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「昔から変わらないやり方でものづくりをしていると、どうしても衰退したり取り残されたりしてしまう。だから、考え方や伝え方を変えていくことが重要で。今、僕らが取り組んできたことの積み重ねが、やっと花開き始めている感じがするんです」
デニム製品を中心とした繊維産業が盛んな、岡山・児島。
この地で三代に渡り、縫製を続けてきたのが株式会社ナイスコーポレーションです。
OEM事業を中心に、国内外のブランドから依頼を受けて主にデニム縫製をしています。
今年の春には、自然環境や労働環境に配慮した国際的な認証制度「B Corp」の認証を取得。
また、ものづくりの過程で発生する残布やハギレを再活用し、商品化するオリジナルプロダクトブランド「NC PRODUCTS」を立ち上げるなど、ここ2、3年で新たなことに挑戦し続けている会社です。
今回募集するのは、NC PRODUCTSのECサイト運営やSNS発信など、ブランドの運営全般を担うブランドマネージャー。縫製や生産管理の仕事にも並行して取り組みます。
ものづくりが好きで、その背景にある苦労やおもしろさ、魅力を伝えたい。そんな人にぴったりだと思います。
同時に、縫製専任のスタッフも募集します。先輩もみんなゼロからのスタートだったので、特別な知識や経験がなくても大丈夫です。
岡山駅から高松行きの電車に乗り、約20分で児島駅に到着。
自動販売機や広告、ロータリーの屋根まで。どこもかしこもデニムで彩られている。
駅から車に乗って5分ほどで、ナイスコーポレーションのオフィス兼工場に到着。
スタッフのみなさんとあいさつを交わしながら、1階の事務所、パターン製作室、アイロンやミシンなどが並ぶ作業場を抜け、2階のスペースへ。
「ここ数年で若いスタッフがどんどん増えて、会社の雰囲気も明るくなりました。日本仕事百貨を通じて昨年入社した2人もがんばっていますよ」
からっとした笑顔で迎えてくれたのは、代表の井筒さん。
高校を卒業してすぐ、カナダへ留学。たまたま入った現地の古着屋でスカウトされ、販売員やバイヤーとして3年半働いた。
家業であるナイスコーポレーションの代表に就任したのは、3年前のこと。
カナダでの経験を活かし、海外のクライアントやデザイナーと直接取引をおこなってきた。この日も韓国での打ち合わせから戻ったばかりで、取材後はパリへ向かうそう。
好奇心旺盛で、活動的。そんな井筒さん率いるナイスコーポレーションでは、最近大きな動きがあった。
「この春、一昨年前から着手していたB Corpの認証を正式に取得しました。B Corpはアメリカの非営利団体B Labが定めた認証制度で、彼らの掲げる高い基準を満たした企業のみ参加できるグローバルコミュニティです」
「自然環境、地域社会、従業員や顧客など、僕らを取り巻く環境や人々に対して、包括的に配慮していくことを目指しています」
日本国内の認定企業は、現在26社。中国地方での認証は初めてのこと。
B Corpを取得することは会社やスタッフの自信に繋がるし、アパレルを扱う工場や業界全体への問題提起にもなると井筒さんは考えたという。
たとえば、アパレル業界が抱える課題のひとつに廃棄の問題がある。
ナイスコーポレーションで製作する商品は、月に約8000着。その過程でどうしても残布が出てしまう。
そこで、工場の持つ技術を活かし、自社の端材や残反を活用してつくるオリジナルプロダクトブランド「NC PRODUCTS」を立ち上げた。
取り扱う商品は、ハギレを一度粉砕し、再び生地にしてつくるジーンズや、残反を組み合わせたパッチワークのラグやクッションカバーなど。
すべて受注生産で、在庫は持たない。
自社工場を持つ強みを活かしたロスを出さないものづくりは、会社のコンセプトにも合っている。
「ブランドをつくるといっても、商品をたくさん売りたいわけではなくて。工場が透けて見えるものづくりをしたいんですよ」
工場が透けて見えるものづくり?
「生産の過程も、働く環境としても、何も隠す必要がないものづくりをしていきたい。B Corpを取得できたことで、対外的にも胸を張って伝えていく自信が生まれましたし、NC PRODUCTSのことも含めて、これから発信していきたいことはたくさんあります」
今回募集する人には、NC PRODUCTSの運営全般を担っていってほしい。
「ホームページやインスタグラム、ECサイトなどの更新から、社外のメンバーとやりとりをしてプロジェクトを進めてもらうところを担当してもらえたらと思います」
日本仕事百貨でも何度か紹介しているupsetters inc.が企画・戦略立案を担当しているほか、アートディレクター、コピーライター、カメラマンなど、NC PRODUCTSの立ち上げから関わっているクリエイティブな仲間たちもいる。
ブランドを通じて工場の価値をどのように伝えていけばいいのか。企画から撮影・執筆まで、一人で担うというよりは、うまく周りの人の力を借りながら考えていけばいい。
同時に、井筒さんは、NC PRODUCTS担当者も縫製や生産管理の現場に入ってほしいと考えている。
それは一体なぜだろう?
