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いま、日本のさまざまな地域で、商店街や地域の活性化が求められています。
方法論はたくさんありますが、まちを前に進めていくためには地元の人だけでなく、地域外の人が積極的に関わることも必要です。
その一助になりたい。地域を盛り上げるためにはどんな方法があるのか体感したい。そう思う人にとって、今回の募集はぴったりだと思います。
舞台は、福島県広野町。人口で見ると東北第二の都市である、いわき市のすぐ北側にあるまちです。
このまちの中心的な施設である「広野町二ツ沼総合公園」の活性化に携わる人を募集します。
任期は2年半。任期後は、本人とまちとで相談して関わり方を決めていきます。
目指しているのは、住民の憩いの場としての認知を高めて、まちの活性化につなげること。この公園があるから広野町に行ってみたい、そんなふうに思ってもらえる場をつくる仕事です。
経験は問いません。まちの地域振興を担う組織「広野町振興公社」に席を置くことになるため、相談できる人は身近にいるし、5年ほど前から関わっている地域活性のプロフェッショナルのアドバイスも受けることができます。
東京駅から特急で約2時間半、いわき駅へ。車窓からは海も見えて、だんだんと緑が多い景色になっていくのが気持ちいい。
広野町へは、いわき駅から在来線で20分。車なら30分ほど。
山も海もあり、程よく自然が広がっている。
最初に向かったのは、広野町役場。復興企画課の小松さんに、まずはまちのことを聞く。
「復興企画課というのは、震災後にできた部署です。震災後の業務再編をおこなうなかで、インフラの復旧や被災証明書の発行とか、新しい業務が増えて。企画課から名前も変わって新たにスタートしたというのがこれまでの経緯です」
広野町は原発事故の影響で、震災直後は町民全員が避難を余儀なくされた地域。
一方で、原発に近いほかの地域に比べると、半年ほどで避難に関する縛りがなくなったため、早い段階で復興に取り掛かることができたという。
「帰れるといっても、電気や水道といったインフラはズタズタだし、道路も壊れてひどい状況でした。半年間、なにも手をつけられずにいたので、すぐにみんなが帰れる状況ではなかったんですよね」
「それでも復旧を進めて、次の年の4月から帰れる人は帰ってきて大丈夫ですと、住民の方々に伝えて。帰ってきた人もいれば、そのまま他地域で暮らしている人もいます」
人口減は多くの地域で起こっているけれど、一度強制的にまちの外に出てしまうと、若い世代の人たちはなおさら他地域での暮らしを選択してしまう。
「震災がなかったらずっと住んでいた人ばかりかっていうと、そういうわけではないと思うんですが…。少なくとも子育て世代はだいぶ減りました」
現在の人口は、約4700人。12年前と比べると800人ほど減少しており、高齢化も進んでいる。
今回の事業である公園の活性化も、人口減少や高齢化といった課題が関係しているそう。
「公園自体は震災前からあって、昭和のころは農家を継ぐ人材を育成する学校だったんです」
「それをまちが払い下げて、二ツ沼総合公園としてリニューアルしました」
遊具があり、体育館や合宿用の宿など、設備は整っている。なかでもメインのコンテンツになっているのが、パークゴルフ場だ。
「震災前から、広野町は全国でも医療費が高い自治体の一つになっていて。寝たきりの人とか、人工透析が必要な人が、同じ人口規模の自治体よりも多いんです」
そこでまちが考えたのが、住民に新たな運動習慣をつけること。25年ほど前、当時の町長が北海道で流行しつつあったパークゴルフを持ち込んだ。
「最初は誰がやるんだとか、批判もあって。クラブは安いもので2、3万円するんですよ。だから最初はレンタルで、頻繁に小さい大会を開いて優勝した人にクラブをプレゼントすることから始めて」
「クラブをもらったらやりますよね。だんだんそういう人が増えていって、今では10万円くらいのクラブを買っている人もいます。当時は中高年だった人が常連になっているので、今は60歳から80歳くらいの人たちがメインのお客さん。けれど、次の世代が生まれてきてないんです」
より若い世代にどうアプローチするかが課題、ということでしょうか。
「そうです。我々がやりたいのは、健康な高齢者を増やしていくこと。20年前の世代には成功しているかもしれないけれど、いま40代の人とか、もっと言えば子育て世代や子どもたちには広まっていない」
「幅広い世代でたのしめるスポーツなので、もっとパークゴルフ人口を増やしていきたいと思っているんです」
公園にあるコースは、池や斜面など自然の地形を活用してつくられている。本格的でありながら、ゴルフよりは誰でも気軽に始められそうな、バランスが絶妙なスポーツだと思う。
今回募集する人は、ここでどんなことに取り組んでほしいですか。
「常連の大会は頻繁に開催されているので、まずは初心者限定の大会を企画するとか。そういったことからはじめてもらえたらいいのかなと」
「明るくて元気な子に越したことはないですね。田舎なんで口調のきつい人もいるけど、あっけらかんと物怖じせずに話せるような人だったらいいんじゃないかなと思います」
公園を管理しているのは、まちが出資して1995年に設立した広野町振興公社。公園の管理以外にも、学校給食の事業などをまちから委託されている。
