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シュッと紙に線を引くところから、手に取れる置物として形にするところまで。
職人や生産に携わる人の手を介しながら、一貫してものづくりを担う。
最初から最後まで責任を持って、向き合う。だからこそ、出来上がったときに感じられる喜びがある。
「やきもののまち」として知られる愛知県瀬戸市で、71年続く株式会社中外陶園。
干支置物や招き猫、雛人形や五月人形など、時代に合わせてさまざまなものをつくってきました。
今回募集するのは自社の商品開発を行うデザイナー。
イメージスケッチや図面を描き、置物を形にして流通に乗せるところまで。粘土で原型をつくる原型師、量産用の石膏型をつくる型屋といった職人の手を借りながら、橋渡しをしていくような仕事です。
やきものの知識や経験は、働きながら身につけていくことができます。
ものづくりや、絵を描くことが好きで、それを仕事にしたいと思う人を待っています。
新幹線で東京から名古屋へ。在来線を乗り継ぎ1時間ほどで尾張瀬戸駅に到着。
「せともの」と呼ばれる陶磁器を売るお店が並び、道のタイルや橋の欄干など、まちの風景のちょっとしたところにもやきものが使われている。
駅から歩いて10分、中外陶園の事務所に到着。少し離れたところに自社の工房もある。
この日は、スタッフみなさんで棚卸しの真っ最中。営業や事務の人たちの仕事部屋を通り、2階の会議室へ。
まずお話を聞いたのが、社長の鈴木さん。
やきものの絵付体験工房やギャラリー、カフェの入る複合施設「STUDIO 894(スタジオ ヤクシ)」のスタッフ募集で取材して以来、お会いするのは1年ぶり。
「絵付体験でどんなことをするか、今回募集する商品開発部と考えながら、STUDIO 894をつくっているところです」
「うちはずっと置物をつくってきました。すごく狭い分野だけれど、縁起物や季節飾りの置物に特化することで、No.1というかオンリー1になれた。だから創業から70年も続けてこられたんじゃないかな」
1952年、鈴木さんのひいおじいさんが創業した中外陶園。
当時は「ノベルティ」と呼ばれる陶磁器製の人形や置物をつくり、ヨーロッパに輸出していた。会社の名前「中外陶園」は、国内でつくったものを、海外で売るというところから名付けられている。
安く、大量に、納期通りに、を求められていたものづくり。日本が豊かな国になっていくと、より安く生産できるほかの国に仕事が移っていった。
このタイミングで、日本国内に向けた商品の開発へ、方針を大きく変える。
クリスマスやイースターなど、それまでつくっていた季節飾りを日本向けに置き換えられないか。
干支置物をはじめ、季節を彩るお雛様、五月人形、蚊やりなどの季節商品と、瀬戸を代表する工芸品である招き猫を、試行錯誤しながら生み出していった。
絵本やイラストをつくるユニット「tupera tupera」とコラボした干支置物、BEAMS JAPANとコラボした招き猫などもつくっている。
「つくるものは時代のニーズに合わせて変えていますが、僕らがつくる置物というか縁起物って、お守りみたいな存在というか」
「いつも見守ってくれていて、ちょっと背中を押してくれる、そんな存在であることは変わらない。不安な気持ちや、大切な人がどうか無事でいてほしいと願う心の拠りどころになるようなものだと思うんです」
玄関に置いた招き猫の頭を、毎朝「いってきます」と撫でて出かけていく子、飼っていた猫に似ているからと、招き猫を買って帰る老夫婦。
まるで本物の猫のように可愛がってくれる方もいるそう。
「つくったものが誰かに大切にしてもらえる。つくり手にとってこんなにうれしいことはないですね」
より多くのひとに届けるため、当初は新宿伊勢丹の年始の催事にひとりで参加していた鈴木さん。回を重ねると売上も立ち、社内の理解も得られるようになっていく。
最近は、中川政七商店が主催する「大日本市」にも、社内の若手スタッフとともに参加している。
「まずはやってみる。先代も先先代も挑戦する姿勢はずっと持っていて。僕自身もその姿勢を受け継いでいきたい」
鈴木さんの視点は、瀬戸のまちやそこで暮らす人にも向けられている。
「僕らは、この瀬戸の土を使わせてもらってやきものをつくり、それでご飯を食べています。だからこの土地を活かし、貢献できるようなことに挑んでいきたい」
地域の子どもたちの職場体験の受け入れ、瀬戸でつくることにこだわった商品ラインの立ち上げなど。STUDIO 894もその一環。
1300年の歴史があるやきものの産地、瀬戸がこれからも続くように。まずは地域の内外に産地のことを知ってもらうための取り組みを行なっている。
これから中外陶園に入る人も、このものづくりのまちの一員という感覚を持って働けたら、より楽しいだろうな。
今回入る人が所属する、商品開発部のおふたりにも話を聞く。
まずは、入社10年目の山田さん。
中外陶園で扱うすべての置物をデザインする、商品開発部。
イメージスケッチから、図面を描き、原型師や型屋といった職人に委ねながら形にし、最終的に量産のラインに乗せるところまでを担う。
制作全般に関わり、絵を描いたり、制作指示を出したり。デザイナーといっても、ひとりで黙々と進めるのではなく、人と人とを橋渡しながら形にしていく仕事。
「ひとつの商品が生産ラインに乗るまで、半年くらいかかります。干支置物がラインに乗るころには、次の雛飾りのアイディアスケッチがはじまって、その次は五月人形…みたいな感じで。常に何点かは案件を持っているような感じです」
干支、ひな、五月、夏もの、招き猫のカテゴリーがあり、それぞれ毎年新商品を発表する。
一番商品数の多い干支のカテゴリーでは、70点ほどの新商品を、商品開発部の5人のデザイナーで分担している。
山田さんは、もともと美術大学で陶磁器を学んでいた。卒業後は、アンティーク家具の販売や展示をする雑貨店で働いたそう。
「教授には作家になる道を勧められたんですけど、今思うと若気の至りというか…小売の仕事を選びました。人と接する仕事も楽しかったけれど、結婚をして子どもができて。今後の人生で何をしていこうかって考えたんです」
「やっぱりやきものが好きで、またはじめたい、仕事にしたい。前職や大学時代を経て、私は自分の作品よりも、人に求められるものをつくりたいんだなってわかったんです」
子どもがいることを前向きに受け止めてくれたこともあり、中外陶園に入社。
「子育てをしながら働く女性社員があまりいなかったのか、会社も手探りな感じではありました。でも、その対応がなんだかあたたかくて。急な休みとか時短勤務も柔軟に相談できました」
仕事は、やってみてどうでしたか?
