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カツオ、太刀魚、ブリ、鯛、マグロ、アカムツ、アカメ。
これらは、高知県須崎市の近海で釣れる魚種の一部です。
今回は「釣りが好きだ」という人におすすめの仕事を紹介します。
太平洋に面した須崎市は、古くから港町として栄えた場所。周りには山も川もあって自然豊かです。
ゆるキャラの「しんじょう君」で馴染みがある人もいるかもしれません。
そんな須崎では、行政と高知信用金庫が協力して、まちを盛り上げるためのプロジェクトを進めています。
その名も、「釣りバカ」シティプロジェクト。
須崎は釣りが盛んなまち。豊富な魚種を目当てに、県外からも釣り人が訪れます。世界でいちばん釣り人にやさしいまちを目指して、さまざまな取り組みを計画中。
今回は、地域おこし協力隊としてそのプロジェクトを推進していく人を募集します。
既存の釣り人を集めるだけでなく、釣り初心者でも手ぶらで楽しめるプランを考えたり、船頭さんと協力して釣り大会を開いたり、釣った魚を捌くワークショップを企画したり。
我こそは、と思う釣り好きな人に、ぜひ取り組んでほしい仕事です。
高知龍馬空港に降り立つと、この日は雨。
須崎市役所の有澤さんが車で迎えにきてくれた。お話上手な方で、いろいろと興味深く聞いてしまう。
プロジェクトの発端は、須崎市の指定金融機関が高知信用金庫に代わる、という話が出たことだった。
「市長と向こうの理事長さんで意気投合されて。ありがたいことに、古くなった庁舎のリノベーションにもご協力いただいたんです。そこから、まちづくりの話に広がって」
高知信用金庫は、2023年で創業100周年。節目に向けて、須崎市とともにまちを盛り上げるプロジェクトを立ち上げることになった。
「理事長はこう話してくれました。『須崎はなんもないまちだよって言う地元の人も多いけど、ちょっと古いまち並みが残っていて、懐かしさを感じる。その景色が私はすごくいいと思う』って」
もっとみんなが須崎を訪れたいと思うように。「海のまちプロジェクト」と名付けられたまちおこしの取り組みがスタート。
空港から車を走らせること1時間ほど。話を聞いていると、あっという間に須崎の中心部に着いた。
大きな商店街が広がっている。
有澤さんが話してくれたように、古さは感じる一方でどこか懐かしい。
古い建物が多いけれど、リノベーションされてお菓子屋さんが入っていたり、アートでまちの魅力を発信するギャラリーがあったり、コーヒースタンドがあったり。個性的なお店もちらほらあるようだ。
ひときわ目立つ建物が、「須﨑大漁堂」。朱色の木組みに囲まれた建物は、なんだか竜宮城のような雰囲気。
プロジェクトの一環でつくられた須﨑大漁堂は、まちに住む人、訪れる人たちの憩いの場となる、まちのリビングのような空間を目指している。
まちを案内してもらいながら、あらためて話を聞いていく。
「高知大学のシンポジウムで、パネルディスカッションをしたときに、『須崎市は海のまちプロジェクトって言っているけど、大事なことを忘れている』って言われたんです」
大事なこと?
「釣りのことを忘れているんじゃないかって」
「地域創生のアイディアとしてそう発言してくださったのが、釣りバカ日誌の初代担当編集者の黒笹さんだったんです」
釣りバカ日誌といえば、国民的な釣り漫画。最近は、須崎を舞台に物語も進んでいた。
「『日本でいちばん釣り人に優しいまち』を掲げたらどうかって、その場で提案いただいて。せっかくなら世界一を目指しましょうということで、海のまちプロジェクトの一つとして取り組むことになりました」
今回募集するのは、この「釣りバカ」シティプロジェクトを推進する人。
具体的には、どんな仕事をすることになりますか?
