※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。
食べるために働くというのは、納得がいく。
満足に食べられるようになると、より美味しいものを食べたいとか、人と違うことをしたいとか、永遠に尽きない欲が生まれてくる。
その結果、自分の体や自然に無理をさせることも。
「人も自然も持続可能な暮らしを実現する」。
そんな想いをもって、愛媛県の限界集落を再興しようとしているのが、株式会社サン・クレア。
舞台は、人口270人の目黒集落。
もともと行政が運営していた宿をリノベーションし、10室限定の宿泊施設「水際のロッジ」をオープン。四万十川源流の滑床(なめとこ)渓谷の麓に位置し、澄んだ水と豊かな森に囲まれた場所です。
提供している料理の食材は、顔の見える生産者から仕入れたり、自分たちで育てた野菜だったり。
藍を育てて藍染体験を提供している人に、手つかずの自然を活かした子ども向けの長期キャンプを企画する人も。
地域の資源を活かし、循環する暮らしをつくっています。
今回は、そんなビジョンに共感して働く仲間を募集します。
働く先は「水際のロッジ」。職種は調理、フロント、ホールスタッフの3つです。
GWや夏の時期は繁忙期となるため、週5日現場での仕事になります。そのほかの閑散期は営業日を週3日までに絞り、残りの時間は自分の挑戦したいことに時間を使うことができます。
松山空港から車を走らせて、高知県との県境を目指す。
2時間ほど経ったところで、目指す松野町に入った。目黒郵便局を曲がると一本道。里山の風景が広がっていて、収穫間近の稲穂が黄金色に光っている。
山道に入り、幅も狭くなっていく。くねくねとした道を進んでいくと、水際のロッジに到着した。
きれいな紅葉に川の音が聞こえて、気持ちいい。
まず話を聞いたのは、サン・クレア代表の細羽さん。
サン・クレアは福山市に本社を構え、広島や愛媛でホテルの開発・運営などをおこなってきた。
水際のロッジも、もともとは行政が運営していた宿。2018年の西日本豪雨による道の崩壊をきっかけにお客さんが激減し、民間に売却することに。
そのコンペでサン・クレアの案が採用され、運営を担うことになった。
「どうして経営が立ち行かないかっていうと、やっぱり売り上げがあがっていないからなんですね。過去のデータを見ると、1泊2食で1万2000円とか。ポテンシャルは1泊5万円ぐらいあると思って、はじめは高級リゾートホテルを考えていました」
着々と準備を進め、オープンしたのが2020年の3月20日。
ところが、3週間後の4月7日に第1回目の緊急事態宣言が発出され、水際のロッジを含む、すべてのホテルを休業しなければならなくなった。
「企業って成長させなきゃいけないっていう大前提があって。資本主義経済で言うと、それは売り上げをあげることなんですね」
「プロジェクトのチャンスがあったら僕がコミットして、軌道に乗ってきたら次のプロジェクトに移っていく。そうやって頑張ってきたけど、コロナ禍で何もできない状況になってしまって」
売り上げは1円もないけれど、固定費は出ていく。どうすることもできない状況のなか、流れ着くように、目黒集落で時間を過ごすことにしたという。
「なんのために宿泊業をやっているんだろうとか、幸せってなんだろうとか。あらためて自分と向き合うきっかけになって」
「朝はゆっくりコーヒー豆を炒るところから始めて。豆が弾けていい香りがしてきたらミルで粉状にして、1時間ぐらいかけて1杯のコーヒーを入れる。なんて幸せなんだろうって。それで、これまでのやり方はやめようって決めたんです」
際限のない成長を追い求めて疲弊するのではなく、持続可能で人間らしい生き方を目指す。
そこで単なる高級リゾートホテルをつくって終わりではなく、目黒という限界集落の再興も目指すことに。住まいも広島から目黒へ。
集落を再興するには、人口を増やさなければならない。かつ持続可能な暮らしである必要がある。
今年の10月にオープンした宿泊施設「水際のCamp-Us」は、まさにその姿勢を表すようなもの。
滞在は最低でも1週間以上から。それはこの土地の良さをじっくりと味わってほしいから。
また、プロの料理人仕様のキッチンを完備。先日は料理人を集めて、移住者向けに地域の食材の活用方法を知ってもらうワークショップをおこなった。
地域の人からもらった野菜を有効に使えるし、料理人にとっては生産の現場や食材の成り立ちについても、知見を深める時間となった。
森も食材も現場も大切に。今後は、想いに共感する料理人を集めて、研修や商品開発のラボとしても利用できるように準備していく。
「僕らは目黒集落周辺を“森の国Valley”って呼んでいて、“あめつちの心に近づかむ”っていうコンセプトを掲げています」
どういう意味でしょうか。
「近くの石碑に刻まれた言葉で。雨っていうのは天で、土は地面。天と地面の心って何かって言うと、それらをつなぐ雨水や空気。天から降ってきた水が川に流れ込んで、その水が田んぼに行き、そこでできた米を食べる僕らがいて」
「そういう大きな循環の中で生きている。僕たちがきれいな水を維持するからこそ、川にきれいな水が流れていき、海に流れて、そしてまた天から還ってくるんです」
