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思い出とともに張り替えて

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

椅子の座面や背もたれの生地の張り替え。

そう聞いてまず思い浮かんだのは、「修理」のイメージ。

だから、同じものの新品を買うよりも、ときに張り替えのほうが高額になると聞いて驚きました。

なぜ、そこまでして張り替えを?

そんな疑問は、ReChairのみなさんの話を聞くなかで、納得に変わっていきました。

形、デザイン、メーカー問わずに、椅子の生地を張り替え、新たな価値を加えるサービス「ReChair(リチェア)」。

今回募集するのは、お客さんとの窓口となる張り替えアドバイザーです。

お客さんの希望を丁寧にヒアリングし、最適な張り替えを提案。見積・請求の対応や、職人への指示書作成、張り替えが完了した椅子の発送準備など。生まれ変わった椅子が持ち主のもとに帰るまで、責任を持って伴走していく仕事です。

この仕事が似合うのはきっと、ものを長く使うことに価値を感じる人。そして相手の想いに丁寧に向き合える人。

自分ではものをつくれないけど職人のそばで働きたい、という人にも楽しい環境だと思います。

 

埼玉県南部にある、ふじみ野駅。

都内からだと、東武東上線で池袋から30分ほど。駅前には商業施設が並ぶ、便利なベッドタウンという雰囲気のまち。

駅から10分ほど車に乗り、Rechairの工房兼オフィスに到着。近くには、住宅や物流倉庫、田畑があり、駅前よりものどかな雰囲気。

「先に2階の工房を見てもらいましょうか」

そう案内してくれたのは、Rechairを運営する有限会社AZUMA代表の井ノ上さん。

おおらかで優しい雰囲気。駅からの道中でも、いろいろなお客さんの話を楽しそうに教えてくれた。

工房では、10人ほどの職人さんがそれぞれの持ち場で手を動かしている。

金槌で座面を打ち付ける人、生地をミシンで縫う人、木枠の修理をする人。

前回の日本仕事百貨の募集で入社した職人さんは、座面を張る練習中。そのとなりでは工房長が、座り心地を整えるのがむずかしいソファを担当している。

「工程別の流れ作業じゃなくて、基本は一人の職人が最初から最後まで一案件を担当します。分業制のほうが効率はいいけれど、そうしないのは、職人として一通りのことができるように育ってほしいからなんです」

「ダイニングチェアだと、複数まとめての張り替え依頼も多いですね。その場合も、座り心地や張り具合に細かな差が出ないように、全部一人の職人が担当します」

井ノ上さんは、ここで椅子張り職人として働いたのち、2011年にお父さんから会社を継いだ。

もともとは、店舗やオフィス開設時にまとめて張り替えを行う法人向けの案件が多かったものの、ReChairとしてリブランディングをしてからは、ホームページから個人の案件を受けることが増えている。

「ホームページには、これまでの実績が1万件以上掲載されています。これが僕らの武器なんですよ」

そう言って見せてくれたのは、ReChairの張り替え実績のページ。

椅子の種類もダイニングチェアからソファ、ピアノ椅子やオフィスチェアまでさまざま。

明らかに違う色に変わっているものもあれば、傷んでいた部分がきれいになっただけに見えるようなものも。

どんなお客さんが、張り替えを選ぶんだろう。

「大切な人の遺品を使い続けたい、というお客さまは一定数いますね。『夫が病気の間もずっと座っていた椅子だから、絶対に使い続けたいんです』とか。椅子の隙間から、ものが出てくることもあったりして。一見捨ててもよさそうなものでも、お客さまに伝えると故人の方がいつも使っていたものだったりするんです」

「このデザイナーの椅子が好き、それを持っている自分が好きっていう、コレクターの方も多いです。新品より張り替えを選ぶ理由って、大切に使い続けたいっていう持ち主の想い。結局それしかないと思うんですよね」

井ノ上さんが見せてくれたのは、特徴的なフォルムの真っ赤な椅子の写真。

ジンチェアという種類の椅子で、映画「2001年宇宙の旅」に出てくるものをイメージして、もとのブラウンの生地を赤く張り替えたという。

ホームページには、「期待を遥かに超えていた」というお客さんからの喜びのコメントが、長い文章で載っていた。

「張り替えには、手間がかかる作業も多いです。少し面倒でも、よりよい仕上がりになるほうを選ぶ。そういう決断をしていると、結果的にいい反応をいただけて、リピーターになってくれたり、また次のお客さまにつながったりする」

「新品以上の価値を椅子そのものだけでつくるというよりは、椅子が好きな人や捨てられない人たちを、僕らの対応も含めてどう満足させられるか。それが僕らの一番の存在意義だと思っています」

だから、張り替えアドバイザ−は、椅子やインテリアを好きな気持ちがわかる人がいい。

「お客さまと話す内容は、やっぱり家具や生地のこと。お客さまの椅子が好きという気持ちに、ある程度共感しながら聞かないといけません。全然興味がなくて、勉強するつもりもそんなにない人だったら、一生懸命話すお客さまには寄り添えないし、相手にも伝わっちゃうと思うんです」

