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誰かのためにつくるご飯は、安心できる食材を選びたいし、盛り付けにもつい時間をかけたくなる。
届ける相手が目に見えることは、「もっともっといいものを」と、つくり手の力になると思います。
そんな力をまちの活気へつなげている場所があります。
埼玉県・西浦和にある「団地キッチン」田島は、カフェ、シェアキッチン、ブルワリーが併設されている「食」の複合型コミュニティ拠点です。
運営しているのは、団地やマンションの管理を担ってきた、日本総合住生活株式会社(以下JS)。
創業からおよそ60年。団地やマンションの住人が安全・安心・快適な住生活を送ることができるように、ハードとソフトの両面からサポートしています。
近年は、生活を豊かにするサービスや地域コミュニティ形成の支援に力を入れることで多様なライフスタイルに応えています。
たとえば、コミュニティスペースを併設したコンビニや、本をテーマにした「読む団地」ジェイベルデ大谷田・シェアハウスなど。幅広い世代がより便利に暮らせるような空間づくりに取り組んでいます。
2022年、新たな取り組みの一つとして、生産者からつくり手、受けとる人まで、みんなの顔が見える「団地キッチン」田島をオープン。
今回はここのブルワリーで働く、ビールの醸造スタッフを募集します。
未経験でも大丈夫。ビール醸造の研修で学んだり、プロに相談や指導してもらう機会もあったり、スキルアップできる体制が整えられる予定です。
自分のつくったビールが、誰かのもとに届くまで。たくさんの人に出会う場だからこそ、生まれるビールがあると思います。
東京都心から西浦和駅まで、電車に揺られることおよそ50分。改札を出ると、駅へ向かう人や犬の散歩をしている人とすれ違う。
ほどなくして「カフェとクラフトビール」の文字が見えた。奥には、住棟が何棟も並んでいる大きな団地がある。
施設の中に入ると、隣の公園の様子が見えて明るい。
目の前にカフェのテーブル席とカウンター。すぐ隣には、大きなガラスで囲まれたシェアキッチンが3つと、ブルワリーがある。
フロアはランチを食べるお客さんでにぎわっていて、シェアキッチンの一角では、地域の方がお菓子をつくっている。
「ちょうどカフェがピークの時間帯なんです。昨年オープンして、この施設もだんだん人が集まる場所になってきました」
そう声をかけてくれたのは、JSの事業計画課で副長を務める中野さん。カフェの奥に案内してもらい、まず「団地キッチン」田島について話を聞く。
長年、集合住宅の管理運営をしてきたJSは、ここ田島団地の管理・運営を担うなかで、住民の高齢化やコミュニティの希薄化を課題として認識したという。
「田島地区ってあんまり特徴がないと言われていたんです。自治体の方や周辺に住むみなさんから、集まれるような居場所がほしいっていう声も聞いていました」
「近隣の人たちのつながりを、どんどん増やして、広がっていく。団地を起点に、そういったつながりができたらいいなって」
「団地キッチン」田島は、その名の通り、団地のすぐそばにある施設。もともと銀行だった建物は、10年近くATMのみの使用になっていた。
駅からも近く、人通りは多い。空き店舗となっていたこの場所を、まちのにぎわいとなるコミュニティ拠点にできるのではないか。
「団地って郊外にあることが多いので、畑が近かったりするんです。食をテーマにすることで、地域の食材を知ることができる。そのまちを知るきっかけになるんじゃないかと思いました」
そこでUR都市機構の団地再生事業とさいたま市と協同し、2022年8月に「団地キッチン」田島をオープン。
コンセプトは、「だれもが、料理を“作る、食べる、知る”を楽しむ」。
カフェでランチをしていると、シェアキッチンで料理教室が開かれていたり、ブルワリーでビール醸造をしていたり。
スペースは区切られているけれど、大きなガラス窓でそれぞれの様子がよく見える。
料理教室は、プロだけでなく一般の人も講師になれる。カフェを利用していたお客さんが、料理教室の様子を見て、自分も参加したいとまた足を運んでくれることもあるそう。
「一緒に誰かと食べたり、自分がつくった料理を美味しいって言ってもらえたりするだけで、幸せな気持ちになれますよね」
コミュニティ施設として評価され、2023年に「団地キッチン」田島はグッドデザイン賞ベスト100を受賞。
「建物を改修しているときは、何ができるんだろうって様子をうかがいに来る方も多かったんです。オープンしてからは口コミで広まって。『ふらっと来やすいね』って徐々にお客さんが増えてきました」
「施設の外では毎月マルシェを開いています。8月にはオープン一周年を記念して、規模を拡大したマルシェを開催したんです。そのときは、700人くらい、県内を中心にたくさんの方に来ていただきました」
マルシェでは、地元食材を生かした料理を提供したり、農家の方が野菜を販売したり。シェアキッチンでは、ピザづくり体験を開催した。
食にまつわるいろんなきっかけをつくることで、さまざまな世代が集まる場所になっている。
「私たちの専門は住まいのこと。だから“食”については、学びながらというか。周辺の生産者さんを見つけたり、そこから新たな人脈が広がったりして、どんどんつながりができているなって実感があります」
今回入る人は、地域の食材からビールをつくる機会が多いと思う。地域のつながりは大切にしてほしい。
材料を仕入れる人の顔も、つくったものを届ける人の顔も、わかる環境でつくるビールは、きっと思い入れ深いものになるはず。
「ブルワリーにいると、『なんかやってますね』ってお客さんに話しかけられることとか、横にいるシェアキッチンの会員さんと話す機会もあるんです。醸造中は一人で過ごす時間が長い仕事ですが、寂しくはないと思いますよ」
そう話すのは、同じく事業計画課の上野さん。
ブルワリーで研修を受け、ビール醸造のノウハウも持っている方。複数の施設を担当していて、「団地キッチン」田島へは週1回ほど顔を出しているそう。
今回ブルワリーで働く人にとって、身近で相談に乗ってくれる存在になると思う。
そもそも、どうしてブルワリーをこの施設につくったんでしょう。
「クラフトビールって、コミュニティづくりに相性がいいなって思ったんです」
相性がいい?
