※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。
「『何屋さん?』って聞かれると一瞬困るんですよね。空間をプロデュースしてる会社って言うと、まだそんなに多く無いから、理解が少なくて」
そう語るのは、蒼樹(ソーウッド)株式会社代表の包怡萱(バオイーシャン)さん。
蒼樹は、“すべての人が人生の主役になれる舞台を創る”というコンセプトを掲げ、不動産開発から運営までのトータルサービスを行う会社。
泊まれる映画館をテーマにした「Theater zzz」や、完全予約制のコミュニケーションサウナ施設「SAUNA OOO(オー)」など、多種多様な人たちが交流できる場づくりを行っています。
今回は、建築設計・デザイナーの担当者を募集します。
経営と設計、両方を担っている代表の包さんから、設計を少しずつ引き継いでいく形になるため、経験者を求めているそう。
身近な社会課題を見つけて、じっくりと解決策を考える。ときには大胆な発想で、これまでにない新しいライフスタイルを、1からつくっていく。
建築を学ぶ学生のころのような、自由で枠にとらわれない考え方で働きたいと思っている人は、ぜひ読み進めてください。
東京都中央区・馬喰町。
馬喰町は日本最大の問屋街と言われ、駅周辺にはタオルやてぬぐい、傘などを扱ったさまざまな専門店が軒を連ねている。
歴史ある街並みでありつつも、オフィスやカフェが混在していて、少し歩くだけでも街の表情がみるみると変わっていくのが面白い。
都営浅草線の馬喰横山駅の地上出口から、歩いて30秒ほど。あっという間に、オフィス「Theater www(ウー)」に到着。
8階建てのスリムなビル、低層階には自社で運営する「SAUNA OOO」が併設されている。
エレベーターに乗って、4Fのオフィスへ。自然豊かな内装だ。
7、8人が座れる大きな円卓があり、奥の会議室も木を基調とした空間。自然に溢れ、目にやさしい色彩が施されている。
蒼樹株式会社は2018年に創業。現在は10名ほどのメンバーで働いている。
さっそく包さんと顔を合わせ、話を聞く。
「わたしは中国出身で、中学3年生のとき日本に来ました。日本に来て2年目くらいから建築をやりたいって、自分の進路をかなり早く決めていました」
「生活環境が大きく変わったことで、自分は何が好きで何が得意か、すごく考えるようになったんです。建築は幼いころから建築雑誌を読んで好きになったこと、そしてアーティストのような自己表現ではなく、いろいろな条件を組み立てる合理的な発想が得意だと気づきました」
大学卒業後は大手設計事務所へ。
「建築はおもしろかったんですが、途中から建築デザインでは、表層的なデザインしかできないと感じるようになって」
表層的?
「学生のときは、社会課題に大胆な提案をして解決する考え方をしていたのに、社会人になってからの設計は、デザインやプランがすでに決まっているものをつくるだけで」
「一方で、設計などが決まっていない新しいものをつくろうにも、自分たちの思いだけではできない。お金を稼がないといけないですよね。その儲かる仕組みって世の中の需要をどう形にしていくかの仕組みと同じだなと気づいて。世の中の需要を形にするプロセスに携わりたいと思ったんです」
6年ほど働いた設計事務所を離れ、不動産企画の会社へと転職。そこで設計を含む、企画から開発、事業完成まで一連の流れを学ぶことができた。
「社長とおなじような立場で、事業の収支プランから、最後の運営まで、凝縮された勉強の時間ができたので、それはありがたかったですね」
不動産企画の会社で2年働いたのち、独立して蒼樹を設立。
最初に手掛けたのは、映画と宿泊施設を組み合わせた「Theater zzz」。
大学時代には、レンタルビデオショップでアルバイトをし、毎週3本ほど映画を観ていたという包さん。
大学の卒業論文も、「建築設計手法と映画の編集手法」というテーマで論じたというほどの映画好きだそう。
「平日の昼間とかに映画館へ行くんですけど、誰もいなくて。ちょっともったいないなって気がしたんですね」
「空いているのは利用者としていいんですけど、余った空間をほかの用途で使うことで、より収益を上げることができるんじゃないかって考えていました」
そこで考えたのが、映画館と宿を組み合わせた新しい施設。
さらに、包さんが生まれ育った中国、京都に共通する東洋文化から、茶室における襖の考えを取り入れ、人と人との間の境界線を曖昧にすることで利用者同士の自然な交流が生まれるような仕掛けも取り入れた。
幼少期から環境の変化にさらされ、社会との付き合いかたを模索し続けた包さんだからこそ導き出せたアイデアなのかもしれない。
東洋文化も、以前から心にあったテーマだったんでしょうか。
「そうですね。大学が京都で、出身の西安というところも、日本でいう京都みたいな場所だったんです。なので、東洋文化というのは会社の軸として守っていきたいと思いました。日本に来てから、生まれ育った中国と比較することで気づいたことがたくさんあって」
「たとえば、日本の特徴は曖昧な境界です。日本語のコミュニケーションでも、はっきり言わないという傾向がありますよね。それは空間のつくり方にも表れていて、襖一枚の仕切りを開け閉めすることで、空間を区切りながらもゆるやかなつながりを持てる。これは画期的な発想だと思います」
課題の解決だけではない、解決したその先を想像してみる。
新たなライフスタイルが見えてきたら、自身にとって身近な東洋文化からヒントを得て、形にする。包さんのこれまでの経験とアイデアが、蒼樹らしい空間づくりにつながっている。
「Theater zzz」でこれまでに印象的な出来事はありましたか。
「お客さまがパートナーの誕生日に予約してくださって、そこでサプライズプロポーズをして、めでたくご結婚された方がいらっしゃいました。以降定期的に訪れてくれて、思い出の場所だと言ってくれたことはとても感動しましたね」
「本来設計側が意図したものからは到底想像できない化学反応があって、それに立ち会えるのが何よりもうれしくて。大変なこともありますが、それ以上にこれからも自分たちのつくった場所が時間とともに変化し、いろんな化学反応が生まれていくのが楽しみです」
そんな包さんと「Theater zzz」の立ち上げを共に手がけたのが、秋元さん。
大阪で新しくつくっているサウナ施設の仕事をしていたとのことで、オンラインでの参加。
7年ほど建築設備会社で働いたのち、不動産企画の会社でマーケティングなどを学び、2019年から蒼樹へ。
設計だけ担当する、というように、事業の一端のみを担うのではなく、個々の作業を横断的に引き受ける裁量の大きな働き方に魅力を感じ、蒼樹で働くことを決めた。
現在は、施設の立ち上げ時の運営計画を組み立てたり、新しい企画案が出れば実現に落とし込めるか調整をしたり。複合的に業務に携わっている。
「事業をひとつの生き物だとすると、生まれたところから自立するまで、全部面倒を見ないといけない。事業と共に生きてるみたいな感覚です」
入社からこれまでで印象に残っていることはありますか?
