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富山県高岡市。
伝統工芸・高岡銅器をはじめ、およそ400年前から地場産業として金属の加工が根づいています。
はじまりは江戸時代。加賀藩当主の前田利長が、7人の鋳物師を呼び寄せたことがきっかけと言われています。
そんな歴史ある産地で1935年に創業したのが、瀬尾製作所。
インテリアに溶け込み、身近に故人を想う場所をつくれる「Sotto」という仏具のシリーズや、モダンな住宅建築にも映える鎖樋(くさりとい)の「SEO RAIN CHAIN」など。
古くから使われているものをリデザインし、現代のライフスタイルに沿うようなオリジナル商品をつくっています。
つくった商品は、自社のWebサイトでも販売。企画、開発、製造、販売まで。すべて自分たちでおこなっているのが強みです。
働き方も一気通貫しています。すべての作業に関わる多能工もいれば、Webサイトや展示会の運営を兼任している人も。
今回は製造スタッフを募集します。未経験は大歓迎。
商品が出来上がるまでの多くの工程に関わり、本人の希望や適性によって、商品企画やWebサイトの運営など、仕事を広げていってほしいそうです。
自分の仕事がどこにつながっているのか、よくわかる仕事です。
東京駅から、はくたか557号に乗りこみ新高岡駅へ。
改札を出たところで、瀬尾製作所4代目代表の瀬尾さんが迎えにきてくれた。
車に同乗し、工場へと向かう。
富山湾を背にする形で南下していく。あたりは田んぼが広がっていて、その奥には山々が連なっている。空が広くて気持ちいい。
少し走ると、瀬尾製作所に到着。
まずは瀬尾さんに工場を案内してもらう。
ゴォォと唸るボイラー。キィィという金属が削れる音。
いろいろな作業音が入り混じっていて、熱気もすごい。
「高岡銅器の核となる技術って、ドロドロに溶かした金属を鋳型に流し込んでつくる鋳物というやり方。うちはそういうやり方をしてなくて、鍛造と板金プレスという方法でものづくりをしています」
鍛造は金属の塊をプレスして形づくること、板金プレスは金型とプレス機を使って、金属の板を厚みを変えずに製品の形に変形させること。
鍛造は金属を熱して加工しやすいようにする。板金プレスは仕入れた金属の板にプレスをおこない、削ったり研磨したりする。両方とも、最後に着色やメッキなどの仕上げをしていく。
商品の梱包も自分たちでおこなっていて、ちょうど鎖樋を梱包しているところを見かけた。
ひと通り話を聞いたところで事務所へ。
あらためて瀬尾さんに話を聞いていく。
「昔は建材のOEM商品が多かったですけど、今は自分たちで新しく企画した商品の売り上げが90%ぐらいですね」
ブランドのひとつ「Sotto」は、仏具を身近なかたちへと変えたもの。
たとえば「Ring」という商品は、おりんと呼ばれる音を出す仏具がモチーフ。
昔ながらのおりんと言えば、鈴とりん棒に分かれているけれど、Ringはそのふたつが一緒になっている。加えて鈴の上に丸いくぼみがあって、指輪を乗せることができる。
「いまって仏壇がある家庭も少ない。それなら現代のライフスタイルに合わせて、家族が集まる居間などで亡くなった方を偲び、想う空間をつくるために、形見を置いてもいいんじゃないかと思ったんです」
「時計とかネックレスとか、指輪とか。亡くなられた人が長年使っていたものを近くに置くことで、その人を感じることができる場をつくりたい。Ringはそんな想いでつくりました」
ほかにも透明感のある佇まいと音が特徴の「Paddle(パドル)」や、花立、香立、火立の三点が一緒になった「Potterin(ポタリン)」など。
インテリアとしても部屋に馴染むような商品になっていて、グッドデザイン賞も受賞している。
時代に合わせて伝統技術を応用してきた瀬尾製作所。最近は東京にショールームもつくった。
「ずっと自分たちのWebサイトで販売していたんですけど、やっぱり僕らの商品はニッチな分野なのでWebサイトだけではわかりにくい。製品を手に取って、使う様子をイメージしてもらえるような場所をつくることにしました」
現在、売上の2割程度を海外取引が占めるほどインバウンドの需要もあり、ショールームは訪日外国人に向けての狙いもある。
「あとは、鎖樋の技術を活かしてファサードもつくりました」
そう言って瀬尾さんが見せてくれたのは、ビルの外壁にずらっと吊り下げられた円筒形の金属。
これは一体なんですか?