「縁起置物は、最初馴染みがなかったんですけど、やってみたら楽しくて。あっという間に10年が経っていました」
「自分が描いたものが形になって窯から焼きあがってくると『できた!うれしい!!』って今でも思います。すごく単純なんですけど、10年経っても、飽きたなとは思わないですね」
手元を見て、焼きあがった場面を思い出しながら話す山田さん。うれしい気持ちが伝わってくる。
長い工程を伴走するぶん、形になったときの喜びもひとしお。
「アイディアスケッチから方眼紙に図面に描き起こすときは、いつも苦労するんです。自分がちゃんと理解して描けていないと、粘土で立体をつくってもらう原型師さんに伝えられない」
「原型師さん、それを石膏の型にする型屋さん、絵付をする職人さん、量産を依頼する海外のメーカーさん。どんな相手にしても、絵でも対面でも指示書でも、丁寧にこうしたいって伝えることが大切です。お互いに気持ちよく働くために、気を遣う部分もありますよ」
長年付き合いがある職人さんには、助けてもらう場面もあれば、修正がうまく伝わらず平行線を辿ることもある。
「お客さんあってのものづくりなので、自分のこだわりを持ちすぎないというか。求められているものをつくるという前提を、忘れないようにしています。自分ができるベストというか、一番素敵なお化粧をしたいって思うんです」
自分だけでつくるものでも、自分のためにつくるものでもない。そのなかで、デザイナーとして関わる自分の色も少しずつ出せるとよさそう。
最後に話を聞いたのは市川さん。商品開発部で働きはじめて2年目になる。
「絵を描いたり、美術に関わる仕事がしたいと思って入社しました」
「入るまでは、スケッチとか図面を描くのがメインの仕事なのかなって思っていました。実際はそうではなくて、こんなこともやるんだって驚くこともありました」
たとえば、と話してくれたのは、「来る福招き猫まつり」。
瀬戸市民が楽しめるお祭りをつくろうと、前社長が発起人のひとりとなってはじめたお祭り。今年で28回目を迎え、まちに根付くイベントとなった。
中外陶園では、社内全員が参加するという。
「お客さんから反応をもらえることがすごく新鮮で。どんな人が買っていくとか、何が売れるとか。直接知れて、いい刺激になりました」
「当日までは、正直参加するのがいやだなって思っていました。参加してみたら、普段の仕事とは違うことができて、いいリフレッシュにもなって。意外と楽しいなって気づけたのは、この会社に入ってよかったことかな」
市川さんは、入社してから10個の商品を生産まで送り届けてきた。
最初の担当商品は、干支の辰の小さなストラップ。平面的な小さいものからはじめ、だんだんと立体的な置物を担っていく。
「今まで辰を意識して見ていなかったので、まずは会社にある資料や過去につくってきたものを見て。牙があるし迫力がある造形をしているなって」
「うちの商品って可愛いらしいものが多いんです。どこをデフォルメしたら可愛いって感じられるか、過去の商品と同じにならないように少しずつ変えながらつくりました」
社内には、ものをつくり続けてきた積み重ねがある。資料を見ていると、デフォルメの仕方や造形が年々洗練されていることに気づいた。
「完全にオリジナルをつくるというより、あるものを持ってきてそれをベースに考えることが多いです。私にはそのほうがつくりやすいし、合っているのかな」
「ちょっとずつ、つくれるものが増えて、新しく変えていけるのがおもしろいと思っています」
働く環境としては、どんな雰囲気ですか?
「今いるスタッフはみんな女性ですが、美術予備校とか大学みたいな雰囲気で。むずかしい案件でも、上司に相談したりはしやすいかな」
「山田さんが前に、一日だけお子さんを連れてきたこともあって。ちょうどそのときはカタログ用の商品写真の撮影があったので、撮影に協力してもらったこともありました。そういう意味でも雰囲気はいいですね」
人から人へ、リレーのようにつないでつくる中外陶園のものづくり。
絵を描くのが好き、ものづくりが好き。そんなまっすぐな気持ちで、つくることや人に向き合える人なら、きっと喜びを感じられる仕事だと思います。
(2023/7/28 取材 荻谷有花)