公園のすぐ隣にある事務所で待っていてくれたのは、社長の中津さん。もともと役場職員だった方。
はきはきとした声で豪快に、かつ丁寧に話してくれる。今回新しく来る人にとっては、一緒に働く上司になる人だ。
「公務員としては異端児だったかもしれないね(笑)。言うべきことは言いたくなる性分だから」
長年、公園の活用に取り組んできた中津さん。
「パークゴルフ場の利用拡大はもちろん大事なんだけれど、あくまで公園全体の魅力を高めていく方法のひとつと捉えたほうがいいんじゃないか。そんなふうにわたしは考えています」
公社としては、公園を管理していく財源も確保しなければならない。そう考えたとき、売上を立てやすいのが、パークゴルフの利用料。
「いわき市が近いのもあって、土日は500人以上が訪れる。夏のイベントのときなんかはもっと人が集まるし、ピクニックができる公園としてはそれなりに認知されています。パークゴルフをきっかけに、もっと多くの人に知ってもらいたいですよね」
たとえば、町内の企業の福利厚生としてパークゴルフを営業するのもひとつかもしれない。
旅行会社と連携してパックツアーを組めば、町外の人にも広野のことを知ってもらえるし、パークゴルフ人口を増やすこともできそう。
「単発的には、そういうこともいいと思います。ただそれで終わるんじゃなく、長期的に愛されるためにはなにが必要なのか。それを一緒に考えていきたいですね」
東北のなかでも雪が積もらない温暖な地域ということから、“東北に春を告げるまち”をキャッチフレーズにしている広野。
公園にはパークゴルフ場以外にも広大な土地があることから、広野で育てたバナナ「綺麗」の栽培もはじめた。コンテンツを増やしてはきたけれど、まだまだ工夫が必要、と中津さん。
「地域を変革していくためには、『さんもの』が必要だと思っていて」
さんもの?
「バカ者・よそ者・若者。なにかをやろうってすると、かならず潰しにくる人間がいるんだよね。それに負けずに突っ走るという意味でのバカ者。あとは、外の人から見たほうが地域の良さが見えやすいっていう意味のよそ者。そして若い力だよね。それがないと地域は変わらない」
「ひとりですべてをやってもらおうとは思っていなくて。一緒に考えて、悩み、つくり出していく。そんなチャレンジをしたい人が来てくれたらうれしいよね」
強面で豪快な中津さんも、話はちゃんと聞いてくれる方。
今までの歴史も理解して、新しいことをどうやって形にするか。ともに考えていける人だといいのだろうな。
「パークゴルフが、被災者の交流の場になっている面もあるんですよね」
そう話を継いでくれたのは、ともえ産業情報の辻井さん。今回新しく来る人は、町の事業ではあるけれど、外部の人材を受け入れるために、ともえ情報産業に雇用されるかたちになる。
行政との調査研究事業や地域活性化事業などに取り組んでいて、広野町には5年ほど前から関わっている。
「広野町は、避難を強いられた原発被災地の南の端にあたる地域。いわき市方面に避難した人たちにとっては、集まりやすい場所なんですよね」
実際に、取材に行った日には浪江町の人たちがパークゴルフに訪れていた。「浪江の絆会」という団体で、定期的に集まっているのだとか。
「試算した感じでは、利用者を今の2、3倍にできるキャパシティはあります。利用料の見直しまで考えると、売上も4倍くらいまでには伸ばせる可能性があると見ています」
具体的にはなにをしていけばいいんでしょう。
「地元の人って、自分のまちをあんまり評価しないんですよね。でも外から褒められると良さに気づくことが多い。外から褒められるってなにかっていうと、メディアに取り上げてもらうこと」
「地元以外の人がわざわざ来るところなんだって思うと、地元を誇ることができる。その状況をつくろうよっていうのが、わたしの提案なんです」
幸いにも、すぐ南にあるいわき市は、福島県に地盤を置く新聞社やテレビ局の支社・支局が集まっている。
イベントを企画したり、積極的にプレスリリースを出したりすれば、取材に来てもらいやすい環境だ。
今回来てもらう人には広報や企画の経験はとくに求めない、と辻井さん。
「知識やノウハウの面は、わたしたちが全面的にサポートします。実際にここで自分の足を動かしてくれることが大事で。イベントを企画しつつ、率先して運営にも携わる。そういうことができる人がいいですね」
辻井さんは、これまで全国各地の商店街活性化事業などを手がけていて、経験も豊富。別の地域でもおなじような手法で成果をあげている実績もあり、集客や広告戦略のノウハウを持っている。
プレスリリースの書き方や、マスコミに取り上げてもらう方法。人に会いにいくアポの取り方など。基本的なことから、辻井さんがサポートしてくれる。
「当たり前のことを積み上げていけばいいと思っているので。大事なのは、素早く動けるとか、熱意を持って業務にあたるとか。あとはちゃんと謝れる人ですね」
謝れる人、ですか。
「ええ、一番大事やと思ってます。どんなに失敗しても、ちゃんと相手に謝れる人には、仕事を任せられるし、信頼されますから」
広野町で動き出した、公園を軸にした地域活性事業。
すでに大まかな絵地図もあるし、サポートしてくれるプロもいる。これから地域活性の分野で経験や実績を積みたいという人にとっては、いい環境だと思いました。
震災から12年という歳月を経て、変わっていくまちの最前線に立ってみませんか。
(2023/6/29 取材 稲本琢仙)