「ビルの環境性能を高めるための外装材です。日光からビルへの熱ってすごく強いんですよね。その光をこのファサードで受け止めて、すだれのように使います」
鍋のように深さがあり、底面が空いている円筒形の金属。底面は3種類の形にカットされていて、配置する場所に合わせて直射日光を制御できるようになっている。
日照量を抑えることで建物自体の温度も上がりにくくなり、室内で使用される空調のエネルギーも減らすことができる。
また、製品に使用する鋼材の量を減らすことで、製造する際に排出される二酸化炭素の量も大きく低減することが可能に。
環境性能はもちろんのこと、きちんと風通しや見通しもいいように確保されているので、ビルの入居者にも優しい。
「世界的な課題となっている脱炭素化を、わたしたちの手でも少しでも進めたいんです」
このプロジェクトのきっかけについて聞いてみると、以前ほかのビルのファサードに、鎖樋720本を使用した実績があると教えてくれた。
年々環境に対する配慮が必要とされるなかで、次世代の商品としてやりがいもあるし、可能性があるのではないか。
そこで瀬尾さん自ら大手建築設計会社に「ファサードをつくりたい」と直談判。
このことがきっかけとなり共同開発がスタート、3年がかりで実現した。
「うちの特徴って金型づくりから仕上げ、商品の梱包、そして販売まで。すべて自社で取り組んでいることなんですね」
一から十までものづくりに関わっているからこそ、開発時や量産時に課題となることを想像しながら取り組めるし、お客さんのニーズを感じ取りながらものづくりもできる。
だからこそ、ファサードのような挑戦的な取り組みもできる。
「ゼロからこんな仕事できたら嬉しくないですか?」
ニコッと笑う瀬尾さんは楽しそうだ。
自分たちで一気通貫して取り組んでいる瀬尾製作所。
以前は、分業制で部品の加工だけを頼まれることも多かった。
すべて自分たちで取り組もうと舵を切ったのは、瀬尾さんが前職時代に感じたことが影響している。
前職は、大手IT企業のシステムエンジニア。その後は、営業の部署で働いていた瀬尾さん。
大きい会社だからこそ当然のように分業制がとられていて、営業とエンジニアは互いの仕事が見えていないように感じた。
「エンジニアはお客さんの顔がわからないし、営業はどうやってサービスがつくられているかわかりにくい。それってすごくもったいないと思って」
「自分が会社を継ぐときは、みんなが一連の作業を見えるようにしたい。ずっとそう思っていました。完成品をイメージできず、自分がどの部分を担っているのかわかりにくいというのは、つくっていて楽しくないと思うんですよ」
一連の仕事が見える。
現場で働く人は、どんなことを感じているんだろう。
入社7年目の板橋さんに話を聞いた。
製造もしつつ、Webサイトの運営も担っている。
「いろいろやろうと思ったらできるんですね。Webサイトの運営にも関わるし、展示会でお客さんと話すこともあるし」
「そのなかで課題を見つけて解決することもできるので楽しいです」
たとえば、どんな課題がありましたか?
「うーん…Potterinの色味ですかね」
「Potterin」は、花立、香立、火立の三点が一緒になったしずく型の商品。
普段は写真立ての前に花立として置くことができ、必要なときには、すぐに祈りの場をしつらえることができる。
現在は、金銀含む4色展開。
「Potterinのシルバーは、昔はもう少し黄色味がかったシルバーでした。お客さんから、『思っていたような色味と違う』というような声ももらっていて。色を変えることになったんです」
メッキは、薬品の入った水のなかに金属を入れて電気を流し、表面に金属を析出させておこなう。何回も金属を入れるうちに、どうしても色づきにむらが出てしまっていた。
「まずは使っていた薬品を変えました」
加えてこれまでは着色一回だったところ、その前に2種類の薬品液に浸してから着色をおこなうようにした。下地の着色をすることで、理想とする色味に近づけただけでなく、安定性も増すことに成功した。
最近は海外からの需要に応えるべく、鎖樋の英語版サイトもリニューアルしてオープン。
順調に売り上げが伸びている一方で、以前よりも製造スピードを早める必要が出てきている。
「プレスする工程で傷が入ることも多かったりして。それを最終の仕上げで磨いて綺麗にしているので、どうしたら傷を減らせるか取り組んでいるところです」
つくる過程もお客さんの声もわかっていれば、瀬尾さんのように企画することもできるし、板橋さんのように問題点を見つけて解決に向かって行動もしやすい。
この会社だからこその面白さだと思う。
「社長と相談しながらフレキシブルに働き方も変えていくことができるので、働きやすいと思います」
最後に話を聞いたのは、製造スタッフの山口さん。
もともと鉄道会社に勤務していた方で、製造は未経験だった。今年で5年目になる。
「入社したてのころで、わたしの記憶にあるのはPotterinの仕上げですね。ブラストという加工方法なんですけど、ステンレスのカップに小さな硬いビーズを当てて表面を仕上げていきました」
大変だったことはありましたか?
「いろんな機械があるので操作には危険が伴うし、安全に正確に使えるようになるには時間がかかりました」
「その反面、操作を覚えると自分の仕事の幅も広がります。いろんな工程をやるからこそ、各作業の大変なところもわかって。その大変さを軽減する手段を得られるというか。できることが増えて楽しいですね」
「たとえば」と言って教えてくれたのは、山口さんが初めて金型をつくったときのこと。
「水雲(migumo)っていう鎖樋があるんですけど、その商品の大きいサイズの金型がなかったのでつくることになりました」
水雲は、和風建築専用の鎖樋。空に向かって開く花をモチーフにしてつくられたもの。
花びらのようなカップには穴が空いていて、鎖でつなげるようになっている。
ところが、大きいサイズの水雲の金型にはその穴がなく、一つずつ手動で穴を空けていたという。
そこで山口さんは試行錯誤を重ねて、新しい金型をつくり上げた。生産量は前に比べて倍以上になった。
通常の水雲の金型も古くなってきているので、新しい金型づくりにも励んでいるところ。
工場での仕事は同じ作業の繰り返しも多いけれど、こうやって新しい取り組みもできるとやりがいにつながると思う。
瀬尾製作所では一人当たりの労働生産性を毎月数値にして、どのように会社の状態が変化しているのか、働く人にわかるように公開している。
生産性の目標を立てていて、達成されると社員に還元される仕組み。
働く人たちに対しても誠実で、ひらかれている。
気持ちよくものづくりに取り組める環境だと思いました。
(2023/06/27 取材 杉本丞)