いつか叶えたい夢。
その土地の食材を使ったおいしい料理を子どもたちに食べてもらったり、大自然のなかで体を動かせる場をつくって楽しんでもらったり。
叶えたい意思と、まわりの人を巻き込む力があれば、それを応援してくれる場所があります。
福島県・田村市。
市の面積の7割が森に囲まれたこのまちは、鍾乳洞や天文台など自然豊かなエリアに加え、ショッピングセンターや量販店なども充実していて、暮らしには困りません。
郡山市や福島市へのアクセスのしやすさから、市のパンフレットには「わりと便利な田舎まち」という言葉も。
そんな田村市で、起業型の地域おこし協力隊を募集します。任期の3年を使って起業に向けての準備ができる協力隊です。
起業と聞くと、一歩を踏み出すことにためらいを感じるかもしれません。
でも、大丈夫。このまちには、頼りになってくれる人たちがいます。
何かができる余白があるからこそ、自由に夢を実現できる場所です。
やりたいことが心にあり、あと少しの勇気がほしい人はぜひ読んでみてください。
東京から郡山駅まで、新幹線で約1時間20分。駅からは車で30分ほど。
田村市へ近づくにつれ、周囲が山に囲まれていく。
訪れたのは、テレワークセンター「テラス石森」。
廃校を利活用した建物で、オフィスやコワーキングスペースのほか、新たなビジネス機会の創出や企業間のマッチング、地域交流の場として利用されている。
受付で挨拶し、元音楽室だった移住相談窓口の教室へ。
まず話を聞いたのは、田村市の起業型地域おこし協力隊をサポートしている株式会社MAKOTO WILLの後藤さん。
株式会社MAKOTO WILLは、2011年親会社が立ち上がり、2018年に創業後、東北の起業家たちを支えてきた。
「僕らの支援は、チャレンジしたい人のやりたいことを明確化して、それに伴走することなんです。まずやってもらうことは、協力隊として3年間の計画を立てること。それから1年、月単位で目標を考えていきます」
「たとえば起業してカフェをつくりたいと言っても、なんのためにカフェをやりたいのか、本当にその手段でいいのか、一緒に考えることが大切で。ひとりでは気づかないこともあると思うので、お互いに感じたことを話し合いながら進めていきます」
夢を実現するために、想いの部分から具体的な事業計画書づくりまで。1から伴走してくれる。
加えて田村市は、移住者に向けたサポートが手厚い。
たとえば、この「テラス石森」を運営している一般社団法人「Switch」は、住居の相談や田村市に住む人とのつながりづくりなど、生活面でのサポートをしてくれる。
「県外からの移住者に向けた補助金もあるし、起業に向けた補助金もあるので、そういったものを活用しつつ、行動に移していってほしいですね。僕たちは一緒に考えることはできるけど、やるのは自分自身。うまくいかないことにぶつかっても、ガンガン突き進んでもらいたいです」
後藤さんは、宮城と千葉の2拠点生活をしており、週に1度は田村市に足を運んでいる。
起業のことだけではなく、移住に関しての困り事も相談できる頼れる存在。今回、新しく入る人にもマンツーマンでサポートしてくれるそう。
すでに田村市には、地域の人が古民家を改装したレストランを経営したり、移住してきた人がリユース事業をしたり。そういった人たちからもいろんなアイデアやヒントをもらえるかもしれない。
「田村市は、昨年から起業型の地域おこし協力隊の制度を取り入れたばかりで。初めて今年から着任した2人がパワフルに頑張ってくれているので、ぜひ話を聞いてみてください」
「やりたいことをやろうとしたら、ここにたどり着いたんです」
そう話すのは、今年の2月に東京から田村市に移住し、起業型地域おこし協力隊として活動している宮之原さん。
以前は製薬会社で勤務。その後JICAの青年海外協力隊として中米のニカラグアで国際協力活動をしていた。
ニカラグア人の旦那さんとお子さん2人で移住。そして8月に新たに出産予定なのだとか。
「ニカラグアから帰国して、5年くらい東京に住んでいました。たまたま田村市とは別のところで実施されていた『田舎暮らしモニター体験』の募集を見て、参加して。自然に囲まれたなかで過ごしたんですが、すごく癒されたんです」
自然豊かな環境での暮らしに興味が湧いた宮之原さん。
体験を主催していた企業に問い合わせ、本格的に移住先を探しはじめることに。
「いつかカフェをやってみたい気持ちもあったので、そのことを伝えると、移住した人がキッチンカーチャレンジという取り組みをしている田村市を紹介してくれて」
「取り組み自体も面白いと思ったし、オンラインイベントで移住者に話を聞くこともできて。起業型の地域おこし協力隊があるというのにも惹かれました」
協力隊として着任し、今は国際交流や語学、食、遊び場を通して、何かに挑戦できる場をつくろうとしている。
「田村市の国際交流協会に入っていて。最近は料理教室でニカラグア料理を紹介したり、日本語教室のボランティアをしたりしています。ちょうど先月は、国際交流イベントを開催しました」
「ニカラグアで活動していた福島県出身の元JICAボランティアが、帰国後もニカラグアの女子野球の支援を続けていて。日本に選手を誘致して、福島県内を周るとのことだったので、田村にもぜひ!と声をかけたら来てくれることになったんです」
