
今回紹介するのは、そんな人に知ってほしい仕事です。
九州最西端の離島、五島列島・福江島。
ここでショップ&カフェや宿、ウェディング事業を展開する合同会社te to baの新しい仲間を求めています。
募集しているのは料理担当と、カフェや宿の運営に横断的に携わるマネージャー。
生産者から直接食材を仕入れて、自分たちで調味料からつくったり、畑で野菜やハーブを育てたり。厨房のなかだけでなく、食材を育む人やその土台にある島のこと、食卓の向こうにまで意識を向けられる人に来てほしいそう。
それはまるで、島を料理するような仕事だと思います。
空港や港のある島の中心部・福江から、車を走らせること20分。富江という地域にたどり着く。
このあたりは、宝石サンゴやカツオの漁で栄えたまち。明治時代から昭和初期にかけては、全国から集まった人や船でごった返していたらしい。
今は落ち着いた港町という感じで、のんびりした空気が流れている。
築140年の元鰹節屋さんをリノベーションしたte to ba。暖簾がはためく建物の扉を開けると、代表の村野さんが迎えてくれた。
「もともとはウェディングの事業がしたくて、五島に来たんです」
東京のアパレルブランドで広報を5年経験した村野さん。その傍ら、プライベートで友人のブライダルの企画やドレス、ペーパーアイテムづくりなどにも携わっていた。
ただ、都会での結婚式は制約も多い。自然豊かな環境のなかで、新郎新婦のやりたいことをもっと自由に形にできたら。
そんな夢を叶える舞台として選んだのが、ここ福江島だった。
福江島は村野さんの両親の出身地で、幼いころから遊びにきていた縁もあった。
とはいえ、いきなりウェディング事業をはじめるのはむずかしい。
地域おこし協力隊として3年働いたあと、まずは気軽に入れる間口をつくろうと、2018年にカフェ&ショップte to ba<手と場>を立ち上げた。
2020年には、旅で訪れた人たちにじっくり滞在してもらうためのホステルta bi to<旅人>もオープン。
さらにもう一軒、新たな物件も取得して、活用方法を考えているそう。
…あれ? だんだんウェディングから離れていっているような。
「そうなんですよ(笑)。コロナ禍が落ち着いて、ウェディングのお問い合わせも増えているんですが、けっこう手いっぱいで。本来やりたかったウェディングや新しい事業に力を注いでいくためにも、このお店や宿を守っていってくれる人を募集したいんです」
五島の食材を活かしたランチを提供するほか、五島の産品や手づくりのものを集めたショップが併設されているte to ba。
旅人だけでなく、地元の人からも愛される場所になっている。
ここの食部門では、食材の調達からメニューの企画、調理まで。村野さんが担っている役割全般を任せられる人に今回来てもらいたい。
「調味料から自分たちでつくります。やりようによってはなんでもできるから、すごく楽しいと思いますよ」
塩漬けのレモンやゆず、梅シロップや梅酒、乾燥させたハーブやスパイス…。
店内には瓶詰めの保存食がたくさん並んでいる。
インタビューを進めていると、近所の方が差し入れを持ってきてくれた。重たそうなビニール袋のなかには、丸々とした空豆がずっしり。
村野さん、とってもうれしそう。
「豆板醤をつくろうかな。空豆をつぶして、麹や塩、唐辛子と混ぜるだけで、めちゃめちゃおいしくできあがるんですよ」
「新玉ねぎやチーズと一緒に、スコーンに混ぜてもおいしいし、今夜はシンプルに焼いて食べるのもいいですね」
生産者さんから直接食材を仕入れることもあるんですか?
「あります、あります。お米は知り合いに紹介してもらったお米屋さんから買っていますし、カラスミもすぐ近くでつくってるところに電話して会いに行って。トマトは産直に売っていたものが富江産で、調べたら同い年の女の子がつくっていたので、メッセージして仕入れたり」
スーパーの産直で買うこともあれば、流通に出せないB品を生産者から安く買い取ることもある。
自分たちがおいしいと思うものを、その都度選んで料理している。
「五島の食材は、全国的にも負けないんじゃないかなって思うんですよね。旅で訪れた人にも味わってもらいたいし、島の人にもいろんな食べ方があるよってことをもっと知ってほしい」
「朝ごはんはスタッフみんなで一緒に食べるんです。わたしは朝、まかないをつくるためだけに出勤してるようなもので(笑)。産直で初物を見つけちゃったときとかは、何がなんでもまかないで食べられるようにします」
自らを「食べることに貪欲」と話す村野さん。たしかに、ただ好きというよりも「貪欲」という言葉が似合うような、食への前のめりな姿勢を感じる。
これから入る人も、同じテンションで食べることについて話せる人がよさそうですね。
「そうですね。あとは、自由が苦にならない人がいいかもしれません」
自由が苦にならない?