インテリアや椅子が好きなら何より。

でもそうでなくても、自分のなかの何かを好きな気持ちを共鳴させながら、お客さんと同じ温度感で話ができる人なら、きっと相手に満足してもらえると思う。

 

現在、井ノ上さんと2人で張り替えアドバイザーの役割を担っているのが、高橋さん。

もともとは事務のパートスタッフとして20年前に入社。その8年後から、張り替えアドバイザーとして働いているベテランスタッフ。

張り替えの依頼は、ホームページのメールフォーム経由がほとんど。年配の方だと電話での問い合わせもあるそう。

まず、依頼内容を聞いて見積書を発行することが最初の仕事。

「ダイニングチェアだとしたら、座面だけに生地が張ってあるのか、背もたれや肘部分にも張ってあるのか。装飾の有無のような細かい形状も、写真を送ってもらったりしながら、詳しく伺っていきます。全国から依頼があるので、送料も含めてお見積りをします」

張り替えることに決まったら、生地のサンプルを発送する。

布と合皮はどちらがいいのか、無地がいいのか、どんな系統の色がいいのか。座り心地は硬いものと柔らかいもの、どちらが好みなのか。

初めて張り替えるお客さんがほとんどなので、それぞれのメリットデメリットを伝えながら、一緒に生地や座り心地を決めていく。

社内システムでは過去の案件がデータベース化されていて、近い事例を参考にしながら対応したり、リピーターのお客さんに前回の内容を伝えたりすることも簡単にできる。

実際に張り替える際には、ヒアリングした内容を指示書にまとめ、工房へ。お客さんの希望を、正確に職人へ伝えていく。

「オリジナルの椅子とまったく同じようにしたい方もいれば、せっかくの張り替えだからとガラッと変えたい方もいます。複数の椅子がある場合、たとえば柄の位置をすべて合わせたいのか、そこまでこだわらないのか、とか。ご要望が人によって全然違うんですよ」

「一点一点、そのお客さまのためだけに対応していくのが、張り替えです。お客さまそれぞれの大切にしたい部分を逃さず聞いて、職人さんにもれなく伝えていくのが、とても重要なポイントです」

「以前、失敗してしまって、すごく印象に残っているお客さまがいて」と、切り出してくれた高橋さん。

ダイニングチェアの張り替えを依頼してくれたそのお客さん。椅子だけでなく、海外製の生地をとても気に入っていて、張り替え後に以前の生地も一緒に返してほしいと言われていた。

それを職人に伝え損ねてしまった高橋さん。結果、一部の生地は廃棄されてしまい、お客さんに返却することができなかった。

「もう手に入らないんですよね、その生地は。すごくお客さまをがっかりさせてしまって、10年弱くらい経つんですけど、今でも絶対に忘れられない出来事ですね」

「大切なものを預かるっていう意味では、どのお客さまのお椅子も同じです。家族の思い出が詰まっているものだったら、まったく同じ椅子をメーカーさんが出していても、それは違う椅子。本当に代わりが利かないものを扱っているんだなと思うと、緊張感があります」

一方で、うれしい言葉に出会う機会も多い。

張り替えアドバイザーは直接お客さんとコミュニケーションをとるポジション。お礼の言葉に直に触れることができる。

「張り替えた椅子が手元に届いて、お客さまからありがとうって言ってもらえるまでが仕事。責任を持って対応しなきゃいけないなと思っています」

 

会社は、職人として働く人が大多数。そんななかで、事務方のスタッフとして机を並べて働くことになるのが、入社2年目の佐藤さん。

ホームページに掲載する写真撮影と更新を担当している。

「まず、お客さまから届いた椅子の写真を撮影します。張り替え後、職人さんが仕上げたものをまた撮影して。画像を編集してホームページにアップするというのが主な仕事です」

「張り替える前と後を写真で見比べると、こんなにすごいことができる会社なんだなってわかるのが楽しいところです」

もともと、細かなルールは決まっていなかった写真の撮影方法。佐藤さんの発案で向きや位置を細かく合わせて撮るようになり、張り替えによる変化が以前にも増してわかるように。

撮影の様子を見学していると、「この椅子は実はこっちが正面なんだよ。毛流れによって色が変わるでしょう」とアドバイスする井ノ上さん。

毎回異なる椅子を扱うから、すべてを把握することはむずかしい。新しく入る人も、その都度井ノ上さんや先輩たちに聞きながら、知識を自分のものにしていけるといい。

「ベテランの職人さんが細かい気遣いをして張り替えているんだとか、若手の職人さんがこんなにむずかしい椅子の張り替えもできるようになったんだとか。新しく生まれ変わった椅子から、そういう背景も感じ取れます」

「椅子を使っているだけでは絶対にわからなかった、なかのことが見えるのがこの会社のおもしろみであって、続けていける理由なのかなと思います」

 

多くの人がきっと関わったことのない、椅子張り替えの世界。最初は、佐藤さんのような新鮮な感覚を、日々味わっていくことになると思います。

何より大切なのは、椅子とともにある、持ち主の想いに寄り添うこと。

それを忘れずに働いていける人なら、きっと一人前の張り替えアドバイザーになることができるはずです。

(2023/9/12取材 増田早紀)

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