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日本では山間地域を中心に人口の減少が進み、近い将来にはまち自体がなくなってしまうと言われている地域が数多くあります。その対策の一つとして国が提唱しているのが、地方を活性化する地方創生。
山間地域には、豊かな自然やきれいな水など、都市にはない魅力や資源があります。
足元にある宝を見つめ直し、その土地で働く人たちの興味関心と組み合わせることで、地域を持続可能なものにできないか。そんなチャレンジをしているのが、サン・クレアです。
株式会社サン・クレアは福山市に本社を構え、広島や愛媛でホテルの運営などをしている会社。
今回はそのなかのひとつ、愛媛の南西、松野町目黒にある、「水際のロッジ」で働くホテルスタッフと調理人を募集します。
とくにホテルスタッフの方は、ただのホテルスタッフではありません。金土日はロッジの仕事をして、それ以外の平日は自分のやりたいことを追求し、目黒の地域創生に役立てていく。
どういうことだろう?と思ったあなた。いろいろな「やってみたい」を持ちながら働く人の声を、ぜひ聞いてみてください。
水際のロッジへは、松山空港から車で向かう。高速に乗ると約2時間、下道だと3時間ほどで到着する。
近くまで行くと、川沿いの一本道に。対向車よ来ないでくれと祈りたくなるような狭い道が続く。少し辺りが開けたと思ったところで、ロッジについた。
まずは社長の中田さんにお話を… と思いきや、勤務時間の都合でスタッフの方からお話を聞くことに。
迎えてくれたのは、4月から水際のロッジで働いている清水さん。なんだか全身が真っ青だ。
これは… 藍染をされているんですか?
「そうなんです。今はホテルの仕事をしながら、休日に藍を育てたり染め物をしたりしていて」
「宿のお客さんにも、藍染の人だ!ってわかってもらえるように、染めたものを全身に着て接客してるんですよ」
清水さんがサン・クレアに入社したのは、2年ほど前。ファッションが好きで、以前はアパレル関係の会社に12年ほど勤めていた。
「サン・クレアのことは偶然知って。本社が福山にあるんですけど、福山はデニムの生産量が全国一位なので、ホテルで働きながらデニムをつくろうと思ったんです」
ところが、勤務先は福山ではなく愛媛の宇和島にあるビジネスホテル。そこでマルシェの企画を成功させたことをきっかけに、今年の4月から水際のロッジの担当になった。
「最初は戸惑いましたけど、このロッジがある目黒地区だったら染めの原料になる藍を育てることができるので、面白そうだなと思って。今年は藍農家さんから買った染料を使っているんですが、ゆくゆくは自分が育てた藍でデニムをつくりたいと思っています」
現在は、週3、4日はロッジで働き、残りの日で藍の作業をしている。
「フロント業務から掃除まで、ホテルの仕事はなんでもやります。そのわりに、ロッジには、ホテル経験者ってあまりいないんですよ。ほとんどが未経験だけど、自分のやりたいこと、willを持っている人が多い。会社としても、willの実現とホテルの両立を応援してくれる環境だと思います」
働く人それぞれがwillを持ちながら、ホテルの仕事もする。あまり聞いたことのない働き方だけれど、どういう意図で実践しているのだろう。
続けて話を聞いたサン・クレアの社長、中田さんに教えてもらう。
「さっきの清水くん、真っ青だったでしょう(笑)。まだ今年から始めたばかりですが、清水くんの藍染にはすごく大きな可能性を感じていて」
「たとえば、ホテルの宿泊とセットにして、藍染体験プランをつくることもできるだろうし、独自のブランドをつくることができたら、目黒に買いに来てくれる人も増える。それって、目黒の地域創生に役立つと思うんです」
個々人のwillを尊重することが、目黒の地域創生につながる。それこそが、サン・クレアが水際のロッジで目指す働き方なのだそう。
中田さんがサン・クレアに入社したのは15年ほど前のこと。当時は広島と愛媛に2つだったホテルも、インバウンド需要に伴うホテルラッシュの波に乗って、現在は7つに増えている。
この水際のロッジも、もともとは行政が運営していた宿。西日本豪雨による道の崩壊をきっかけにお客さんが激減し、民間に売却することに。そのコンペでサン・クレアの案が採用され、運営を担うことになった。
「いよいよ自分たちで運営していくぞってなったときに、コロナ禍が起こったんです。打撃はありましたが、自分たちが何をしたいのか、あらためて考えるきっかけにもなって」
そこでいろんなことを考えた結果、自分たちもまちの一員になり、会社として目黒の地域創生に本気で取り組むことを決めた。
その試みの一つが、先ほど話を聞いた清水さんのような、ホテル×○○の働き方。
「水際のロッジは、サン・クレアのなかでも一番最先端な働き方を推進してるんです。一番田舎なんですけどね」
「だからさっきの清水くんみたいに、こんなことがしたいっていう、willがある人を採用するようにしています。人のパフォーマンスが一番高まるのって、自分がやりたいと思ったものに全力投球しているときじゃないですか。かつ、地域創生に興味がある人だったらいいですよね」
この目黒地区の人口は、270人ほど。まちを持続可能なものにしていくためには、ホテル業だけでは足りない。