「たとえばメニュー開発にしても、基本的に自由なんです。わたしはそれが楽だし楽しいなって思うんですが、『自由に考えていいよ』って言われるのがきつい人が多いこともわかってきて。自由度の高さを一緒に楽しめる人のほうが合うんじゃないかなと思います」
「一人何役もやらなきゃいけない環境でもあります。それが楽しめそうかどうかも、大事なポイントですね」
そう話すのは、ビジネスパートナーとして、2018年の立ち上げから村野さんと一緒にこの場をつくってきた梅沢さん。
テレビディレクターとして働いていた経験を活かして、写真や映像を使った広報やコンセプトメイクを担当。
te to baの裏庭で野菜やハーブを育てる生き物係でもある。
「畑の土づくりからはじめて、今はちょうど鶏小屋をつくっています。筋肉痛です(笑)」
「全部がプロフェッショナルじゃなくていいんだけど、これから入ってくる人はお料理屋さんでもあり、ときにコピーライターや写真家になったり、水道屋さんになったり。自分の持ち場だけで仕事するというよりは、なんでも興味を持って一緒にやろうと思ってくれる人がいいですよね」
どんなに食が好きでも、厨房のなかで料理だけをしたい人は合わない。
食材はどんな環境で、どういう人がつくっているのか。自分のつくった料理を食べた人は、どう感じるだろうか。
そうやって人に興味を持つことを、te to baではセクション問わず大切にしている。
「料理を通して人を笑顔にしたいとか、人とつながりたいとか。料理をコミュニケーションツールだと認識して、その向こうにいる人と会話できる人がいいです」
そして今回、もうひとり募集したいのが、カフェと宿の運営に横断的に携わる人。こちらはまったくの未経験でもいいそう。
カフェでの接客や洗い物に加えて、宿の予約対応や清掃、管理などが日常業務。
経験や希望に応じて、イベントの企画やウェディング事業の補佐にも携わってもらいたい。調理担当以上に幅広い役割を担うことになりそうだ。
一緒に働く、スタッフの道向(みちむこ)さんにも話を聞いた。主にカフェでスイーツ周りの仕込みを担当している方。
出身は長崎市内。te to baで働くことになったのは、Instagramで募集を見かけたのがきっかけだったとか。
「それまで五島には来たこともなかったんですけど、お菓子だったりパンをつくるのがもともと好きで。面接には自分でつくったシナモンロールを持ってきました。同じ長崎だから、カステラじゃないほうがいいかなと思って」
緊張しながらも、一つひとつ自分の言葉を重ねてくれる道向さん。
話していてほっこりする雰囲気が、村野さんや梅沢さんとも似ている気がする。
te to baに来るまでは、新しく何かに挑戦することが苦手だったという。
移住も伴う転職。一歩踏み出せたのは、なぜだったんでしょう?
「ここは、食べ物を大切に扱っているお店だなっていうふうに感じたんです」
たしかに、食べることが真ん中にある感じがします。
「最初に就職した先がJAでした。そこでつくり手さんとお話ししたり、現場を見に行ったりして。金融関係の担当だったので、お金まわりの事情もわかるんです。大変ななかで、がんばってつくっている人がいるっていうことを目の当たりにしました」
「それまで苦手だった野菜も、少しずつ食べられるようになって。だからこのお店でも、ひと手間かけたり、いろんな食べ方を提案したりして、こんなにおいしいものがあるんだよって知ってほしいなと思っています」
どんな人が、どんな環境でつくっているのか。
産地との距離が近い離島だからこそ、色濃く伝えられることもあると思う。
じつは、今新しく取得している物件は、小さなミュージアムにしたいという構想があるそうだ。土地の文化や歴史を外から来た人が知るだけでなく、地域の人も語り継いで残していけるような拠点として活用したい。
地元の郷土料理や食材のことも、そのなかで伝え残していけるかもしれない。
「最近は、“住み続けられる島をつくりたい”っていうことをよく話していて」と梅沢さん。
「ことさら五島のためにって考えているわけではないんです。たとえば五島で暮らしていくなかで、文化的なものに触れられないよね、っていうことがひとつのネックになっている。それなら自分たちでつくろうというのが、ミュージアムの構想の出発点なんです」
ここにないものや欠けているものは、数えればいくらでもある。スーパーの産直も、タイミングによってはナスしか並んでいなかったりする。
そんな環境をあえて楽しんだり、足りないならつくろうと発想を切り替えたり。そうやって楽しんでいる姿を子どもたちが目にすることで、次の世代に向けても、五島は“住み続けられる島”として残っていく。
「土に触れたり、自分たちで調味料から加工しているのも、理屈でどうこうというよりワクワクするから。そうやって手を動かして、いろんな人と手を合わせて、刺激を受けたり学んだりしながら、新しい文化が生まれていく場を一緒に育てていきたいですね」
取材後、ちょっと早めの夜ごはんをご一緒させてもらいました。
新鮮な2種の魚のカルパッチョや、畑でとれたドライトマトのピザ、ジビエのパテに自家製パン。昼間差し入れでいただいた空豆もある。
「この味付け、ちょっと強いね」「パンとパテ合うなあ」「畑のバジルものせちゃおう」
わいわいと食べものの話をしながらかこむ食卓は、とても心地がいい。毎日こんなまかないが食べられるなら、それだけでもここで働きたくなってしまいそうです。
手と手を合わせて、場をつくる。手と手を合わせて、いただきます。
生きることの土台に食があることを、あらためて教えてもらったような気がします。
(2023/5/15 取材 中川晃輔)