自然の循環をコントロールするのではなく、循環の中で生かされていることを知る。それを無視するから、環境が壊されていく。
「自分たちが大自然の流れのなかで生きてるっていう価値観は、前提にして働いてほしいと思います。そうすることで、自分たちにも自然にも、無理せず生きていくことができるので」
今回はそうした価値観を大切にして働ける人を募集したい。募集する職種は調理、フロント、ホール。
水際のロッジで食事を提供しているのが、ピッツェリア「SELVAGGIO」。
料理長を務める裕大さんに話を聞く。
「うちのいちばんの看板は、マルゲリータSTGっていうピッツァで。そのトマトは、近所のマツヒラさんって方がつくっている、まっちゃんトマトを使っています。あとは、松野町内の鹿肉を使用したハンバーグも人気です」
ピッツェリア「SELVAGGIO」は、東京・練馬にあるPIZZERIA GITALIA DA FILIPPOの姉妹店。ナポリピッツァの世界大会で1位を獲得したことのある岩澤正和さんがオーナーを務め、裕大さんもそのお店で働いていた。
水際のロッジがオープンすることを機に、ここでの料理を任された裕大さん。はじめは右も左もわからず、FILIPPOの料理長に毎回指示を受けていたそう。
「オープンしてすぐにコロナ禍になったこともあって、あらためて料理への向き合い方とか、地域の生産者とのつながりとかを意識するようになりました」
「はじめは冷たいんですよ。どうせすぐ帰るんだろ? とか。過去にすぐに撤退した事業者がいたらしく、それって生産者さんからしたら大変なことじゃないですか。僕らもその責任はしっかり持たないといけないと思っています」
たとえば、解体場で鹿のお肉が余っていると聞いたとき。いつもより多く仕入れて、急遽鹿料理を増やすなど、持ちつ持たれつの関係で営んでいる。
地道に関係性を築き、使っている食材はほとんど生産者の顔が見えるもの。
そうした取り組みが認められ、加盟している一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会主催の「FOOD MADE GOOD Japan Awards 2023」では、食材調達部門最高位の「BEST調達賞」を受賞した。
「宇和島の養殖鯛も仕入れているんですけど、取りに行ったときに受賞したことを報告したら、自分のことのように喜んでくれたんですよ。『えー、よかったね~!』、みたいな」
「応援してもらえてるというか。取引相手なんですけど、 一緒に頑張っている仲間のような気持ちでいます。これからも地元の人に愛してもらえるようなお店をつくっていきたいです」
都会と異なり、生産者と近い環境。顔が見える関係性は、つくる人も食べる人も安心できるし、暮らしの面でも心地いいはず。
「ここだと、東京じゃできない料理ができるんですよ」
東京じゃできない料理?
「引き算の料理、っていうんですかね。産地から市場に集まって、そこで八百屋さんなんかが仕入れて、みたいな過程を踏まずに食材が手に入る。新鮮なぶん、いろいろな調味料を足して味をごまかしたりしなくてもいいんです」
「今日の朝採れたトマトを仕入れて、そのままお昼に出すことができる。新鮮なので、あまり手を加える必要もない。いかに無駄をそぎ落とすかというのはすごく意識しています」
今回募集する調理スタッフは、飲食の経験は問わないという。
「ただ料理をつくりたいというより、食材の成り立ちについて知りたいとか、生産者さんのために何かできることはないかとか。料理のまわりについても考えられる人だといいと思います」
裕大さんがいま考えているのは、加工品づくり。収穫した野菜の価値を高めることができれば、農家さんの収益にもなるし、結果としてSELVAGGIOでも、持続的に美味しい料理を出すことができる。
目先の利益ではなく、長期的にみんなが幸せになるにはどうしたらいいか。この場所だからこそできる取り組みだと思うし、新しく入る人にとっても大きなやりがいにつながるはず。
最後に話を聞いたのが、2022年の5月からフロントやホール担当として働いているまおこさん。
チェックイン、チェックアウトの対応や部屋の清掃、料理の配膳・説明に加え、経理の仕事も担っている。
「ここで働いている人たちは、人間味が強い人たちだなって感じています。それぞれ自分の道を持っているから、ときに意見がぶつかることもあるけど、お互いが働きやすいように気も遣うし、みたいな感じです」
働き始めて1年半ほど。暮らしにも馴染みつつあるところ。
「梅の収穫をお手伝いして、それをいただいて梅干しを漬けたり、田んぼの草引きをしたり、山椒を採ったり。去年はみかんやゆずの収穫もしました」
「作業してたときに通りがかったおじいちゃんが、今度うちに遊びにおいでって誘ってくれて。行ったら目黒のさらに奥の秘境みたいなところのお家で。面白いですよね」
移住の際、ひとつだけ決めていたことがある。それは、自分の目で見て感じて、考えるということ。
「地元の人と話したり、季節の移り変わりをじっくり感じたり。誰と喋っても何を見ても、やっぱり自分の感じたことを大切にしたいなって。働きながら暮らしながら、まだまだ考えている途中なんです」
限界集落から新しい生き方に挑戦する仲間を求めています。
(2023/11/23 取材 杉本丞)