「『Theater zzz』をつくって間もないころにコロナ禍が始まって。宿泊業なので、すべての案件が止まってしまったことがあったんです。その時メンバーが10人くらいいいたんですけど、半分はやめてしまいました」
「残ったメンバーで、この危機をどうやって生き延びていくのか必死に検討しました。今思えば、小さい会社だからこそ小回りが効くというか、何かがダメでもほかのことへすぐに切り替えられる会社の体制があって、これまでつづけてこれたんだと思います」
秋元さんが最後まで残ろうと決めたのは、なぜでしょうか?
「そのときの気持ちを思い返すと、空しさというか、虚無感みたいなものがありましたけど、実はどこか開き直るような気持ちもありました」
「ただ一番はやっぱり人の縁ですね。代表の包とのつながりが大きいです。会社がうまくいかないときに離れていくのは仕方ないとは思うんですけど、そういうときこそ一緒にやっていくみたいな」
思いがけないピンチも、人を信頼して乗り越える。大規模の会社では関係性は希薄になりやすいけれど、蒼樹では互いの仕事ぶりに安心とリスペクトを持っているように思う。
少人数ゆえ、担当する分野も大きくなりますが、大変ではないですか?
「分担してしまうほうが楽ではありますよね。全体の流れのなかで自分のセクションみたいなものをピックアップしてやっていけばいいので」
「ただ全部やるってなると、自分がやらなければ何も進まない。なんでこんなに広く見なきゃいけないんだ、みたいな葛藤はあります。でもいざやってみると、生きている感じがするんですよね」
全部やりきる、だからこそ生きている実感がある。この4年間、蒼樹を支えてきた秋元さんだから言える、力強い言葉だ。
コロナ禍も落ち着きを見せはじめ、会社も働きやすくなってきていると秋元さんはつづける。
「たとえば、出社時間も自由だったり。人によってはお子さんがいらっしゃる関係で、必要なときはリモートで動ける環境です」
「会社の雰囲気としても、トップダウンではなく、みんなもっと自由な発想で、提案があったらやってみようと受け入れて向き合ってくれる、そういう環境かなと思いますね」
泊まれる映画館、そして去年はプライベートサウナなど新規事業が立ち上がり、これから会社としても成長していく過程。
新しく入る人に求めることは、どんなところでしょう。
「映画館、あとは去年から立ち上げたサウナのように、事業ごとにチームはあるので、それぞれの連携が必要です。ただ、普段は個々でバラバラに動いているからこそ、一つひとつの意見を吸い上げて、調整し、方向付けできるようなコミュニケーション力は重要だと思います」
「あと、僕らはつくって終わりではなく、つくったあとの運営でお金を回収していく事業モデルなので。つくること自体は、コアにはならないっていうか、お金を稼ぐところではない。なので、設計に限らず事業そのものに興味を持てる人のほうが働きやすいと思います」
あらためて、包さんも話に加わってくれる。
「会社をつくるにあたって、すべての人が輝く舞台をつくっていきたいというのは、最初から変わらない思いです。空間を一人ひとりの人生の舞台と捉えて、さまざまな風景が重なり合うことで、また新しい風景が生まれていくようにしたい」
「そして一緒に働く人にとっても、会社をひとつの舞台として、それぞれの個性を活かしてほしいという思いがあります。蒼樹という会社名にあるように、まるでひとつの木みたいに、どんどんと、それぞれの枝が分かれていくことで、会社の形をつくっていきたいです」
すべての人が輝く舞台をつくりたい。訪れる人も、一緒に働く人たちにとっても。そのための空間をじっくりと考えて、つくって、育てていく。
包さんが大切にする東洋文化に根付く考えのように、業務の垣根を超えたつながりのある仕事です。
蒼樹の空間づくりに少しでも共感する人は、ぜひ一歩踏み出してみてください。
(2023/07/17 取材 田辺宏太)