「うちの会社の基本には、やっぱり縫製があるんです。縫製や、生産に関わる経験をすることで、『うわ、こんな難しい縫い方をしてるんだ!』って実感が得られますよね。身をもって知ってるか知らないかによって、伝え方も変わってくると思うんですよ」
新しく入る人の適性や希望にもよるけれど、まずはしっかりと縫製や生産管理の経験を積んでほしい。
縫製はどんな仕事なんだろう。
続いて話を聞いたのは、入社6年目の丸本さんと5年目の秋山さん。
ふたりは児島が地元で、幼馴染でもある。「気がついたら一緒に働いとったよね(笑)」と丸本さん。
もともと縫製の仕事は未経験で、ミシンを触ったこともなかった。
「最初はおっかなびっくりでしたね。ミシンは踏む加減によって縫うスピードが変わるし、ミシンの種類によって扱い方もまったく異なる。最初は踏み方も分からないから、ガッと踏んでビュンっていくのが怖くて」
秋山さんの言葉に、丸本さんも大きくうなずく。
「なんでもそうだけど、最初はできないことが多いし、悔しいじゃないですか。でも、そこを乗り越えたら楽しくなる。わたしはここ1、2年でようやく楽しいって思えるようになったかな」
「新しく入る人には、わからないことがあれば気軽に聞いてほしい。働くなら、楽しいほうがいいですよね」
秋山さんはOEMの商品だけでなく、NC PRODUCTSの縫製をメインで任されている。
製作途中の商品を見せてくれた。
縫製、とても細やかですね。
「たとえば、このパッチワークのクッション。すベて違う生地を使っているから、素材によって伸び方や硬さ、厚みが違う。生地は同じように見えて、個性が全然違うんですよ。それを合わせてひとつの商品にするって難しくて、気を遣うんですよね。技術の集結です」
「あ、ここの角。1、2ミリずれてる。こういうズレとか気になるんですよ。あとはポケットの位置が左右対称であるかとか。ある程度は許容するんですけど、なるべく揃えたい」
計算された緻密な部分もあれば、長く触れ続けるからわかる感覚的な部分もあるのが、縫製の仕事。
結果はすぐにはでないので、長い目で見てじっくり携わってほしい。
この仕事でおもしろいなと思うのは、どんなところですか?
「難しいサンプルを縫い上げたときは達成感がありますね。できるようになるまでは、悔しかったりモヤモヤしたり、なんだよ〜!って気持ちにもなるんですけど。一個一個クリアしていくことで、ちょっとレベルアップする、みたいな」と丸本さん。
「OEMの商品をテレビや店頭で見かけたときも、『わたしたちが縫ったやつだ!』ってうれしい気持ちになるよね」と秋山さんも話す。
国際的な認証を得たり、国内外のデザイナーやブランドから依頼を受けたり。華やかな実績を支えているのは、日々の地道な積み重ね。
その過程も含めて楽しめる人が向いているのだろうな。サンプルを広げて楽しそうに話すおふたりの姿を見ながら、そんなふうに思った。
「せっかく自信を持っていいと思えるものをつくっている工場なので、たくさんの人にもっと知ってほしいという想いがありますね」
そう話すのは、NC PRODUCTSの発信を担当している桐岡さん。
今後、桐岡さんは別の仕事を主に担う予定で、NC PRODUCTSの運営に関わる仕事は新しく入る人に引き継ぐことになる。
「どうしたら届けたい層に届けられるんだろう。そのために、どういう方法があるのかなって今すごく考えています」
届けたい層。
「たとえば商品をぱっと見て『いいな』とか、ふわっとでもプラスの感情を持ってくれる方もいますよね」
「そこから一歩進んで、ここの縫い目がきれいだねとか、布の合わせ方がすごいねとか。技術をしっかり分かってくれる人に見てほしい。そういう人たちに届けば、その先にいる人たちにも自然と広がっていくと思うし、工場としての魅力も高まると思うんです」
伝えたいのは、まさに縫製のおふたりが話していたようなこと。
現場の人だからこそわかる小さなこだわりやそこに込めた想いを取り上げたり、ものづくりの背景にあるストーリーを伝えたり。NC PRODUCTSのECサイトにはコラムのコーナーがあるので、そんな読みものを企画して増やしていってもおもしろそう。
アイデアの種を見つけて、積極的にいろんな提案をしてほしい。
桐岡さんはオリジナルブランド運営と並行して、生産管理も担当している。前職では東京のアパレル会社で接客や営業を担当していて、いずれも未経験からのスタートだった。
「ぼくにとっては、どんな仕事をするかよりも、誰と働くかのほうが大きくて」
誰と働くか。
「いわゆる社長って、スタッフと距離があるように感じたり、話すときは緊張したりする場面が多いと思うんです。だけど、井筒さんとは冗談を交じえながら素直に話せる。心の距離感が近いんですよね。社員と社長っていうより、つながりがもっと強いというか」
「あとはこの会社、手づくりのものがいっぱい出てくるんです(笑)。今飲んでもらってる梅ジュースとか」
すかさず、「うちの家でなってる梅を収穫して、2年前に漬けたやつ!」と井筒さん。ほかのスタッフとも、気さくに話している場面を何度も見かけた。
最近ますます、社内に「いい風が吹いている」そう。きっと桐岡さんと同じように、“この人たちとなら”と思って働いている人も多いんだろうな。
桐岡さんはどんな人と一緒に働きたいですか。
「僕は楽しいことが好きなので、一緒に楽しめる人がいいです。なにをしていても、絶対つらいときはあるんで。つらい、難しいと思ったとき、その気持ちをプラスの方向に持っていける思想はほしい。楽しいって伝染するんで、自分はそうありたいとも思います」
取材後、会社の裏手を散歩する。5分ほどで瀬戸内海が見渡せる防波堤に着いた。
「ここでお昼休みにご飯を食べるのもいいかもね」と井筒さん。
日々ものづくりに向き合うなかで、凝り固まった気持ちをほどいてくれるような風景が、こんな身近にある環境はいいなあ。
ものづくりが好きで、心と身体をしっかり動かして生きていたい。そんな人が仲間に加わってくれたらうれしいです。
(2023/6/9 取材 惣田美和子)