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人それぞれ、こだわりや好みを持っている。
物件を選ぶときも、築年数や広さ、毎月の家賃など、数字でわかることだけではなく、「なんとなくいいな」と、感覚的によいと感じたものを選びたい人もいるはず。
天井が高くて気持ちよく、光がたくさん入る。占有できる屋上やバルコニーがある。古いけれど昔ながらの雰囲気があって、住めば住むほど愛着が湧きそう。
一般的な不動産紹介では拾いきれない、誰かにとって魅力の詰まった物件を丹念に探し出し、紹介しているのが、東京R不動産です。
今回募集するのは、不動産仲介の営業メンバーです。未経験でも構いません。物件を見つけ出し、写真と文章で紹介。その後の内覧や契約まで担います。
別部門で、建築設計スタッフの募集もあります。
自分がいいと思うものは、きっとほかの誰かにとっても心地いいはず。物件が成約するたびにその実感を得られるのは、自分らしく働くひとつの要素だと、取材を通して思いました。
東京・目白。
駅から歩いて10分ほどで、東京R不動産のオフィスが見えてきた。
ここには、東京R不動産のグループ会社が集結している。住まいづくりの建材を扱うtoolboxの事務所兼ショールームや、設計事務所などがある。
なかに入ると、案内のスタッフの方が。「元は学校だった建物をリノベーションしているんですよ」と教えてくれた。
地下のイベントスペースに降りて、最初に話を聞いたのが共同代表の林さん。
「今日は現場の二人の話をメインにお願いします。僕は話しすぎないようにしないと(笑)」
かつて建築を学んだ数人のメンバーが東京R不動産をスタートしたのは2003年。「立地や築年数が新しいほどいい」という、従来の不動産の価値のつけ方に疑問を投げかけたことからはじまった。
当時目をつけたのが、馬喰横山や東日本橋といった、東京の東側。江戸時代から交通の要衝として問屋街が栄えていたこの地域では、古くて味がある建物が多い。
「見方を変えれば、街はこんなにも魅力的なんだ」と、新たな価値観をつくることを目指し、東京R不動産というメディアを立ち上げる。
さっそく、空きビルや倉庫を徹底的にリサーチ。リノベーションを施せばおもしろくなると思えるものを、ひたすらサイトにアップした。
「『日本の街や空間をもっとおもしろく、生き生きとしたものに変えていけないか』。そんな思いがありましたね」
R不動産のサイトで特徴的なのが、アイコン。
「眺望GOOD」、「水辺/緑」、「倉庫っぽい」など…。気になる言葉が並ぶ。
それぞれの物件にはタイトルとサムネイルがついていて、くだけていて気軽なトーンに惹かれてついクリックしてしまう。紹介文も話し言葉のようで、物件の魅力だけでなく、住んでいて不便に思うだろうこともありのままに書いてある。
「僕らの不動産仲介の働き方は、社員とフリーランスの間のような立ち位置なんです」
東京R不動産のメンバーは、業務委託として働いている。店舗を持たないため、お客さんとのやりとりは基本Web上で、直接の対応が必要なのは内見業務くらい。
全社で集まる定例も、3ヶ月に一回ほど。決まった労働時間はなく、働く場所も自由。
外から見ていると、すごく楽しそうな仕事のように感じます。
「そうなんですよ。ただ、働くとなると、R不動産のサイトコンセプトや価値観への共感だけでは難しくて」と林さん。
「最低保証があるとは言っても、収入は個人の成果に応じて決まる。実際、年収300万円から1500万円といった所得の幅があります」
ライターのようにも見える仕事だけれど、あくまでも「営業」。自分がやるかやらないかで、収入もやりがいも大きく変わってくる。
「成果報酬といっても、営業的な成果に向かう姿勢だけを求めているということではないんです。R不動産のお客さんたちが待っているような物件をどんどん見つけに行くんだ、という情熱こそが成果になるんです」
義務的に求められているわけではなく、自分がやりたいから形にする。自分ごとで仕事に打ち込む人が向いているんだな。
「好きな空間、建築を広めたいという文化的な志と、営業として日々の成果を追求する姿勢。どちらも腹落ちしていれば、僕らの働き方にフィットしやすいと思います」
うんうんと隣で頷く緒方さんは、以前はアパレルの営業をしていた。
前職で扱っていたブランドは、全国のセレクトショップで展開され、毎月さまざまな場所に出張していたそう。
卸先への営業と並行して、事前に調べて気になっていたお店を回るうちに、少しずつ空間に興味を持つようになった。
「元は工場だった空間に、ハンガーラックや棚を設置して商品を陳列しているお店があって、かっこいいなって思ったんです」
「同じものでも、どんな空間に置くかによって輝きかたが違う。一番大切なのは、箱なんだなって」
洋服や器、植物、そして什器の一つひとつまで。こだわりによってつくられる空間の豊かさに気づく。そのおもしろさに惹かれ、不動産の仕事へ転職を考えた。
「加えて、多くの人にとって人生で一番高い買い物になるであろう『住まい』を扱うことは、スキル面でも今後の支えになるって思ったんです」
自身も引っ越しの際に、バルコニーが広い家を苦労して探し出すほど、住まいとその環境にはこだわりがあったという。そんなとき、R不動産が出版した本を読んだ。
「自分がグッとくる物件を扱って、共感してくれるお客さんに紹介できる。その働き方が決め手でした」
今年で20周年を迎える東京R不動産。
営業は12名ほどのメンバーで、月に約100物件をサイトにアップしている。感度と確度の高いファンもいて、月に200万ほどのページビューがある。
東京の物件を掘り出し尽くしてしまうということはないんでしょうか?