「お酒が入ると冗舌になりますよね。それに、地元の素材を使ってビールづくりを体験することも、コミュニケーションが進むきっかけになるんじゃないかって」
ブルワリーでつくられたビールは、カフェでも提供されている。
カフェの利用時間は朝の11時から夜の20時まで。子どもが学校へ行っている間にランチをする方や、団地に住むご高齢の方が何人かで集まっていることが多いそう。
現在、定番商品として出されているビールは、ビターエール、IPA、ペールエールの3種類。
「埼玉県産の小麦で仕込んでいるんです。地域で馴染みのあるものを副原料にしたビールを、マルシェでも定期的に出すようにしていて」
最近好評だったのは、埼玉県の県花である「サクラソウ」を使ったクラフトビール。「サクラソウ」のアイデアは、近隣の人から出てきたものだという。
「今回来ていただく方も、周辺ではどんな作物がつくられているのか、住む人はどんなものを好むのか、まずは知ってもらって。地域に受け入れられる商品を考えていってほしいですね」
クラフトビールの魅力は、副原料を活かした醸造がしやすいこと。
周辺の地域で採れる食材を使用することで、ここにしかない味わいをつくることができる。
施設内で、定期的におこなっているワークショップ。「さいたま市民の日」である5月1日には、クラフトビールの醸造体験を開催した。
このとき対象にしたのは、親子連れ。
子どもたちも醸造の過程を一部体験。目を輝かせて作業に臨んでくれた。
こういった企画の運営にも、楽しんで関われる人のほうが、この仕事は合っていると思う。
どんな人に来てもらいたいですか?
「そうですね… きれい好きな人でしょうか。ビール醸造は掃除も大切なんです。また、ビールづくりの経験がないと、わからないことだらけだと思うので、自分で調べる力も大切にしてほしいです」
「あとぼくらがやっていることは地域貢献でもあるので、奉仕精神があるといいなと思います」
ビールをつくるところから届けるところまで。一貫してできるのは「団地キッチン」田島だからできること。
新しく加わる人は、ビールづくりの腕を磨くことも大切な一方で、コミュニティづくりも担うことになる。
「日々ビール醸造に取り組んでいると、もっと自分の腕を試してみたい、そう感じてくると思うんです」
そう話すのは事業計画課の課長の眞壁さん。
現在、ビールの醸造にも集中して取り組めるように、よりよい環境を整えているところ。
「我々は何十年もビールの醸造をしているわけじゃないので、まだまだ素人。技術的なフォローが足りていないなと感じていて。これからはプロのアドバイザーを入れて、どんどんスキルアップできる環境をつくっていこうと考えています」
前任の方は、試作品をキッチンカーで試飲してもらう機会を設けたり、コンペに参加したりもしていたそう。
腕試しの機会があることはやりがいにもつながる。自分のビールをきっかけにこの場所を訪れるお客さんが増えたら、きっと大きな手応えを感じられると思う。
もちろん、未経験の人でもしっかり技術を磨いていけるよう、バックアップ体制も強化しているところなので、安心して飛び込んできてほしい。
「その人がつくる味イコール「団地キッチン」田島の味になるといいなって。そんなビールをここでつくり続けてもらえるとうれしいです」
自分のつくるビールが、誰かのなじみの味になる。
それは、まちの人と関わりつくっていくからこそ生まれる味なんだと思います。
(2023/12/01 取材 大津恵理子)