違った文化に触れることで子どもたちに刺激になるのではないか、そう思った宮之原さんは、学校に相談し、イベントとして開催することになった。
ボールの投げ方を教わったり、かけっこや遠投勝負をしたり。ほかにも、小学生がニカラグアの言語であるスペイン語で自己紹介をすることもあったのだとか。
イベントは、宮之原さん自身も新たにまちの人とつながるきっかけになった。
「地域の子どもたちの学習支援をしている地域コーディネーターの方と知り合って。子どもも大人も、新しいことを知る楽しさを味わえる場をつくりたいんですって話したら、その方の奥様が経営している食事処で不定期に、コーヒーとかニカラグア料理を出させていただけるようになりました」
「家族連れやご近所の年配の方とか、いろんな人が来てくれます。ニカラグア人の夫に話しかけてくれたり、毎回コーヒーを飲みにくれたりする常連さんもいらっしゃって。今まで触れることがないものや人と関わって、みんなが楽しそうにしている様子を見るとうれしいです」
ほかにも、地域のイベントに参加したり、自身の活動の様子をブログやSNSで発信したりなど、積極的に活動している宮之原さん。
活動の幅を広げて、まちの顔馴染みが増えてきたそう。
「起業型なので、自分の挑戦したいことをどんどん形にできると思います。そのためにも、応援してくれる人とつながることが大切だと思っています」
「後藤さんとも毎日連絡はとっていて。困ったことがあったら相談に乗ってくれたり、市内の知り合いを紹介してくれたりして、心強いです」
地域の人に加えて、後藤さんのようにサポートしてくれる人の力をもらいながら、自分から動いてつながりをつくっていくことが、夢の実現には大切なのだろうな。
最後に話を聞いたのは、今年4月に埼玉から移住してきた橋本さん。
起業型地域おこし協力隊として、キャンプ場の開設を目指している。今は土地を探している真っ最中。
「前職は、トラックや重機を買い取る会社で営業をしていました。一昨年、子どもが生まれて、夫婦そろって自然豊かな場所で子育てをしたいと、移住先を探しはじめたんです」
「あと自分の趣味がキャンプで、キャンプ場をつくりたいなと思っていて。よく長野にキャンプに行っていたんですけど、冬は雪が積もって寒い。移住するとなったら別の場所だなと感じて、思いついたのが福島県でした」
お父さんが福島出身ということもあり、幼いころに自然に触れた記憶が残っていた。
「はじめは別の地域を検討していたんですが、しっくりこなくて。帰りにたまたま寄ったのが田村市だったんです」
「スーパーに行ったら埼玉で買うより野菜が安くて、思っていたより交通の便もいい。田村市について調べたら、冬に雪は降っても積もることはあまりないというのも知って。環境的にもキャンプ場に向いているかもって思いました」
その後、田村市の起業型地域おこし協力隊の募集を見つけ、応募。
応募後は、MAKOTO WILL主催の「田村市現地視察ツアー」という協力隊向けのツアーに参加した。
県外から移住して起業した先輩や田村市の地元の人に話を聞いたり、「なぜ起業したいのか」という想いを明確にするワークショップをしたり。
田村市に来て、何がやりたいのか。1泊2日かけて、実際にまちを巡りながら考えることができた。
「印象に残っているのは、グリーンパークっていう移住された方が立ち上げたブルワリーに行ったことですね」
「移住してブルワリーを立ち上げたっていう事実からも勇気をもらったし、立ち上げた人の話も聞くことができたのがすごくよくて、勉強になりました」
その後、無事地域おこし協力隊として着任。
起業の面では、キャンプ場をつくるための土地探しに苦労しているそう。
「Googleマップを見て、目星をつけて実際に行ってみる。これを地道にやっていて。いいなと思っても誰の土地かわからないので、役所に行って登記簿を確認させてもらうこともありましたね」
「この間、ようやくいい土地が見つかって。でも誰が所有しているのかがわからなかったので、林業に詳しい地域の方に話を聞きに行ったんです。そうしたら見事によく知っている方で、いろいろ教えてもらいました」
自分で調べて動いて確かめる。すごい行動力ですね。
「そのくらい足を動かしていろんな人と関わっていく力があったほうが、やりたいことを実現しやすくなると思うんです。今は土地探しに熱中しすぎて、しつこいって思われてるかもしれないですね(笑)」
田村市は、実際に住んでみてどうですか?
「住み心地はいいです。商店街とかスーパー、ドラッグストアもあって生活に困ることはないですね。休みの日は郡山まで家族で遊びにいくこともあります」
「ただ、住まい探しは結構大変でした。単身向けの物件はあるけど、家族向けの物件はなかなかなくて。紹介していただいて、ようやく見つけることができたんです。住む場所はSwitchさんに相談してみるといいと思いますよ」
2人の話を聞いていると、行動力があって周りの人を巻き込んでいくパワーを感じました。
そして、それを受け入れてくれている田村の土地と人の柔軟さも魅力のひとつ。
まだまだ新しいことが起きそうな予感のするこのまちで、ぜひ夢をカタチにしてみてください。
(2023/6/30 取材 大津恵理子)