「それが、尽きないんです。入居者の入れ替わりや、未開拓のエリアもあるし、近くにあったんだけど自分たちが気づいていないこともあって。掘れば、まだまだ見つかります」
そんな緒方さんに欠かせないのが、自転車で街を走ること。
「仕事でも休みの日でも、自転車でいろいろな場所へ行くのが好きなんです。この辺りはこういう雰囲気だって情報が、自然と頭に入ってくるんですよね」
「グッとくる建物があればマップにピンを打ちながら、建物の外観を見たり、その中身まで想像するのが楽しくて。不動産に興味を持ってから、景色の見え方が変わりました」
これまでに見つけた印象的な物件はありますか?
「入社した当初、文京区の白山っていう街を散策していて。雰囲気のいいワインバーがあるなと思いつつ、何の気なしに振り返ったら、タイル張りでレトロな雰囲気の建物を見つけたんです」
「窓を見たら入居者募集中の貼り紙があって。その瞬間『うおおお!』って叫びたくなるほどテンションが上がりました。すぐに管理会社に問い合わせしましたね」
物件についてわかったのは、元は精肉所で、設備も経年劣化していて、2年以上借り手が見つかっていなかったということ。管理する不動産会社も、借り手はなかなか見つからないだろうと半ば諦めていた。
サイトに掲載したところ、すぐに複数の申し込みが。
「管理会社に申し込みを複数提出したら、『何が起こっているんだ!?』と社内がざわついたそうで(笑)。普通の人からは見向きもされない物件でも、R不動産のお客さまからはお宝に見えることもある。そんなふうに、埋もれている物件を掘り起こせたときは、やはりうれしいですね」
「今は工務店兼本屋さんになっています。たまに足を運ぶんですけど、いつもお客さんがいて。楽しそうに滞在している姿を見るのもうれしいんです」
ほかにも、ユニークな物件を探し出すために、不動産会社専用の情報サイトをくまなくチェックしたり、過去に関わった同業者や大家さんなどのツテをたどったり。
会社や大家さんから、直接掲載の依頼が来ることもあるという。
隣で羨ましそうに話を聞いていたのが松下さん。現在2年目の営業スタッフ。
「私もツテができるよう必死に頑張っています。ツテが増えていけば、仲間と仕事するみたいになるじゃないですか。好みを知ってくれている会社さんや大家さんと仕事ができるって、絶対楽しいと思うんです」
以前は、別の会社で会計や財務といった仕事を経験。業務に慣れてゆとりができると、自分の世界観を表現し、それに共鳴してもらうような働き方への興味が膨らんでいった。
「実家が大家業をしていて、祖母の仕事の様子を幼いころから見ていたことを思い出したんです。その影響で、昔から自分のお部屋をかわいくするのがすごく好きだったんですよね」
「自分が好きだって思える空間をつくって、同じように好きだって思ってもらえる人に借りてもらえる大家さんになれないかなって」
ご自身も大家さんになりたいと思ったんですね。
「身近な祖母の存在が重なったような感じです。そんなときに、R不動産が募集をしていて」
「もともと、一人暮らしで住む部屋を探すときに見ていて、自分好みの物件が多かったんです。それに、働くなら絶対業務委託がいいなと思っていて」
それはなぜでしょう。
「正社員として組織にいると、決まったマニュアルや時間に縛られる場面がありますよね。プロジェクトを進めるにも、役割分担して、チームで進捗確認してとか、それが面倒で。できれば避けたいと思っていたんです」
個々に動き、やればやるだけ成果に結びつく。営業で働く二人に共通するのは、自分でなんとかする自律心かもしれない。
新しく入る人には、入社後にメンターがつくものの、経験値やスキルによって教育のスピードも変わるそう。
営業経験のなかった松下さんは、まず不動産の基礎知識を学び、物件を探す練習からはじまった。並行して、物件紹介の記事を書き、添削をしてもらう。メンターとの付き添いで内見を数回経て、1ヶ月ほどで独り立ちした。
「ガッツが大事です」
「地味な業務も多いので。ひたすら物件を探して、一生懸命写真を撮って記事を書いて、サイトにアップして。苦労しても決まらない物件もあるし。失敗を繰り返して、ようやく一件成約する、そういう世界なので」
経験豊富な先輩もいるなかで、どう努力していくんですか。
「自分に刺さる一癖が物件のどこかにあったとして。この角度で言えば誰か気に入ってくれるかも、みたいな。つまり… 光の当て方です」
光の当て方。
「私は、暮らしづらいけど見た目や内装がとにかくかわいい物件が好きなんです。いい!と思ったポイントがおもしろく伝わるように、写真や文章を工夫する。物件に出会うたび、自分の得意な光の当て方が見つかってくるんです」
「好きなものを自分らしく紹介しないときっと続かないし、成果も上がらないと思います」
久しぶりに顔を合わせたという3人。
「紹介する物件記事のタイトルで誰が書いたかわかるんです。松下さんは魅力を詰め込む癖があるので、すぐわかります」と、後輩をいじる緒方さん。
「緒方さんのタイトルはロマンチックで笑えるんですよ」と咄嗟に返す松下さん。
「俺いまだに『これいいね!』って思える物件に出会って、そこに入るときに、幸せを感じる」と、二人のやりとりにつづく林さん。
個人の自由はありながら、志を共有できる仲間ときちんと働く。個人と組織のいいとこ取りの働き方。
自律している人と人の間にある、ささやかだけどたしかな連帯感が、働く人の居心地のよさをつくっているんだと思いました。
(2023/11/16 取材 田辺宏太)