清水さんの藍のように、目黒の資源を活かした試みを積み重ねていくことで、新しい産業を生み出し、まちの活性化につなげていきたい。
「スタッフには、サン・クレアの大きな方針にのっとった上で、自由に肩書きを持って活動していってほしいと思っていて。それが目黒のためになることなら、なおさらいい。たとえば藍をするんだったら、きれいな水を維持するために農薬を使わずに育ててね、とか」
「コロナ禍で我々も振り切れずにいたんですけど、清水くんの藍の活動とかを通して、僕らの目指したい方向は間違っていないんだって、確信を持てるようになってきて。9月からは思い切って、ロッジの運営を金土日だけにするんですよ。月から木のうち休日以外の2日間は、それぞれのwillに費やす時間にしてもらおうと思っています」
営業日を減らすって、なかなかすごい決断ですよね。
「足元の利益を追求するなら、毎日営業したほうがいい。でも長い目で見ると、営業日を減らすことで、むしろ利益は上がるんじゃないかと思ってるんです」
「スタッフが唯一無二の付加価値を平日につくって、それを金土日にぶつける。そこで宿のクオリティと単価を上げていくほうが持続可能じゃないかなって。藍だったら、家で余ってるTシャツとかを持ち込んでもらって染めて、アップサイクルするプランをつくるとかね。そういうことをやっていきたいなと」
ホテルの事業内で新しいことをする、という形ではなく、まちおこしの事業のなかにホテルがあり、藍もある、みたいなイメージだろうか。
そしてそれぞれが有機的につながっていくことで、まちの活性化につながっていく。
「だから、やりたいことがあるけど生計はまだ立てられないっていう人にとっては、結構いい環境だと思うんですよね。ただ、僕らがやりたいのは目黒の地域創生。最終的に目黒という地域に還元してね、とは言っています。スタートアップの支援じゃなく、目黒を持続可能なまちにすることが目的なので」
最後に話を聞いたのは、ホテル×野外教育という働き方をしている前川さん。
前川さんが企画しているのは、レジャー的なキャンプではなく、組織キャンプと呼ばれているもの。主な対象は子どもで、自然教育や人間教育を目的としたプログラムをファシリテーションしていく。
大学院まで野外教育を専攻していた前川さんは、仕事でも野外教育に携わりたいと考えていた。
そんななか、野外教育を目黒ではじめたいと考えていたサン・クレアの当時の社長と、大学の後輩を通じてつながり、働くことに。
すごい偶然というか、運命的な出会い方ですね。
「そうなんです。実家が東京なので、愛媛に出てくるのに不安はあったんですけど、動くなら今しかないと思って去年入社しました」
野外教育をしたいという思いで入ったため、最初はホテルマンの仕事に慣れなかったそう。
「ホテルの仕事は本当に苦手でした(笑)。お客さまに敬語を使うのも慣れてなくて。けど、ロッジのターゲット層である家族連れって、野外教育のターゲット層と同じかもしれないって気づいたときから、子どもと親がどんなことを求めているのか、っていう目線で見ることができるようになったので、今は楽しんで仕事ができています」
自分で1から準備をして、去年と今年に実施したのが、NAME CAMP。
小学4年生から中学3年生までを対象に、10泊11日の日程で、目黒周辺の山や川でキャンプをして過ごすプログラムだ。
ロッジ近くの森から始まり、海の方向へマウンテンバイクで40キロ移動。山を越えてロッジ近くの万年橋に戻ってくるという、聞いただけでもハードさが伝わってくるような内容。
「子どもたちの『自然と生きる力、人と生きる力、自分と生きる力』の3つを育むことをミッションに掲げていて。自然って心地いいけど怖い部分もあるとか、年齢の異なる人と一緒に集団生活をするとか」
「多様な多世代の仲間と10泊という長い期間を一緒に過ごして、自己理解を深める。そんなキャンプになればいいなと思って取り組んでいます」
今年のキャンプはつい数日前に終了。
参加費はひとり25万円。川にキャンプ、山遊びに自転車など、自然のなかでさまざまな体験と学びができるようなプログラムで、参加費以上の価値がある取り組みだと思う。
都会から愛媛の山奥に来るのって勇気がいるように思うんですが、ここに住んでみてどうですか。
「田舎暮らしにはもともと憧れていたんです。抵抗はなかったですね。実際に暮らしてると、みんな人がいいんですよ」
人がいい。
「目黒の人って、目黒の人たちのことを褒めるんですよ。あそこの人は親切だから、なにかあったら声をかけたらいいよとか、あそこの誰々さんはご飯がおいしいから食べに行ってみなよとか。お互い褒め合っているのが印象的で」
「最近、家庭菜園を始めたんですけど、近所の人がみんな覗きにきてくれて。この茎は切ったほうがいいとか、雑草を抜けとか(笑)。みんな気にしてくれて、すごくあたたかい人が多いなって感じてます」
今後はNAME CAMP以外の野外教育も実施していきたいと考えているそう。野外教育に興味がある人は一緒に取り組むこともできるし、やりたいことがほかにある人にとっても、切磋琢磨できるいい仲間になると思う。
サン・クレアの人たちは、それぞれの夢や目標に向かって、楽しんで働いている姿が印象的でした。
ホテルをきっかけに、地方創生にチャレンジしたい人は、ぜひ応募してください。
(2022/8/17 取材 稲本琢仙)
※撮影時はマスクを外していただきました。