「働く場所は、市内の観光漁業センターが中心になる予定です。漁業センターでは、船頭さんが釣りに来るお客さんを船に乗せて案内しています」
今は電話予約のみで、ホームページの更新も止まってしまっている。より多くのお客さんを案内できるように、運営面を改善し、サポートしてほしいとのこと。
「ただ、観光漁業センターの職員の代わりに来てほしいわけではなくて。釣りバカシティプロジェクトを進めるために来てもらいたいと思っています」
つまり、既存の業務にとどまらず、釣りをテーマに新しい取り組みを進めてほしいということ。
たとえば、お客さんが釣ってきた魚の写真を撮ってSNSでPRしたり、初心者向けに釣りの企画を立てたり、地元の人と一緒に釣り大会を開いたり。
「それと、釣り人に優しいまちということで、釣った魚をお店に持って行ったらそのまま料理してくれるような仕組みを築くとか。干物に加工して、ご自宅に送るサービスもいいですよね」
「釣りに来てくれた人をおもてなしするための取り組みを広げていきたいと思っています」
近くにはキッチン設備のあるスペースもあるので、魚の捌き方教室を子ども向けにやってもいいかもしれない。船に一緒に乗って、自らお客さんのおもてなしをするのもおもしろいと思う。
有澤さんたちは、釣りバカシティプロジェクトを通して、須崎市に住んでいる人が地元の魅力を再認識して、まちを好きになるきっかけにもなってほしいと考えている。
もちろん、すべてやらなきゃと気負わなくても大丈夫。新しく入る人の興味や得意なことと絡めて、できることから進めていきたい。
次に向かったのは、主な仕事場となる須崎市観光漁業センター。
船頭の池田さんと國澤さんに話を聞いた。
「最近は台風もあって全然。9月からゴールデンウィーク過ぎまでが、釣りのシーズンやね」
池田さんは磯釣りの船頭さん。陸路ではいけない磯場へ、船でお客さんを案内する。
「土日の多いときは磯で3隻、沖に1隻出して。40人ぐらいお客さんが来るね。最近は、マグロのキャスティングをやりたいって人が増えてきてるかな」
須崎の海岸線はリアス式海岸。見せてもらった地図には、ポイントとそこで釣りやすい魚種が書かれている。愛媛、徳島、広島に京都など、わざわざ県外から訪れるリピーターも多い。
「磯場へ迎えにいったときに、お客さんの釣り竿がすごく曲がっていて。岩の下に魚が逃げ込んでしまったと。そのままお客さんを船に乗せて魚を引っ張り出す、みたいなこともあったね」
マグロのキャスティングのほか、須崎で密かに流行っているのが、アカメの筏(いかだ)釣り。
アカメは、名前のとおり暗がりで目が赤く光る魚。日本三大怪魚の一つとされ、以前は絶滅危惧種にも指定されていた。
生息地域も狭く希少な魚とされているけれど、高知では広く確認できることから、釣り人が集まっているのだそう。
須崎近海では、鯛やブリもよく釣れる。瀬戸内海流の速い流れのなかを泳ぐ鯛は、身が引き締まっていて美味しいのだとか。
一方でブリは、日本海のものに比べるとやや味が劣るとのこと。激しく逃げるので、船上の釣り人たちの糸をぐるぐるに絡めてしまい、厄介者になることも。
釣りは初心者だけど、マニアックな話を聞いていると、だんだん釣りしてみたくなる。
海はもちろん、須崎にはいくつもの川が流れている。須崎ならではの釣りを活かして、いろんな人が楽しめるような企画ができるといい。
須崎の釣りにどっぷりハマっているのが、左から野中さんと和田さん。
今回は釣り好きな人にきてほしいということで話を聞かせてもらうことになった。
ふたりは釣りをテーマに市のビジネスコンテストにも出場したという。
はじめに話を聞いたのは、野中さん。現在は妊娠中で船釣りはお休みしているそうだけど、ついこのあいだまでは船に乗っていたというから、かなりの釣り好きだ。
コンテストでは、どんなことを提案されたんですか?
「釣りの洋服について提案しました。海で映えるような服を着て釣りたいのに、買いに行っても全然着たいと思う服がない」
「それやったら自分たちでつくろうってことで。釣り大会を企画して、そこでデザインした洋服をアピールするっていう内容で提案しました」
釣りを通じて知り合ったおふたり。
こんなふうに、釣りをきっかけに新しいコミュニティや取り組みが生まれていく仕組みがつくれたらといいと思う。
釣り人にとって、須崎の魅力ってどんなところでしょう?
「釣れる魚種が豊富なところですかね。釣りの楽しみって、上がってくるまで何が釣れたかわからないところだと思うんです」
「めっちゃ引っ張られると思って頑張ったのに、サメやったとか。大したことないと思っていたら、シロアマダイだったとか。釣れたら意外と高級魚ってことは、よくありますね(笑)」
隣で話を聞いていた和田さんも話を続けてくれる。
「その日はハタ系の魚が来ないかなって思って、いつものジギングの装備で行ったんです。釣り竿を上下に動かしていたらグンって引っ張られて」
「そこから手応えがなかったので切れたかもと思いつつ、リールを巻いていたら、沖でカジキがジャンプしたんです」
カジキ!
「そうなんです。しかも巻いている糸とつながっているんです」
「どうしようと思ったけど、船長が「捕れるから、頑張りい」って後押ししてくれて」
勢いよく逃げるカジキ。船で追いかけてはリールを巻いて、また追いかける。30分ほど格闘して、ようやく弱ってきた。
「最後は船長と一緒に引っ張り上げて。重さは50キロ以上、体長は3mないぐらいですかね。船に乗っていた3人でバラして一個ずつ持ち帰りました。知人には、『なんでバラしちゃったんだよ」って怒られましたけど(笑)」
取材のなかで、「釣りってギャンブルに似ていると思う」という話を何度か聞きました。
最後まで何が釣れるかわからないけど、過程も含めて楽しい。
具体的なエピソードを聞いていると、本当にその通りなんだろうなって気がします。
釣りバカシティプロジェクトもはじまったばかりで、まだまだ将来の見通しがついているわけではありません。でも釣りの楽しみと同じように、その過程も一緒に楽しもうと考えると、やりがいの大きな仕事だと感じました。
毎日が釣り、仕事も釣り。新しい働き方をしてみませんか?
(2023/08/17 取材 杉本丞)